男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

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第四十八話 五月雨五月、苦悩する

「んで……どうするつもりだよ? 五月」

 机で頬杖をついている梅が、ジトッとした視線で問いかけてきた。

「そっ、それは――――っ」

 しかし、五月はそれに答えることはできない。下唇を噛んで押し黙る。

 

 それもそのはず。

 

 この世界では、女性が男性を自分の家に泊まるように誘うなど、ありえるものではないのだ。

 例えるなら、蟻に対して『ねえ、ちょっとそこのアリ地獄(性的)によってかない?』と誘っているに等しい行為。

 しかも現状は、男性(あさひ)に無断で決定済み。強制連行とも呼べる状態。

 世間から男性の人権迫害と糾弾されてもおかしくない。

 

(まずいまずいまずい! まずいですわっ!!)

 

 五月は脳が焼き切れんばかりに対応を思索、そして葛藤中だ。

 朝日ならば、あるいは理解してくれるかも……いや、いくらなんでもこれは……。

 とにもかくにも結論が出ない。

 今さら新月(わかつき)に断る道筋も断たれている。まさに八方ふさがりであった。

 

 かたや、そんな五月を見つめる深夜子と梅。

 これは朝日を確実に守る手段を実行した結果。仕方がない(・・・・・)部分があるのは理解できた。

 だんだんと憔悴していく五月に同情も覚える。

 二人は顔を見合わせ、小声で相談をしてから声をかけることにした。

 

「まあな……五月。いっつもお前にばっか手間なことさせてっからよ。たまにゃ――なっ、深夜子!」

「そう。五月(さっきー)、あたしたちが朝日君に説明する」

 

 日ごろ、実務という実務のほとんどを五月が処理している。

 善し悪しはともかく、たまにはこういった役割を二人が請け負うのが、人として正しい道。

 いかに深夜子(アホ)(ばか)でも、さすがに察してしかるべきである。

 

「ええっ!? や、大和さん! 深夜子さん!」

 

 その発言に驚いた五月。

 カバッと顔を上げ、喜びの表情を浮かべながら二人へと顔を向け――――たのだが……。

 表情がゆるやかに、喜びから平坦へと変わってゆく。

 

 ――深夜子を見つめる。

(対話、交渉スキルゼロの半コミュ障……)

 ――梅を見つめる。

(脳筋、まごうことなき脳筋(ばか)……)

 

「「「………………」」」

 

 しばしの沈黙。

 暗く視線を落とした五月が、重々しく口を開いた。

 

「…………あっ、はい……よろしく……お願い……しますわ……」

「おいてめえ! 今、ものっすげえ失礼なこと考えただろ!?」

「よくわからないけど訴訟も辞さない」

 

 ――とにかく任せておけ!

 不安げな五月をよそに、深夜子と梅は、彼女らなりの対応を真剣に話し合いはじめた。

 それを見て、五月は少し面映ゆい気分になる。

(ふふっ、あのお二方が頭を使われるなんて……ありがたい話……ですわね)

 声には出さず、心の中で深夜子たちへ感謝の言葉を口にした。

 

 さあ、チーム結成後初と言っても過言ではない。深夜子たちが頭をひねって出した説明方法とは――。

 

「よし決まりだぜ! やっぱ、こんなときにゃあ小細工無しでストレート(ぶっちゃける)が一番ってな!」

「さすが梅ちゃん。さす梅! ならば、朝日君の待つリビングまで、走れ正直者!」

「いやあああああああっ!」

 

 ――残念。そんなものである。

 

◇◆◇

 

 それから経過すること十五分。

 

「あのさぁ……僕が聞いているのって、そこじゃないよね」

 

 滅多に聞くことのない、朝日の冷たい声が部屋に響いていた。

 

「ちょっと、聞いてるのみんな!?」

「「「ひいいいいっ!!」」」

 

 ただいま、五月も含めて三人揃って土下座中だ。

 正面に仁王立ちする朝日。笑ってはいるが、目は全然、まったく、笑っていない。

 

 ここで、話がこじれる原因となった二人が、朝日を宥めようと努力はするも――。

 

