男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です! 作:takker
五月に続いて、朝日もドアノブへと手をかける。
「あっ、こっちも開かない……完全に閉じ込められた? さ、五月さん――」
「大丈夫! 朝日様、大丈夫ですわっ!!」
五月は不安そうに驚く朝日に駆け寄って肩を掴む。
「今、朝日様のおそばにいるのは五月です。何も、何も心配なさる必要はごさいませんわ」
最初は力強く、そしてゆるやかに。朝日が動揺しないように語りかける。
五月は思案する。
とにかくこの状態は非常によろしくない。
普通の独身男性からすれば、空腹の猛獣がいる檻に閉じ込められたに等しい状況。
軽く見積もっても(性的)死刑宣告。
万が一にも、朝日が『い、嫌っ! 来ないで! ぼっ、僕に何するつもり? た、助けてっ、誰か助けてーーっ!!』などと怯えようものなら、五月的に生きる気力を失なっちゃうクラスのダメージ確定だ。
――などと戦々恐々とする五月に対して、朝日の頭の中は『もう、五月さんのお母さんはイタズラ好きなんだなあ……』と、のほほんとしたものである。
「……朝日様。
真剣な表情で朝日を見つめる五月。脱出へ向けて動きはじめる。
「えっ? あ、はい。わかりました」
朝日を後ろに下がらせ、五月は扉の前に立ち、足を開きながら両手を上げ、中段の構えをとる。
現在ピンクのワンピース丈パジャマシャツと、同色のショートパンツ姿。
せっかく朝日に凛々しい姿をアピールできるチャンスなのに、アンバランスな格好なのが口惜しい。
しかし、それと格闘技の腕前は別物。
深夜子と梅の基準がおかしいだけで、五月もそれなりに自信があるのだ。
――スッと息を吸い込み、少し腰をかがめて脚に力を込める。
「せあっ!!」
掛け声に合わせ、しなるように連続蹴りを
ところが、響いたのは
五月は華麗に扉を蹴破ろうとしたつもりだったのだが――。
「つうっ! か、硬いっ!? こっ、この扉……一体何で出来てますの?」
――びくともしていなかった。
残念ながら、
木製に見えるこの扉。実際の材質は頑丈な特殊合金製となっている。
壁に繋がる
仮に車が衝突しても無傷という安心設計のシロモノだ。
扉を確認してその事実に気づき、五月は歯噛みする。
「くううっ……お母様。無駄に手抜かりのない……」
「ちょっと、五月さん。足、大丈夫ですか?」
「ああっ! 朝日様! こんな状態でも
「あの……五月さん?」
「ハッ!? こ、こほん……失礼しましたわ。そ、そうですわね……これでは仕方ありませんわ。まずは部屋の中を調べることに致しましょう」
危うく朝日への愛が暴走しかけたが、踏みとどまって冷静に考えを巡らせる。
こうなればもう焦っても仕方がない。
部屋の状態を調べ、脱出の糸口を見つけるべきだと五月は頭を切り替えた。
「さて……」
ざっと部屋を見渡す。
まずは、本来朝日の部屋である右側。……液晶テレビにテーブル、ソファー。それから奥にベットが備え付けてある。
しかも、ご丁寧にダブルサイズがひとつのみときた。
(本当に
つい天井を見上げ、呆れ惚ける。
そこに、ベッドの上へと乗っかった朝日から声がかかった。
「ふふっ、ねえ五月さんこの枕。表裏にハートマークつきでYESって書いてありますよ。変な柄ですね」
まあ、何か知ってますけど。的な笑顔の朝日である。楽しそうですね。
「ほっ、ほあああっ!? おほ、オホホホホ……そ、そうですわね。せ、センス悪い柄ですわね! な、なんなのでしょう? さっ、五月にはさっぱり解りませんわ……さっ、さあ、朝日様! ベッドはもうよろしいですわ。ほかを、是非ほかを当たりましょう」
おのれ!
