男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です! 作:takker
こちらは現在、朝日がピンチを迎えている自販機コーナー。
茶髪と黒髪、不届きな二人の警護官。
これから
「「あ゛あ゛ん!」」
警護官たちは邪魔すんじゃねーよ! と言わんばかりにガラの悪い声を出して後ろを振り向く。
ところがそこには、彼女らを二回りは上回るであろう巨躯の女性が立っていた。
スーツと言うより将校服に近い柄のジャケットとズボン。その服装を豊満な胸部だけでなく、腕と脚の筋肉がよりタイトに見せている。
爬虫類のような瞳をした凛々しい女傑。民間男性警護会社タクティクスリーダー
「「んなっ!?」」
その
「いや、オタクら何やってんのかなぁ~? と思ってさぁ」
含みありげに万里は片目をつむり、
「そ、そりゃあ、お仕事に決まってんだろお。男性が道に迷ってた上に、可哀想にウチとぶつかっちまって倒れたのさあ」
それでも中身がヤクザ者だけはある。平静を取り戻した茶髪がズケズケとのたまう。
「そうかい? あたいにゃ嫌がる男に、無理矢理イチャイチャしようとしてる風景に見えたんだけどさぁ~?」
「はっ、何を言ってんのかねえ? 男性を保護して怪我が無いか調べてるだけだろお?」
「そうそう、それにアンタ。彼の担当警護官じゃないんだろ? 言いがかりつけて無いで引っ込んでな――――っ!?」
理屈をこねる二人の顔をかすめるように、万里の左腕が寺の釣り鐘を突く棒のごとき勢いで通過した。
壁ドンならぬ壁ドゴンッ!!
轟音が響く。新築の壁が
「「ひいいっ!?」」
「いやいや、はいそうですかぁ~ってワケにゃいかないじゃな~い」
「「―――――っ!!」」
明らかにタダ者では無い。万里の威圧感に負け、二人は
「ここは男性福祉が
「おっ、おいっ、だから、ウチらは、そうでなく――――」
しどろもどろになっている茶髪。それを見た万里はペロンと舌なめずりし、ずいっと笑顔を近づけ
「なあ、あたいも交ぜておくれよぉ」
「はっ!?」「へっ!?」
交ぜてくれ。そのあまりにも想定外な言葉に、茶髪と黒髪は驚き顔を見合わせる。
そして一秒……二秒。
二人は安堵とも取れる嫌らしい笑みを万里に向けた。
「あっ、あれえ? もしかしてアンタもいっしょに楽しみたいわけえ?」
「そ、それならそうと早く言ってよ。もう」
悲しいかな、警護官による男性への性犯罪も存在する。
しかも、男性警護に関する法律を逆手に取る性質上立件されにくい。
例えば、今まさに朝日が直面しているのも典型的なパターンだ。
それに、
ここで警護官たちの名誉の為に断言しておくが、そんな行為に及ぶ
ただし朝日の場合、女の理性を飛ばしてしまう美貌も災いしたと言えよう。
「んでぇ、オタクらこれから
万里の一言。これは隠語である。
警護官による男性への性犯罪内容ぶっちぎりナンバーワン。怪我、病気、健康の確認を理由に男性の身体を触りまくる痴女行為。
それを『診察』と犯罪に及ぶ者たちは呼んでいるのだ。
「そうそう、
「それに早く
「いやぁ~嬉しいねぇ。
「あはは、そうかい? あんたも好きだねえ」
一連のやり取りに安心した二人は万里を仲間だと認識する。
自動販売機コーナーの袋小路に、自身らを壁代わりに閉じ込めていた、哀れで可愛い獲物を自慢気に万里の前に披露した。
――と同時。茶髪と黒髪、二人の肩にどしりと万里の太く重い腕がのし掛かる。
そして……。
「あれ? あれあれあれあっれぇ~? こりゃあ、
やたらと嬉しそうに、やたらとわざとらしくセリフが放たれた。
「「なああああああっ!?」」
驚愕。絶句して固まる不届き者二人。
一方の朝日は、突然の出来事にきょとんとして万里を見上げる。
「えっ? ……あれっ? ……た、確か
「ん~、覚えてくれてるたぁ光栄だねぇ。そう万里さ。あたいのことは万里と呼んでくれるかい? び、じ、ん、さ、ん」
ちゃっかり下の名前呼びをリクエストする万里。こんな時でもマイペースは崩さない。
「はっ? えっ!? さっ、ささささ五月雨えっ!?」
