男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

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第三十一話 もう一つの決着と戻ってきた日常

「とにかく万里たちが回復したら、坊やを連れさせてお宅のお嬢さんたちに仁義を切らせてもらうさ。しかし、まあ……あの連中を一人で十人以上病院送り(オシャカ)かよ。男保(男性保護省の略称)もとんでもない弾を持ってやがったもんだね」

 

 竜海はタバコをふかしながらぼやく。

 海土路造船側が非を認め、朝日に対して謝罪をする方向性で話が進む。

 ぷはっ、と煙を吐き終わり、一息ついてから説明を続ける。

 

「それで、あとはウチら側から男保と男権に顛末書(てんまつしょ)を出す。ああ、もちろん男権にはあたしから動かないように根回しはしとくよ。これで万事解決かね」

「んふ、お手間をとらせちゃうわねー。でもー、(たっ)ちゃんトコの子たちはーやんちゃさんだからー、最後までよろしくねー」

 

 男事不介入案件では、非を認めた側が顛末書。簡単に言うと『こういったことで揉めましたけど、ウチが悪かったです。もう大丈夫です。すみません』といった書類を提出するのが慣例となっている。

 これで事実上、主側の無条件降伏ではあるが、新月はほんわかとした口調で念を押す。

 

「わかってるさ。それにしても……坊やの揉め事相手のケツモチにアンタが出てくるたぁね。正直、肝を冷やしたよ」

「えー、そうかしらー。ワタシ、最近はーあんまりこういうこと(・・・・・・)してないからー、(たっ)ちゃんにお電話するのもドキドキしちゃったのよー、うふふ」

「はっ! その道のプロ(・・・・・・)が何言ってんだか……」

 

 苦笑する竜海。

 とにかく口調も話の内容も、本気とも冗談とも取れない新月にペースを乱されている。

 それもあってか、ふと思い出したように話題を変えた。

 

「あー、そうそう。五月……お嬢さんだったかい? 余計なお世話かもしれねぇが……たしか、五月雨家(おたく)の跡取りって奴は自力で婿を取ってくるまで外に放り出すとか、手は貸さねぇとか、そんな家訓でなかったけか?」

「あらー、よくご存じねー。確かにそうだけどー。だってー、五月ちゃんの彼氏ー? 朝日ちゃんっていうんだけどー。もう、ちょー可愛いのよー。うふふふ、ワタシーこれは頑張らなきゃーって思っちゃったのー。きゃっ」

 

 話題を変えるも新月はぶれない。いやむしろ悪化した。

 今度は桜色に染めた頬を両手ではさみ、くねくねしながら、朝日の可愛さをだらしない表情で語り始める四十代。

 まあ、見た目的にはぎりぎりセーフ判定である。危ない危ない。

 

 それはともかく、竜海の質問通り五月雨家には『自力で婿を取れる器があるものが家長を継ぐべき』という家訓が古くからある。

 五月もそれ故、Mapsを目指して現在に至る。

 ただ、新月への反目があったりと、家庭に微妙な事情も存在するのだが――ここでは割愛させていただく。

 

 さて、いまだ一人。思い出しくねくねを続ける新月。

 いい加減呆れ半分の竜海だったが、ここで新しいタバコに火をつけながら、再度話題を変える。

 

「へいへい、まあどうでもいいさ。……ともあれ、ウチは造船業。オタクの情報を買わなきゃ、やってられないことも多いからね。アンタに出てこられちゃ、どの道お手上げだよ」

 そう言いつつ、竜海は少し声のトーンを落とす。

「そうだねえ……こりゃあリベンジ(・・・・)したくて――」

 パァン! 『リベンジ』の言葉を遮るように、突然柏手(かしわで)が打たれた。

 見ると、ニコニコとした新月が、合わせた手のひらを離して口を開くところだった。

「あー、そうそう! (たっ)ちゃん。あのねー、五月ちゃんてばー、実はおうちを出てから今までー、連絡の一つも入れてくれない冷たーい子だったのにー。今回はねー、泣きながら(・・・・・)ワタシに電話してきたのよーびっくりなのよー。もー、だからー」

 

 ピタリ。そこで新月の言葉は止まる。同時に、動きも止まり視線は伏せられる。

 ――ゾクウッ!!

 竜海の背に強烈な悪寒が走る。

 突如、部屋全体の空気が重くなったかのような錯覚を感じた。

 後ろに控えているSPたちの様子も同様。まるで猛獣の檻の中に閉じ込められているかの如き圧力。

 誰もが息をのみ、冷や汗を流す。

 

 その原因。異様な雰囲気を放つ新月に全員の視線が集まる。

 すると、ゆらりと右拳が振り上げられ――。

 

 ドゴン!!

