男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

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第三十八話 寝待深夜子頑張ります!

 花火大会の会場。その男性福祉対応区画は、人が多く雑然としている一般区画と違ってにぎわいは少ない。

 一定距離ごとに警備員が配置され、たまにすれ違う男性に、警護官と家族の女性たちが同行している程度だ。

 

 五月たちと別れ、少し緊張気味の深夜子。

 朝日と二人、カラカラと鳴る下駄の音が優しく響く。

 花火の打ち上げが始まる時間までは、屋台をまわる予定になっている。

 さあ、デート本番。しっかりと朝日をリードせねば! 深夜子は静かに闘志(あい)を燃やす。

 

「うわー、やっぱり夏祭りの雰囲気っていいね! 深夜子さんいこっ!」

「はうッ」

 

 さっそく、左腕に朝日がからみついてきた。やったね。

 ……これは、五月のときにも見せた例のアレ――ここから恋人つなぎへ変化する必殺コンボ、実に腰にきちゃう素敵な一撃だ。

 ありがとうございます。

 

 しかしッ! 想定の範囲内(・・・・・・)ッ! 一晩を費やしたデートシミュレートは無駄ではない。

 対策は万全。

 深夜子は、その猛禽類のような目をキラリと輝かせる。

 ふふふ。さあ、そのやわらかくて愛らしい手を、華麗に、そして優しく受け止め――。

『そ、そんな!? 僕の女殺し(わざ)が通用しない?』

『フッ! あたしに一度見せた技は二度通じぬ。今やこれは常識!!(キリッ)』

『やだ、深夜子さん素敵……(ぽっ)』

『(壁ドン)ふふっ、いたずらっ子さんな朝日君には……お、し、お、き(ちゅっ)』

『結婚しよ』

『いいですとも!』

 ――などとバッチリ決めて、オスの顔にしてくれよう。

 

 ……で、現実は。

 

「あふわあああっ!? あっ、朝日君! そんなギュッて? ちょっ、む、胸が左腕に、あたっ、当たって、あた……あたたたたぷっしゅー」

 

 がっつり腕を組まれました。

 

 余談ではあるが、心理学上『手をつなぐ』よりも『腕を組む』方が親密度高めなのである。

 当然ながら、物理的密着度(あたってますよ)も圧倒的に違う。無意識に相手の上をいく朝日、恐るべし!

 

 結果、左腕に絡みつく朝日の感触に集中しすぎて、ほぼイキかけました状態へと突入した深夜子。

 一晩かけたデートシミュレートはどこへやら、朝日に言われるがままに、あちらこちらの屋台を共にまわり歩く。

 無論、道ですれ違う女性(ひとびと)の視線は、深夜子たちに釘付け。

 

(くそっ! 見せつけやがって!)

(くっ、うやらま爆発しろ!)

(あんな美少年と腕を組むとか犯罪だろ? はやく法整備しろよ)

(アイエエエエ! 美少年!?  美少年ナンデ!?)

(う゛う゛う゛朝日様ぁ……五月のときは、五月のときはぁ)

 

 羨望と怨嗟渦巻くそんな中、インカムから女の亡霊がすすり泣くような声も聞こえてきた。

 これがちょうど深夜子の気付けとなる。

 

「……はっ!? 不覚ッ」

 

 自我を取り戻し、深夜子は急ぎ脳内の整理を開始した。

 

 とりあえず、出だしの予定外なつまづきは忘れよう。

 計画では、この屋台ロードで朝日にカッコイイところを見せる予定なのだ。

 花火の打ち上げが始まるまでに、しっかり好感度を上げる。

 それから、いいムードで花火観賞をして、より親密な関係にステップアップするのが最終目的。

 深夜子は両手で頬を叩いて、自分に(かつ)を入れる。

 

 よし! まずは得意分野のフル活用からだ。

 Maps養成学校卒業時に、軍からも推薦採用の声がかかったレベルの射撃術!

 昔からあちこちの夜店で、射的あらしとして名をはせた腕を見せようではないか。

 

「ふふふ、朝日君。まずは射的から! あたしのテクニックを見せる」

 

 宣言してから、意気揚々と朝日の手を引く。いざ、射的の屋台へと突入!

 

「ん? お断りだよ――」

「え? 冗談じゃない――」

「アンタ、業界のブラックリストにのってるよ――」

 過去、どれだけあらしまわってたの?

