男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

34 / 100
本日は二話更新となっております。


閑話 頑張れ!看護師さん(後編)

 ――そんなこんなで、結局被害のひろがった視聴覚検査エリアを横目に、案内係(ナビゲーター)問題の男性(あさひ)確保を優先するために素通りする。

 

 しばらくして、採血検査へと向かう朝日たちの後ろ姿を見つけた。

 

「すっ、すみません。神崎様でいらっしゃいますか?」

「はい、そうですけど?」

 

 呼び止められ、朝日が振り向いた。

 

◇◆◇

 

 「遅いわね……何かあったのかしら……!! ――はいっ、ナビ本部です」

 

 待機中の案内係(ナビゲーター)が、いまだ連絡がないことに心配を募らせていた矢先、通信の着信ランプが光った!

 即座にインカムを繋ぎ、早口で確認を急ぐ。

 

「ああ、良かった。それで、例の男性。神崎さんはどうでしたか?」

『それが……とんでもない美少年なんです。それだけでなくて、ほんとヤバいんです。なのでちょっと見てきますね』

「はい? 貴女、見てくる? 一体……何を……言って……」

『だから神崎様って、超可愛いんです。素敵なんです。あっ! ……早くしないと行ってしまわれるじゃないですか。じゃあ、見てきますね』

「いや、だから見てくる見てくるって貴女!? ちょっと、確保、神崎さんの確保を――」

『うへへ。可愛い……可愛いよう……』

 

 あっ、これダメな奴だ。

 察してしまった待機中の案内係(ナビゲーター)は、インカムを外し、祈るように天を仰いだ。

 

 ――それとほぼ時を同じくして、看護師ステーションでは看護十三隊十一番隊隊長『(ひいらぎ)明日火(あすか)』と副隊長『鳴四場(なるしば)エミリ』がこの惨状に気づき、必死に各ラインの立て直しを指示し始めたところである。

 

 さて、そんな朝日(げんいん)は――看護師さんたちって、リアクション好きなんだなぁ。と、あえて追究はせず。採血検査会場へと到着する。

 今までと違って、採血検査は個室になっていた。朝日たちは空き表示になっている部屋へと入る。

 

「採血か……うーん。ねえ、深夜子さん。注射ってあんまり気がのらないよね」

「うん。だから採血担当はメンタル強くないとできないらしいよ」

「はい?」

 

 朝日の耳に、これまた想像の難しい説明が返ってきた。

 どういうことかと確認をする――。

 

 深夜子によると、男性健康診断の採血担当者は嫌われ者の役どころとのこと。

 男性にとって、注射器を刺すイコール苦痛を与える女性という扱いらしい。

 罵詈雑言を浴びせる者も多く。担当看護師は宥めすかし、ひたすら気を使わなければならない。

 実際、採血担当になって耐えきれず退職する者も珍しい話では無い、との説明だ。

 

「あ、へ、へえー。た、大変……なんだね……」

 

 まさに、こんな時どんな顔をしていいかわからない内容だった。

 とは言えど、それを聞いた。いや、聞いてしまった朝日の頭の中で、採血の担当看護師はとても可哀想な(・・・・・・・)女性のイメージとなった。

 

『それでは、次の方どうぞ』

「じゃあ、行ってくるね」

「らじゃ、朝日君がんばって」

 

 ここで、深夜子は採血検査の個室内にある待機室へ、朝日は診察室へと入る。

 

「こんにちは。今日はよろしくお願いしますね」

「ん!? あ……は、はい……よろしくお願いします」

 

 さすがはメンタルが必要と言われる採血担当の看護師。朝日の容姿と愛想のよさに、動揺はみせたが対応は崩れない。

 

「神崎朝日さん……ですね。あまりに素敵な男性でびっくりしました。それで、今日の体調はいかがですか?」

「あっ、あの……僕、採血の注射とか全然平気ですからっ、気にしないでくださいね」

「はい!?」

 

 採血担当の看護師は、己の耳を疑い、思考が停止しかける。

 あれ……採血対象の男性に気を使われた(・・・・・・)

