男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

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第八十話 五月雨五月は思案する

 座敷は十畳ほどの広さの和風個室、人目を気にせず落ち着けて一安心。

 ――なはずが、そこには予定外の先客が一人。

 それが誰かを認識して、苦虫をかみつぶしたような顔の五月が口を開く。

 

「……どうして貴女がここにいらっしゃるのかしら? 万里さん」

 

 ジトッと五月が視線を向けた先には、ごきげんで座布団の上にあぐらをかいている万里の姿があった。

 深夜子と梅は、気まずそうにチラチラと万里へ視線を送っている。

 昨日、万里が朝日の窮地を救った話を聞いているので、あまり強く出れないのだ。

 

「あっれあれぇ? みなさん冷たいねぇ~。美人さんからウチの坊ちゃんに連絡があって、お昼をごちそうしてくれるってからやって来たんだけどねぇ~」

 深夜子ら三人の視線が朝日に集まる。

「うん。その……万里さんにちゃんとお礼してなかったでしょ? だから、今日のお昼をいっしょにって(あるじ)君に頼んだんだ」

 

 朝日の説明で、しぶしぶながら納得の五月たち。

 広めの座卓に五月、万里が隣り合わせ。朝日、梅、深夜子が向かい側に座る。

 

 ――注文を済ませてしばらく。

 

 人気メニューの天ざる蕎麦などを中心に、ずらりとテーブルに料理が並ぶ。

 もちろん梅、深夜子の前には蕎麦のみならず、カツ丼、天丼などのご飯メニューも盛りだくさん。

 

「あ、そう言えば万里さん。主君は?」

「ああ、坊ちゃんは来ないよ。と言うより『特区外に平気で外出とか、相変わらずキミは変わってるね! いくらボクが前衛的な男と言っても、さすがに付き合い切れないよ!』だってさぁ」

「あはは。なるほど」

「でも、この後のホテルで合流する話はOKじゃない」

 

 実は、夏の件が解決して以来。

 朝日と主はメールをやりとりしたり、ネットゲームなどで交流を深めていた。

 なんだかんだと貴重な同年代の男性。しかも、一般的なおとなしい男性よりも強気な主は、朝日と話が合うことが多かったのだ。

 昨日、同じ温泉に来ていることがわかったので、いっしょに遊ぼうと朝日が持ちかけたのである。

 

 それからしばらくは、朝日と主の話題を中心に食事がすすむ。

 ――が、何故か途中から、梅と万里による蕎麦の大食い合戦が勃発。結果は梅の圧勝。

 相変わらず理解不能の大食いっぷりを見せつけた。 

 挙げ句。

 ただいま朝日、深夜子と食後のデザートを選んでいる真っ最中。

 その光景をなんとも言えない表情で見つめる五月の肩に、突然万里が腕を回して引き寄せた。

 

「あ~そうだそうだ。なぁ、お嬢様」

「いきなり、な、なんですのっ!? 暑苦しいで――」

(うちの社長(ボス)ルートの情報でさぁ……)

(!? ……何かありましたの?)

 

 耳打ちする万里の声色で内容を察して、五月も声をひそめて耳を傾ける。

 

(ああ、どうも昨晩から桐生傘下の暴力団連中が本館側に入ってるらしいねぇ)

(桐生の? ……でも、万里さん。五月雨(うち)海土路(そちら)も、そもそも桐生と同じ経推同盟(けいすいどうめい)の企業。昨日の件も三社通じて決着済みですわ。どうしてまた?)

(あ~、確かオタクのオチビちゃん。前に一度奴らとやらかしてんじゃな~い? 昨日はあたいが間に入ったけどさぁ、元は同じく美人さんが原因。ヤクザもんが二回連続で同じ相手に面子を潰されたとあっちゃあねぇ……わかんだろぉ) 

(しかし、一度収めた問題を蒸し返して……以前に、同盟内での表だった揉め事はご法度ですわ。それに、桐生関連の暴力団と言えば”鬼竜会(きりゅうかい)”ですわよね。今更、その傘下組織の連中ごときが……何もできる事はありませんでしょうに) 

(影嶋一家(かげじまいっか))

(なっ!?)

 

 その一言で、五月の顔色が変わった。

 

(ありゃあ? やっぱり。お嬢様ともあろう者が知らなかったのかい? 前回も、今回も、オタクらと揉めたのは影嶋一家の連中(したっぱ)じゃない)

(そんなっ……!? よりにもよって……あの(・・))

 

 五月が絶句する理由。

 

 ――指定暴力団『影嶋一家』。

 武蔵区に本拠地を置く。構成員三十名程度の小規模ながら、過激な武闘派で知られる暴力団。

 表向きには組織に所属していない単独勢力とされる。

 しかし、実態は国内を二分する大型組織の一つ『鬼竜会(きりゅうかい)』の。つまりは、桐生建設関連の末端組織にして実働部隊である。

 

(まあ、海土路(ウチ)五月雨(オタク)も、鬼竜会と揉めることはないけどさぁ、ヤクザもんの定番は『こいつらが勝手にやりました。ウチらは何にも関与してませ~ん』だよねぇ?)

