男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

30 / 100
第二十九話 決着!不沈戦艦大和梅

 勝利を確信した万里は、満足そうな笑みを浮かべる。

 あの蹴りの感触。気の毒だが、後遺症が残るレベルのダメージだろう。

 乱雑に重ねた積み木のようになったコンテナをながめ、闘いの余韻にひたる。

「さて……と、これで、どうしたもんかねぇ?」

 相手にはもう一人SランクMapsがいる。万里はコンテナに背を向け、今後の思案をしつつ、花美たちのもとへ向かう。

 

 そこで――背後から豪快な金属音が響いた!!

 

「あぁん?」

 何が起きた? 万里は振り向き、ふと上方を見る。そして――自分の目を疑った。

 空中から迫りくる一台のコンテナ。梅の上に積み重なっていたはずのそれが、頭上へと向かってきた。

 

「は? ――ちいいいっ!」

 我に返るや否や、スライディングばりの横っ飛びで回避。

 コンテナは轟音を響かせ、床に激突する。それだけでなく。さらに一台、もう一台、次々と万里目掛けて降ってくる。

「くっ! くそっ!」

 二台目、三台目、床を転がって回避しつつ、体勢を整える。

 視線をやった先、そこには先ほどまでのコンテナの山はすでになく。埃がつくる煙の中から、梅が姿をあらわした。

 

「ははっ……こりゃ……なんの冗談かねぇ」

 

 さすがに乾いた笑いが漏れる。

 梅の額は血まみれ、右目から頬まで赤い線が滴り落ち、少なくともそれなりの傷に見える。

 しかし、その表情は上機嫌。右手で肩をぐいぐいと揉みながら、足取り軽く進み出てくる。

 

「へへっ、思ったよりいい蹴りしてんじゃねぇか? デカ蛇女。ほめてやんよ、俺にこんだけダメージくれたのは深夜子以来だぜ!」

 歓喜まじりの口調。ダメージらしいダメージを受けているように聞こえない。

「おいおい……頑丈にも限度ってもんがあるじゃない……」

 

 もう呆れるしかない。ぼやきたくもなるが、ここは冷静に――万里は周りの状況を把握する。

 花美と月美は当然リタイア状態。まともに動けるメンバーは遠山含めて……三人。

 となれば――。

 

「遠山ぁ!!」

「は、はいっ!」

「主坊ちゃんを連れて、すぐに本部(うち)に戻りなぁ。動ける連中全員でだ。後始末はあたいがするさぁ」

「了解しました!」

 万里の判断は主の安全最優先、遠山たちへ撤退命令を下した。

 

◇◆◇

 

 遠山たちは主を連れ、急いで倉庫をでる。

 駆け足で倉庫近くの道路に止めてある車へと急ぐ。が、その途中、どこかで見たことがある黒髪の女性と鉢合わせた。

 

 服装は厚手のタイトジーンズにカラーTシャツ、ただし、その上には防刃ベスト、腰のベルトには特殊警棒がぶらさがっている。

 何よりも、遠山たちに向けられる猛禽類を思わす鋭い目が記憶に新しい。

 

「なっ、なんで、なんでコイツがここに!?」

 どうしてここに? 予想外の遭遇。遠山に緊張が走る。

「ん? 梅ちゃんを迎えに来たよ」

 あっけらかんと答える深夜子。緊張感の欠片もない。

「おいっ! 遠山っ、早くその目付きの悪い女を片付けろ! 万里がボクを連れて逃げろって言ってただろ!」

「は、はいっ! わかりました坊ちゃま。おい、こいつをとり囲め!」

「「へいっ!」」

 

 メンバー二人は深夜子の周りへと散開し、左右から間合いを詰める。遠山は正面に立って構えをとる。

 ――かかれ! 遠山がそう告げようとした刹那。

 

「ほわっちゃあ」

 

 気の抜けたかけ声が聞こえたと同時に遠山の視界が揺れた。意識が遠のき、身体から力が抜けてゆく。

「あ、が……そんな……」

 かろうじて目に映るのは、蹴りを放ったらしい体勢の深夜子。自分と同じように崩れ落ちる二人のメンバーであった。

「う、そ……? 三人、の……顎――同時、蹴り――――」

 遠山の意識はそこで暗転した。

 

「え……は? ひ、ひえっ!? あひいいいいっ!!」

 

 主が悲鳴をあげた。

 それも当然。

 深夜子の早業に、何が起きたのか理解すらできない。

 突如、自分を守るべき者たちが、電池でも切れたかのように崩れ落ちた。恐怖と混乱は最高潮に達する。

 何より、目の前に一人立っているのは、自分が以前に罵った女(・・・・)なのだ。

 

「たっ、たたたた助けて! だっ、誰かっ、マッ、ママッ、ママーーーっ!!」

「えー」

 

 さあ、ここで困ったのは深夜子である。

 

 今のはただの正当防衛。攻撃してきた相手を『必殺! あたしでなきゃ見逃しちゃうねキック』で超かっこよく撃退しただけだ。

 これは是非とも動画で朝日に見せた――ではなく。

 男性である主に危害を加えるつもりなど一切ない。

 なのに、少しばかり勘違いされているようだが、何分、朝日と男事不介入案件で対立している当人。

 声をかけるにも、どう言ったものか……と、ジッと見つめながら(・・・・・・・・・)考える。

 

「あへっ!? ひいいいいやああああっ、や、やめて! 許して! こ、殺さないでええええええっ!!」

「ええー?」

 

 なんで悪化してるの?

