男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

52 / 100
第四十九話 五月雨家へようこそ!

 朝日たちが住む曙区の西側に隣接する武蔵区。

 多数の大企業が集まり、日本の品川区を思わす都市である。

 中心部近くの居住区には高層マンションなどが多数あり、富裕層がひしめいている。

 しかし、その中でも真の大金持ちと呼ぶべき者達は、中心部ではなく郊外に居を構えている。

 無論、五月雨家も例外ではない。

 

 武蔵区の中心部を通過してから数十分。

 

 武蔵区郊外。敷地の外壁と呼ぶには立派すぎる壁が見えはじめた。

「この壁から向こう側が五月雨家の敷地ですわ。玄関口までもう少しですわね」

 五月がそう言ってから、経過することすでに五分。

「おい、五月。いったいどこにその玄関ってのがあんだよ? てか、広すぎだろこれ」

「えっ、そうですの? このあたりではこれが普通(・・)でしてよ」

「「「へえー」」」

 あっ、普通ですか、そうですか。朝日ら三人そろって返す言葉もない。

 

 それからしばらく。

 映画でしか見たことのない、やたら大きくて、やたら豪勢な造りの門を、車に乗ったままくぐりぬける。

 車道の周りは一面の芝生。手入れされた樹木がほどよく並び、噴水広場まで完備されていた。

 さらに車で数分ほど進むと、朝日の目に中世のお城と見まがう白壁造りの巨大な建物が飛び込んできた。

 側にいる梅と深夜子も、まさに開いた口がふさがらない様子。

 

「うおっ……くっそでけえ家だな。深夜子ん()も寺みてえで、大概でけえと思ったけど……こりゃスケールが違うな」

「梅ちゃん。うちは道場だし、方向性違うし」

「大和さん。こちらはお客様用(・・・・)の別館ですわ。本邸はもう五分ほど進んだ先でしてよ」

「おい、何言ってるかさっぱりわかんねぇぞ?」

 うんうん。朝日も無言で梅に同意する。

「それに、そもそも朝日様をこのような粗末な場所(・・・・・)に泊まらせるわけには参りませんわ」

「そ、粗末なんだ」

 もう、苦笑いで相づちを打つのが精一杯。

「けっ、これだから金持ちは――つっても、まあ……なっ深夜子!」

「梅ちゃん。まさに!」

 

「「おいしいご飯が出ればオッケー!」」

 深夜子と梅、二人して五月へ向けてサムズアップ。

「だ、か、ら、貴女方にはそれしか判断材料がありませんのーーっ!?」

 

◇◆◇

 

 車は五月雨家本邸へと到着。

 先ほどの別館に比べて大きさは三倍以上、どうなってるのこれ? 朝日は呆然と館を見つめる。

 

「ささ、朝日様。参りましょう。深夜子さんたちもこちらへ」

 

 五月に促され、恐る恐る屋敷内へ足を踏み入れると……。

 

「うわぁ……」「うえぇ……」「うへぇ……」

 

 大都会の超高級ホテルと言っても違和感のない玄関ホール。

 その内装から家具、調度品、果ては家電製品まで、男性福祉で充実している朝日家ですら、比較にならない高級品ばかりなのがはっきりわかる。

 オマケに、待機しているメイドが五名。

 まさかリアルで「お帰りなさいませ。お嬢様」を聞くことになろうとは……。

 朝日を筆頭に、ぶっちゃけ全員ドン引きレベルのお金持ち具合。

 話に聞くのと見るのでは大違いであった。

 

 次に通されたのは、これまた無駄に広くて豪華な客間。

 絵画からツボまで、ずらりと並ぶ定番美術品の数々。

 ふわっふわでふかっふかなソファーに、朝日は落ちつかない。

 深夜子と梅はもの珍らしさからか、やたら部屋をうろうろとしている。

 

 ――待つこと数分。

 メイドたちの手によって、奥側の扉が開かれた。

 

「いらっしゃーい。まってたわー」

 

 のほほんとした口調の可愛らしい声。

 パタパタと身長160センチに満たない小柄な女性が入ってきた。

 

 ひと目でわかるゴスロリファッション。

 その姿に、朝日たちは目をみはる。

 

 スカート部分は黒、首もとから胸にかけて白を基調としたゴシックドレスに黒のボレロ。

 全身あちこちに十字架や蝙蝠を模したアクセサリー。

 そして、これまた黒と白で、ふんだんにフリルの施されたヘッドドレスが、ウェーブがかった茶髪のツインテールを引き立てる。

 

 そう、御年四十四にして五月の母。優しげな顔に、右目の泣き黒子が印象的な美魔女。

 国内有数の大企業『五月雨ホールディングス代表取締役CEO五月雨(さみだれ)新月(わかつき)』である。

 見た目は三十代前半で通用するからギリギリセーフ!

