男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です! 作:takker
――海土路造船倉庫F号倉庫。
今、タクティクス古参メンバーの一人『
昔からよく使われる『ちぎっては投げちぎっては投げ』と言う表現がある。
一人の豪傑が複数人の敵に対して、圧倒的な強さを見せつける場面に使う言葉だ。
まさに、その表現に相応しい。否! 表現
「このクソチビがぁ!」
「くたばりやがれっ!」
一人はグローブを装着した右こぶし。一人は両手に握った鉄パイプ。
タクティクスメンバー二人が、一斉に梅へと襲いかかる。
「ふん」
不敵な笑み。梅は鼻を鳴らして微動だにしない。
右こぶしが顔に、鉄パイプが背中に、クリーンヒットする。
普通ならばこれで終わり。そのまま袋叩きの展開だ。
が、――攻撃が当たったと同時!
殴った者の手首が、攻撃をまるで意に介さない梅につかまれた。
「え? ――ぐぎゃあっ!!」
恐るべきは梅の握力。
肉が
さらに。
その身体が、重力を失ったかのように宙を舞った。
梅の正面から姿を
「「うぎゃぶうっ!!」」
潰れさたカエルのごときうめき声を上げる二人。
トラックにでもはねれたかの勢いで、宙を舞い、数メートル先の倉庫の壁へとうち当たった。
「ち、ちくしょうめえええええっ!」
すぐさま近くにいたメンバーが、金属バットを振り下ろす。
滅多打ち――。
「クソッ、なっ、なんで、なんで」
のはずが、滅多打ちにしている方が怯え、後
梅はまったく怯まない。バットがどこに当たろうと平然としているのだ。
「なん――――ひっ!?」
ガシリ、梅の手がバット握る腕をとらえる。
「は? え?」
腕をつかまれた者の身体が、垂直に浮き上がった。
「ぎゃぴいっ!?」
悲鳴と轟音。
叩きつけられたコンクリート製の床に、蜘蛛の巣模様のヒビが描かれる。
次から次へ、倉庫内に悲鳴が響き渡っていく。
四人、五人、六人……まるで、子供が綿のつまった人形をふり回すような、そんな気軽さで梅は人間を軽々と持ち上げては、投げ捨てる!
「おらっ、死ねえ! …………ひゃぶうっ!」
ある者は壁に投げつけられた。
「くそっ、くらえっ!! …………ぎゃふべぇ!」
ある者は床に打ちすえられた。
「く、来るな、来るなぁ!! …………いやあぁぁっ!」
ある者は回転しながら、コンテナの山に突っ込んだ。
「もう何も怖くない――――!」
また、ある者は勢いよく首から天井に突っ込み、ぶら下がった。
「なんで攻撃が効かないんだよ……」
「ありえない……人間を片手で……」
打たれ強いとか、そんなレベルを超えている。
腕力があるとか、そんなレベルを超えている。
理解不能の光景。
攻撃しても掴まれる。むしろ、攻撃したら掴まれる。
ならば、逃げるか? ――いや、逃げ場すら無い。
「ひいぃ……やだぁ、やだよう……」
きっと自分も同じ運命を
助けを求めるために、先ほどから震える指先を必死に動かして、スマホを操作し続けている。
しかし、恐怖と涙で前がまともに見えない。操作もままならない。
絶望で目の前が真っ暗になった――その時。
出入口付近から爆発音が響き、全員の視線が集まる。
見れば、封印されていた扉は歪み、
辺りには、火薬臭のする煙が漂う。
さらに、その歪んだ扉を、外側から何者かがこじ開けようとする。
数秒後。
留め金は
そこへ、即座に一つの影が飛び込んでくる。
「これは、何事……ですよ!?」
現れたのは月美であった。
その服装はスーツ姿でなく、濃いえんじ色の
鋼鉄製の
今しがた、梅によって封印された扉をこじ開けるのに使ったのは炸裂玉。
さすが自称忍者の末裔、と言ったところだ。
「みんなどうしたのですよ…………んなぁっ!?」
倉庫内を見渡して、月美は絶句する。
それもやむ無し。
床や壁、コンテナの上、あげくに天井。あちらこちらで、
「いよう。メガネチビ」
「チッ、チビ猫!?」
その中心部に立っていたのは、チビ猫こと大和梅。待ってましたとばかりのご機嫌な素振りだ。
「へっ、ナイスタイミングじゃねえか? ちょうど身体もあったまってきた頃合だぜ」
「チビ猫! お前……何をしたですよっ!?」
「ああん? 何もクソも、てめえらが俺をパーティーに招待してくれたんじゃねえのかよ? ……ま、強いていやあ、男を泣かすようなクソ女どもに、きっちり気合を入れてやった。てとこか?」
梅はごきごきと首をならす。
両手をポケットにつっこみ、不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと月美へと近寄る。
そこに背後から、遠山が悲鳴のような叫び声をあげた。
「つ、月美さぁん! コイツやばいっす。ほんとマジでやばいんすよぉ! は、早く、万里さんと、花美さんをぉ!」
「春ちゃん。もう万里
ガチンっと胸の前で拳を合わせ、手甲を鳴らす。
「その前に月美が、このチビ猫を泣かしてやるですよ! このために一人で先に来たのですよ!」
そう言うや、月美はスッと左腕を突き出す。右腕はやや下がり気味に、脇腹近くで拳を作る。
迎撃の構え。月美の戦闘スタイルはカウンター。
手甲を駆使して、相手の攻撃を受け流し、その隙をつく近接格闘術だ。
「へえ、なかなか面白そうじゃねえかメガネチビ。じゃあよ、
「「「へっ!?」」」
まさかの発言。遠山以下、無事だったメンバーたちが凍りつく。
そう、梅にとって、今までのやり取りは攻撃ですらなかった。
ただ攻撃を……いや、
「ふん! そんなのハッタリですよ。すぐに泣かせてやるですよ!」
「ハッ、そうかよ。いくぜっ!」
すぐさま梅が床を蹴る。コンクリートのそれがヒビ割れるほどの蹴り足!
