男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

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第四十話 深夜子、通信販売の乱

 ――花火大会翌日。午前中のこと。

 

「おい深夜子、なんか荷物届いてたぜ」

「ん? そう。ありがと梅ちゃん」

 

 梅がダンボールの小箱を、深夜子の元へ持ってきた。

 見たところ、通信販売で購入した荷物のようだ。

 でも……あれ? これなんだったけか?

 昨日の花火デートの充実ぶりに、ふざけたド忘れっぷりをかます深夜子である。

 

 とりあえずは部屋に持ち帰って、荷物の送り状を確認する。

 日ごろよく使う通販”アムゾン”が送り元だ。

 宛名も間違いなく自分(寝待様)宛になっており、20センチ四方の小型サイズの箱で重さは軽い……が、やはり中身が何なのか思だせない。

 深く考えても仕方ないので、深夜子はさっさと開封することにした。

 

 中身を取り出してみると、一通の封筒とジャムビンのようなガラス容器が一つ。

 中には飴玉らしきものが詰まっている。

 封筒を開けると、伝票に加えて取扱い説明書(飴玉なのに?)が出てきた。どれどれ、と目を通す。

 

 そこには――。

幸運色事遭遇(トラブリングダーク)キャンディ。貴女にふりかかるかもしれない幸運色事(ラッキースケベ)。そんな願いが込められた特別配合のダイエット健康食品です。一回一粒、一日二回まで。用法用量を守って服用ください。※効果には個人差があります】

 ――といったことが書かれている。

 

 思い……出した!

 

 そう、それは五日前の夜。

 五月と朝日のデート翌日のことだった。

 その日の五月は、朝から晩まで『やはり朝日様は五月のことを……ぐへっ、ぐへへっ!』と、恐ろしく目障りで耳障りでガッデムなデレっぷりを披露してくれおった。

 深夜子はそのイライラを通販にぶつけてしまったのだ。

 

 今思えば、商品説明のあちらこちらに『個人の感想です。効果・効能を示すものでありません』的な注意書きがあった気もする。

 いや、そもそもラッキースケベに遭遇できる飴玉、という時点でお察しであろう。

 しかし、その時は勢いで『これだ! 君に決めた!』とか、謎テンションで購入し(ポチっ)てしまった、胡散臭いにも程がある一品(ひとしな)

 

「これは……やってしまった……」

 

 ――なるほどこの世から通販詐欺が無くならないはずである。

 

「……むう。どうしたものか」

 

 それなりのお値段で買った物であるし、捨てるのはもったいない。

 何より、もしかしたら、もしかしたらがあるかも知れない!

 都合のよい思考が深夜子の脳裏をよぎる。

 これぞまさに、通販詐欺の優良顧客。

 

『みんな、そろそろお昼ご飯できるよー』

 

 悩んでいると、キッチンにいる朝日から昼食の呼び出しがかかった。

「ん、ご飯! 朝日君らじゃ」

 朝日とのお昼は最優先事項。深夜子はビンを持ったままキッチンへと向かう。

 

 ちなみに、深夜子を筆頭に感覚が麻痺しているが、美少年が毎日手料理を作ってくれるなど、通販詐欺に引っかかっている場合ではない幸福な日々だ。

 慣れとは恐ろしいものである。

 

 ――昼食が終わり、本日の食器洗い当番である五月がキッチンへと向かう。

 深夜子と梅は、リビングでテレビを見ながらソファーに寝転がっている。

 これで勤務中というのだから恐れいる。

 そんな食後の梅に狙いを定めて、深夜子が何やら怪しげな笑みを浮かべていた。

 

「ねえ、梅ちゃん。飴あげる」

「ん? ああ、サンキュー」

 

 卑劣な手段を……。

 などと言われても仕方ないところだが、こんな騙しアイテム。深夜子は深くは考えていない。

 ポンッと梅が飴玉を口に放り込むのを横でながめる。

 それから経過すること五分――当然何も起きない、そんなものだ。

 

