男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

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第五十話 五月雨五月は頑張ります!

 五月に続いて、朝日もドアノブへと手をかける。

 

「あっ、こっちも開かない……完全に閉じ込められた? さ、五月さん――」

「大丈夫! 朝日様、大丈夫ですわっ!!」

 五月は不安そうに驚く朝日に駆け寄って肩を掴む。

「今、朝日様のおそばにいるのは五月です。何も、何も心配なさる必要はごさいませんわ」

 

 最初は力強く、そしてゆるやかに。朝日が動揺しないように語りかける。

 

 五月は思案する。

 とにかくこの状態は非常によろしくない。

 普通の独身男性からすれば、空腹の猛獣がいる檻に閉じ込められたに等しい状況。

 軽く見積もっても(性的)死刑宣告。

 万が一にも、朝日が『い、嫌っ! 来ないで! ぼっ、僕に何するつもり? た、助けてっ、誰か助けてーーっ!!』などと怯えようものなら、五月的に生きる気力を失なっちゃうクラスのダメージ確定だ。

 

 ――などと戦々恐々とする五月に対して、朝日の頭の中は『もう、五月さんのお母さんはイタズラ好きなんだなあ……』と、のほほんとしたものである。

 

「……朝日様。(わたくし)から少しだけお離れになってくださいませ」

 真剣な表情で朝日を見つめる五月。脱出へ向けて動きはじめる。

「えっ? あ、はい。わかりました」

 

 朝日を後ろに下がらせ、五月は扉の前に立ち、足を開きながら両手を上げ、中段の構えをとる。

 現在ピンクのワンピース丈パジャマシャツと、同色のショートパンツ姿。

 せっかく朝日に凛々しい姿をアピールできるチャンスなのに、アンバランスな格好なのが口惜しい。

 しかし、それと格闘技の腕前は別物。

 深夜子と梅の基準がおかしいだけで、五月もそれなりに自信があるのだ。

 

 ――スッと息を吸い込み、少し腰をかがめて脚に力を込める。

 

「せあっ!!」

 

 掛け声に合わせ、しなるように連続蹴りを木製に見える(・・・・・・)扉にお見舞いする。

 ところが、響いたのは鈍い金属音(・・・・・)。蹴り足に強烈な反動が返ってきた。

 五月は華麗に扉を蹴破ろうとしたつもりだったのだが――。

 

「つうっ! か、硬いっ!? こっ、この扉……一体何で出来てますの?」

 

 ――びくともしていなかった。

 

 残念ながら、新月(わかつき)にぬかりなし。

 木製に見えるこの扉。実際の材質は頑丈な特殊合金製となっている。

 壁に繋がる蝶番(ちょうつがい)も同材質で、備え付けバッチリ!

 仮に車が衝突しても無傷という安心設計のシロモノだ。

 扉を確認してその事実に気づき、五月は歯噛みする。

 

「くううっ……お母様。無駄に手抜かりのない……」

「ちょっと、五月さん。足、大丈夫ですか?」

「ああっ! 朝日様! こんな状態でも(わたくし)のことを心配してくださるのですね。なんとお優しい、五月は幸せ者――」

「あの……五月さん?」

「ハッ!? こ、こほん……失礼しましたわ。そ、そうですわね……これでは仕方ありませんわ。まずは部屋の中を調べることに致しましょう」

 

 危うく朝日への愛が暴走しかけたが、踏みとどまって冷静に考えを巡らせる。

 こうなればもう焦っても仕方がない。

 部屋の状態を調べ、脱出の糸口を見つけるべきだと五月は頭を切り替えた。

 

「さて……」

 

 ざっと部屋を見渡す。

 まずは、本来朝日の部屋である右側。……液晶テレビにテーブル、ソファー。それから奥にベットが備え付けてある。

 しかも、ご丁寧にダブルサイズがひとつのみときた。

 

(本当にお母様(あのバカ親)は何を考えてますの……)

