男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です! 作:takker
怒れる五月VS新月による場外乱闘の決着がついた頃。
梅はあっという間にニ回戦も勝ち進み、決勝戦へと進出していた。
今、朝日たちがいる個室型VIP席。ここは奥一面がガラス張りのカウンター席となっている。
しかも、リングを近くで見下ろせる場所に設置されているので、非常に迫力ある観戦ができる。
そのカウンター席に隣り合わせで、座る朝日と深夜子。もちろん梅の出番待ちだ。
――ガシャン。
突如、予選決勝のリングがライトアップされ、同時に機械音が鳴り響いた。
「うわっ、深夜子さん。あれ!?」
「おおっ! これは金網デスマッチ」
驚く朝日が指さす先を見て、深夜子も声をあげる。
なんと天井から、吊り下げられたスチールゲージがリングを囲むように降りてきた。
設置完了にあわせてアナウンスが始まる。
『さあ、お待たせしました。これより予選決勝戦。このリングではピックアップマッチとして、注目のレスラー、マスク・ド・ピカテューが金網デスマッチへと挑戦します! では、選手入場ーーーっ!!』
会場の観客たちも盛り上がりはじめた。声援と口笛が飛び交う花道。
アナウンサーの紹介コールにあわせて、マスク・ド・ピカテューこと梅がリングへと進む。
颯爽とした足取りで金網の扉とロープをくぐりぬけ、リング中央へ到着。
――バチンッ!
と、ここで照明が落とされて会場がざわめく。
もちろんこれは演出。続けて、派手なカラーライトが対戦相手の花道を照らし出す。
爆音でテーマ曲と思われるBGMが鳴り響き。ドライアイスの煙の中から、赤いフードに身を包んだ巨体が姿を現した。
「うわっ、深夜子さん見て! 梅ちゃんの対戦相手の人……あんなに大きいの?」
「朝日君、心配しなくても大丈夫。梅ちゃんだし」
深夜子の謎な大丈夫理論はともかく。梅が心配な朝日、リングから目が離せない。
観客の反応から察するに、巨体の対戦相手は人気があるレスラーなのだろう。
アナウンサーがよりテンション高く、紹介コールをはじめた。
『――注目の金網デスマッチ。その牢獄に囚われた149センチ、49キロ”小さなチャレンジャー”マスク・ド・ピカテューに対するは――この夏、不慮の事故で右手首を骨折して暫しの休場。しかし、ファン待望の復帰を果たした”打撃殺しの肉体”身長203センチ、体重218キロ! ボンレス
大きな観客の歓声。熱気に包まれた花道の上で、ボンレス公子はフードを投げ捨て、巨体をさらす。
丸々とした肉体を包むピンク色のレスリングスーツ。スキンヘッドながら、人の良さそうな恵比寿顔。その両目にはハートマークのペイントが施されている。
飛び交う声援に応え、にこやかな笑顔で『困ったことがあったら、な~んでも言ってくださ~い』とマイクパフォーマンスをしながらリングへと向かう。
アサウンサーの説明によると、ボンレス公子は巨体を駆使した豪快なレスリングとは真逆に、優しさあふれるおだやかな物腰が人気のレスラーなのだそうだ。
ちなみに本業は男性警護業と噂されている。
『おおーーーっと! ここでボンレス公子がパフォーマンス。なんと、セコンドに指示をして、ゲージの扉に大きな錠前を付けたあーーーっ! さらにっ、外から鍵を掛けさせてせているぞーーっ!! まるでお前は私の獲物だ。もう逃がさないぞ、とでも言わんばかりだーーっ!? あーーーっと、さらにっ、扉の鍵がセコンドからボンレス公子に手渡される。これはーーーっ!?』
にやり、と笑みを浮かべ。公子は指でつまんで鍵を吊り上げる。
それをまざまざと梅に見せつけてから、マイクを使って煽りを入れる。
「ふぉ~ほっほっほ、オチビちゃん。なかなかの強さのようですが、私と当たったのが運のツキですね~。さぁ~、逃がしませんよぉ~!」
つまんだ鍵を、公子は口の上へと持って行く。
かばっと口をあけ、ベロンと出した舌の上へ鍵を乗せると――。
『飲み込んだぁーーーっ!! これは強烈な意思表示! 絶対に獲物は逃がさない! 自分を倒さない限り逃げ場はないぞ! その決意とも言える行為! まさに、まさに金網デスマッチ! そして、ここで運命のゴーーーーングッ! ボンレス公子VSマスク・ド・ピカテューのガチンコ対決スターーートだぁ!!』
朝日たちと観客の声援入り交じる中、試合は公子の先制攻撃からスタートした。
「ふぉ~ほっほっほ! まずは小手調べですよ~オチビちゃん。この私の張り手を受け止められますか~~? ぬううんっ!!」
ドカドカと巨体をゆらして、公子が助走をつける。
リング中央。がばっと左腕を振りかぶり、体重218キロを乗せた張り手を梅へと叩きつけた!
「へっ!」
もちろんプロレスルール。相手の攻撃は受け止めるのが基本だ。
が、公子は違和感を覚える。今、奴は鼻で笑った?
しかも、微動だにしない。完全なノーガード状態。
豪快な張り手が、梅の無防備な顔面に直撃する。鈍い激突音が響き渡り、観客席から悲鳴や歓声が巻き起こった。
そして――!
「いっ、いてえよぉ~~~っ!!」
自分は鋼鉄の塊でも殴ったのか?
そんな錯覚に襲われるほどの衝撃と激痛が、公子の左手に返ってきた。
そして驚愕。
気がつけば、目の前にはノーダメージだと言わんばかりに、肩をぐいぐいと回しながら距離を詰めてくる梅の姿!