(…………それは)

 

 万里の言う通りだ。

 影嶋一家は鬼竜会(桐生建設)と無関係の(てい)で、荒事をこなしている実働部隊。

 つとめて冷静にしていた五月だが、動揺が隠せない。

 

(それからもう一つ。どうも影嶋の若頭(・・・・・)までお目見えしてるらしいねぇ)

(……影嶋(かげじま)……不知火(しらぬい))

(さすがお嬢様、よくご存知で。んじゃ、すまないけど。あたいも社長(ボス)からあんまベラベラしゃべるなって言われてるもんでさぁ)

(いえ、万里さん。これで充分。情報、感謝しますわ)

(そうかい。ま、今すぐどうこうって話じゃないからねぇ。この後は、ウチの坊ちゃんと遊ぶ約束もしてるみたいだしさぁ)

(ええ、この件は今晩にでもゆっくり検討させていただきますわ。万が一にも朝日様へ害が及ぶなら、五月雨と桐生で戦争も致し方なしですわね)

(ははっ、怖い怖い。それにオタクにゃ、あの(・・)オチビちゃんがいるじゃな~い。影嶋一家と言えど一筋縄じゃいかないだろうねぇ――)

 

 五月と万里がヒソヒソと密談をしている間に、朝日たちのデザートタイムは終了。

 万里と別れて一旦ホテルへと戻ることになった。

 ――その帰り道。

 

「あの……朝日様?」

 

 ふと朝日が五月の手を取って、心配気に顔を見上げていた。

 五月としては、顔に出さないよう心掛けていたつもりだったのだが……朝日は何かを察したようだ。

 その手をきゅっと握りしめてくる。

 

「あの……五月さん。さっきから、ちょっと表情が暗いみたいだけど……大丈夫かなって思って。その、僕にできることが――――うわぷっ!?」

「ん゛ま゛あ゛っ、な、ん、て、お優しい! 大丈夫、なんでもありませんわ。もう、朝日様ったら! そんなに五月のことを……ああ、五月は本当に幸福者ですわあああああっ!!」

 

 五月はあえて(・・・)過剰に反応し、気取られないように努力する。

 だから、あえて(・・・)自分の胸に朝日の顔が埋まるように抱きしめた。とても心地よい。

 

「ふぁっ!? 五月(さっきー)、公衆の面前でそれはアウト」

「おいこら! 突然朝日を抱きしめて何してやがんだ!?」

 

 この迫真の演技に、深夜子たちも想定通りの反応。ゆえに五月は動じない。

 これは素振り(・・・)なのだ。朝日に心配をさせないためなのだ。

 決して欲望からなどではない。

 すっごくいい匂いだし、胸元でジタバタする朝日は超可愛いし、ずっと抱きしめていたい。

 しかしッ、それでもッ、五月雨五月にやましい気持ちなど微塵もないのだッ!

 

 それから、深夜子らの物理的ツッコミ付きで朝日と引き剥がされてしまった。とても名残惜しい――ではなく。

 五月は頭の中で、冷静にこれからの対処方法を組み上げる。

 あとわずかで手に届くところまで来た愛しの朝日との任務完了(ゴールイン)

 何人(なんぴと)たりともその邪魔は許さない。――そして、無論それは五月だけに限られたことではないのだ。

 

◇◆◇

 

 海土路(みどろ)(あるじ)との待ち合わせ時間近く。

 朝日たちは宿泊している男性福祉対応のリゾートホテル『別館海神(わだつみ)』、その三階にあるロビーラウンジへと来ていた。

 このフロアには、アミューズメント施設が色々と揃っている。

 朝日は主とここである遊び(・・・・)をする約束をしていた。

 もちろん待ち合わせ場所のラウンジは、高級ホテル並みにティータイムメニューも充実しており、深夜子と梅がさっそくメニューからスイーツをあれこれ物色している。

 

 ――さほど待たずして主たちが姿を現す。

 

 主の後ろに控えるのは、蛇内(へびうち)万里(ばんり)流石寺(りゅうせきじ)月美(つきみ)、そして姉の花美(はなみ)ではなく、えびす顔の肉だるま丸大(まるだい)公子(きみこ)ら、タクティクスの面々だ。

 

「やあ、朝日クン待たせたね。十月の健康診断以来かな――って、どうしてキミは真っ昼間から浴衣姿なのかなっ!?」

 開口一番。

 挨拶と同時にツッコミをいれるキノコヘアにしてモブフェイスのお坊ちゃま。海土路(みどろ)(あるじ)十八歳である。

「えへへ、会うのは久しぶりだね主君。だって温泉卓球(・・・・)だよ? 正装はこれに決まってるじゃん!」

 挨拶半分に胸をはって、浴衣の正当性を主張する朝日。

 

