男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

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第五十六話 闘え!正義のお面レスラー

 怒れる五月VS新月による場外乱闘の決着がついた頃。

 梅はあっという間にニ回戦も勝ち進み、決勝戦へと進出していた。

 

 今、朝日たちがいる個室型VIP席。ここは奥一面がガラス張りのカウンター席となっている。

 しかも、リングを近くで見下ろせる場所に設置されているので、非常に迫力ある観戦ができる。

 そのカウンター席に隣り合わせで、座る朝日と深夜子。もちろん梅の出番待ちだ。

 

 ――ガシャン。

 突如、予選決勝のリングがライトアップされ、同時に機械音が鳴り響いた。

 

「うわっ、深夜子さん。あれ!?」

「おおっ! これは金網デスマッチ」

 

 驚く朝日が指さす先を見て、深夜子も声をあげる。

 なんと天井から、吊り下げられたスチールゲージがリングを囲むように降りてきた。

 設置完了にあわせてアナウンスが始まる。

 

『さあ、お待たせしました。これより予選決勝戦。このリングではピックアップマッチとして、注目のレスラー、マスク・ド・ピカテューが金網デスマッチへと挑戦します! では、選手入場ーーーっ!!』

 

 会場の観客たちも盛り上がりはじめた。声援と口笛が飛び交う花道。

 アナウンサーの紹介コールにあわせて、マスク・ド・ピカテューこと梅がリングへと進む。

 颯爽とした足取りで金網の扉とロープをくぐりぬけ、リング中央へ到着。

 

 ――バチンッ!

 と、ここで照明が落とされて会場がざわめく。

 

 もちろんこれは演出。続けて、派手なカラーライトが対戦相手の花道を照らし出す。

 爆音でテーマ曲と思われるBGMが鳴り響き。ドライアイスの煙の中から、赤いフードに身を包んだ巨体が姿を現した。

 

「うわっ、深夜子さん見て! 梅ちゃんの対戦相手の人……あんなに大きいの?」

「朝日君、心配しなくても大丈夫。梅ちゃんだし」

 

 深夜子の謎な大丈夫理論はともかく。梅が心配な朝日、リングから目が離せない。

 観客の反応から察するに、巨体の対戦相手は人気があるレスラーなのだろう。

 アナウンサーがよりテンション高く、紹介コールをはじめた。

 

『――注目の金網デスマッチ。その牢獄に囚われた149センチ、49キロ”小さなチャレンジャー”マスク・ド・ピカテューに対するは――この夏、不慮の事故で右手首を骨折して暫しの休場。しかし、ファン待望の復帰を果たした”打撃殺しの肉体”身長203センチ、体重218キロ! ボンレス公子(きみこ)だぁああ!! これこそ正に、究極の体格差対決!! 会場も予選決勝とは思えない盛り上がりを見せております!』

 

 大きな観客の歓声。熱気に包まれた花道の上で、ボンレス公子はフードを投げ捨て、巨体をさらす。

 丸々とした肉体を包むピンク色のレスリングスーツ。スキンヘッドながら、人の良さそうな恵比寿顔。その両目にはハートマークのペイントが施されている。

 飛び交う声援に応え、にこやかな笑顔で『困ったことがあったら、な~んでも言ってくださ~い』とマイクパフォーマンスをしながらリングへと向かう。

 

 アサウンサーの説明によると、ボンレス公子は巨体を駆使した豪快なレスリングとは真逆に、優しさあふれるおだやかな物腰が人気のレスラーなのだそうだ。

 ちなみに本業は男性警護業と噂されている。

 

『おおーーーっと! ここでボンレス公子がパフォーマンス。なんと、セコンドに指示をして、ゲージの扉に大きな錠前を付けたあーーーっ! さらにっ、外から鍵を掛けさせてせているぞーーっ!! まるでお前は私の獲物だ。もう逃がさないぞ、とでも言わんばかりだーーっ!? あーーーっと、さらにっ、扉の鍵がセコンドからボンレス公子に手渡される。これはーーーっ!?』

 

 にやり、と笑みを浮かべ。公子は指でつまんで鍵を吊り上げる。

 それをまざまざと梅に見せつけてから、マイクを使って煽りを入れる。

 

「ふぉ~ほっほっほ、オチビちゃん。なかなかの強さのようですが、私と当たったのが運のツキですね~。さぁ~、逃がしませんよぉ~!」

 

