男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です! 作:takker
朝日は自身の今後について、深夜子の説明が進めば進むほど”何もすることが無い”ことを理解する。
学校にいく必要なし、働く必要もなし。身の回りの世話は……
手厚い保護という言葉では片付かない待遇であった。
「うーん。
「大丈夫。この街には男性専用の娯楽施設やスポーツジムとかもある。あっ、家でゲーム! ゲームならなんでも深夜子さんにおまかせ、バッチこい!」
深夜子の目がキラン! とやたら輝いていた。
「男性福祉対応の街ですもんね。で、ゲームは深夜子さんの趣味ですか?」
「ふふふ、モチのロン。格闘ゲーム中心にオンライン対戦系もほぼ全機種網羅。あたしのコレクションをその目に――」
「それって深夜子さんがゲームで遊びたいだけですよね?」
「ソンナコトナイヨー」
深夜子の目がはわわ! と完全に泳いでいた。遊びたいんですね。
「……ところで、深夜子さん」
「ん、何?」
「さっきから気になってるんですけど……どうして僕の横にぴったりくっついているんですか?」
最初は向かい合わせにだったはずが、いつの間にか深夜子が隣に座っている。しかも距離がやたら近い。
軽く肩に触れてくるまっすぐで濡れ羽色の黒髪。そばで見ると、目つきはともかくやはり美人だなと朝日は思う。が――。
「はわっ! そ、それは……い、いいにおいで……」
「えっ、におい?」
残念、反応がアウト。
「い、いいいや、その、む……無意識に!」
「はっ、無意識?」
ツーアウト。
「うぼあー。ぼ、墓穴っ、墓穴ぅ」
ソファーの上にうずくまり、深夜子は頭を抱えて苦悩している。
その姿についつい朝日は苦笑いしてしまう。
この数日で理解したつもりではいたが、全然そんなことはなかった。男女間の感覚が違いすぎる。
仮に、自分が深夜子に手を出すのは簡単――ではなく、手を出される側なのだろう。
それでもさして問題ないと思えてしまうのだが、この世界の事情を知れば知るほど自ら踏み込むのは
既成事実が発生しようものなら最後。好きでも無い複数の女性と強制的に婚姻させられて帰化。
日本に、家族の元に帰れる可能性が即ゼロになる事態は避けたい。
「お、おおおおお許しを……」
朝日としては強く言ったつもりもないのだが、深夜子は顔を真っ青にしてガクブルと震えていた。あれ?
「ちょっと深夜子さん。そんなに慌てなくても……僕は気にしてないから大丈夫ですよ」
なんだか気の毒なので、安心するようにと伝えてみる。
「ふえっ、ほんとに、う、訴えたりとかでなく?」
「はいっ? なんでこれだけで訴えるんですか?」
ありえないでしょ、が朝日の感想だ。――しかし、残念ながらそれがありえちゃうのがこの世界である。
「ほんとに? ふぉわあああああっ、なんたる慈悲深さ。……ハッ、と言うことは少しくらいなら、うへへへへ」
すると一転。手をわきわきさせながら深夜子はだらしない笑顔を向けてくる。これは安心しすぎでしょう。
「だ、け、ど、僕のことを押し倒したりはしないで下さいね」
なので牽制。朝日はジトッとした視線を送りつける。
「うはひいっ!?」
瞬間。深夜子が弾けるようにソファーから飛び跳ねた。
さらには空中で一回転。ずざざーっ! と正座姿のまま床に着地する。器用ですね。
「しっ、しないっ、しない!! そ、そそそれに、
「えええ? はぁ……なんか、大変なんですね」
そんな感じで、しばらくやり取りが続く。
結果、朝日は
そこでふと、軽いイタズラを思いつく。
「あっ、そうだ深夜子さん。僕の身辺警護って二十四時間体制なんですよね?」
ソファーの端に離れて座る深夜子に、自ら擦り寄って聞いてみた。
「おひょう? はへっ、え、ちょっ、近っ――あ、あああ、そ、そう。二十四時間」
「ふーん。じゃあ、深夜子さんも基本は僕といっしょに生活するんですよね」
さらに肩と肩をちょっと触れさせてみたり。
「おほひょう!? あ、肩がっ、ん……いいにおいが――じゃなくてっ、そ、そそそう、うんうんうんうん」
「それで他の警護官の人たちは、明日以降の着任でしたよね?」
「うんうんうんうんう―――へっ!?」
だんだん理解の追いつかなくなった深夜子が、朝日を見つめて固まった。
ここだ!!