 そう、朝日が主と約束をしていた遊びは卓球勝負。温泉と言えば、何故か設置されている卓球台がお約束。

 なのだが――ここは場末の温泉宿とはワケが違う高級宿。

 フロア内には本格的な卓球場が設置されており、貸し出しラケットも種類豊富。シェーク、ペン、それぞれが戦型に合わせたラバーまで選べる充実ぶり。

 浴衣姿にスリッパでやる気満々の朝日とは対象的に、主は有名メーカーの卓球用ユニフォーム姿。自前のラケットも手に持って、何やら自信ありげな様子をみせている。

 

「ふふん、朝日クン。キミのメールに少しは腕に覚えがあるような事が書いてあったけど――」

(おっ、チャーシューじゃねえか? お前も来てたのかよ。プロレスの時以来だな)

(あひいいっ!? やっ、ややややや大和梅ぇ!? いっ、いいいいやあああああああっ!!)

「実はボクのママが卓球のオリンピック選手と知り合いでね――」

(ちょっとチビ猫! (きみ)ちゃんが怯えてるですよ! 近寄らないで欲しいですよっ!!)

(はあ? 知るかよ、別に俺はなんにもしてねぇだろ? ……にしても、お前はいつ見てもちんちくりんだな、眼鏡チビ)

「もちろん! 日頃から色々と身体を鍛えてるボクだけど。卓球に関しては昔からプロの指導を――」

(んなあっ!? 相っ変わらずブーメランがお得意ですよチビ猫はっ! 月美はスタイ――うっきゃああああああっ!?)

(月美(つきみん)おっひさ。そして今日もスーツの下はエロビッチな下着。ひゅー)

(なっ、なっ、なんで月美の下着をチェックするのですよっ!? さわるな変態っ、ノータッチですよおおおっ!!)

「うるさぁーーーっい! なんでオマエらはボクが話してる時に後ろで騒ぐんだああああああっ!?」

 

 なんの因果か。梅とめぐり合わせのいい丸大公子が悲鳴をあげ、そこに月美が割って入り、梅と額をこすりあわさんばかりに張り合っている。すると後ろから、深夜子がわさわさと月美のボディチェック。

 双方入り交じって、賑やかなやり取りがはじまる。

 怒鳴りちらす主を「まあまあ」となだめながら朝日もそこに加わる。

 そんな光景を、少し離れた場所から生暖かい目で見つめる二人がいた。

 

「あっはははは! やっぱ面白い連中だねぇ」

「まったく。よく飽きませんこと……」

 和気あいあいとしている朝日たちを見守りながら、ラウンジのソファーで隣りあってお茶を飲んでいる五月と万里。

「それで……万里さん。こちらが約束の品ですわ」

 上品な仕草でティーカップをソーサーに置いて、五月はポケットから取り出したUSBメモリーを万里の前へと差し出す。

「ん~、さすがはお嬢様。仕事が早いねぇ~」

「はぁ、朝日様のためとは言え……(わたくし)ともあろう者がこんな真似を……」

 

 上機嫌でそれを受け取る万里とは真逆に、ため息交じりで苦い顔の五月。少々後ろめたい取引の模様である。

 

「あ~たまんないねぇ~。男への愛に狂って次々と悪事に手を染め、堕ちていく美女(イケメン)エリート警護官! そそるじゃな~い」

 万里が胸の前で手を組んで、柄に合わない乙女チックな声を出す。 

「なあっ!? なっ、ななな何を人聞きの悪いことをっ! 大事の前の小事。ついでに(・・・・)実家からデータを借りただけ(・・・・・)ですわっ!!」

 顔を真っ赤にした五月がバンッ! と机を叩いて叫びながら立ち上がる。

 ……が、「あ――――っ」数秒して、周りの客からのいぶかしげな視線に気づきソファーへと縮こまった。

 

「とにかく万里さん。ちゃんとした依頼なのですから――――っ!!」

「ああ、大丈夫さぁ。もう花美が本館(むこう)潜入(もぐ)ってるからねぇ~、ご依頼の情報は夕方にはお渡しできるさね。しかし驚いたよぉ。お嬢様の方からあたいに電話とか珍しいと思ったら……わざわざウチらに仕事の依頼(・・・・・)とはねぇ。でもさぁ、オタクにゃ寝待ってお嬢ちゃんがいるだろうになんでまた?」

「単純に時間と人手不足ですわ。深夜子さんには夜に動いていただくつもりですから」

「はぁん、色々考えてんだねぇ――おっと、そろそろ坊ちゃんたちを追いかけますかねぇ」

 

 話し込んでいる間に、朝日たちはすでに卓球場へと移動済み。五月と万里も話を切り上げて後を追った。

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