男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

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第六十一話 お昼時は戦争です

「ねえ、梅ちゃん。なんか今さ、すっごい面白そうな話をしてなかった?」

「あわわわわ、あああ朝日……あの……そ、それはよ――うひいっ」

 

 しどろもどろな梅に、ずいっと顔を近づけて朝日がのぞきこむ。

 

「えーと、それで僕が梅ちゃんに……どうなんだっけ?」

 

 内心、今にも笑ってしまいそうな朝日だが、梅の反応が面白いので、わざとらしく聞いてみる。

 

「はうっ、そっ、そそそそーだなー。えーとおれなんてったっけかなー」

(ぷふっ)

 

 梅のごまかし方に、思わず吹き出しかける朝日。

 聞いているこちらが恥ずかしくなるレベルの棒読みだ。

 しかし、ここはぐっと堪えて……セーフ。危ない危ない。

 では、ちょっとしたイタズラを仕掛けてみようと、朝日、小悪魔モードに突入。

 

「えっ、そ、そんな! ついさっき言ったことも忘れるなんて……。――あっ、もしかして、僕の身体を毎朝(筋トレや柔軟体操で)、あんな好き勝手に(もてあそ)んでるのも忘れちゃったんだね!? 梅ちゃん……ひどい」

「言い方あああああああっ!」

「な、なんだってーーっス!?」

 チラチラと、餡子に悲しげな視線を送りながらだけに食いつきバッチリ。ふふふ。

「朝日っ、何人聞きの悪いこと言ってんだッ! あっ、おい、こら餡子? 勘違いすんじゃねえぞ。筋トレだ! 柔軟体操だ!」

「筋トレ……? 柔軟……? ……ハッ!? まさか、(あね)さん。朝日さんの寝起きに――」

 

『んん……ふああぁ……っ!? う、梅ちゃん、いつの間に僕のベッドに!?』

『よう朝日、お目覚めか? へへへ、今日も柔軟体操(・・・・)をしに来てやったぜ』

『もう、ダメだって言ってるでしょ。僕は依頼主で、梅ちゃんは警護官なんだよ。こんな不純な関け――あっ……ちょっ、そ、そこはっ!』

『何言ってんだよ朝日。お前のここ(・・)は、もうこんなに固く(・・)なっちまってるじゃねえか?』

『やああぁ……ち、違うもん! 朝だからだもん! 僕はそんな――あっ……やっ……ダ、ダメぇ!』

『うえっへっへっへ! さあて、俺がじっくりとここを柔軟(・・・・・)にしてやるぜぇ』

 

「――(あね)さん。今からでも遅くないから自首して欲しいっス」

「とんでもねえ勘違いをするなあああああっ!?」 

 実に柔軟な妄想であった。

 餡子のナイスリアクションに、ご満悦な朝日の追撃は続く。

「で、梅ちゃん。思い出してくれたー?」

「うぐぐ」

 

 言葉に詰まる梅。

 これはどう考えても大ピンチ。男性を恋人扱いするのがまずいのは周知の事実だ。

 ここで『俺に惚れてる』発言を認めてしまおうものなら、きっと『こっ、ここに妄想で僕のことを辱しめる変態がいますこの変態!』と朝日に騒ぎ立てられ、社会的に死亡確認されること間違いなし。

 

 やべえよやべえよと、日頃はあまり用事がない梅の頭脳もフル稼働中である。

 

「そ……その……あっ、そうだ! 矢地のヤロウは何してやがる? 朝日。ほら、矢地といっしょに行っただろ? そろそろ戻って来てもいい頃じゃねえかと思うんだけどよ」

 

 人間、追い詰められると案外頑張れる。梅にしてはナイスな牽制球であった。

 ここに矢地がいれば、朝日もそこまで悪ふざけ出来まい。状況は大なり小なり改善するはずだと考える。

 

「あっ、矢地さんは用事が出来たから、先にお昼済ましておいて欲しいって」

「ちくしょおおおお――――っ!!」

 

 残念!