「んだよ。どっかで見たことあると思ったら、チャーシューじゃねえか? 右手治ったのかよ」
「なぁっ!? ちょちょちょちょちょ、そそそそその声は!?」
まさかの一言。公子の脳裏に恐怖がよみがえる。
右手、右手首を開放骨折した夏。自分どころか圧倒的強者である
「おいおい、せっかくの予選決勝だってのによぉ。チャーシューが相手とかテンション下がんな」
「きいいいやああああああああーーーっ!!」
『あーーーっと! どうしたボンレス公子!? 突然走り出して金網にすがりつき、狂ったように泣き叫んでいる! これは新しいパフォーマンスなのかぁ! おっと? そして、扉に向かって……開けようとしたーーーっ!? 自分が鍵を閉めさせたんじゃないのかぁーーー!? 当然開かない。すると、今度は、しゃがんで? なんとーーっ! 吐いたぁーーっ!! 嘔吐だぁーー!! ストレスか? ストレスなのか? まるで毎週の月曜日。出勤前のサラリーウーマンのようだあーーーっ!!』
「どうしたよ? ああ、鍵を吐き出したいのか。いいぜ顔見知りのよしみだ……しっかり吐き出させてやんぜっ!!」
ニヤリと口元をゆがめ、ボキボキと拳を鳴らしながら、怪物が近づいてくる。
その姿に、ただ絶望をする公子であった。
――さて、一方でこちらは会場の裏側。
丸だ――ボンレス公子が、非常に気の毒な目にあっている頃。大会運営本部は騒然となっていた。
「なんだ……なんなんだ、あの化け物は?」
「ちょっと……一回戦。パイルドライバーで、相手がマットにめり込んでるんだけど? 漫画でしか見たことないわよ。こんなの」
「あの……二回戦の決まり技。ラリアートした方が骨折TKOって、どういうこと?」
「誰が連れてきたんだよ? 強いとかそんなレベルじゃないぞ」
「そ、それが五月雨ホールディングス関連企業の推薦枠で参加らしく……」
「さっ、五月雨だぁ!? と、とにかく……アレの戦いを見たレスラーたちが次々対戦拒否を。このままではメインイベントが組めません」
「くっ……仕方あるまい……奴を使うぞ」
「なっ!?
「……かまわん。マッチが組めなかったらそれこそ大事だ。やむを得ない。化け物には化け物だ」
などと、そんな相談が行われている間に金網デスマッチの(主に衛生面の)惨劇は幕をおろす。
その他のリングでも、予選決勝は次々と終了。
ここで
◇◆◇
時間は午後六時。改装時間中はディナータイムとなっている。
朝日たちのいるVIPルームには、座敷と呼ぶにはおしゃれなリビング風のスペースもある。
クッションやソファーにテーブルセット。壁面には大型モニターが設置されており、くつろぎなから観戦も可能となっている。
豪華な料理が置かれたテーブルで、朝日を囲んで深夜子たちは和気あいあいと食事中だ。
「はい、深夜子さん。あーん」
「ふへっ、おひょ、うへへ。い、いいの? 朝日君。ぬへへへへ。あ、あーーん」
さっそく深夜子が奇声――ではなく、照れ笑いらしき声を発している。
くねくねと身体をよじらせながら、朝日がフォークに刺して運んでくれるお肉をパクリ。
まさかの幸運。
本日、ディナーコースはステーキメイン。色々な部位が選べたことから「違う部位を頼んで交換しよう」と朝日が持ちかけてきた。
その時はなんとなく「いいよ」と受けたのだが、これが大正解。
数分前の自分にグッジョブしなくてはなるまい。
「ふはぁ、おっ、おいひい……と、とろけるっふぅ」
本当に上質で、とろけるように柔らかいお肉だ。でも、それ以上に表情筋がとろけちゃう深夜子であった。
なるほど、これがメシの顔!!
「ちょっと、深夜子さん! Mapsともあろう者がそんなはしたないマネを――って、なんですの? その何か言いたげなお顔は」
お肉を咀嚼しつつ、深夜子はジトっとした視線を五月に送る。
……自分だって、朝日の隣をしっかり確保してべったりのクセに。
「ふぁっふぃふぁって、ふぁふぁふぃ――」
「あっ、五月さんもどうぞ。はい、あーん」
ツッコミを入れようとしたところで、朝日が五月にもスッとお肉を差し出した。
「ふぇ? ……はひぇええええ!? わ、わわわわわ
最初は顔を真っ赤にして、あたふたとしていた五月だったが、ピキーンと天啓が走ったかのような表情に変わった。
あっ、これは――。
(そうっ、そうですわ! 本日ここに
――とか考えてるに違いない。
「は、はわわわわわわ。あ、あああ朝日様。んあ、あああぁ――」
ふにゃふにゃでれでれの顔で、五月が口をだらしなく広げて……。
――パクッ!
「ううーん、朝日ちゃーん。とーってもおいしいわー、ママ感激よー」
「お母様あああああっ!?」
ちゃっかり割り込んできた新月が、朝日の
「
「んなっ!? くっ……ひ、非番。そう、やっぱり今日は非番ですわ。非番にしましたわ。なので朝日様! さあ、五月に朝日様の愛をもう一度」
「ちょっと待って、今度はあたしが朝日君にあーんしてもらう」
「深夜子さん、何をおっしゃっておられますの! 順番から言えば
「ねえ、朝日ちゃーん。もっかいママにー、あーんしてー」
「え、あ、はい。あーん」
「「うおおおおいっ(ですわっ)」」
結局この後しばらく。
親鳥に餌を与えられるヒナ鳥のように、朝日のあーんを堪能した五月と深夜子、プラス四十四歳人妻である。