「バッ、バカナァーーーッ!?」

 計画は即座に頓挫した。

 

「み、深夜子さん……大丈夫?」

 

 なんてこったい! 深夜子はがっくりと崩れ落ちる。

 朝日が色々と慰めの言葉をかけてくれているが、ショックで耳に入ってこない。

 待望のデートが、朝日とのデートが、……これもう、完全な逆風スタートになってますがな。

 しばし、その場でうずまって頭を抱える深夜子であった。

 

◇◆◇

 

「うう……しゃ、射的が……射的だったのに……うああああ」

「深夜子さん。……えと、お店の人の反応で深夜子さんが上手なのはさ、うん。すごくわかるよ?」

「そう? うう……でも……うああああ」

 

 やたらめったら落ち込んでいる深夜子を見かねた朝日。

 あれこれと慰めの言葉をかけてみるが、思ったよりダメージが大きいらしく、深夜子からは生返事が続く。

 これは――あっ! いいことを思いついた。朝日はイタズラっぽい笑みを浮かべ、スッと深夜子の背後にまわった。

 

「もう、しょうがないな深夜子さんは……元気だして! ほらっ――つぅーーっ!」

 

 うなだれて、背中を丸める深夜子の首根っこ――襟元にトンっと人差し指をのせてやる。

 それを浴衣の上から、背骨のラインにそって下へと這わせた。

 

「ッ!? うわひゃあーーーっ!!」

 

 まさに、うぞぞぞぞっ! と言った反応。

 深夜子は、名状しがたい何かが背中を駆け抜けていったとばかりに、飛び跳ねながら立ち上がった。

 

「んなあっ!? 朝日君、何っ!? つうーって、うぞぞーって、うえええ!?」

 

 あたふたと、両手で空気をかき混ぜつつ、口をパクパクさせている深夜子。

 朝日はその姿に吹き出しそうになる。

 

「えへへ、深夜子さん。元気……出た?」

「ふへ? えっ、まあ、いまの……、その……うん」

 どうやら、ボディタッチ(イタズラ)の効果はあったらしく、パニック気味ながらも、立ち直ったようだ。

「ほら、デートなんでしょ。楽しく行こうよ!」

 再び朝日は、深夜子の左腕に絡みついて顔を見合わせる。

 

「ふぇ? あっ……うん、楽しく? そっか……楽しく……だ、だよねー、うへ、ぐへへへ」

 

 表情筋全てをだらしなく緩め、絡みつかれた腕と、朝日の顔を交互に見てはにやけて、されるがままの深夜子であった。

 

 ――魅了され、骨抜きにされる。まさに、この時のためにある言葉である。

 

 さて、もちろん。

 周囲からは『見せつけやがって爆発しろよ!』的な視線が集中している。

 それを知ってか知らずや、深夜子と朝日のデートは遠慮なく超甘口で続く。

 

 ――深夜子が好物の焼きトウモロコシを食べていれば。

 

「ん。朝日君どうかした?」

「深夜子さん。口のそばにトウモロコシの粒がついてるよ」

「あれ? ほんと――」

 深夜子が口をぬぐおうとするも、一瞬早く朝日の指がくっついていた粒を摘まみとる。

 そして、そのまま自身の口(・・・・)へ粒を放り込んだ。

「へへ、ごちそうさまー」

「あ、朝日君? 今、あたしの……口の……食べ……ファーーーッ!?」

 

 ――二人してかき氷を食べれば。

 

「深夜子さんの練乳ミゾレだったよね? あー、僕も練乳かけてもらえば良かった」

「ん。じゃあ、練乳かけてもらいに――」

「それよりも深夜子さんの一口ちょうだい。はいっ」

 朝日が深夜子へ口を向けて、あーんとおねだりをする。

「はひぃ!? え、えーと……あっ、ああああ、あーん?」

「ありがと、おいひー。じゃあ、僕のイチゴだからお返し。はい、あーん」

「うぇああっ? あったっしっもっ!? あ……あ、あ、あー――ぷしゅー」 

 

 まさに、やりたい放題の朝日。

 魅了状態が悪化して、なすがままになった深夜子を、あちこちひっぱりまわして、やっぱりやりたい放題。

 そんなものを、ひたすら見せつけられた現場は……。

 

(萌えた……萌え尽きちまったわ……)

(あんなの、漫画やアニメだけの妄想じゃなかったのぉオオオっ!?)