「だからよ朝日。その……五月にも悪気があったわけ――」

「梅ちゃんは黙ってて!」

「ひいっ」

 その剣幕にびびってしまう梅。

 

「あ、朝日君。お、落ち着いて――」

「深夜子さんも黙ってて!」

「ありがとうございます」

 ご褒美になっている深夜子。

 

 ――朝日が二人の間をつかつかと進む。そこには、真っ青な顔面を脂汗まみれにして震えている五月がいた。

 

「で、五月さん! どうして黙ってたんですか?」

「あひいぃっ、あっ、あああ朝日様。お許しを……お許しを……」

 

 床につっぷして、ただひたすらに許しを請う五月。

 それを見た朝日は、話がすれ違いになっているのを察して困り顔。

 

「もう、五月さん。だから、さっきから言ってるじゃないですか。僕は謝って欲しいなんて言ってないんです!」

「あ゛あ゛あ゛――すびばぜん……どうか、お情けを……お情けを……」

 

 やはり話が通じていない。朝日はほとほと参ってしまう。

 これはどうしたらよいものか……。

 

 先ほどから、朝日が問いただしている『黙っていたこと』とは、『五月の母、新月に海土路造船との交渉依頼をしたこと』だ。

 無論、五月の実家にお泊まりする事を怒っているのではない。

 自分が原因で、五月の母親に手間をかけさせてしまったこと。

 それを知らなかった、いや、知らされなかった事実に怒っているのだ。

 朝日にしてみれば、五月雨家に御礼訪問するのはなんら不思議でもない。

 むしろ、そうするべきだと思っている。日本男児は礼儀正しくあるべきなのだ!

 

 一方、そんなことを朝日が考えているなど知るよしもない五月たち。

 強制お泊まりになっちゃいました。と聞いて、朝日が怒ったと思っている。

 それは会話が噛み合うわけもない。

 

 以後、ひたすらすれ違いが続くこと十数分。

 あわれ五月の精神耐久力は限界を迎えてしまう。

 

「ふふっ、ふふふ……うふふふふ……朝日様……五月はもう、すっかり疲れ切ってしまいましたわ。ああ、五月は……五月は、朝日様のそばで暮らしとうございました」

 

 死んだ魚のような目になった五月。

 突然、そうつぶやくと同時に、テーブルの果物ナイフへと手を伸ばす。

 ポロポロと涙を流しながら、穏やかな笑顔を朝日に向け、その切っ先を自分の喉元へと――――!?

 

「ちょっとおおおおお!? 深夜子さん! 梅ちゃん! さっ、五月さんがまた勘違いしてるぅーーーっ!!」

「ぬわあーーっ、五月(さっきー)ご乱心!」

「うぉぉい五月ぃ! さすがにシャレになんねえぞ、てめえ!」

「は、離してぇ! もうっ、もうっ、五月は死んでお詫びをするしかありませんの! 朝日様ッ! どうかこれで五月を許してくださいませーーーっ!」

「だから五月さんやめてえーーーっ!!」

 

 ちょっと重たい系女子から、とても重たい系女子へと進化中の五月であった。

 その後、三人がかりでの説得と説明が続くこと三十分。

 とりあえず全員の意思疎通は完了した。

 

◇◆◇

 

 ――数日後。出発当日の朝がやってくる。

 

 五月雨家からの迎えは、午後四時到着の予定となっていた。

 現在、時間五分前。玄関にお泊まり用荷物は準備完了だ。

 ちょうどそこに迎えの車が到着する。車種は日本基準で言う超高級車リンカーン。

 ちなみにお値段五千万円。

 

 玄関横の駐車場に停車するリンカーン。

 その運手席から出てきたのは、黒の高級スーツに身を包み、紫柄のネクタイをしめた身長175センチほどの女性。

 少し細めながらモデル並みのスタイル。歩く姿もさまになっている。

 朝日の送迎役。五月雨ホールディングス社長秘書室長『播古田(ばんこだ)蘭子(らんこ)』三十歳である。

 

「こうしてお会いするのは……四年ぶりでしょうか? 五月お嬢様。おかわりなく――いえ。より、お美しくなられましたね」

 