 深夜子困惑。

 今『うーん。どうしよっかな? どうすれば――大丈夫! 深夜子さんは超優しくて、超素敵な淑女(レディ)だよ(キラッ!)』と、理解して貰えるか、考えながら見つめていただけなのに。

 

 しかし、残念ながら男性である主にしてみれば、たまったものではない。

 猛禽類を思わす目付きと評される深夜子の目力。

『さあて、この獲物(ぼうや)。これからじっくりたっぷりと、どうやって苦しめながら殺してやろうかね? ヒィーッヒッヒッヒ!』

 そんな感じで、舌なめずりをしている姿にしか見えなかった。

 

「あっ!」

「ひいいっ!?」

 

 ここで深夜子、ふとある事を思い出す。

 出発前に五月から、万が一にでも可能性があればと、示談要望書を渡されていたのだ。

 おおっ! もしや今って、これを渡す最高のチャンスでない?

 なんだか勘違いが悪化して、ちょっと怖がられているけど、きっと誤解を解く会話のきっかけにもなる。

 まさに一石二鳥! あたしってば冴えているな、完璧だな――。

 

『ふっ、朝日君。深夜子さんの活躍により、男事不介入案件。完!(キリッ)』

『や、やぁん。もう、深夜子さん素敵すぎですぅ(ぽっ)』

『そんなことない。世界で一番素敵なのは、朝日君――キ・ミ・さ(顎クイ)』

『結婚しよ』

『いいですとも!』

 

 ――思わず顔がにやける(・・・・)深夜子。

 さてさてそれでは、とばかりに怯える主へ視線を合わせる。

 にっこりと微笑んで(・・・・)、要望書を取り出すべく(ベスト)の内ポケットに手を差しこんだ。

 

「あばばばばばばばばば」

 

 ところが、またしても残念なことに主の視点では……。

『さあて……まずは逃げれなくするために、手足でも撃ち抜いておこうかね。ウェーヒヒヒ!』

 獲物を料理する喜びに、おぞましい笑みを漏らす魔物(みやこ)が、胸のポケットから銃を取り出そうとする姿にしか映らなかった。

 

「……あふん――――――」

 

 あまりの恐怖と絶望に、泡を吹き、失禁のおまけつきで気絶する主だった。

 

「えええええー!?」

 

 これは、なんだか心が痛い。がっくりと落ちこむ深夜子。

 考えれば、朝日と出会ってから、自分の見た目(めつき)を気にすることもなくなっていた。

「あしゃひくん……」

 そっか、そういや、あたしってそうだったな。ちょっと涙が出ちゃいそうになる深夜子あった。

 合掌。

 

◇◆◇

 

 そんな気の毒さんはさておき――ついに、梅と万里の闘いは決着を迎えようとしていた。

 お互いが足を止め、攻撃の応酬が始まっている。

 

「おらぁっ!」

「つあっ!」

 

 蹴りと拳が、ゼロ距離で乱れ飛ぶ。

 そんな中、万里の蹴りが梅の横腹にヒット。すぐさま反撃するも、梅の豪快な拳は空を切る。

 二発、三発、四発、万里の攻撃は次々と当たる。

 右ひざ蹴り、左掌底打ち、右肘打ち、右正拳突き、などなど……恐ろしいまでの反射速度でかわされることもあるが、梅の攻撃を丁寧に(さば)き、的確に反撃(カウンター)を食らわせていく。

 

 攻撃の応酬を続け、万里は確信する。

 二人を比較した場合、格闘技術は間違いなくこちらが上であると。

 空手を中心に、複数の格闘術を修めている自分に対し、梅は全てが自己流。ただ、身体能力にモノをいわせた喧嘩拳法でしかない。

 そこには技術も駆け引きも存在しない。野生の獣が攻撃をしているのとなんら変わらない。

 負ける要素はないはずだ。……だが、何かがおかしい。

 いくら攻撃しても、梅は一向に怯まない。まるでお構い無しと攻撃を返してくるのだ。

 

 ――さらに十合、二十合、と打ち合いは進んでいく。

 

 やはりおかしい。万里は戸惑いを覚える。

 攻撃は入っているのに、ダメージは蓄積しているはずなのに、梅にそんな気配が毛頭感じられない。

 気がつけば、恐ろしく消耗している万里の体力と精神であった。

 

 ――そして、万里にとって最悪の偶然が訪れる。

 

 たまたま(・・・・)万里の右振り打ち(フック)に対し、梅の乱暴に振られた左拳が交差する形(・・・・・)となった。

 万里の右腕の下に、ちょうど死角となって梅の左拳が打ちこまれる。

 梅は左頬に、万里は右わき腹に、ほぼ同時にお互いの拳がめりこんだ。

 

 結果!!