 

「…………はっ!? え……えーと。本日は……採血と言うことですが、こちらの注射器は痛みの少ない最新型です。なので安心して――」

「僕なら、痛くても平気です! 看護師さんは僕たちの為に頑張ってくれてるんですから! 文句とか言ったりしないですから!」

「はへ!?」

 

 なんですか、このお気遣いマックスハートの美少年? どうにもペースを崩され、言葉を失ってしまう。

 こんな男性、健康診断採血の歴史上で初めてじゃなかろうか……感動にうち震えつつも、看護師は根性で問診を続行する。

 

 ――お気遣い朝日と困惑看護師のすれ違いな会話が続くこと数分。

 

「うっ、ううう……それで、それでね……本当はあたし、辛くて……辛くて……」

「ですよね。大変なお仕事ですもんね。でも、こんなに優しい看護師さんに酷いことを言うなんて、信じれないです」

「優しい! 優しいって言ってくれるの!? て、天使?」

 診察室は、いつの間にか美少年の人生相談室に成り変わっていた。

「ありがとう! あたし……頑張れる気がしてきた!」

「良かったです。じゃあ、そろそろ採血をお願いしますね」

「あっ、そうだったわ。あたしったら……うふふ」

 

 おっと、職務遂行を忘れてしまうとは恥ずかしい。

 そこで看護師は我にかえった。

 では、と朝日の腕を取ってゴムチューブを軽く巻き、血管を浮きだたせる。

 そして、注射器を手にして腕の血管に針を向けたその時!

 

 ――突如、彼女の脳裏に先ほどまでの光景がフラッシュバックした。

 

 自分の事を心配してくれた。

 仕事について励ましてくれた。

 愛らしい笑顔を向けてくれた。

 何より自分を優しいと言ってくれた。

 そんな心優しい美少年に、こんな野蛮な針を刺して苦痛をあたえる? 

 

「えっ? ……あり得ない……そんなの……そんな……」

「ちょっ!? な、なんか注射器が三本に見えるくらいに手が震えてますよ?」

 

 これは……(ひと)として許されざる鬼畜の所業。

 ガクガクと体の震えが止まらない。全身から血の気が引いていく。

 看護師は注射器と朝日の顔を交互に見る……そして。

 

「いやぁあああっ、こんな子にっ! こんな可愛くて優しい子に採血なんて残酷なマネ、あたしできないっ!!」

「えええー?」

 

 逃げる様に部屋を出て行く採血担当の看護師であった。

 

「うわっ!? あれ、朝日君何かあった?」

 深夜子が待機室から顔を覗かせる。

「え? いや……あれ? どうしたんだろ……」

 

 診察室に一人取り残され、何がなんだかの朝日。

 そして、床に落ち、同じく残された彼女のインカムから、雑音と共に何やら声が響いてくるのみであった。

 

『隊長! さ、採血担当が一名逃げ出しました……』

『なんだとぉ! そ、それでも名誉ある十一番隊の隊員かぁっ!?』

 

◇◆◇

 

 朝日の採血は、医師と看護師が数人かがりでなんとか完了となった。

 さらに、そのままその医師たちに囲まれ、内科検診の会場へと移動になる。

 

 到着した内科検診会場では、もの凄く一仕事終えた感が漂っていた。

 あちらこちらで、安堵の会話がかわされている。

 その内容は、内科検診が終われば、朝日の健診はレントゲンなど機械によるものを残すのみ、もう問題は起きないであろうというものだ。

 

 さらには、この内科部門。自身も優秀な内科医師の一人である柊明日火、直轄の部隊だ。

 皆、朝日の美貌を楽しめる程度の自制心は持ちあわせている。

 

 しかし、そんな彼女らの余裕は、一人の医師が聴診器をもって発した一言のあと、崩壊することになる。

 

「それでは最後に心音などを聞かせてもらいますね」

「あっ、はい。ちょっと待ってくださいね」

 

 おもむろに上半身の診察衣を脱ぎ始める朝日がそこにいた。

◇◆◇

 

