男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

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第五十五話 大和梅と賭けプロレス

 午後二時三十分、館内にアナウンスが流れた。

 

『本日のご来場、誠にありがとうございます。当会場のイベント案内をさせていただきます。四階特設イベント会場にて、プロレスショーを午後三時三十分より開催致します。なお、メインイベントからご観戦希望のお客様は――』

 

 そんな中、こちらは六階のゲームセンターで、何故か対戦格闘ゲームにハマっている朝日。

 日頃、深夜子としている練習の成果を――いや、アーケード筐体でする通信対戦は久々で新鮮だったのだ。

 朝日はゲームを続けながら、アナウンスされている賭けプロレスの案内を聞く。

 まずは前座扱いで予選が実施され、賭けの対象となる本選は、夕方からディナー形式であるとの説明だ。

 

「ん? 梅ちゃんどうかしたの?」

 隣の椅子に座っている梅。放送が流れてから少しそわそわしている。

 不思議に思い、ゲームをプレイしながら確認する。

「ん? ああ、ちょっとな――おっ、五月の母ちゃんが戻ってきたみたいだぜ」

 微妙な反応の梅だったが、ちょうど新月たちが六階に到着したことに気づく。

「ほんとだ。じゃあ梅ちゃん行こっか」

 ゲームを終了して、朝日たちは新月の待つロビーへと向かった。

 

「朝日ちゃーん。どーですかー、楽しめてるかしらー?」

「そうですね。ここは春日湊よりも色々あって……と言うか、向こうは行ってもあんまり人がいなくて――はは」

 

 一度、深夜子らに連れていって貰った遊興施設。

 あまりに閑散たる状況で、全く楽しめなかった記憶に朝日は苦笑いする。

 それだけに、今日はとても楽しめていた。

 パッと笑顔を輝かせて、新月に喜びを伝える。

 

「だから、ここには本当にびっくりしました! 男性でも遊べる場所なのに、女の人もずいぶん多いから……その、やっぱり賑やかなのって凄くいいですよね!」

 

 朝日にとって、男性保護省の関係者以外の女性と交流するのは実に久々であった。

 何分ここは財界人関係者限定の社交場だ。

 しっかりと男性の安全確保がなされた上で、健全な男女交流ができる機能を合わせ持っている。

 ここに来ることができるのは、財界人の家族や関係者など、身元の確かな女性ばかり。

 そうは言っても、女性たちの最終的な狙いは一つだけ。

 朝日への粉かけ具合は半端でなく、梅と黒服たちは終始大忙しであった。

 

 まあ、最終的には一人でゲーム筐体の通信対戦に没頭してくれたので、一息付けた梅たちである。

 

「そうなのよねー。男の子がのびのびできる場所ってー、お(うち)以外はほんとに少ないのよー。気に入ってくれて嬉しいわー。また行きたくなったらー、いつでもお電話ちょうだいねー」

「はい、五月さんのお母さん。僕のために気を使ってくださってありがとうございます」

「あらあらーまあまあー、朝日ちゃんはいい子ねー礼儀正しい男の子ってそそる……いや、素敵だわー。いいのよー、よそよそしくしなくてもー。ママのことはママって呼んでくれれば――」

 目を輝かせた新月が、朝日の手を握ってスリスリし始めたところで……。

「呼ばせねーよ!」

 梅が首根っこを掴んで引き剥がした。

 

「んもー、大和ちゃんたらーわかってますよー」

 ぷーっ、と少し不満そうなふくれ顔を見せた新月。四十代ですけどね。

「はーい。それじゃあ、みんなー、これからプロレスのイベント会場に行きますよー。観戦席にディナーも予約してありますからねー、五月ちゃんたちもー、その頃には到着すると思いまーす」

 

 ふにゃりと顔を和らげ、新月はやたら気の抜けた号令をかける。

 かくして、朝日御一行はイベント会場へ向けて出発となった。

 

◇◆◇

 

 少し時間は経過して、午後四時を回った頃。

 イベント会場のある四階へ向かうべく、バタバタと階段を駆け上がる影が三つ。

 五月、深夜子、蘭子の三名である。

 

「ハァ……ハァ……。やっと……やっと着きましたわ」

「大丈夫ですか? お嬢様。ずいぶんお疲れのご様子」

「てか五月(さっきー)、あちこちで話し込みすぎ」

「しっ、仕方ありませんでしょっ! ここには五月雨家の者として来ているわけですから、ご挨拶をいただいて無下には――」

 

 肩で息をしながら、困り顔の五月。

 なんとか少し早めに到着はできたものの、何分場所が場所。

 道中、新月の顔見知りに蘭子が呼び止められて挨拶をする。

 すると、相手の『そちらの方は?』に始まり『なんと五月雨のご息女でいらっしゃる!?』の流れが発生する。

 必然会話は長引き、それを繰り返すこと数回。この時間になってしまった。

 