明日、絶対に一発殴ると心に誓いながら、今度は五月の入ってきた左側を見渡す。
こちらは奥半分が壁で仕切られ、もう一つ部屋が作ってあった。
「中途半端に部屋を仕切ってもう一部屋?」
また怪しげな……つい、対応に悩んでしまう五月。
「……あっ、朝日様!?」
だが、朝日がさらりと扉を開けてしまう。
「洗面所? ……それにトイレに……あっ、ここお風呂ですよ」
「はいいっ!?」
これは嫌な予感しかしない。
「わあっ、五月さん。このお風呂すごく広いですよ。あれ? なんだろこの大きいイカダみたいな……銀のエアマット? ねえ、五月さんこれって……」
多分アレですよね。的な笑顔の朝日である。とても、楽しそうですね。
「ちょっと……まさか」
嫌な予感どころではない。五月は表情がだんだんとこわばっていく。
対照的に朝日は興味しんしん。大人二人が乗れるであろうサイズの銀イカダを見てニヤケ顔。さらに……。
「ん? ……イカダの横に何か置いてある。これ? えっと……ピピローショ――」
「いけませんわああああああっ!!」
ヌルヌルしちゃう何かを発見してしまった朝日を、五月は背後から担ぎ上げる。
風呂場から猛ダッシュで退散したのち、(五月が)再調査。
やはりと言うか、おのれバカ親と言うか、大人用グッズが大量発見された。
当然ながら風呂場は封印である。
「ねえねえ、五月さん。……さっきのお風呂って?」
「な、ん、で、も、ありませんわっ! 朝日様にはまっっったく関係無い物ですのっ! よ、ろ、し、い、ですわね!!」
「あ、はい」
ちょっぴり残念そうな朝日を、五月は勢いで押しきる。
が、内心はヒヤヒヤものだ。今さらながら、よくわかる通常男性と朝日の違い。
この状況で、この積極性。
一瞬の油断が
「朝日様……ともかく、残りのチェックは
どう考えても、この部屋には(性的に)ろくな物が無いことが確定した。
そして、おおよそ新月の狙いは読めた。
朝日と既成事実を作らせ、金と権力にものを言わせて何とかするつもりなのだろう。
ふざけた話だ。
そんなもの、この五月雨五月のプライドが許さない。
何よりも朝日に、この世界で孤独にも頑張っている。心優しく健気な美少年を汚すようなマネ――許されるはずがない!
五月は朝日に、おとなしくしているよう少し遠回しにお願いする。
「あっ、ごめんなさい……僕、ちょっとはしゃぎすぎましたね……」
「ああっ、そんな顔をなさらないでくださいませ。大丈夫ですわ。何も心配することはありませんわ。朝日様が悪いことなど、何一つごさいませんもの! と、言いますか……
「あはは……まあ、五月さん穏便に」
「あっ、こ、こほん……失礼しましたわ。ささ、朝日様はテレビでも見て、くつろいでお待ちくださいませ」
気を取り直して五月は、ベッドの向かい正面に設置してある80インチ大型液晶テレビの電源を入れた。
『んあっ……は……んっ、素敵ッ! ……もっと、もっと動いてっ……あっ……いいっ!!』
「「!?」」
そこで大画面に映し出されたのは、CGムービーによる男女の営み。
しかも、全チャンネルにセットしてある万全の充実ぶり!
余談だが、この世界にセクシー
よって、CGによる分野発展がなされている。なるほど実に興味深い。
「「あ………………」」
「なりませんわあああああああああっ!!」
アカン! 五月は覆いかぶさるように抱きついて、朝日の視界を塞ぐ。
同時にマッハでリモコンを操作して、電源をオフに。
(あのバカ親殺す! 明日、絶対にぶっ殺して差し上げますわっ!!)
五月は焦りに息を切らせ、ついでに殺意を漏らす。
「ふがっ、ふぁ……ふぁつきふぁん……ふぉの」
が、何やら声が聞こえる。自分の胸の下でぞもぞとしている温かい感触が……あっ!
「しっ、しっ、失礼しましたわーーっ、朝日様ーーっ!!」
己の胸で視界どころか、朝日の顔をまるごと塞いでいた五月であった。
弾け飛ぶように、その場から離脱する。
「はぁ……はぁ……、も、申し訳ありませんでしたわ。と……とりあえずは落ち着きましょう。とにかく落ち着きましょう。何よりもまず落ち着きましょう」
「あー、うん。僕は大丈夫だけど、その、五月さんこそ……大丈夫ですか? あっ、そうだ! のど渇いてませんか? 冷蔵庫にいっぱい飲み物が入ってたんで! ほら、いっしょに飲みましょうよ」
気をつかってか、朝日が冷蔵庫から
「まあ、なんてお優しいお気遣い! 是非いただきますわ」
ここは、とりあえず一旦仕切り直そう。
五月は朝日と隣り合ってベッドに腰掛け、ビンの蓋をねじって開ける。
炭酸の音に乗せて、ぶどうの良い香りがふわっと漂う。かなり上質なモノだ。
「うわっ、このぶどうの炭酸ジュースおいしい!」
一口飲んだ朝日が声をあげた。
どうやら好みの味だったらしく、勢いよく飲みはじめる。
ひとまずセーフ。
ご機嫌になった朝日に、五月も一安心。
同じくジュースに口をつける。
(あら? これは……)
この味は、自分が
「ふふっ、あらあら朝日様ったら、これはぶどうジュースではなくて
あらあら? じゃないですよこれは!?
強烈な悪寒と己へのツッコミと同時に、脳裏にある記憶が浮かぶ。
不覚にも酔いつぶれてしまった
深夜子と梅から、翌日に聞かされた朝日飲酒事件(※第三十二、三十三話参照)の顛末。
そう、朝日家に禁酒令が施行される原因となったアレである。
「あ……」
一気に五月の顔から血の気が引いていく!
首が折れんばかりの速度で朝日の方を向くも、すでに手遅れ。
朝日はハーフボトル(375ミリリットル)のほとんどを飲み干していた。
「あ、あああああ朝日……様……!?」
五月。これはもしかしなくても大ピンチ!!