朝日はわずかばかりの恥じらいを含ませ、とびっきりの笑顔を深夜子へと向けた。
「じゃあ、今夜は僕と二人っきりですね!」
「……………………ふえっ?」
どっっ、ジュウッッッッッッ!!!
煮えたぎる溶岩に大量の水をかけたかのような勢いで、深夜子の顔が耳まで真っ赤に染まっていく。
「あ」
「あああ」
「ああああああさひきゅん!? な、なにおおおお――ぷっっしゅーー」
【――大変申し訳ありませんが、復旧までしばらくお待ちください――】
「はふううううん。て、手加減……希望……亡くなったお祖母ちゃんに……再会した……」
容赦なしとはこのこと、まったくけしからん。なんて素敵なんだ。この天使さんめ。心はデレデレ、息は
「深夜子さん、ごめんなさい。ちょっと悪ふざけしちゃいました。ほんとごめんなさい」
さらに朝日は心配そうな表情でイタズラを謝ってくる。
やだもう、この超ラブリーエンジェルさん。ここは「朝日きゅんてば、しょうがないにゃあ」と、抱きしめながらなでなでちゅっちゅして余裕を見せたいところだが……ぶっちゃけそれどころではない。
やたらめったら
きっと今夜は眠れないであろう。
つい先ほど、二人目の到着予定は明日の午前八時頃とスマホに通知がきていた。
はやくあしたになーれ。と祈る深夜子であったが、まだ夕方にすらなっていない。合掌。
◇◆◇
「――でゅ、でゅへは、しぇ、しぇちゅめいにょちゅぢゅきうぉ……(で、では、せ、説明の続きを……)」
「深夜子さん。だ、大丈夫ですか?」
朝日の眼前には、見事なまでグダグダになった深夜子が床にうずくまっている。
さっきから自分の顔を見ては、顔を真っ赤にしてクッションに押し付けるの繰り返しである。
これは無理だと感じた朝日は気を使い、早めに夕食をとって今日はもう休むことを提案した。
「むう。なんか申し訳ない」
「いえ。僕も少し疲れてるから、ちょうど良かったです」
説明半分。職務消化不良。深夜子としては非常に不本意だが、今の状態では仕方がない。
朝日の気遣いを受け入れることにした。しょんぼり。
さりとて、そうと決まれば手早く出前を手配するのも仕事の一環。二人で食事、続けて風呂も手早くすませる。
「それじゃ、深夜子さん。おやすみなさい」
「うん。朝日君お疲れ様。おやすみ」
挨拶を交わし、それぞれが自分の寝室へと移動する。
朝日は部屋に入って、なだれ込むようにベッドに寝っ転がる。
きっと高級品だろうな、と感じる布団の上で天井の模様を見つめた。視界に入る蛍光灯の光が少し目にしみてしまう。
スッと目を閉じ、深呼吸を一息。頭の中にぼんやりと、ニ日前、矢地とやり取りをした記憶がよみがえる。
『無論、我々も君を元の世界に帰してあげたい。だが、今までの話から推測するに、君の世界と我々の世界の文化や科学水準はほぼ同等と思われるんだ。つまり……その……言いにくいんだが、君が巻きこまれた状況は我々の理解も超えている。最大限の努力をさせてはもらうのだが――』
『わかり……ます。難しいんですよね? 僕が元いた世界に帰ることが……』
『……すまない。現状では困難と言わざるを得ない。その代わりというわけでもないが、男性である君は我々にとって完全な保護対象だ。今後の安全、そして充分な生活環境は間違いなく保証する』
『そう……でしたね、仕方ない。……いや、感謝するべき……ですよね』
『そう言ってくれると助かるよ。君は国際規定文化圏外国人として扱われる。これから一年間は我々の保護下で生活してもらうことになる。その後に帰化。または別の法的手続きが適用され、国民として迎えいれさせて――いや、まだ気にしなくて結構だ。まずはこちらの文化に慣れてくれたまえ』
『ははっ、慣れるって! ……矢地さん。例えば、僕たちの世界で重婚は犯罪ですよ? 他のことだって――はいそうですか、慣れました。なんて思える気がしないですよ』