 

 拳を叩きつけられたクリスタルガラス製の灰皿は粉々に砕け散り、さらには分厚い黒テーブルにも亀裂が走る。

 

「「「――――――っ!?」」」

「オドレらぁ……もし、またワシのガキに手をだしゃあがったらクチャクチャに潰すぞぉ!? わかっとんのかボケぇええええっ!!」

 

 豹変の言葉すら生ぬるい。そこには鬼が存在していた。

 

 五月雨(さみだれ)新月(わかつき)

 大手IT企業の代表が表の顔。しかして、その本業は裏の情報屋であり、政治から裏社会にまで広く顔を利かせる猛者である。

 

 余談ではあるが、彼女の夫にして五月の父である『五十鈴(いすず)蓮也(れんや)』(この世界では夫婦別姓が認められている)と出会ってから、彼を口説き落とすために現在のキャラが定着したとのこと。

 

 朝日たちの預り知らぬ所でも、結果は圧勝と相成ったのであった。

 

◇◆◇

 

 それでは、現在の朝日家をのぞいてみよう。

 

 深夜子がフラフラと携帯ゲーム機を片手に、リビングから出てきた。

 何やらMaps側の廊下をうろうろとしている。

 そこに五月がちょうど通りがかったので、深夜子は声をかけ呼びとめる。

 

「ねえ、五月(さっきー)。朝日君見なかった?」

「あら? 先ほど大和さんのお部屋に入っておられましたわよ。今回のお礼をどうしても、とおっしゃっておられましたわね。……確かに、大和さんが一番危険な役割でしたし、怪我もされたようですけど。わざわざ出向いてまでMaps(われわれ)などを(ねぎら)われるなんて……朝日様は本当に素敵なお方」

 そう言って頬を赤らめ、ため息をつく五月。

「むう。せっかく続きをしようと思ったのに」

 こちらは不満そうに頬を膨らませる深夜子。

「深夜子さん。昨日の今日ですぐゲームとは、いかがな物ですの? まだ、朝日様も精神的にお疲れと思いますわ。気晴らしを悪い、とは申しませんけど……慎重にお願いしますわね」

「うん。それはわかってる」

 

 そんな二人の視線は、梅の部屋へと向う。

 今日の梅は羨ましくもある。だが同時に、微笑ましい気持ちになるのも事実。

 朝日の女性に対する気遣いや優しさは、通常男性とは一線を画している。

 なんとなく視線を合わせ、深夜子と五月はそれぞれの部屋へ戻ろうとすれ違った――――その時!

 

『んあっ!』

 扉越しに聞こえる、梅の切ない声。

「「ん゛!? あ゛あ゛っ!?」」

 

 おっと難聴かな? 深夜子と五月は自分の耳を疑う。

 同時に身体は無意識に動き、ギギギ……と油の切れたロボットのように、二人は部屋の扉に近づいて停止する。

 きっと聞き間違いだろう。そのはずだ。そうであってくれ! ――祈りとともに、耳を澄ました。

 今度は、朝日の声も聞こえてくる。

 

『あれ? 梅ちゃん、ごめんね。もしかして、今の痛かった?』

『いや……そんなこた無いぜ。全然いい感じだっ――――んくうっ!? ……あっ……はぁんっ! こっ、こらぁ朝日! 不意打ちで指を動かすなっての』

『えへへ。だって、梅ちゃん反応がいいんだもん』

『な、何を――んんっ!? ……やっ……も、もうちょっと優し……くっ……して……はあっ』

 

 なんだって? おいおい、『こら』は本来叱るべき時に使う言葉でしょうよ。

 なんですかね。その甘く扇情的な声色の『こらぁ』は? こんちくしょう。

 痛かった? へー。指? へー。優しく? ガッデム。

 深夜子と五月は、引きつった顔を見あわせる。

 

「「なんじゃこりゃあ!?(ですわっ)」」

 

 全身から血の気が引くとは、まさにこのこと!

 否! そんなレベルではない!

 まるで、全身の血液が沸騰して、蒸発するかの新感覚。

 深夜子と五月は部屋の前で氷像と化す。

 なんというか、会話の内容から中の光景をリアルに想像してしまったじゃあないか。あ゛あ゛ん。

 

 されど現実は無慈悲。追い討ちの如く、朝日と梅の声が扉の向こうから響き続ける。

 

『ふっふーん! 梅ちゃん。僕、なんとなくわかったよ。え、と、ここの少し上が気持ちいいんでしょ? ほら』

『あ、はぁんっ! そ、そこぉ……ん……くっ……あっ、いい…………はんっ、や、あ、朝――――』

「「むわったあああああああああっ!!(ですわっ)」」

 もはや我慢の限界! 二人して、ドアを破壊寸前の勢いで開け鳴らす。

 

 許せない……! 許しがたい行為……!