 やれやれ………捨てるか、食べるか、深夜子が考えていると、キッチンから朝日の声が聞こえてきた。

 

「おーい、梅ちゃーん。洗い場の蛍光灯が切れたみたい。替え持ってきてくんない?」

「おう。わかったぜ」

 

 それを聞いて、梅が玄関近くの物置に向かう。

 しばらくして、ストックの蛍光灯を手に持ち、脚立を肩に掲げ鼻歌まじりで戻ってきた。

 そのままリビングを抜けて、キッチンにいる朝日の元へ。

 

「おう、朝日。俺が替えてやっからよ」

「あ、梅ちゃん。ありがと」

 

 梅は手際よく脚立をセットして上り、切れた蛍光灯へと手を伸ばす。

 が……わずかに身長(たかさ)が足らず、手が(から)ぶる。

 

「あれ? 梅ちゃん。もしかして高さ足りてないんじゃ……ふふっ」

「うっ、うるせぇ! 笑うな朝日! あと3センチだ……ふんっ」

 朝日の反応に顔を赤らめた梅。悔しかったのか、ムキになって脚立の天板に立ち、背伸びをはじめる。

「うわっ、梅ちゃん。バランス! 危ないって!」

 

 ついには、脚立の天板上で片足立ちになる始末。

 ふらふらと危なげな梅を見かね、朝日が支えようと抱きついた。

 

「うっきゃあああっ! こら朝日っ、尻を鷲掴みにするなああああっ、おいっヤメ――危なっ」

「ちょっと、梅ちゃん暴れないで! ほんとに落ちるって、あああ」

 

 なんという偶然でしょう!

 朝日が梅を正面から抱きしめた為、ちょうど腰の部分から手をまわしてお尻を掴む形となった。

 対して、それに動揺した梅がバランスを崩し、朝日にむかって倒れこんでしまう。

 

「危ない梅ちゃん!」

「ぬわっ!? ちょっと、朝日、待て! こ、これは――」

 

 さらになんという偶然でしょう!

 朝日は倒れこんできた梅を、床に落とすまい(・・・・・)と受け止めた。

 結果、朝日の顔に梅の股間が密着した、逆肩車というべき状態となってしまう。

 視界がふさがれ、後ずさりをしながらも、朝日はゆっくりと梅を下ろそうと努力する。

 

「ぬおわああああ! 朝日、離せ、手を離せっての!」

「梅ちゃん動かないで、大丈夫だから! ゆっくりおろ――あっ」

 

 しかし、さらにまたもなんという偶然でしょう!

 朝日の後ずさる先には、たまたまキッチンマットが敷いてあった。

 マットに足がのった瞬間!

 朝日と梅の体は、マットごと滑るように床へと吸いこまれた。

 

「「うわああああっ!?」」

 

 幸い、二人してキッチンマットにうまく衝撃を受け止められ、怪我はなかった。

 問題なのは、現在の二人の体勢。

 どこがどうなったのかは定かでは無いが、お互いの顔をお互いの股間で挟むような形で、朝日の上に梅が乗っかっていた。

 

「ちょっと!? 梅ちゃん。こ、これって?」

「むふわぁ、あ、朝日? ちょっ!? こら、足の力をいれるなぁ! か、顔に、顔にぃいいい。い、いや、それよりもしゃべるな、息をするな! やばい、まずい、そこにふーってしちゃらめぇええええ!!」

 

 まあ、なんというか、お互い股間に顔を埋めて息を荒げてしまっては色々あれですよね!

 

「ひいいいいっ! 朝日様ぁーーっ!?」

 

 五月が悲鳴をあげ、梅を朝日から剥ぎ取るついでに裏投げに持っていく。

 この光景を遠目に――唖然(あぜん)茫然(ぼうぜん)なのは深夜子である。

 

「ばっ、ばばばばば馬鹿……な!?」

 

 ありえない? 本物? そんなハズは?