 で、結局のところ、朝日が満足するまでからかわれてしまう梅。

 ――が、餡子からすれば、朝日と梅がひたすらイチャコラするのを見せつけられたに等しい状態。

 今度は朝日との関係について、身の潔白を説明するのに四苦八苦する梅であった。

 

◇◆◇

 

 そんなこんなで、現在十一時四十五分。

 そろそろお昼にしようかと、三人の流れがそれとなく決まる。

 

「んー、それじゃあせっかくだから、みんなの使う食堂でご飯食べたいな」

 とは朝日の意見。

「食堂か……そうだな、まだそこまで混んではねえか」

「そうっスね(あね)さん。すぐ行けば大丈夫っスよ」

 

 とは言え、警護課は体育会系女子の集まりだ。

 実のところ梅としては、そんな連中で混み合う食堂に朝日を連れて行くのは遠慮したい。

 しかし、朝日は男性保護省の視察に来ている。その希望は最優先にするべきだろう。

 それに館内に注意喚起は行き渡っているはず。ここは――。

 

「うっし、行ってみっか! 朝日、帽子はちゃんとかぶってろよ」

「はーい。じゃあ、梅ちゃん。僕と腕を組んで――」

「組まねーっての!」

「手を繋いで――」

「歩かねーっての!」

「ちぇー、デートなのにー」

 

 あの手この手でちょっかいをかけてくる朝日をさばいてる間に、食堂の前へ到着。

 

「うわっ、けっこう人多いんだね。……ふふ、でもなんか学食の男子学生のノリみたいでいい感じだなぁ」

「ちっ……先発の連中がそこそこいやがるな。これに並んでたらピークにぶつかっちまうぞ」

 

 予想外に人は多く、食券売場には順番待ちの列が出来ていた。

 学食での思い出にひたる朝日と、対照的に苦い顔の梅。

 このままでは、混雑のピークに巻き込まれるのは間違いない。

 どうしたものかと思った矢先。

 

(あね)さん、朝日さん。ここは自分にお任せっスよ!」

 腰に手をやって、餡子が自信ありげに胸をはる。

「あん? なんか手があんのか?」

「え? 餡子ちゃん。僕は並ぶのとか平気だよ」

「いやいや、朝日さん。そういう訳にはいかないっス」

 すると餡子はインカムの電源を入れて、口元にマイクを当てる。

「あっ、お疲れ様っス、餅月っス。あの、自分の回線を特務部フロアA回線に接続して欲しいっス」

「なぬっ!? おい餡子、お前フロア放送をかけてどうするつもりだよ?」

 

 男性保護省の本庁舎は全二十階。その五階から十一階までが特務部のフロアだ。

 餡子が依頼したのは、五階から十一階の全フロアに流れる館内放送回線に、自分のインカムを繋げることである。そして……。

 

【あーあー、特務部の皆さんお疲れ様っス。えーと、これから視察男性の方が食堂でお昼ご飯を食べることになったっス。だからあんまり混んでると困るんで、時間をずらして来て欲しいっス】

 

 餡子の館内放送を聞いて、みるみる梅の顔が青くなっていく。

「馬鹿かてめえーーっ!? そんな放送かけたら逆効果に決まってんだろうがっ!」

 放送を終えたと同時に、餡子の後頭部を叩いて怒鳴りつけた。

「ふえっ?」

 

 これは梅の言う通りだ。

 基本的に朝日が視察に回らない限り、お目にかかる手段は非常に少ない。

 ところが”休憩時間”の大義名分が通る場所に、噂の美少年が来てますよ。とアピールすればどうなるだろう?

 各フロア騒然に決まっている。

 

 ――デスクで弁当を食べていた者たちは。

『ああッ、手がすべってベントウガーーッ!! これは食堂に向かわねばなるまいッ!』

 

 ――食堂のメニューに飽きて、昼飯は外食に出ようと思っていた者たちは。

『あ゛あ゛ー、今日は無性に食堂の定食が食べたくなってキターーーーーッ!!』

 

 ――あげく、休憩時間が十三時以降の連中も。

『すみません。祖母の遺言で、本日の休憩は十二時からと決まっておりまして……』

 

 結果、男性保護省の始まって以来の最大人数が、同時に食堂へと押し寄せた。

 ――朝に続き、再び矢地ら課長連中がすっ飛んでくることになる。

 

◇◆◇

 

「仕事を増やすなと言ってるだろうが、この大馬鹿者めええええええ!!」

「うっ、ぎゃあああああーーっス!!」

「あのー、矢地さん……その辺で。餡子ちゃんも悪気があってやった訳じゃないし……」

 