 つまんだ鍵を、公子は口の上へと持って行く。

 かばっと口をあけ、ベロンと出した舌の上へ鍵を乗せると――。

 

『飲み込んだぁーーーっ!! これは強烈な意思表示! 絶対に獲物は逃がさない! 自分を倒さない限り逃げ場はないぞ! その決意とも言える行為! まさに、まさに金網デスマッチ! そして、ここで運命のゴーーーーングッ! ボンレス公子VSマスク・ド・ピカテューのガチンコ対決スターーートだぁ!!』

 

 朝日たちと観客の声援入り交じる中、試合は公子の先制攻撃からスタートした。

 

「ふぉ~ほっほっほ! まずは小手調べですよ~オチビちゃん。この私の張り手を受け止められますか~~? ぬううんっ!!」

 

 ドカドカと巨体をゆらして、公子が助走をつける。

 リング中央。がばっと左腕を振りかぶり、体重218キロを乗せた張り手を梅へと叩きつけた!

 

「へっ!」

 もちろんプロレスルール。相手の攻撃は受け止めるのが基本だ。

 が、公子は違和感を覚える。今、奴は鼻で笑った?

 しかも、微動だにしない。完全なノーガード状態。

 豪快な張り手が、梅の無防備な顔面に直撃する。鈍い激突音が響き渡り、観客席から悲鳴や歓声が巻き起こった。

 そして――!

 

「いっ、いてえよぉ~~~っ!!」

 

 自分は鋼鉄の塊でも殴ったのか?

 そんな錯覚に襲われるほどの衝撃と激痛が、公子の左手に返ってきた。

 そして驚愕。

 気がつけば、目の前にはノーダメージだと言わんばかりに、肩をぐいぐいと回しながら距離を詰めてくる梅の姿!

 

「んだよ。どっかで見たことあると思ったら、チャーシューじゃねえか? 右手治ったのかよ」

「なぁっ!? ちょちょちょちょちょ、そそそそその声は!?」

 

 まさかの一言。公子の脳裏に恐怖がよみがえる。

 右手、右手首を開放骨折した夏。自分どころか圧倒的強者である蛇内(へびうち)万里(ばんり)流石寺(りゅうせきじ)姉妹らを、たった一人で病院送りにした怪物の声。

 

「おいおい、せっかくの予選決勝だってのによぉ。チャーシューが相手とかテンション下がんな」

「きいいいやああああああああーーーっ!!」

 

『あーーーっと! どうしたボンレス公子!? 突然走り出して金網にすがりつき、狂ったように泣き叫んでいる! これは新しいパフォーマンスなのかぁ! おっと? そして、扉に向かって……開けようとしたーーーっ!? 自分が鍵を閉めさせたんじゃないのかぁーーー!? 当然開かない。すると、今度は、しゃがんで? なんとーーっ! 吐いたぁーーっ!! 嘔吐だぁーー!! ストレスか? ストレスなのか? まるで毎週の月曜日。出勤前のサラリーウーマンのようだあーーーっ!!』

 

「どうしたよ? ああ、鍵を吐き出したいのか。いいぜ顔見知りのよしみだ……しっかり吐き出させてやんぜっ!!」

 

 ニヤリと口元をゆがめ、ボキボキと拳を鳴らしながら、怪物が近づいてくる。

 その姿に、ただ絶望をする公子であった。

 

 ――さて、一方でこちらは会場の裏側。

 丸だ――ボンレス公子が、非常に気の毒な目にあっている頃。大会運営本部は騒然となっていた。

 

「なんだ……なんなんだ、あの化け物は?」

「ちょっと……一回戦。パイルドライバーで、相手がマットにめり込んでるんだけど? 漫画でしか見たことないわよ。こんなの」

「あの……二回戦の決まり技。ラリアートした方が骨折TKOって、どういうこと?」

「誰が連れてきたんだよ? 強いとかそんなレベルじゃないぞ」

「そ、それが五月雨ホールディングス関連企業の推薦枠で参加らしく……」

「さっ、五月雨だぁ!? と、とにかく……アレの戦いを見たレスラーたちが次々対戦拒否を。このままではメインイベントが組めません」

「くっ……仕方あるまい……奴を使うぞ」

「なっ!? 女帝(エンプレス)ですか? しかし、奴は前回対戦相手を半殺しにして出場停止中のはず!」

「……かまわん。マッチが組めなかったらそれこそ大事だ。やむを得ない。化け物には化け物だ」

 