 などと、頭は混乱するが身体は正直。

 視線は現場に釘付けのままだが、深夜子の両手は器用にビンをあけて取り出した飴玉を二個。口へと運んだ。

 

「ふへ……ふへへ……ぐへへへへへ!」

 

 即決即断! すぐさまボリボリと飴玉を噛み砕く。

 さらに手元にあったお茶を飲んで豪快に流しこむ。

 お茶なのか涎なのかはともかく、ぐいっと口元をぬぐい、フッっと淑女的な笑みを称えて――。

 

「う゛おおおおおおっ!! あっさひくーん!!」

 

 キッチンから、ふらふらと出てくる廃人化した梅と入れ替わりの突撃。

 食器棚を横目に過ぎ……。

 正面の冷蔵庫を左に曲がれば洗い場――!

 無論! この勢いで曲がれば、朝日と鉢合わせることになるだろう。

 つまりはッ――。

 ぶつかりあって絡みあって転がりあってあら大変唇まで接触事故、がワンセット。

 ――予想通り人影を認識。

 

 レッツ、ラッキースケベ!!

 

「えっ!? きゃあああああっ!」

「ひゃっふう! あーさひきゅ――――んなあああっ!?」

 

 朝日だと思った? 残念! 五月でした。

 

 出会い頭に激突した上、無駄な勢いが仇となる。

 朝日はすでに脚立に上って蛍光灯を交換中、上から転がってゆく二人を見送っている。

 

「むきゅう……ふぇ!?」

 

 何やら深夜子の唇に触れるやわらかい感触。

 そして、かすかに感じる鼻息。

 まさか? 朝日は『あら~♪』と、ちょっといいもの見ちゃいましたよ的な声を漏らしている。

 そう、そのまさかであった。

 深夜子の身体の下にいるのは五月。右手は豊かな胸に、唇と唇はしっかりと重なり合っていた。

 

「「いやああああああ!?」」

 

 悲鳴と同時に、五月から巴投げを食らう。

 なす術もなく深夜子は宙を舞い食器棚へと激突。

 しかし、その衝撃よりも衝撃なのは、ファーストキスの相手が五月(同性)という事実!

 

「うぉええええ……」

 

 床に四つん這い。もはや落ち込む以外の行動選択肢が見当たらない深夜子。

 何てこったい! 梅のアレは一体なんだったのだ?

 いや、それよりも! 自分は二粒(・・)食べてしまっているではないか!

 もう嫌な予感しかしない。

 さっきから五月に罵られまくっている気はするが、それどころではない。

 とにかく飴を吐き出しておくのが先決であろう。

 そう考えて、深夜子はトイレへと猛ダッシュで向うのであった。

 

 ――かたや、一部始終を見ていた朝日が、恐る恐る五月に声をかける。

 

「さ、五月さん。大丈夫……ですか?」

「ううっ……朝日様。五月は、五月はもう(けが)れてしまいましたわ。清らかな身体で朝日様をお迎えすることが……」

「い、いや、別に僕はそんなこと気にしないと言うか……それより怪我はありませんかと言うか……」

 

 両手で顔を覆い。やたらと絶望にくれる五月を朝日は慰める。

 すると、先ほど深夜子が駆けていったトイレの方角から絶叫が響いてきた。

 

『うっ、ぎゃああああ!! みっ、深夜子、てめえノックくらいしやがれ! バカかっつーの! アホかっつーの!』

『ギャアアアーーーッス!? なんで梅ちゃん、鍵しめてないの!? てか、変なもの見せないで!』

『見るなぁ! つか、でてけぇ! なんでか知らねぇが鍵が壊れてたんだよーーっ!』

『ちょ! パンツおろしたままで――うおぉ! あ、足が滑ったあぁぁ!?』

『アホかぁっ!? こんなところで器用に足滑らしてんじゃねええええ!』

『『ふんぎゃああああ!!』』

 

 ――なんだか、朝日だけがいいもの見て得した気がした、とある平和な昼下がりであった。

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