男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

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第五十九話 おいでよ!男性保護省

「……と、いうことですわ。それから――」 

 

 結論からすると、朝日の訪問は大歓迎とのことだった。

 なんせ保護男性自らが訪問したいと希望する好意的行為。男性保護省としては、イメージアップに加えて内外へのアピール効果も充分。

 さらにはMapsを筆頭に、職員たちの士気向上へ繋がると、矢地(やち)もノリノリで対応してくれた。

 

「――詳細はまた詰めますが、朝日様にしっかりと男性保護省を視察いただきたい。そう矢地課長からの申し入れがありまして、二泊三日の行程予定ですわ」

「んなあっ!? に、二泊!?」

 二泊という言葉に反応して、妄想世界から深夜子が帰還を果たす。

「むう、三日も朝日くんのいない生活なんて……あたし、死ぬかも」

 どうも深夜子の中では一泊二日予定だったらしく、やたら不満げな態度を見せる。

「ちょっと、深夜子さん。それは少し大げさじゃないかな?」

 

 朝日が軽く受け流そうとするも、納得できない深夜子の愚痴(ぐち)は続く。

 

「そんなことない。あたしにとって朝日君は、酸素よりも――」

「ご心配なく、深夜子さん」

 ――ドサリ!

 深夜子の目の前に、五月の手によって置かれたのは日報を始めとする書類の山。

「ふえっ!?」

「ここ三ヶ月分くらいですわね。深夜子さんがご担当された日報や報告書。再提出でたっぷりと返って来ておりますわ。あら? あらあら? 来週三日間()お暇があってよろしかったですわねー」

 

 これには五月さんもニッコリ。

 

「ちょおっ!? こ、これ!?」

「もちろん! 何があっても絶対に、来週末までに再提出するようにと、矢地課長からしっかり言伝(ことづて)いただいておりますわ。あっ、それに一回(わたくし)のチェックが入る大サービス付きですのよ。オホホホ」

「あ……ああ……」

 

 先ほどまでの不満顔はどこへやら、さっーと青ざめた深夜子は涙目で朝日へと顔を向ける。

 

「……あしゃひくん……あ、あたし死ぬかも……?」

「あー、うん。がんばってね深夜子さん」

「ぎゃははは! まあ、気合いれろよ深夜子。せっかく――」

「大和さん」

「あん? 何だよ?」

「二泊三日の行程になったのは、貴女が半日缶詰めで書類再提出のお時間が必要になるのも一因でしてよ」

「んなにいいいいいいいっ!?」

 

 すでに先が思いやられる梅と朝日の社会見学デート。

 数日後に出発である。 

 

◇◆◇

 

 一方で、朝日訪問が決定した男性保護省特務部に激震走る。

 

「いったい何が始まるんです?」

「第一次男性訪問だ」

 

 深夜子たちMapsが所属する警護課の課長矢地(やち)亮子(りょうこ)を始め、その他の課長から主任まで、役職者総勢で緊急会議勃発。

 本日は木曜日、そして、朝日訪問は週明けの月曜日。これは土日返上確定コースだ。

 しかしながら、五月から連絡を受けて男性(あさひ)視察を即断即決した矢地に対して『サンキューヤッチ』と称賛が飛んでいるあたり、実にこの世界らしいと言うべきか……。

 

 事実、過去に男性側からの申し入れで視察訪問があった記録は存在しない。

 それが好意的理由(・・・・・)ともなれば、男性保護省の歴史に残る一大慶事だ。

 その立役者となれるチャンスに、役職者たちのテンションは実に高かった。

 土日を通して連日行われた緊急会議。当初は真面目に男性滞在中の安全対策検討から始まった。

 だが、無駄に高くなったテンションが災いする。

 気がつけば”男性歓迎会”と称した女性陣による隠し芸大会という、恐ろしく頭の悪いイベントが検討されていたあたりも、実にこの世界らしい。

 

 ――そんな会議の合間をぬって、矢地は課長室に一人のMapsを呼び出していた。

 

「えええええっ!? じっ、自分がヘルプっスか!?」

「そうだ。ヘルプの指名は警護任務中の者に優先権があるからな……梅――いや、大和から君をヘルプにとの連絡があった」

「うひょおおおっ! や、やったーーーーっ!!」

 

 矢地の前で喜びのガッツポーズを決めているのは、身長170センチ程で健康的スタイルの女性。

 茶髪のおだんごショートヘアー、まるで柴犬を思わせる愛嬌ある顔立ち。

 彼女の名前は『餅月(もちづき)餡子(あんこ)』。

 梅が可愛いがっている同い年ながら一期下の後輩(しゃてい)だ。

 深夜子とは同期の間柄で、仲の良かったCランクMapsである。

 この度、餡子は期せずして朝日と行動を共にする役割をゲットしたのだった。

 

「うおーーっ!! やっぱり持つべきものは(あね)さんっス。ヤバいっス! 噂の(・・)美少年の身辺警護ができるなんて夢みたいっス!」

「餅月。気持ちはわかるが、はしゃぐのはここだけにしておけ。当日まで黙っておくことを勧めるぞ。なんせ募集もしてないのに、どこから聞きつけたか知らんが……神崎君のヘルプ希望を私に直談判しにきた連中は山といる」