 

「お母様ーーっ!? なっ、ななな、なんて格好をされているのですかっ! 少しはご自分の年齢を考えてくださいませぇーーっ!!」

 

 残念、五月的にアウトだったらしい。

 数年ぶりの母娘対面と聞いていたのだが、顔を真っ赤にして衣装にクレームをつけている。

 

「んもー、五月ちゃんてばー、せっかくー久しぶりにあったのにー。これはーママの最近お気に入りの服なんですー。それにー今日は愛しの朝日ちゃ――」

「よ、け、い、にアウトですわーーっ! ……ハッ、あ、朝日様? 違っ、これは何かの間違いですわ!」

「えーと、五月(さっきー)ママなんかすごい」

「金持ちってヤツはよくわかんねぇな。つか、なんで家の中で日傘をさしてんだ?」

「いやあああああああ!」

 

 梅と深夜子の口からは、ストレートな感想が漏れている。

 混乱気味の五月は、新月の姿をかばうように隠しつつ、必死に言い訳をする。

 その賑やかさに、朝日が一歩退いて様子をうかがっていると、新月と目があった。

 ニッコリと笑顔をつくった新月が、五月の側をするりと抜けてくる。

 

「んまー、まーまーまー。朝日ちゃーん! 会いたかったわー。ふわあー、写真よりもーすっごい、すっごーい可愛いのねー! ワタシびっくりしちゃったわー」

 新月が手を取って、ぎゅっと握りしめてくる。

 さらに握った手をぐいっと引いて、やたら距離を詰めてきた。

 自分の母親とそんなに歳は変わらないはずだが、その若々しさと、五月そっくりの美しさに朝日は少し照れてしまう。

「あっ、はい。あの……は、初めまして、神崎朝日……です」

 ちょっとギクシャクした挨拶になってしまった。

 

「あらあらー、緊張しなくても大丈夫ですよー。うふふー」

 とても嬉しそうな新月に頭を撫でられる。

 肉食系女子ばかりのこの世界ではレアな対応。朝日は母のことを思い出し、照れくさくも少し嬉しい気持ちになった。

「ちょっ、ちょっとお母様っ、いきなり朝日様に何をされてますのっ!?」

 ここで五月が新月を制止にかかる。

 しかし、その瞬間。さらりと朝日から離れて五月をかわし、イタズラっぽい笑顔を向けてきた。

 そして――。

 

「うふ! 知ってるわよー。朝日ちゃんてばー、すっごい遠い国(・・・)から来てー、迷子(・・)になっちゃたのよねー。可哀想ー、いいのよーワタシのことをママと思ってもー」

「えっ!?」

「おっ、お母様、何をっ」

 

 深夜子と梅もピクリと反応する。『遠い国』『迷子』のキーワード。

 どうやら新月は、朝日についての情報を全て入手しているようだ。

 五月は冷静さを取り戻す。

 そもそも情報収集において、世界のトップに君臨する母である。

 よからぬことを企んでいなければ……。

 

「でも、五月さんのお母さんって、すっごく若々しいですよね。とっても綺麗だし。僕、最初は五月さんのお姉さんかと思っちゃいました」

 

 おっと、ここで朝日のターン。五月の警戒もよそに、天然女殺しの面目躍如だ。

 自ら新月の手を取り直して、今回のお礼が遅れたことを謝りはじめた。

 これにはさすがの新月も面を食らい、年甲斐もなく顔を真っ赤にしてあたふたしている。

 

 さすがは(わたくし)の朝日様。

 こちらのペースに引きずり込める、と五月はほくそ笑む。

 

「ふっ、ふっ、ふえーーーっ!? あっ、あの、朝日ちゃん? そっ、そんなー、ちょっとーそんなこと言われちゃうとーワタシ困っちゃうわー。もー、こっ、これー養子縁組(・・・・)の書類だからー。ちょーとここにサインを――」

「お母様ああああああああっ!?」

 

 が、油断も隙もない。さすがの新月(マイマザー)であった。

 

◇◆◇

 

 夕方出発だったこともあり、時間はすでに午後六時を回っている。

 本日はすぐにディナーとなった。

 もはや語る必要もないゴージャスなダイニングルームにて、新月と食事をともにする。

 終始なごやかな雰囲気で時間は進み。朝日たちは食後のデザート、新月と五月は軽く酒を嗜み談笑する。

 と、そこで――。

 

「あっ、そうそうー朝日ちゃん。うちの五月ちゃんのー、お婿さんにはーいつなってくれるのかなー?」

「おっ、お婿さん!?」

「ぶばっはあああああっ! おかっ、お母様っ!? んなななな何を突然!?」

「おいおい、いきなりとんでもねえこと口走ってんじゃないぜ?」

「そう、朝日君は特殊保護男性。そんなのまだ早い」

 

