男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です! 作:takker
よろしくお願いします。
第四十四話 朝日に近寄る不穏な気配?
――暦は九月下旬。
残暑も過ぎ去り、
少しばかりの
朝日家の門から二つの人影が出てくる。
二人とも首にタオルをかけて、トレーナー姿にスポーツシューズ。これからランニングに出かけるところだ。
一人目は男性。ウルフマッシュの黒髪に、パッチリとした二重の瞳。
左目には泣きぼくろ、恐ろしく庇護欲をさそう顔立ちの美少年。
もし、道行く女性が見かければ、百人百中で襲い――愛の告白をすること間違いなし。
その横に付き添う女性は、非常に小柄な体格で、身長164センチの朝日より二回り小さい。
赤みがかった天パのショートヘアに、八重歯が可愛らしい猫顔娘。
しかし、その中身は脅威の”不沈戦艦”SランクMaps
「よっし、梅ちゃん。今日は東のコースに行こっか?」
「おっ、やる気満々だな朝日。こないだは途中の坂でへばっちまったてのによ」
「もう! 今日こそは完走の予定なんだよね」
「へー、そっかよ。んじゃあ、期待してんぜ」
軽いかけあいをしながら、二人が駆け出す。
朝日の自宅から東回りに、ゲーテッドタウン内を約3.5キロメートル。時間にして三十分程度。
途中、小高い丘を一つ越えるアップダウン有りの多少ハードなランニングコースとなっている。
このところ深夜子と二人してゲームとおやつ三昧。
その怠惰にして甘美、危険な夜のカロリー摂取を続ける日々に体型の危機を感じた朝日。
六月下旬から、毎日の日課として朝のランニングを開始していた。
家に戻ったら、簡単な筋トレを梅に手伝って貰い。最後にシャワーを浴びてから、朝食の準備をするまでがワンセット。
出発して数分後。ハッハッと息を弾ませて走る朝日。
梅はまるで歩いているかのように涼しげな表情でついて行く。さすがの体力だ。
そして、梅にとっては朝日と二人きりの貴重な時間のはずだが、何やら表情はすぐれない。
走りながら、たまに横目でチラチラと何かをうかがう。
それから少し首をかしげて、釈然としない表情でチッと舌打ちをする。
そんな微妙な雰囲気の梅だったが、コース後半にはいつも通りにランニングを終え、朝日と楽しげに会話しながら筋トレを手伝うのだった。
◇◆◇
「五月。あとでちょっといいか?」
「あら? 大和さん珍しいですわね。ちょうど片付けも終わってますし、深夜子さんもごいっしょに」
「ん。
朝食後。梅が五月に声をかけてきた。
それとなく雰囲気を察した五月が、深夜子にも声をかける。
これからお仕事ですよ感を出して、朝日はリビングに居残りしてもらう。
三人でMaps側リビングへと移動。恒例になったミーティングを開始する。
「視線を感じる……ですの?」
「ああ、ハッキリとはしねぇんだけどよ……」
梅の話では、ここ二日間。朝日とランニングをしている時に、どこからか視線を感じるとのことだった。
「それは……おかしい、ですわね……」
五月はなんとも言えない不気味さを感じた。
そんな彼女が、確定できないと言うのだ。
さて、これはどうしたものか? 五月が思案を始めたところで――。
「うん。じゃあ、明日はあたしがこっそり見張る」
見張る? 横から深夜子が、あっけらかんとした声でさらりと言い放つ。
「まあ、そうだよな。頼むぜ深夜子、空振りになったら
「無問題。あたし得意分野」
得意分野? 何かあっさりと話が進んでません?