「そんな、まさか、こ、この子……あ、あの五月雨の……」
「なぁ美人さん。お嬢様からも教わってるだろぉ? こういう時、ねぇ、ほらぁ、あたいの名前を呼んで、
万里が朝日に何やら促したその言葉は正に効果
茶髪も黒髪も一気に青ざめる。
「おいおいおい! ちょっ、ちょっと待ってよお。ア、アンタさっき自分も交ぜろって? いや、診察するって言ったよねえ?」
「はぁ~? 何言ってんのさぁ。あたいが聞いたのは
すでに状況証拠は確定済みだ。
「なあっ!? まさか? て、てめえ! くっ、くそっ、離せえ!」
気づいた時にはすでに遅し、万里の腕からかかる圧力にその場を離れることも許されない。
「でぇ~ほらぁ~、美人さぁ~ん」
万里は甘ったるい声を流し目に乗せて、朝日に催促をする。
「あ……あっ!? え、えーと」
「ちょっと待って! キミ! ごめん。ごめんね、なんか勘違いさせちゃったかもだけど。何もしないし、道に迷ったと――」
焦る黒髪が、苦しまぎれの言い訳をはじめたところで――。
「万里さん……
朝日の”一言”は発せられた。
「あっ~はっははは! そうそう。えらいねぇ~美人さん。よくできましたぁ。オタクら、これで対暴女法第二条が適用じゃな~い?」
『対暴女法第二条(一部抜粋)』
特定男性警護業に従事する者は、暴女と認められる相手から男性が救助を求めている場合。自らの判断で暴女を逮捕することができる。
「ふっ、ふざけるなっ。ウチらまだ何もしてねえだろ! 誤認逮捕になんぞコラあっ!」
「そうだよアンタ。知り合いなら自分が送ってあげりゃいいだけでしょ?」
例え未遂であろうと男性警察に突き出されるのは、本業が
威嚇に弁解、果ては恫喝、あれこれと
しかし万里にはどこ吹く風。ぐいと二人の頭を抱き寄せる。
「安心しなよぉ~。男性警察の厄介になるこたあないさぁ。なんせオタクら……今からあたいに、ぶっつぶされるんだからねぇえ~~~~~っ!!」
豹変。獲物を狙う大蛇の如く凶悪な表情に変化する。
「はあっ!?」「て、てめえっ!?」
「はっ、第二条補足って奴じゃない!」
『対暴女法第二条(補足)』
状況によっては武力を行使して排除することも許される!
「クソがあっ、えげつない理屈こねやがってえ! ヤクザかこの野郎!」
「いや、ヤクザはあたしらだろ?」
完全に逃げ道は無くなった。
それを直感したのか、ヤクザ者の経験か、二人は即座に戦うことを選択した。
「「おらあっ!!」」
肩に手を回されている体勢を逆利用して、万里のわき腹へと肘打ちを試みる。呼吸を合わせ、茶髪と黒髪の肘が同時に放たれた。
――鈍い音を立て、万里の両わき腹に直撃!
ところが、二人の肘に返ったのは頑丈な大木の
「ぐあっ?」「つうっ?」
反対に肘が痺れる始末だ。
――その刹那。
「があっ!?」
黒髪の視界が突如として塞がれる。万里の右手が黒髪の顔をがっちりとつかみ込んでいた。
一方の茶髪は肩に回された万里の腕が外され、顔を掴みにかかる一瞬の隙を突いて離脱する。
「おっと、今のをかわすたぁなかなか素早いねぇ」
その動きに感心しながらも万里の視線は、離せと叫びジタバタする黒髪に向かう。
「ま、あとのお楽しみだねぇ。とりあえずはオタクからぁ!!」
その頭はまるでハンドボール扱い。投球モーションを思わせる動きで、万里は右腕に力を込め振りかぶった。
「はっはぁっ!!」
掴んだ頭ごと全体重を乗せ、万里の右手が自動販売機へと叩きつけられる。
それなりの体重であろう体格の黒髪だが、空気人形のようにその身体は軽々と宙を舞った!
「ひぎゃぶうっ!!」
プラスチックが砕ける音。鈍い金属音。気の毒なうめき声。全てが同時に響き渡る。
バラバラと床に飛び散るプラスチック片に見本缶、ペットボトル、金属の部品。
自動販売機には、肩まで突き刺さった黒髪の身体が力なくだらんとぶらさがっていた。
「あっはぁ~ん。たまんないねぇ……この感触」
快感に酔いしれ、ペロンと舌なめずり。
そして、万里の爬虫類を思わす眼球がギョロリと動く。
その視線は、たった今腰のベルトから特殊警棒を取り出し、構えをとっている次の獲物へと向けられた。