男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です! 作:takker
「あら? 随分と盛り上がってますわね」
どうやら朝日と主の対戦は白熱しているようだ。
五月が会場をのぞくと。観戦している深夜子、梅、月美、公子らが、興奮気味に声援を送っていた。
それもそのはず。
朝日は中学校時代に卓球部へ所属しており、団体戦レギュラーに選ばれるほどの実力。
一方で主は豪語した通り、オリンピッククラスの選手に指導を受けており相当な腕前だ。
朝日は卓球台から極力離れず、反射神経とアップテンポな攻めを駆使する前陣速攻型。
対する主は受け中心で、強い下回転の打ち返しを巧みに使い。チャンスボールをものにするカット主戦型。
二人を比較すれば、主の方が技術は上なのだが、とにかく朝日の(この世界基準で)男性離れしたパワーとスピードに手を焼いている。
結果、卓球素人が見ても楽しめる高レベルの対戦が繰り広げられていた。
――ピンポン球とラケットが、軽快なラリー音を卓球台の上でリズミカルに響かせる。
「くっ、ほんとにキミの身体能力にはあきれるよ――っと!」
そんな中、主がチャンスボールを見逃さずにスマッシュを叩き込む。朝日はなんとかスマッシュに食らいつき、繰り返し拾っては粘り続ける。
「貰ったぞ!!」
数回ラリーしたのち、主の強烈なスマッシュが朝日の逆サイド、左側に離れた厳しいコースに決まった。
「くうっ!」
だが、朝日も素早い反応を見せる。ボールを捕らえようと、すぐさま逆サイドへ猛ダッシュをかけた。
――ボールまで数センチ!
スライディング並みの低姿勢で走りつつ、ラケットを持つ手をぐいと伸ばす。
しかし、残念ながらわずかの差で捕らえ切れない! ボールは床へと転がった。
次の瞬間。
「うわあっ!」
スリッパで踏んばりがきかなった朝日が体勢を崩してしまう。
「「あっ、危ない(ですよっ)!!」」
勢い余って、朝日が向かうその先には別の卓球台がある。左サイド側で観戦していた月美と公子が声を上げた。
「朝日君!」「朝日様!」「朝日!」
深夜子、梅、五月の背筋が凍りつく。
まずい! 朝日の
反射的に飛び出すも、右サイド側で観戦していて距離が離れていたのが災いする。
カバーが間に合わない! 三人の脳裏に、最悪の想像が横切った。
もし、朝日が
この世界で、男性の顔に残る傷がつくことはそれほどに重い。
必死の形相で手を伸ばす三人。
だが、届かない。
朝日の身体は、無情にも卓球台へと近づいて行った――――。
「おおっ~と! 間一髪でしたねぇ。お怪我はありませんか~? 神崎さぁ~ん」
まさに間一髪。丸大公子が卓球台を背にして、その丸々としたお腹のクッションで朝日を受け止めた。
ちょうど左サイド側で観戦していた彼女が一番近くにいたのだ。
この場にいるタクティクスメンバーはA級ライセンスを持った民間男性警護官たち。
みすみす男性が怪我をするのを見逃すなどありえない。
朝日の無事に、深夜子たちもホッと胸を撫で下ろす。
「ご、ごめんなさい。ありがとうございました」
「ふぉっほっほっほ。いえいえ、神崎さんは大事な男せ――――いいいっ!?」
突如、公子のえびす顔の両眼が限界まで見開かれ血走った。
現在、公子はちょうど朝日を抱きかかえて
さらに、朝日の浴衣は衝撃で着崩れている。それはつまり――。
「ゆ、ゆゆゆゆ浴衣の下が、はっ、肌いろ? ……ちっ、ちく、ちく、びっ、びっ、びでぶっ!?」
指先一つでダウンさせられたかの如く、豪快に鼻血を吹き出し倒れ込む公子であった。
「ちょおおおおっ!? き、
「あっ……あはは……」
叫び声を上げて駆けよる月美に、照れ笑いを見せつつ朝日はいそいそと浴衣をなおす。
「ちょっと待てええええ!?」
そこに主が凄い剣幕ですっ飛んできた。がっと朝日の浴衣をつかんで、胸元を確認する。
「どっ、どっ、どうしてキミは上半身裸で浴衣を着ているんだあああああああっ!?」
「え? …………あっ、えーと、もう! 主君のえっちい」
と、せっかくなのでノっかってみた朝日。
「そうじゃなぁーーーいっ! きっ、きききキミは自分が男であることを少しは意識したらどうなんだっ!? 普通はTシャツを下に――――ハッ!?」
的確にツッコミを入れる主であったが、ここで何かに気づく。
言葉を切ると、深夜子ら三人に厳しい視線を向けた。
「おい! そこのMaps! キミら、なんで着替えの時に止めてないんだよっ!?」
実にするどい指摘に、深夜子、五月、梅が不自然に顔を背ける。
「「「エッ、シッ、シラナカッタナー(デスワー)」」」
しかも、表情が恐ろしく白々しい!