 五月の前まで来ると、サングラスを外して一礼。

 オールバックの髪型だが、腰まである美しい漆黒のロングストレートヘア。

 少しアイシャドウがきつめで、鋭くも凛々しい切れ長の目。

 五月のそばにいた朝日。蘭子を見て、宝塚の男役トップスターを思い浮かべる。

 五月と方向性は違うが、今まで出会った女性の中でもトップクラスの美形だ。

 

「ええ、お久しぶりね。蘭子さん」

「んだぁ? また気障(きざ)なヤロウがきやがったな」

 蘭子の態度が気に入らなかったのか、梅が近づいてきて悪態をつく。

「ふふっ、これはこれは、中々に元気なお嬢さんだ」

 しかし蘭子は、余裕を持ってそれを軽く受け流す。

 バチっと視線がぶつかり合い、しばしの沈黙。しかし、お互いそれ以上何を言うわけでもない。

「……ふん。なるほどな」

 ぼそりとつぶやいた梅は、(きびす)を返して五月へ耳打ちをする。

 

(おい、五月)

(はい、なんですの?)

(あいつ、相当やるだろ?)

(あら? さすがですわね。蘭子さんはお母様の秘書室長ですけれど、兼任で護衛部隊の隊長でもありますわ)

(ふーん、やっぱりそうかよ。一度手合わせしてみてえな……まっ、とりあえず荷物積んどくぜ)

 

 梅は蘭子を一瞥(いちべつ)すると、車のトランクへ荷物の積み込みをはじめた。

 対して蘭子は朝日の前へ、丁寧に一礼をする。

 

「神崎朝日様、初めてお目にかかります。本日、お迎えに上がりました五月雨ホールディングス社長秘書室長播古田蘭子と申します。僭越ながら道中、神崎様の護衛も勤めさせていただきます。何なりとお申し付けくださいませ」

「あっ、はい。か、神崎朝日です。えと、今日はよろしくお願いします」

 

 一分の隙もなく、流れるように美しい所作を見せる蘭子。

 その華麗さに圧倒され、朝日は緊張ぎみに挨拶を返す。

 かたや、間近で朝日を見た蘭子の動きが止まる。少し間をおいて、軽くため息をこぼした。

 

「ふぅ……なるほどお噂通り。いや、それ以上にお美しい。この私ですら(・・・)心を奪われんかと思うほどの美貌。貴方を五月雨家までご案内できること、心より光栄に思います」

 朝日の前で膝まづき、なんとも歯の浮くようなセリフ。

 ――のみならず。当たり前のように朝日の左手を取って甲にキスをした。

「えっ!?」

 宝塚っぽい人だけど、まさか行動までもと驚く朝日。

 むしろ堂に入った一連の動作に感心すら覚える。

 

 ――がっ!

 

「んなああああっ!? ちょ、ちょっと待ったああああっ!」

 

 当然、そうはいかない深夜子が即座に朝日の左手をかばう。

 

「これはセクハラで立件もの! 朝日君、大丈夫? あっ、あとでそこあたしが舐めて消毒してあげる」

「それ貴女が立件ものですわよねっ!?」

 

 深夜子が朝日を隠すようにして、蘭子の前に立ちはだかる。

 さらに、猛禽類のような目をより鋭くして威嚇もする。

「フッ……」

 が、なんと蘭子はそんな深夜子の視線にもまったく動じない。

 どころか、つかつかと深夜子に近寄って、クイッと顎に指をかけて顔を近づけた。

 

「うええええええっ!?」

「フフッ……なんとも気の強いツバメちゃんだね。それに、君のその力強い目つき……私の好みだよ! 君、歳はいくつだい?」

「んななななななな? ちょっ、ちょちょ、さ、五月(さっきー)……まさか、この人?」

 播古田蘭子三十歳、モノホンのガチ百合である。

「はぁ……蘭子さん! お戯れはそのくらいで」

「これは失礼しました。深夜子さん……と言ったね。五月雨家にお泊まりの間、私でよろしければ何時でもお相手しますよ」

 深夜子にウィンクしながら、蘭子がチラリと舌をのぞかせる。

 

「ンノオオオオオオッ!!」

 

 ――まさかの展開。ターゲットとなった深夜子の悲鳴が朝日家の玄関に響いた。

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