 突発的にぶちこまれた新月の爆弾発言。

 無論、五月を筆頭にMaps三人は食ってかかる。

 通常の男性であれば禁句に近いテーマだ。

 それこそ精神的苦痛を受けたと、五月が訴えられてもおかしくない話題。

 

「あらあらー、もーみんなお子ちゃまねー。うふふ、それにー朝日ちゃんだってー。そろそろ、先のこと(・・・・)もー考えていいころじゃないかしらー?」

 

 しかし、そこは新月。うまく自分のペースに巻き込んで行く。

 五月たちを手玉に取りつつ、朝日に対しても揺さぶりをかける。

 

「え? あっ……僕は……その……」

「朝日様、お気になさらないでくださいませ。ごめんなさい……お母様ったら、少し空気が読めないもので……」

「そうかしらー。でも、ごめんなさいねー。ワタシったらー、ついつい余計なお世話さんをーしちゃいましたー。さ、ともかくーみんなでくつろいでー、ゆっーくり休んでねー」

 

 そこから話題は変わり、五月雨家の話などでしばしの歓談。

 食事が終わり、全員が風呂を済ませたころ、時間は午後十時を過ぎ、寝室に案内する流れとなった。

 新月が五月に、部屋の鍵を渡しながら声をかける。

 

「あらー、五月ちゃん。今日はお疲れなのねー」

「だいたいお母様のせいですわっ!」

「あららー。でもー、ママは五月ちゃんのこと応援してる(・・・・・)からー、色々頑張ってねー」

「はぁ……お願いですから、もう大人しくしてくださいませ……」

 

 かなりお疲れの五月。とは言え実家で弱音を吐くわけにもいかない。

 気を取り直して、朝日たちを寝室へと案内する。

 

「お客様向けの寝室は三階から五階ですわ。ええと、(わたくし)と朝日様は三階で、深夜子さんたちは四階ですわね。こちらのカードキーを使ってくださいませ」

「ホテルかよっ!?」

「いえ、大和さん。もちろん春日湊の最高級ホテル以上ですわ!」

「へいへい……なんかすげえわ、お前ん()

 梅ががっくりとうなだれつつ、キーを受け取る。

「あっ、そだ朝日君。今日はクリーチャーハンターする?」

 こちらはマイペースな深夜子。どこに来てもやることは変わらないらしい。

「うん……あっ、まだ装備作ってないや。んー、できたら下の広間に行くね」

「らじゃ」

「お二人とも、あまりゲームで夜更かしはお控えくださいませ」

「「はーい」」

 

 階段の踊り場でキーを渡して説明を終え、一旦それぞれの寝室へ荷物を置きに別れることにする。

 五月は朝日といっしょに三階へ。

 

「あっ、僕と五月さんの寝室、隣同士なんだね」

 

 二人の寝室は一番奥にある隣合わせ(・・・・)の部屋になっていた。

 

(ふう……そうきましたか。まあ……お母様の考えそうなことですわ……殿方と寝室を隣にするとか……。しかし、朝日様との生活に慣れている(わたくし)にとっては――ふふ、甘いですわね、お母様)

 

 そう、朝日との甘い生活は、一般の男性警護とは比べ物にならない誘惑の数々である。

 それに慣れている五月にとっては些事でしかない。

 さして気にも止めず、朝日と挨拶をかわしてドアにキーをかざす。

 

「ええ、そのようですわね。それでは朝日様、後ほど」

「うん、五月さん。また後で」

 

 五月は部屋に入って電気をつける。

(んっ!?)

 瞬間、何か違和感を覚えた。――そう、部屋が広く感じるのだ。

 五月にとって入って右側は、朝日の部屋があるから壁のはず。

 

 これは? 空間。人の気配?

 おかしい。五月が違和感を覚える壁があるべき方向を見ると……。

 

「あれ!? 五月……さん?」

「あ、朝日様ッ! ……はいいっ!?」

 

 そこには別れたばかりの朝日の姿。

 そう! 入り口は違うが、一部屋(・・・)になっている。つまり、五月と朝日は今、同じ寝室(・・・・)にいるのだ。

 

「ちょっと、これは……ハッ、まさかっ!?」

 

 嫌な予感が五月の頭をよぎった。

 

 「――――っ!!」

 

 そのまさか、二人の後ろで静かにドアが閉じ、同時にカチャリと音がする。

 まずい!!

 五月が急ぎドアノブに手をかけるも、時すでに遅し。

 オートロック! 朝日側五月側、ともにドアは内側から開けることが出来なくなっていた。

 

「やっ、やっ、やってくれましたわねえええええッ! お母様ああああああッ!!」

 

 どうする五月!!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。