「ウソをつけええええ! それ、絶対に知ってただろおおおお!? 朝日クン! いったいどうなってるんだキミのMapsたちはっ!?」
「え? でも僕、昨日も浴衣の下は――――ふがっ!?」
「朝日君それ以上いけない」「べ、別に俺は見たかったわけじゃ――ぐはっ!?」「オホホホホ。たっ、たまさか偶然図らずも、朝日様がお忘れになっただけですわ。海土路様――」
まず、朝日による(この世界の)常識的にアウトな発言を深夜子が口をふさいで止める。
続けて、しっかり口を滑らせた梅の頭に五月が肘鉄を落とすと同時に、流れるように主の前に割って出て言い訳開始。
この
念のために説明しておくと、男性用の浴衣は女性用とつくりが違う。
無論。それでもTシャツを着用して、肉食女性たちからの熱い視線をガードするのが男性の常識だ。
ところが初日。
本題に戻ろう。――結局、卓球勝負は僅差で主の勝利であった。
お互いにちょうどよい対戦相手だったと健闘を讃えあい。卓球の練習場がある主の家に、今度は朝日が遊びに行く約束などもした。
それでこの後どうする? の話題になったところで、朝日が希望を口に出す。
「そうだ。ねえ、主君。汗かいたからさ、お風呂に入らない」
「ん? そうだね。確かにそれは悪くないかな?」
「じゃあさ! せっかくの温泉だから、二人で
「「「「「えっ?」」」」」
「……あれ?」
僕、また何か言っちゃいました? きょとんとする朝日の一言に、微妙な空気がただよう。
主の後ろで、一人万里が腹を抱えて笑っている。
かたや、顔を赤くして口をぱくぱくとさせている主。ワナワナと震えながら叫びだす。
「おっ、おっ、男が露天風呂とか入れる訳ないだろおおおおおおっ!?」
「えっ!? そうなの?」
「そうなのじゃないよっ! 男が野外で風呂に入るとか、ただの露出狂だよっ!!」
これまた朝日にとって違和感だらけの主張だが、この世界の常識――いや、女性を甘く見てはいけない。
仮に朝日と主が露天風呂に入ろうものなら、半径数キロ以内に”バードウォッチング”と称した野鳥の会会員も真っ青の望遠装備で、女性たちが殺到すること受け合いである。
そういったワケで、朝日の宿泊している『
その後は夕食を共にして、解散の流れで以降の予定が決まった。
そして、――全員集合となった大広間にて、またしても主の声が響く。
「えっ? い、いっしょに入ろうって!?」
「そうだよ。せっかくの男同士! 裸の付き合いって奴かな?」
「む、う、いや、まあ……しかし、キミは本当に変わってるね。ほんとボクじゃないと付き合い切れないと思うよ!」
男同士で風呂に入る。
圧倒的に男性が少ないこの世界では、交友関係としてもレアケースだ。
朝日の積極性に主が戸惑うのも無理はない。まあ、意外とまんざらでもなさそうではあった。
――が、それより何より。一番反応を示しているのは……。
「あ、主様と神崎さんが……お、お風呂ですよ……流しっこ……ですよ(ゴクリ)」
ぶ厚い眼鏡のレンズが血走っている(かのような)月美である。
「おんやぁ~? 月美は一体何を想像して顔を真っ赤にしてんのかねぇ~」
「うひいっ!? あっ、あああっ、ば、ばばばば万里
「ぷっ、嘘つけよ。顔に出まくりじゃねえか、眼鏡チビ」
ニヤニヤとした万里に思い切り冷やかされ、ついでに梅からも
「まったく、何かにつけて騒がし方々ですわ――――あら……本部の
朝日と主を風呂場へと送り出し、背後の騒ぎにぼやいていた五月のスマホに呼び出しがかかった。