 ともあれ、新月たちがいるイベント会場になんとか到着。

 四階はワンフロア丸々が、円形コロシアム風のプロレス観戦場になっている。

 中央にあるリングを観戦席がぐるりと囲む形で、二階席、一階席、それとリング近くにVIP席としてガラス張りの個室が設置されていた。

 新月たちがいるのは、もちろんそのVIP席の一部屋だ。

 

「おまたせしまたわっ、朝日様! 貴方の、貴方の五月が参りましたわーーっ!」

「やっほー、朝日君おまた。どう楽しかった?」

「あっ、五月さん、深夜子さん。二人も到着したんだね」

 

 五月と深夜子。入室と同時に朝日の元へとすっ飛んでいった。

 一方で蘭子は黒服たちを労いつつ、新月の前で一礼。

 

「社長。お待たせしました……が、お嬢様のお世話ならば、事前にお申し付けいただければよろしかったかと……」

「まあ、そう言うなや。五月のヤツが事前に知ったらうるさいじゃろうと思うて――」

「お、か、あ、さ、ま」

「う゛っ」

 

 五月は新月の背後に立ち、腰に手を当てて威圧感たっぷりに声をかける。

 額の血管がぴくぴくして、おのずと引きつった笑みが浮かぶ。

 なんだか眼鏡も、嫌な感じにキラーンと輝いている気がする。

 その気配を感じとったのか、ふり返った新月は、両人差し指を両頬び当てして……。

 

「あれー、五月ちゃーん。遅かったわねーママさみしかったわー。きゃぴっ♪」

「何がっ!? 何が『きゃぴっ♪』ですのおおおお!?」

 このバカ親! 思わず新月の襟をつかみ、ガクガクと揺さぶってしまう。

「ぬわああっ!? こっ、こら五月、着物が崩れるがなっ。そう興奮すなや」

「これが興奮せずにいられますかっ、お母様っ! そもそも、朝日様を連れ出すどころか、我々(Maps)を置き去りにするなど言語道断でしょうに! いくら大和さんを連れて……え? 大和さん? ……大和さん!?」

 

 ここで、ふと梅の姿が無いことに気づいた五月。ぐるりと部屋を見渡す。

 奥側の席では朝日と深夜子がプロレス観戦。部屋のあちらこちらに黒服たち、自分の近くには蘭子と新月。

 あれ? ……やはり梅の姿が見当たらない。

 

「なんじゃい五月。ほれ、大和ちゃんならあそこじゃ」

「はっ?」

 

 思わず五月は、新月が指差した先を見て目をこする。

 そこは現在プロレスの予選が行われているリングの一つ。

 ちょうど試合開始直前だったらしく、各コーナーにレスラーが登場している最中だった。

 

 一人は顔にペイントを施した、身長185センチほどの筋肉質なダイナマイトボディ。

 これぞ女子プロレスラー、と言える体格の持ち主だ。

 もう一人は、どこかで見た記憶のある150センチ以下の小柄で中学生並みなお子様ボディ。

 雷模様の入った黄色のレスリングスーツに身を包み、同じ柄をしたマスクで、鼻と口元以外は隠れている。

 さらにそのマスクの上には、夜店で売っている子供に大人気のモンスター、黄色いネズミのお面が装着されていた。

 

 えーと、……なんですかね。これ?

 

 そのなんとも言えない姿に、思考停止する五月。

 そこへ、アナウンサーによるレスラー紹介コールが流れる。

 

『さあ、予選二回戦。もちろん注目は衝撃のデビューを飾った謎の覆面レスラー。――身長149センチ、体重49キロ! 小さなボディからは想像もつかない脅威のパワー。一回戦を秒殺KO勝利……お面の戦士ぃぃぃっ! マスク・ド・ピカテューーーーッ!!』

 

 ………………。

 

「あっ、あああああの脳筋(ばか)公務員(Maps)が闇の賭けプロレスに参加してどうするつもりですのおーーーっ!?」

 

 ダメだ……あらゆる意味でダメだ。あまりの脱力感に五月はその場でがっくりと膝をつく。

 対象的に、朝日と深夜子は対戦相手のコールが流れる中、ご機嫌で『マスク・ド・ピカテュー』に声援を送っている。

 そんな朝日たちに複雑な視線を送っていると、肩に誰かの手がそえられた。

 

「あらあらー、だめよー五月ちゃーん? あれは大和ちゃんでなくてー、恵まれない孤児院の子供たちにーファイトマネーでプレゼントをするー正義のおめ――」

 ――ぶちんっ、五月の脳内で何か切れた音が響いた。

「誰がっ……誰が設定の話をしてますかぁーーっ!!」

「うおあっ? こらっ、五月!?」

 

「「「お、お嬢様ああああああっ!?」」」

 

 マスク・ド・ピカテューたちと同じく、こちらでも試合開始のゴングが鳴り響く。

 開幕と同時に、ネック・ハンギング・ツリーを新月に仕掛ける五月であった。

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