 

 つい天井を見上げ、呆れ惚ける。

 そこに、ベッドの上へと乗っかった朝日から声がかかった。

 

「ふふっ、ねえ五月さんこの枕。表裏にハートマークつきでYESって書いてありますよ。変な柄ですね」

 まあ、何か知ってますけど。的な笑顔の朝日である。楽しそうですね。

「ほっ、ほあああっ!? おほ、オホホホホ……そ、そうですわね。せ、センス悪い柄ですわね! な、なんなのでしょう? さっ、五月にはさっぱり解りませんわ……さっ、さあ、朝日様! ベッドはもうよろしいですわ。ほかを、是非ほかを当たりましょう」

 

 おのれ! あのバカ親(お母様)

 明日、絶対に一発殴ると心に誓いながら、今度は五月の入ってきた左側を見渡す。

 こちらは奥半分が壁で仕切られ、もう一つ部屋が作ってあった。

 

「中途半端に部屋を仕切ってもう一部屋?」

 また怪しげな……つい、対応に悩んでしまう五月。

「……あっ、朝日様!?」

 だが、朝日がさらりと扉を開けてしまう。

「洗面所? ……それにトイレに……あっ、ここお風呂ですよ」

「はいいっ!?」

 

 これは嫌な予感しかしない。

 

「わあっ、五月さん。このお風呂すごく広いですよ。あれ? なんだろこの大きいイカダみたいな……銀のエアマット? ねえ、五月さんこれって……」

 多分アレですよね。的な笑顔の朝日である。とても、楽しそうですね。

「ちょっと……まさか」

 

 嫌な予感どころではない。五月は表情がだんだんとこわばっていく。

 対照的に朝日は興味しんしん。大人二人が乗れるであろうサイズの銀イカダを見てニヤケ顔。さらに……。

 

「ん? ……イカダの横に何か置いてある。これ? えっと……ピピローショ――」

「いけませんわああああああっ!!」

 

 ヌルヌルしちゃう何かを発見してしまった朝日を、五月は背後から担ぎ上げる。

 風呂場から猛ダッシュで退散したのち、(五月が)再調査。

 やはりと言うか、おのれバカ親と言うか、大人用グッズが大量発見された。

 当然ながら風呂場は封印である。

 

「ねえねえ、五月さん。……さっきのお風呂って?」

「な、ん、で、も、ありませんわっ! 朝日様にはまっっったく関係無い物ですのっ! よ、ろ、し、い、ですわね!!」

「あ、はい」

 

 ちょっぴり残念そうな朝日を、五月は勢いで押しきる。

 が、内心はヒヤヒヤものだ。今さらながら、よくわかる通常男性と朝日の違い。

 この状況で、この積極性。

 一瞬の油断が命取り(理性蒸発)に繋がるだろう。

 

「朝日様……ともかく、残りのチェックは(わたくし)が致しますわ」

 

 どう考えても、この部屋には(性的に)ろくな物が無いことが確定した。

 そして、おおよそ新月の狙いは読めた。

 朝日と既成事実を作らせ、金と権力にものを言わせて何とかするつもりなのだろう。

 

 ふざけた話だ。

 

 そんなもの、この五月雨五月のプライドが許さない。

 何よりも朝日に、この世界で孤独にも頑張っている。心優しく健気な美少年を汚すようなマネ――許されるはずがない!

 五月は朝日に、おとなしくしているよう少し遠回しにお願いする。 

 

「あっ、ごめんなさい……僕、ちょっとはしゃぎすぎましたね……」 

「ああっ、そんな顔をなさらないでくださいませ。大丈夫ですわ。何も心配することはありませんわ。朝日様が悪いことなど、何一つごさいませんもの! と、言いますか……(わたくし)の母が諸悪の根源。ふっ、ふふふ、覚えおいてくださいませお母様! ここを出たらたっぷりと――」

「あはは……まあ、五月さん穏便に」

「あっ、こ、こほん……失礼しましたわ。ささ、朝日様はテレビでも見て、くつろいでお待ちくださいませ」

 

 気を取り直して五月は、ベッドの向かい正面に設置してある80インチ大型液晶テレビの電源を入れた。

 

『んあっ……は……んっ、素敵ッ! ……もっと、もっと動いてっ……あっ……いいっ!!』

「「!?」」

 

 そこで大画面に映し出されたのは、CGムービーによる男女の営み。

 しかも、全チャンネルにセットしてある万全の充実ぶり!