(あ、あれが、あれがラノベ主人公なのね……うらやま死のう、死んで転生しよう……)

 

 屋台を守る女性たち(ひとびと)の慟哭が残るのみ。

 さらに、近くにある木の影から朝日を見守り血涙(けつるい)を流す視線がひとつ。

 

「ふぐうううっ……朝日様! どうしてっ、どうしてっ、あの場にいるのが五月でなくて深夜子さんですの? ……ふぐうううっ」

「ほんろおもへえひ、ふぇほふへへほんははな(ほんと重てえし、めんどくせえ女だな)」

「くっ! だっかっらっ、余計なお世話ですわよっ! 食べ物にしか興味のない貴女に言われたくはありませんわっ!!」

 

 ハンカチを噛みしめる五月に、およそ屋台で売っているであろう食べ物をコンプリートして頬ばる梅。 

 以降、定期的に五月から深夜子のインカムへ、呪詛の言葉が届いたが、完全魅了状態の深夜子にまったく効果はなかった。

 このあたりはお互い様と言えよう。

 

 一方、お腹を満たした朝日と深夜子。

 それからは水ヨーヨー、金魚すくいなど、屋台の定番遊戯を楽しんでいた。

 ここで、ふと喉が渇いたと朝日がサイダーを買ってくる。

 

「あれっ? ……このサイダー、(せん)のやつだ。あー、取ってもらうの忘れちゃった」

 

 縁日らしく、売られていたサイダーは、日本でも珍しくなった金属製の栓(王冠)がされているビンタイプであった。

 飲み物はキャップと思って、朝日は屋台に置いてあった栓抜きを見落としていた。

 

「ん! 朝日君。ちょっと待って」

 

 栓を抜くために屋台へ戻ろうとする朝日を、深夜子が呼びとめる。

 

「えっ、深夜子さん。どうしたの?」

「朝日君。大丈夫」

 

 そう、これは深夜子にとってのチャンス到来。

 自分の腕力を以てすれば、ビンの栓などキャップと大差ない。

 かっこよく素手で栓を開け放ち。『やだ素敵っ!』と、朝日の好感度をアップできちゃう場面であることに気づいた。

 

「ええっ!? ほんとにコレを栓抜きなしで開けれるの?」

「ふふん! 余裕」

 

 やはり提案に興味津々の朝日。これは間違いなくチャンス!

 深夜子は思案する。

 例えば、歯で栓をこじ開ける。親指で栓を弾いて開ける。

 この程度は、ちょっとヤンチャな体育会系女子には定番芸。

 それでは序盤の失点は取り戻せないだろう……ならば、技術(わざ)を使う。これだ!

 

「んじゃ朝日君。少し離れて」

「えっ?」

 

 サイダービンの胴部分を左手でしっかりと握る。

 右手の手刀は脱力気味に……両手をゆっくりと広げて振りかぶり――。

 

「寝待流格闘術――『鋼討(はがねうち)』」

 

 キンッ!!

 ビンの首部分と手刀を、左右から交差させる。

 ――甲高い音を鳴らすと同時に、ビンの首部分が鋭利な刃物で切られたかのようにずれ落ちていく。ふふふ。

 

「えええええっ!?」

「ふふん! ……どうかな? 朝日君!」

 切り口もバッチリ! さすがあたし。

 どやっ、惚れてまうやろーっ!

「はい。どぞ」

 さりげなく前髪をかき上げつつ、涼しげな笑みをつくって、深夜子は感動しているであろう朝日にビンを差しだす。

「ひいいっ!?」 

 ドン引かれました。

 

「ちょっ!? 朝日君? そ、そのっ、これは、えーと……その……あわわわわ」

 

 いつ以来か……朝日を怯えさせてしまった。

 やべえよやべえよ。深夜子は焦りに焦りまくる。

 これは、とにかく、なんでもいいから言い訳をせねば。

 

「あっ、そう! 実はコツがある。誰でもコツさえ掴めばできるから!」

「えっ、そうなの……!?」

「んと、ひ、左手で加速させるから、こっちの手刀速度にそれが加わる。だから楽勝! 誰でも簡単!」

「えぇ……あっ、はい」

 

 ――それはコツとは言わない。

 

 木陰からのぞく女の怨りょ――いや、暗くかげった五月のにやけ顔。

 あたふたと言い訳を続ける深夜子の姿。

 それを嬉しそうにながめる五月を、梅が冷たい目つきでながめていた。

 

 深夜子。五分後に、なんとか朝日を和ませることに成功。

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