『神崎君。厳しいことを言うようですまないが、それはお互い様なんだ。こちらからすれば、なんのことはない当たり前の話――だが、君にとっては酷なことなんだろうな……
――現実はなかなかに厳しい。
「面倒見るかわりに……ってことなんだろうなぁ……」
快適な生活環境を提供する代わりに自分の身体を差しだせ。朝日はそう言われた気がしていた。
「ほんと……異世界って言ってもコレは無いよ。どうせなら、ファンタジー世界に転移してチート能力があって無双してハーレムでしょ? 普通のテンプレはさ……」
自嘲気味に朝日はつぶやく。この世界での自分は貴重な男性。
しかし、それだけだ。何か特別な力があるわけでもない。ただの
あまり好きではない自分の容姿がもてはやされるのだけが、わずかな救いであった。
――神崎朝日は特別でも何でもない。普通の高校生なのだ。
世間的な
それと中性的で美しい容姿の二点である。
その容姿もあって、二人の姉に溺愛されていたのだが、
かといって、何かトラブルがあったわけでもない。学校生活も中学生までは普通だった。
環境が変わったのは高校生になってからだ。朝日にとって、高校生活はあまり良い印象がない。
二次性徴後も外見があまり変わなかった朝日。何より、姉たちに溺愛される中性的な容姿の見栄えが
さらに優しくておとなしい性格が災いし、一部の同級生たちから外見をからかわれ、腫れ物的扱いを受けてしまった時、朝日は
人の顔色をうかがい、愛想良く、深入りしない。
そうやって身を守ること心がけた。ゲームをしたり、小説や漫画を読んだり、一人で過ごす時間が多くなる。
そんな微妙な高校生活を送りながら、気がつけば一年が経過して二年生になった。
だからと言って何も変らない。ただ日常が続くだけだった――――五月、とある日の学校の帰り道まで。
その日、交差点で突然飛び出してきたトラックと朝日は鉢合わせた。
そう、異世界転移と言えば皆さんお待ちかねのトラックである。
――それはともかく。
跳ねられた……はずだったのだが、なんとトラックは朝日をすり抜けていった。同時に違和感に包まれる。
いつの間にか交差点ではなく、淡い光に包まれたトンネルの中に立っていたのだ。
当然、自分に身に何が起こったのかは理解できない。それでも引き寄せられるようにフラフラと足は進み、気がつけばトンネルが終わる。
するとそこは色々な機械がところ狭しと置かれている部屋の中であった。
無論、朝日には知るよしも無いが、ここは曙区にある医学研究施設の地下区域。現在、使用されていない一室だ。
自分がどこにいるかなど見当もつかない朝日だが、いつまでも同じ場所にいても仕方ないと考えて歩き始める。
幸いにも建物は複雑な構造ではなく、すぐに上の階段にたどり着き、ひらけたロビーへ出ることができた。
そこには医療関係者と思える人々が行き交っていた。とにかく、人がいることに朝日は安心する。
対して、あわを食ったのはこの施設の職員たちである。
突然どこからともかく貴重な男性が現れた。しかも、非の打ち所が無い容姿の美少年。近くにいた施設の職員たちに軽いパニックが発生した。
あっという間に朝日は女性たちに囲まれた。まるで目がハートマークになっているのかと思えるほどの熱い視線。
だんだんと恐怖を感じ始めたが、勇気を出して一人の女性に道に迷っていることを告げた――。
結果的にではあるが、転移した場所も含めて朝日は非常に運が良かった。
その場所は男性にとって危険の少ない医療関係の施設。話しかけた女性は施設の責任者、事態を収拾し適切な対応をとってくれた。
それから、朝日は男性保護省という聞きなれない施設へ保護されることになったのであった。