「はい。も、もちろん了解っス。自分も死にたくないっスから……」

「うむ、よろしい」

 

 ちなみに、先ほど話に出た『ヘルプ』と言う単語。

 これはMapsたちの業界用語で、仕事内容を表す言葉だ。

 病欠などによる穴埋めや交代、そういった数日間の任務を『ヘルプ』と呼んでいる。

 ヘルプは単発、短期ながら、男性の御眼鏡(おめがね)(かな)うと、追加人員として雇われる場合も稀にある。

 それゆえ、意外と馬鹿に出来ない仕事というのがMapsたちの常識だ。

 

 しかし、今回のヘルプが異常に注目度が高い理由は別にあった。

 

 人の口に戸は立てられぬ。

 男性訪問があることについての情報は開示済みなのだが……内部(みうち)ゆえの情報規制の甘さか。

 本来、役職者のみでしか共有してなかった朝日個人の情報が、噂レベルながらも出回ってしまったのだ。

 

 その内容は――。

『どうも、やってくる男性はかなり(・・・)の美少年らしい』

『しかも、何やら女性に結構(・・)好意的らしい』

『とどめに、十七歳未婚(最重要)らしい』

 ――などと、なんだか期待に胸膨らむものであった。

 

 大半の者は、噂に背ビレ尾ビレがついた女性(じぶん)たちの希望的観測だと笑って聞いた。

 それでも、次の任務待ちをしているくらいなら……と矢地の元に向かった者が現れたのだ。

 そして彼女たちは、実物が背ビレ尾ビレどころか、噂にフィンファンネルとサテライトキャノン装備レベルであることを知らない。

 

◇◆◇

 

 出発当日、朝日家の玄関。

 現在、朝日にまとわりつく往生際の悪い者が約一名。

 

「うう……あ、あしゃひくん。いかないでー、いかないでぇー」

「あー、えーと……み、深夜子さん。僕が行かなくてもさ……その、お仕事はしなくちゃいけないんじゃないかな?」

 

 半べそで足にまとわりついてくる社会人女性(十九歳)を、優しく(さと)す男子高校生(十七歳)の図。

 

「あ、朝日君が居てくれれば……朝日君に五月(さっきー)の機嫌とって貰って、あとタイミング見てなんか理由つけて頼んだら……五月(さっきー)代わりに仕事してくれるからー」

「よくも本人を目の前に堂々とその発言ができますわね……」

「むしろ清々しいな……どんだけ冷静さ失ってんだよ!? つか、俺だって向こうで半日缶詰め確定だっつーの」

 ごもっとも。

「はうううう……地獄。これから地獄の三日間が……悪魔が、五月(あくま)が待ってるうううう」

「誰が悪魔ですのっ、誰がっ!? そもそも自業自得ですわよねっ!」

「しょうがないなあ。じゃあ深夜子さん――」

 

 しつこくグズる深夜子を見かねた朝日。深夜子の耳元で、何やらボソボソと耳打ちをする。

 すると、その猛禽類のような目がたちまち大きく見開いたかと思うと、凄まじい勢いで跳ねるように立ち上がった。

 

「さっ、さささ五月(さっきー)!!」

「えっ? は、はいいっ!?」

 おもむろに五月の腕をつかむや否や!

「やるぞおおおおおおっ! 朝日君いってらっしゃーーーーーいっ!!」

「っ!? きゃあああああああっ!? 何? 何事ですのぉーーーーっ!?」

 

 鼻息あらく見送りの言葉を叫ぶと同時に、深夜子は猛ダッシュで玄関から家の奥へと五月を連れ去っていった。

 

「ああああ朝日様お気をつけてーーーーーっ!!」

 

 遠ざかっていく五月の声が廊下の奥から響き、続けて部屋の扉が閉まる音が聞こえた。

 

「……なんだありゃ、おい? ……朝日、深夜子に何言ったんだよ?」

 一部始終を呆然とながめていた梅が、朝日に問いかける。

「ん? 僕が帰って来るまでにちゃんとお仕事終わらせてたら、ほっぺにちゅーしてあげるって」

「はああああああ……あのアホ……。しっかし、お前もあいつらの扱い上手くなって来たな」

「そうかな? それに梅ちゃんだったらいつでもしてあげるよ」

 

 と、イタズラっぽい笑みを梅に向ける朝日。梅の顔が一気に上気する。

 

「んなななななな!? な、に、を、言ってやがる! 俺をあんなエロスケベどもといっしょにすんなってーの!」

「もー、梅ちゃん。またまたー」

「うるせえっ、いいから出発すっぞ! それから、向こうで変な話とか、いらねー話すんじゃねーぞ。いいな? わかってんな? 絶対にだぞ!」

「えー、せっかくのデートなのに梅ちゃんのけちー」

「けちじゃねえっつーの! 一応仕事場なんだっての。それに俺は硬派で通ってから、深夜子たちとは違うんだよ」

「あはは。はーい、了解」

 

 どこかで聞いたことのある絶対に押すなよ的理論を展開しつつ、梅は朝日を連れて車へ乗り込み、男性保護省へ向けて出発した。

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