 などと、そんな相談が行われている間に金網デスマッチの(主に衛生面の)惨劇は幕をおろす。

 その他のリングでも、予選決勝は次々と終了。

 ここで休憩時間(インターバル)。メインイベントに備えて、中央リングの改装が開始された。

 

◇◆◇

 

 時間は午後六時。改装時間中はディナータイムとなっている。

 朝日たちのいるVIPルームには、座敷と呼ぶにはおしゃれなリビング風のスペースもある。

 クッションやソファーにテーブルセット。壁面には大型モニターが設置されており、くつろぎなから観戦も可能となっている。

 豪華な料理が置かれたテーブルで、朝日を囲んで深夜子たちは和気あいあいと食事中だ。

 

「はい、深夜子さん。あーん」

「ふへっ、おひょ、うへへ。い、いいの? 朝日君。ぬへへへへ。あ、あーーん」

 さっそく深夜子が奇声――ではなく、照れ笑いらしき声を発している。

 くねくねと身体をよじらせながら、朝日がフォークに刺して運んでくれるお肉をパクリ。

 まさかの幸運。

 本日、ディナーコースはステーキメイン。色々な部位が選べたことから「違う部位を頼んで交換しよう」と朝日が持ちかけてきた。

 その時はなんとなく「いいよ」と受けたのだが、これが大正解。

 数分前の自分にグッジョブしなくてはなるまい。

 

「ふはぁ、おっ、おいひい……と、とろけるっふぅ」

 

 本当に上質で、とろけるように柔らかいお肉だ。でも、それ以上に表情筋がとろけちゃう深夜子であった。

 なるほど、これがメシの顔!!

 

「ちょっと、深夜子さん! Mapsともあろう者がそんなはしたないマネを――って、なんですの? その何か言いたげなお顔は」

 

 お肉を咀嚼しつつ、深夜子はジトっとした視線を五月に送る。

 ……自分だって、朝日の隣をしっかり確保してべったりのクセに。 

「ふぁっふぃふぁって、ふぁふぁふぃ――」

「あっ、五月さんもどうぞ。はい、あーん」

 ツッコミを入れようとしたところで、朝日が五月にもスッとお肉を差し出した。

「ふぇ? ……はひぇええええ!? わ、わわわわわ(わたくし)に? そんな、ちょ、いやですわ。もうっ、もう朝日様ったらぁっ、そんな積極て――――ではなくて、その、わ、(わたくし)たちは勤務中ですわ。いや、そもそもMapsとして…………ハッ!?」

 

 最初は顔を真っ赤にして、あたふたとしていた五月だったが、ピキーンと天啓が走ったかのような表情に変わった。

 

 あっ、これは――。

(そうっ、そうですわ! 本日ここに(わたくし)はMapsとして来てはいませんの。いや、来てはいけないのでしたわ。つまり、今ここにいるのは朝日様を世界の誰よりも愛する淑女五月雨五月。まさに天の時と地の利と人の和が満ちた瞬間(いま)! これはいただくしかありませんわ。朝日様の(あ~ん)を!!)

 ――とか考えてるに違いない。

 

「は、はわわわわわわ。あ、あああ朝日様。んあ、あああぁ――」

 

 ふにゃふにゃでれでれの顔で、五月が口をだらしなく広げて……。

 

 ――パクッ!

 

「ううーん、朝日ちゃーん。とーってもおいしいわー、ママ感激よー」

「お母様あああああっ!?」

 

 ちゃっかり割り込んできた新月が、朝日のあーん()をかっさらっていた。

 

五月(さっきー)ママ、グッジョブ! ふひっ、五月(さっきー)仕事中だもんね」

「んなっ!? くっ……ひ、非番。そう、やっぱり今日は非番ですわ。非番にしましたわ。なので朝日様! さあ、五月に朝日様の愛をもう一度」

「ちょっと待って、今度はあたしが朝日君にあーんしてもらう」

「深夜子さん、何をおっしゃっておられますの! 順番から言えば(わたくし)が――」

 

「ねえ、朝日ちゃーん。もっかいママにー、あーんしてー」

「え、あ、はい。あーん」

 

「「うおおおおいっ(ですわっ)」」

 

 結局この後しばらく。

 親鳥に餌を与えられるヒナ鳥のように、朝日のあーんを堪能した五月と深夜子、プラス四十四歳人妻である。

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