「ちょっ!? お、お二人とも、一体どういうことですの?」
さも当然、と言わんばかりの二人のやり取り。
置いてけぼりになりかけた五月は、焦って口を挟む。
「ああ、そういや五月は知らねぇんだったけか?」
すると今度は、頬杖をついている梅が軽い口調で説明をはじめた。
「深夜子の実家は古流武術の道場だぜ。こいつ色々できんだよ。なんつったっけ……ああ、先祖が
「ええっ、そ、そうなんですの!? ……実技三冠、とはお聞きしてましたが……そんなデータはひとつも……」
――五月が困惑するのも仕方なし。
『寝待流古武術道場』
確かに深夜子は、古くからある武術を継承する道場の長女。つまりは跡取りだ。
しなしながら、超ど田舎のマイナー古武術道場。知名度は知るひとぞ知るレベル。
さらに深夜子は、Maps養成学校時代。ほとんどの実技を持ち前の身体能力のみでクリアしていた。
教官たちにすら、あまり知られていない事実である。
梅は学生時代に、色々と深い付き合いがあったので知っているのだ。
「なので、あたしにお任せ」
まさに適材適所。
この手の案件には一切隙が無いチームと言える。
実際は圧倒的な実務力と情報処理能力を誇る五月がいることで機能しているのだが、知らぬは本人ばかり。
矢地の人選が見事だったと言う
◇◆◇
翌朝。
朝日と梅はいつも通りにランニングへと出発する。
事実がはっきりしないことから、五月の判断で深夜子の追跡調査の件は朝日に伏せてある。
――さて、ここで少し説明しておこう。
この朝日たちが住んでいるゲーテッドタウン。
男性福祉対応居住地区。通称『
上空から見ると、卵の様な楕円形をしており、南は海、西は山になっていて、北と東にゲートが一箇所づつある。
そこから春日湊の街へと出入りをする造りだ。
もちろん、住民以外のゲート通り抜けには検問が必要となっている。
国家指定の男性特区内にある上、さらに外壁隔離された場所。
そもそも不審者などいるはずが無い。不法侵入などできるわけも無い。そう考えるのが普通であろう。
しかしながら、世の中に完璧なものなど存在しない。
安全だからこそ、ここには問題無いと大多数が
それでは視点を変えよう。
たった今、朝日たちが出発した自宅から、
数ヶ所ある公園のひとつで、ちょうど高台に位置し、
そこに居るのは二人組の女性。
共に身長170センチ程度、片方がわずかに高いくらいで体格も中肉中背。グレーの作業着に同色の作業帽をかぶっている。
少し背が高い方は明るい茶髪で、帽子からほとんど髪が出ないほどの短髪。
もう一人は黒髪、帽子からはみでる部分でおかっぱだとわかる。
ボブカットと呼ぶには少し野暮ったいイメージである。
腕と胸部分についているワッペンから、国指定の清掃業者であるのは間違いなく。
仮に
ただし、その二人が
――公園内には、ケヤキやクスノキなどの
その内の一本。高さ20メートルはあろう大木に登って、二人そろって丈夫そうな太い枝に腰をかけているのだ。
しかも、遠目には生い茂る葉っぱに隠れてかなり見えづらい。
通りがかった程度では、その存在に気づくこともない。
そして、一人が手に持っているのは双眼鏡。もう一人の首には、高機能そうな一眼レフカメラがぶら下がっている。
当然、彼女らは清掃員などではない。
職業は探偵。依頼を受けて、
そんな、あきらかな不審者たちではあるが、何やら緊張感の無いやり取りが聞こえてくる。
「ねー、
やる気がなさそうな口調で訴えるのは、助手にして唯一の所員である『
少し背が低い黒髪おかっぱの方で、年齢は二十代前半に見える。
そのなんとも特徴が無い顔つきが特徴とでも言うべきか……決して悪くないが、決して美人でもない、無難な顔立ちである。
「花ちゃん、アホ言わんといてな! こないなおいしい仕事逃してどないすんねん! そもそも今月もタダでさえピンチや言うのに!」
少し甲高い声が言葉を返す。
南所長と呼ばれたこちらも、見た目は二十代前半で糸目にソバカス。美人と呼ぶには多少難はあるが、それなりにバランスの整った顔立ち。
彼女と花子、たった二人の探偵事務所の所長『
その口ぶりから、探偵業は順調ではないのが感じられる。
「わかってます。わかってますよー! でも……男性特区の指定清掃業者。その
両手で顔をはさんだ花子が、芝居がかった口調で悲観的見解を述べる。
それを聞いた南は、その細目を見開き反論する。
「やっかましいわっ! あんな花ちゃん……ウチらが軍隊で斥候部隊やっとった時代に比べりゃ、こんなキナ臭い程度なんてかわいいもんやろ? それに報酬がごっつうええやん。調査も残り四日の我慢やさかい……な、あんじょう頼むで!」
こんな調子の南と花子だが……さて、この世界で人気がある職業は『男性と何かしら接点が持てる』仕事なのはご存知の通り。
そして、その就職競争に敗北した者たちはどうなるのか?
この二人が正にその一例。
身体を鍛えて男性警護業を目指すも見事脱落。
高収入につられて、ついつい軍に入隊。しかし、鳴かず飛ばずで、昇進して内勤どころか、前線中の前線に配属される始末。
命あってのものダネと退役し、一念発起で起業した先輩後輩の二人なのだ。
ちなみに、配属された斥候部隊の経験を活かして、危険回避と逃げ足には自信を持っている。
そんな自負もあってか、高い報酬につられ、限りなくアウトな依頼に手を出して今に至るのである。