「珍しいですわね……はい、五月雨ですわ。いかがなされました?」
『これは五月雨さん。忙しいところを申し訳ありません。重隅です。実は昨日の報告書を確認したところ、神崎さんと仲の良い海土路さんが宿泊されているとのこと。もしかして、二人がいっしょにお風呂に入るなどと言うけしから尊いシチュ――』
「ん、なんだ五月? 本部か?」
「いいえ、なんでもありませんわ。業務用のスマホが腐っていたみたいですわね」
「なんだよそれ……」
スマホをカバンに放り込むも、五月は軽い頭痛を覚える。
とりあえず、お茶でも飲んで落ち着こうかと考えたその時。
「お嬢様。花美から連絡が入ったよ」
ぽんと肩に万里の手が置かれた。
視線で感謝の意を伝え、五月は無言で万里から手渡されたタブレットに目を通し……。
「――――――っ!?」
絶句して下唇を噛む。その調査内容は、五月にとって想定内と言えるものではなかった。
◇◆◇
夕食を終えて、主たちも帰ったところで一区切り。
時間は現在午後八時過ぎ。
大広間に朝日と梅の二人を残して、五月は深夜子と風呂に入っていた。
二人で檜造りの湯船の縁に腰かけて、もちろん仲良く全裸である。
五月の二つの膨らみは実に豊かで形も良く、引き締まった腰のラインと相まって、深夜子とは非常に対象的な体型だ。
「――ですので、本館にある小宴会場。ここへ本日の深夜に集合しているはずですわ。人数は若頭の
「ふーん。その影嶋不知火って強いの?」
「……ですわね。深夜子さん。二年前に起きた『稲田組事件』はご存知?」
「んー、
「ですわ。男性特区の利権に絡んだ抗争。その中で、稲田組の本部事務所へ単独で殴り込みをかけて壊滅させたのが、当時弱冠十八歳の影嶋不知火ですわ」
「へー」
「
「そっか。で、どうするの
珍しく深夜子も真剣な表情で話を聞いている。
少しの沈黙の後、五月は口を閉じたまま石畳の床側へと降りる。
「……少なくとも、朝日様を狙って動くのは間違いないでしょうが、その証拠がなければ動きようもありませんわ」
「向こうが手を出すまで待つの?」
「ふふ、まさか。当然、朝日様の安全が最優先。鬼竜会と影嶋一家の事務所に待機している構成員の対策は、もうお母様にお願い済み。それと、桐生建設は
「ん。わかった。それであたしは何すればいい?」
「………………」
深夜子から問われた五月は、少し
「……そう、ですわね。朝日様のリスクを最大限に減らそうとした場合。最大の、一番危険な任務は、影嶋不知火たちから朝日様を――いえ、
そう言い切ったと同時に、五月は深夜子へ向かって土下座をした。
温泉の湯が流れる石畳の上で、深々と頭を下げる。
「深夜子さん! 無茶を承知でお願いしますわ! 朝日様のために、そのお命をかけていただけますでしょうか? ひどく危険な情報収集任務を貴女に押しつけているのはわかっていますわ。でも、どうか、どうか――――ふえっ? むきゃあああああああっ!?」
いつの間にか、土下座している五月の背後へまわり、そのたわわな両胸を深夜子がむにむにと掴んでいた。
「何いっ、91センチ!? 成長している……だと……!?」
「なっ、ななななな何をされますのおおおおおおっ!?」
転がるようにその場から離れ、五月は胸を両腕でガードする。
「
あっけらかんと深夜子がいい放つ。
「み、深夜……子さん……」
その意図を感じ、五月は声を詰まらせ涙をぬぐう。
――愛する朝日のためならば、寝待深夜子はためらわない。