 残像が残らんばかりの速度で部屋に転がり込み、深夜子と五月が絶叫する!!

 

「朝日警察だ! 梅ちゃんには弁護士を雇う権利と黙秘権がある!」

「現世で最後に言い残す言葉はありまして? 大和さん、審判の時(ジャッジメント)ですのっ!!」

「――――日。お前,足ツボマッサージ(・・・・・・・・)うまいよなぁ…………って、うおおおおっ!? な、なんだぁっ!?」

 

 ビシィッと響かんばかりの効果音と集中線を背負って、深夜子と五月が指差しポーズを決める。

 指し示したその先には、ベットに寝転がり足を伸ばしている梅。

 その足を膝へと乗せて、マッサージ中な朝日の姿があったとさ。

 

 ――ここから事態の把握と収拾まで、約十数分間を要することになる。

 結果、収まりがつかない深夜子と五月から、梅への猛抗議がはじまっていた。

 

「や、ま、と、さん! 殿方にっ、いえ、朝日様にマッサージをさせるなど……もはや女性(ひと)の風上に置けない蛮行ですわよっ!!」

「あたしの知ってる梅ちゃんは(けが)れてしまった。返せ! きれいな梅ちゃんを返せ!」

「お、おい、なにいってんだよ? その……朝日がいいって言ってんだから……。それに……俺がしろって、言ったわけじゃねえしよ……」

 

 興奮冷めやらず。ずいずいと詰め寄る深夜子と五月。

 勢いに圧されて、ぼそぼそと説明(いいわけ)をする梅だが、分が悪い。

 そこに見かねた朝日が三人の間へと割ってはいった。

 

「あのさ、僕が梅ちゃんに、今回のお礼にマッサージはどう? って聞いたのほんとだから。ね、二人ともちょっと落ち着いて……」

 

 まあまあ、とにっこり笑ってフォローしてみるが、そうはいかない。と深夜子と五月の鼻息は荒い。

 けれども、二人の話を聞いていると『うらやまけしからん』的ニュアンスをやたら感じる。

 もしやと思い、朝日はある提案を持ちかけることにした。

 

「そうだ! じゃあ、もしよかったら、深夜子さんと五月にもマッサージしよっか? 今回はみんなに助けて貰ったもんね。それに僕、こう見えてもマッサージ得意なんだよ!」

 

 事実、過去に母や姉たちのマッサージ係を散々してきたこともあって、朝日にとっては得意分野の一つだ。

 

「ですので朝日様。そうは言われまして―――はいっ!?」

「そう朝日君。男の子にそんなこと――――ファッ!?」

 

 ん? 今、マッサージしてくれるって言ったよね?

 

「「よっ、よよよよよよろしくお願いします(わ)!!」」

 

 深夜子と五月、見事な手のひら返しである。

 

「あはは。んと、梅ちゃんは足裏の続きと……追加で希望ある? それから、深夜子さんと五月さんは、マッサージして欲しい場所を教えてね」

 なんとも分かりやすいなぁ。朝日は内心で苦笑いしつつ、にこやかに答える。

 すぐさま三人は、我先にとアピールを開始した。やはりわかりやすい。

 

「んじゃあよ。俺は追加でふくらはぎ揉んでくれよ」

「わっ、(わたくし)は、その、か、肩でお願いしますわ」

「あたしおっぱい――――ぎゃふっ!?」

 深夜子(アホ)の頭上に、梅と五月の肘鉄が落ちた。空気は読みましょう。

 

◇◆◇

 

「さあさあ、朝日様。それではリビングに参りましょうか?」

「おう。そっちでゆっくり頼むぜ!」

「ちょーーっ、ちょっと待ってええええ! ストーーップ、セターーップ! じょ、冗談、冗談だから! あたしを天井に吊るしていかない。ね、それに朝日君もまんざらでもなさそうだった。ぐへへへへ」

 

 現在、天井にてよだれを垂らしながら言い訳中の寝待深夜子さん。

 

「ささ、朝日様こちらへ。深夜子さん(ヘンタイ)のことはお気になさらずですわ」

「そ、そうなの? あはは……いい、の、かな?」

「うえっ? あっ? わ、わかった! じゃ、じゃあ……お尻! お尻でいいから!」

「いいわきゃねえっつーの! ほら、深夜子(アホ)はほっといて、行こうぜ朝日」

「ま、待ってええええええ! 朝日君カムバーーーーック!!」

 

 朝日家に、いつもの日常が戻ってきたようである。




第三章 男事不介入案件~闘え!男性保護特務警護官 ―完―

次回、第四章に入る前に閑話があります。
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