 

「ぐっはああああぁっ!!」

 うめき声といっしょに万里の191センチ、83.5キロの巨躯が数メートル宙に浮き上がった!

 

 ショベルカーにでもかちあげられたのかと思える衝撃。

 なす術もなく宙を舞って床に落ちるが、辛うじて受身を取る。

 万里は痛むわき腹を押さえながら、すぐに間合い取って起き上がった。――が!

 

「はっ! やっと捕まえたぜぇ」

 

 そんな好機を見逃されるはずもない。

 梅がドンっと床を蹴り、すぐさま足元まで間合いを詰めてきた。

 

「うらあっ!!」

「くうっ」

 

 かわそうにもダメージで身体の自由がきかない。

 今度は、左わき腹に梅の拳が突き刺さる。身体に火薬でも詰めて爆破されたが如き破壊力!

「ぐはああああああっ! ばっ、ばっ、馬鹿なぁ? プロテクターが全く役に立たな――」

「おらぁっ!!」

 もはや驚くことすら許されない。

 梅はそのまま、身体ごと跳ねるように飛び上がり、身長差を埋めて右アッパーを繰り出していた。

 ――顎がはねあがり、意識が飛びかける。

 

 万里は梅の追い討ちをもろに受け、再び宙を舞うことになった。

 

「ごふっ……そ、そんな。あたいが……たった三発でこんなダメージを……?」

 

 地面に這いつくばりながら確認をする。

 口内の出血が尋常でない。身体の動きも悪い。どうやら先の一撃で肋骨を数本、さらに今のアッパーで顎を砕かれてしまったようだ。

 

 万里は耐久力(タフネス)腕力(パワー)には自信を持っていた。だが、梅のそれはあまりにも次元が違い過ぎる。

 もう次に追い討ちを食らえば、確実に仕留められてしまう状態になってしまった。

 

「ぐっ…………?」

 

 だがなぜか、梅が追撃をしてくる気配が無い。

 ぐるぐると肩を回して、何かを考えているようだ。

 近くまで来て立ち止まり、ビシッと万里を指差してから口を開いた。

 

「うっし、じゃあラストチャンスをやんよ! 今から狙うとこを宣言すんぜ。てめぇの左胸、心臓だ!」

 

 こいつは一体何を言い始めた!? 理解に苦しむ万里、かたや梅はお構い無しにテンション高く続ける。

 

心臓打ち(ハートブレイクショット)って奴だな。それと、ぶっ(ぱな)すのは右のストレートだぜ。俺のとっておきの一撃、受けてみるか?」

 

 どうやら必殺技、その攻撃宣言のつもりらしい。

 

「おいおい……馬鹿かよオチビちゃん……心臓を狙う? 右? はっ……面白いじゃない!? そんなの……カウンターの餌食に決まってんじゃない!!」

「そうかよ? まあ、そうこなくっちゃな。んじゃあ行くぜ、準備しなっ!」

 

 今、二人の距離は約1.5メートル。梅はその場で少し腰を落とし、右拳を作って攻撃準備を始めた。

 

 馬鹿だ。本物の馬鹿だ! 野生の獣以下の知能。

 それが万里の頭をよぎった感想である。ブラフかと思えば冗談抜きに準備を始めている。

 さらにありがたいことに、この広い間合いを開けてだ。

 

 いかに脅威の身体能力といえど、この距離で突っこんで来る右ストレートに、カウンターが取れない理由が無い!

 完全に慢心としか思えない暴挙に、万里はニヤリと笑みを浮かべ、最後の力を振り絞り迎撃体勢を取った。

 

 一方の梅は――。

 

「狙いは心臓……」

 メキメキと音を立てながら右拳を握りしめる。

 さらに全身という全身に力をこめ、捻切(ねじき)れんばかりに身体中の筋を引き絞る!

 それはまさに、獲物を仕留めるため、全身をバネと化して襲いかかる寸前の猛獣を思わす姿である。

 

「結果は必中!!」

 ギリッと歯を食いしばると、牙を思わす八重歯がギラリと輝く。

 そして心臓に狙いを定めた獰猛な瞳の淵に、ビキビキと血管が浮かび上がる!!

 

「おらあああああっ! くらいやがれえええええええええっ!!」

 

 その時。万里は間違いなく梅が地面を蹴り、飛びかかる寸前のところまでハッキリとその目に捉えていた。

 貰った! 飛び出たタイミングにあわせて、出会い頭の左正拳突き(クロスカウンター)だ!

 

 が、――次の瞬間!!

 指一本動かす間もなく、万里の意識は消し飛んだのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。