男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です! 作:takker
――時間は少し巻き戻り、こちらは春日湊のMaps駐在所。
深夜子と五月が相談中である。
「それにしても……大和さんには困ったものですわ。まさか、通信を切ってしまわれるとは……本当に大丈夫ですの?」
どの道、音信不通のまま、梅を放置することはできない。
深夜子が単独で現場に急行。梅と合流し、その時の状況で対応は考える。
五月は朝日の安全最優先で
この方針で相談は進んでいた。
「んー。怒った梅ちゃんはけっこーヤバいかも。むしろ
「はぁ……、それはともかく時間もありませんし、お願いしますわ。深夜子さん」
大和さんを焚き付けたのは何処の誰でしたでしょうか? とツッコミたい気分の五月ではあるが、時間が惜しい。
「らじゃ、あたしが梅ちゃん迎えに行くから。
深夜子の語尾がだんだんと濁る。何やら考え込んで、動きが止まってしまう。
時間を気にする五月。不思議に思った朝日。停止した深夜子へと声をかける。
「どしたの? 深夜子さん」
「深夜子さん、どうなされまして? 時間がありませんのに――え? な、なんですの?」
深夜子は五月をじろじろと見回しつつ、考える。
この駐在所は事前の使用申請をしており、本日は貸し切りになっている。
つまりは、今から
「二人きり? ……朝日君と
「「なにそのわがまま!?」」
「と、とんでもない理由でごねないでくださいませっ! ……深夜子さん?」
「ねえ、
「こ、今度はどうされましたの? あの……よろしくない目つきが、さらによろしくなくなってますわよ」
詰めよる五月にもおかまい無し、それだけで人を殺せるような視線を向けると――。
「あたしが出ていった後で……」
――深夜子は一人芝居を始めた。
『朝日様。やっと
『ええっ!?』
そう言って動揺させてから、
しかも、手つきがいやらしい。
『朝日様、よく聞いてくださいませ。実は……深夜子さんは戦い行ったのではありませんの。損害賠償金の交渉に行ったのですわ』
『そ、損害賠償? え? お、お金……の話?』
『そうですの……それと、残念ながら最終的には、朝日様が十億円以上をお支払いする必要が出るかと思いますわ』
『十億!? そっ、そんな! 僕、そんな大金持ってないよ……』
ああ、なんて可哀想に!
突然の血も涙もない話に、驚き、怯えてしまう朝日君。
その背後で
もちろん、いやらしい笑みで。
『ふふ、うふふふふ、そうですわね。それでは
しらじらいセリフ!
さらには、肩に置かれてた
あーいやらしい。
『でも……でもっ、僕、そんな大金を……借りたって……返せないよ』
ひどい。絶対にひどい。
ついには絶望のあまり、泣きそうになる哀れで不憫な朝日君。
その耳元では、
『あらあら? ご心配なさらずにぃ、そんなことはごさいませんわぁ~。あるではありませんか? 朝日様には、
「……とかしちゃダメ」
「しますかああああああああああああああっ!!」
あまりの馬鹿馬鹿しさに、途中でツッコミを入れることすら出来なかった五月であった。
「深夜子さん。声真似うまい……」
声帯模写、のみに焦点を絞ると中々のクオリティ。実に無駄なスキルですね。
「むっ、むっ、無駄な妄想をしている暇があったら、早く大和さんの元に向かって下さいませーーっ!!」
もちろん、おかんむりの五月。
はよいけ。とばかりに背中を押すも、深夜子はぐちぐちとしつこい。
「
「するわけありませんでしょっ!」
ほんとにこのアホは……。
五月が呆れていると、そこへひょいと朝日が、割り込んできた。
「あのさ、深夜子さん。五月さんにそうは言うけど、僕と二人でゲームしてる時って、よく――」
「ふおわああああ! ストップ朝日君。じゃ、行ってくる。すぐ行ってくるから!」
朝日の言葉に、電気でも走ったかのような反応を深夜子が示した。
見本のようなあたふたぶりだ。
「深夜子さん? 貴女……」
「ナンデモナイヨー。スグニイッテクルヨー。ミヤコダヨー」
ひきつった笑みに、大量の顔面脂汗。
つい今しがたまでのごねっぷりは何処へやら。深夜子は逃げるように、梅の元へと出発していった。
――深夜子を見送ったところで、昼食にしようと五月が提案する。
気がつけば、すでに時間は午後一時を回っていた。
「はああぁ……これだけのことに、どうしてこの疲労感……」
ため息まじりながら、五月は手際よく弁当をテーブルに準備する。
「あはは。五月さんお疲れ様です」
朝日が慰めの言葉をかけると、五月は真面目な表情へと変わる。
「あ、朝日様……
いっしょに食事かと思えば、五月にしては珍しい申し出。
しかも、なんとなく深夜子による精神疲労とは別の、思い詰めたようなものを朝日は感じた。
「えっ? それなら待ちますよ。あと、何か僕に手伝えることが――」
「いえいえ。たいっ、へんっ、嬉しいお言葉ですが、それには及びませんわ。何より朝日様の為でしたら、この五月。たとえ火の中、水の中ですの! どうぞお気になさらずに、おほほほほほ」
「は、はぁ……」
やたら古典的な例えを口に出し、ごまかし気味に五月はそそくさと別の部屋へ行ってしまった。
「五月さん。どうしたんだろ……」
気にはなるが、実際に自分が手助けできることなどあまりに少ない。朝日はそれを自覚している。
とりあえずは、弁当に手をつけることにした。
◇◆◇
一方、こちらは別室の五月。
デスクの上で、祈るように両手でスマホを掲げ、突っ伏していた。
「はああぁ……。ほんっ、とうっ、に気が進みませんわっ!」
つい、口から本音が漏れる。
どうにも、相当、できれば、やりたくない。とは言え……そうもいかないのが現実だ。
目を閉じる。
気持ちを整理するため、五月は深夜子と梅にすら話していない矢地との会話を思い出す――。
『えっ? 男権が……ですの!?』
『ああ、そうだ。知っての通り、海土路造船は毎年男権にかなりの額を寄付している。そちら側からの圧力は必然とも言える』
『そうなりますと……』
『うむ。仮に、深夜子か梅がタクティクスを潰したとしても、
『いいえ、矢地課長。
『なんだと? 五月雨、お前何をするつもりだ?』
『ですから、
『おっ、おいっ、まさか? 待て! 別に私はお前にそんな――』
すでに
何よりも愛する朝日のため!
五月はこれ以上ないくらい肺に空気を吸い込み、意を決してスマホを操作した。
その連絡先は……。
『はい、こちら五月雨ホールディングス社長秘書室。
「お久しぶりですわね、
『――っ!? お、お嬢様!? こ、これは、お久しゅうございます。突然このようなお電話に何を――』
「お母様はいらっしゃいますの? ……五月の、五月の一生に一度のお願いがある――と伝えて下さいませ」
五月の実家が経営する。国内でも有数の大企業『五月雨ホールディングス』であった。