 余談だが、この世界にセクシー男優(・・)は存在しない。

 よって、CGによる分野発展がなされている。なるほど実に興味深い。

 

「「あ………………」」

 

「なりませんわあああああああああっ!!」

 

 アカン! 五月は覆いかぶさるように抱きついて、朝日の視界を塞ぐ。

 同時にマッハでリモコンを操作して、電源をオフに。

 

(あのバカ親殺す! 明日、絶対にぶっ殺して差し上げますわっ!!)

 

 五月は焦りに息を切らせ、ついでに殺意を漏らす。

「ふがっ、ふぁ……ふぁつきふぁん……ふぉの」

 が、何やら声が聞こえる。自分の胸の下でぞもぞとしている温かい感触が……あっ!

「しっ、しっ、失礼しましたわーーっ、朝日様ーーっ!!」

 己の胸で視界どころか、朝日の顔をまるごと塞いでいた五月であった。

 弾け飛ぶように、その場から離脱する。

 

「はぁ……はぁ……、も、申し訳ありませんでしたわ。と……とりあえずは落ち着きましょう。とにかく落ち着きましょう。何よりもまず落ち着きましょう」

「あー、うん。僕は大丈夫だけど、その、五月さんこそ……大丈夫ですか? あっ、そうだ! のど渇いてませんか? 冷蔵庫にいっぱい飲み物が入ってたんで! ほら、いっしょに飲みましょうよ」

 

 気をつかってか、朝日が冷蔵庫からぶどう(・・・)の炭酸飲料らしき物を二本取り出してきた。

 

「まあ、なんてお優しいお気遣い! 是非いただきますわ」

 

 ここは、とりあえず一旦仕切り直そう。

 五月は朝日と隣り合ってベッドに腰掛け、ビンの蓋をねじって開ける。

 炭酸の音に乗せて、ぶどうの良い香りがふわっと漂う。かなり上質なモノだ。

 

「うわっ、このぶどうの炭酸ジュースおいしい!」

 

 一口飲んだ朝日が声をあげた。

 どうやら好みの味だったらしく、勢いよく飲みはじめる。

 

 ひとまずセーフ。

 

 ご機嫌になった朝日に、五月も一安心。

 同じくジュースに口をつける。

(あら? これは……)

 この味は、自分が知っている(・・・・・)ものだ。せっかくなので、その知識を披露することにする。

 

「ふふっ、あらあら朝日様ったら、これはぶどうジュースではなくてシャンパン(・・・・・)ですわ。モエ・シャンと呼ばれる甘口で人気のある……アンペリ……え? ……シャン……パン!?」

 

 あらあら? じゃないですよこれは!?

 強烈な悪寒と己へのツッコミと同時に、脳裏にある記憶が浮かぶ。

 不覚にも酔いつぶれてしまったとある(・・・)日。

 深夜子と梅から、翌日に聞かされた朝日飲酒事件(※第三十二、三十三話参照)の顛末。

 そう、朝日家に禁酒令が施行される原因となったアレである。

 

「あ……」

 

 一気に五月の顔から血の気が引いていく!

 首が折れんばかりの速度で朝日の方を向くも、すでに手遅れ。

 朝日はハーフボトル(375ミリリットル)のほとんどを飲み干していた。

 

「あ、あああああ朝日……様……!?」

 

 五月。これはもしかしなくても大ピンチ!!

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