 アイアンクローで、餡子を食堂の壁に張り付け状態にしている矢地に朝日がフォローを入れている。

 

「ふわああっ天使、まさに天使っス! 朝日さんのその優しさ、自分、超感どうし――――むぎゃああああっ! や、矢地課長。ギブッス! あ、頭が、頭が壁にめり込みゅうううううぅ」

 

 口から魂がはみ出ている餡子の頭から手を離して、矢地は大きくため息をつく。

 

「はああぁ……まあ、男性の食事時間をこれ以上邪魔する訳にもいかんか……。神崎君。君たちの席はあの奥に取ってあるので、そこでゆっくり食事をしてくれたまえ。食券を買う必要も無いように話はつけてある。好きものを注文して欲しい」

「はい……な、なんかすみません。ありがとうございました」

 

 矢地が指差したのは、食堂の奥にある”あからさまにスペースが取られた”場所。

 床には"無断侵入禁止"と書かれたテープが貼られ、その中心にポツンと四人掛けテーブルが設置されている。

 さらに警護課主導で食堂の人員整理が行わなれ、使用が妥当なものたち以外は十三時まで入場不可となった。

 

「このテープの中に入って、君にちょっかいをかけるような馬鹿者はいない。とは確認済みだが……もし、そんな不届き者がいたら遠慮なく私に言ってくれ。たっぷりと指導(・・)する予定だ――――わかっているな貴様らあああっ!!」

「「「「「ひいいいいっ!? や、矢地課長。りょ、了解でありますううう!」」」」」

 

 朝日に優しく説明をしてから、矢地は鬼の形相で振り返る。

 食堂内の職員たちは、もれなく震え上がっていた。

 ズカズカと食堂を後にする矢地を見送って、朝日ら三人はやっと落ち着いて食事にありついた。

 朝日は本日の和風定食、餡子はカツカレー、梅はカツ丼、ラーメン、カレーのフルコンボである。

 

 ――昼食終了後。

 

 三人は警護課の課長室に一旦戻って、矢地と午後の予定を相談していた。

 

「私は午後に一件緊急の会議が入ってしまってな。何より、午前中をほぼ無駄に潰してしまったのが痛い。それから、梅。お前はすぐに書類再提出の作業だ」

「うげっ!? もうそれかよ」

「うるさいっ! 代わりに作業ヘルプを二名つけてやる。三時間以内で終わらせろ」

「おっ、気が利くじゃねーか? 矢地もたまには――ぎゃふっ!」

 調子に乗る梅の脳天に、矢地の拳が突き刺さる。

「神崎君の為だ、神崎君の! そもそもお前が原因で、午前の時間が減ったのを忘れたとは言わさんぞ」

「えーと、矢地さん? 僕はこの後どうすればいいんですか?」

「ああ、すまない。梅の書類作業が終わるまでは、餅月に各課の案内をさせる予定だ。私も会議が終わり次第合流できると思う。それまで任せたぞ、餅月!」

「じ、自分が朝日さんと二人きりっスか!? ふおおおおっ! が、頑張るっス! 自分、人生で一番頑張るっス!」

「おい、餡子。お前は深く考えずに普通にしときゃいいんだよ……。まあ、朝日を頼むぜ」

「じゃあ、餡子ちゃんよろしくね」

「了解っっっス!!」

 

 やる気まんまん。元気いっぱいで朝日を連れて、餡子は館内の案内を始める。

 スキップで通路を軽やかに進み、行く先々で……。

「あっ、ここのトイレはだいたい()いてるっス、穴場っス」

「あ、うん」

「あっ、ここの自販機は超品揃えがいいっス、穴場っス」

「へー、そうなんだ」

 などと、必要の無い場所を必要以上に案内をしつつ、朝日を先導する。

 

「あの……餡子ちゃん。案内って、多分そういうのと違うような……」

「えっ、そうっスか? じゃあ、もっと穴場なスポットを――」

 

 一生懸命が伝わってくるだけに、対応に困る朝日と、やっぱりご機嫌でルンルンの餡子。

 

 そんな二人から離れること数メートル。

 なんと、この男性保護省内で朝日と餡子をつけ狙う不届きな影が三つ。

 廊下の陰から仲良く頭を三つ並べ、ぼそぼそと相談しながらのぞき込んでいた。

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