「み、見えちゃってるううっ! これはあたしが隠さねばぁ! いやっふう!」

「ちょっと、深夜子さん!? なんで抱きついて来るのさ! これじゃ服着れないよ? それに、なんか、みんな困ってるみたいだし……」

「くっ……あのMapsは何故(なにゆえ)……事態を悪化させているのだ?」 

 

 そう呟くのは看護十三隊十一番隊第九席内科部隊所属『最峰川(もぶかわ)キヤラ』である。

 彼女は朝日について充分な情報を把握し、隊長である柊と綿密な打ち合わせも行った。

 結果、何事もなく、無事に終わるはずだと認識していた。

 

 ところが事態は一転。

 まさかの上半身裸(トップレス)な美少年が出現してしまった。

 真正面にいた担当医師は、満面の笑みをたたえ卒倒。

 歓喜の悲鳴を上げた看護師たちにつられ、別ラインからも医師と看護師が集まり、パニックにおちいる始末。

 

 現在、隊長(ひいらぎ)副隊長(なるしば)は別ラインの復旧に手を取られているはず……ならば、ここは自分が収めるしかないと最峰川は考える。

 この現場で最も上席者たる者の責務、それを果たすべく声を張りあげた。

 

「皆、落ち着けーーーっ! 我々は名誉ある看護十三隊の十一番隊だぞ! この様なことで己を見失ってどうするっ、看護道の心得を思い出せ!」

 

『看護道の心得』

 男性医療の歴史は、Mapsなどの男性保護業と比べて非常に古い。

 その長い歴史の中で、男性への対応や自制心を養う為に研鑽を重ね、淑女たり得る教えを説いた。

 そしていつしか四十八ヶ条となった心得こそが、男性医療に携わる者達の教訓となっている。

 医師や看護師たちはそれを暗記し、朝礼などで日々斉唱することによって、男性への節度ある対応を戒めているのだ!

 

 最峰川は、有象無象に成り果てたもの、周りにいるものを一喝。

 その一節を斉唱する指示をだし、場を収めることを試みる。

 

「よぉし、全員!『男子ニ見惚レヌ対処法』を斉唱だ! 私に続けぇ!」

「「「「「(おう)!!」」」」」

 

「看護道の三十三『男子ニ見惚レヌ対処法』! 看護師よ。禁欲の仮面・恋慕・懸想・オトコの名を冠す者に潔癖・節制――」

 

「んーと、とにかく。ち、ちく……おっぱい隠して! 朝日君」

「えっ? え……と、こう? かな?」

 

「「「「「てっ、てっ、手ブラぁーーっ!?」」」」」

 

 嗚呼、誰が言ったのだろうか……手ブラはヘタな上半身裸(トップレス)よりエロいと……。

 嗚呼、わかる。

 こんな美少年の手ブラ……嗚呼、無理だ。これは無理だ。

 絶対に抗えぬ、全てをなぎ払う圧倒的な破壊(エロス)がそこにある。

 言葉で拒絶しようと、心で拒絶しようと、魂がそれを理解しているのだ。

 ――最峰川キヤラ、七月某日のブログより抜粋。

 

 会場は一瞬にして壊滅した。

 そんな中で、自身も薄れゆく意識を繋ぎ止め、最後の意地をみせる最峰川がいた。

 

「タダでは、タダではやられんぞ……それでも隊長なら……隊長なら、きっとなんとかしてくれるハズだ……!!」

 

 もう目も見えない。音もほとんど聞き取れない。

 最後の力。震える手で、呼び出しのかかるインカムをオンにする。

 

『どうしたっ!? 何がっ、一体何があった!?』

「た、隊長……そ……その、男性が……美少年が……内科検診時に突然上半身裸に――あふん!」

 

 見事に散りゆく最峰川……そんな彼女の想いは届かず。

 ――当日、十一番ルートは健康診断続行が不可能となり、閉鎖と相成った。

 その復旧には丸一日以上の時間を要したと言う。




次回から第四章開始となります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。