「んなあっ!?」
予想外のスピード。一息にして懐に入られてしまい、月美は驚愕する。
「おらっ、くらえええっ!」
ところが、攻撃はお粗末。梅が繰り出してきたのはテレフォンパンチとも言える乱暴な右拳。
ぬるい! ――ならば、左の手甲で捌き、右でカウンターだ。
月美の脳裏に瞬時に浮かぶ対応。
――ゾクリッ!?
しかし、強烈な悪寒が直感的に割り込んできた。
「くうっ!」
月美はそれを信じる。とっさに上半身を後ろに反らして身をかわす。
空を切った梅の拳は、すぐ横のコンテナへと向かっていった。
これはカウンターを入れるまでもなく自爆! 月美はほくそ笑む。
が、――――。
聞いたこともない金属音が響く!
自爆どころか、梅の拳がコンテナにめり込む。まるで粘土細工のように
「うひいいっ!?」
思わず月美の口から悲鳴がもれた。
ありえない破壊力。信じがたい光景。
一瞬、我を忘れてしまう。
数秒の空白――まずい!
致命的な隙。気を取り直した月美が、梅の姿を再度捉えた時にはすでに手遅れ。
「メガネチビぃ! ボディが! がら空きだぜ!」
間合いを詰められ、梅の左拳が、右脇腹に向かって迫っていた。
「しっ、しまっ――」
死ぬ。
あんなでたらめな馬鹿力の攻撃を喰らえば、死んでしまう。
顔面蒼白となる月美。
「――――ちっ!」
だが、当たる! と覚悟した瞬間。梅が攻撃を中断して飛びのいた。
「え?」
遅れること、コンマ数秒。
月美の足元には、梅を狙ったであろう
「
「急いで来てみりゃ、ふぅん……なるほどねぇ。こりゃあ、ただのオチビちゃんで無かった……てトコだねぇ。はっ、お嬢様もやってくれるじゃない!?」
「姉者! 万里
現れたのは万里と花美、それと後ろの影に
少し前、遠山が混乱の中で操作していたスマホ。それが運よく万里に不在着信を残していたのだ。
「ひいいっ、な、何これぇ? ひいいっ、なんでぇ? あひえええっ!?」
恐る恐る倉庫内を見渡した主が、メンバーたちの惨状を見て腰をぬかす。
「おらぁ! 無事な連中は下がって主坊ちゃんについときなぁ!」
「「「へ、へい!!」」」
素早く指示を飛ばす万里、かたや、梅は手を止めて余裕の態度。
こそこそと、近くを通り抜けようとしている遠山たちに目配せをする。
「「「あひいいいいいいっ!」」」
それだけで悲鳴をあげ、身を震わせる彼女らを横目に、梅は腰に手を当て、もう一方の手をひらひらと振った。
「んだよ、何びびってんだ。情けねえ……あー、行っていいぜ。てめえらにもう用事はねえよ。そっちのお坊ちゃんには、さらになんの用もねえしな……」
もはや雑魚に興味なし。
待望の獲物登場に、喜びと興奮を隠しきれない。
不敵な態度で手招きする梅の猛獣のごとき眼光が、万里たちへと突き刺さる。
「へへっ、待ちわびたぜデカ蛇女! おらっ、さっさっとかかって来やがれ! てめえらまとめて、インスタ映えするオブジェに変えてやんよ!!」
「はっはぁ! 言うねぇ……オチビちゃん。じゃあ、楽しませて貰おうじゃない!!」
「抜かしおる! わしらを余り甘くみないことでござる!」
月美と同じ忍者装束風衣装の花美。アーミースーツを着込んでいる万里。
二人が戦線へと加わった。