男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です! 作:takker
苦手な方はご注意ください。
――組員たちの隙をついて深夜子が駆け出す!
「んっ?」「えっ?」
手前の二人が、深夜子の接近に気づいた時にはもう遅い。
「――ぎゃふっ!?」「――ぐはぁ!?」
その衝撃は、砲丸でもぶつけられたのかと錯覚するレベル。
二人は体勢を持ち直すこともなく、意識を手放し、その場に崩れ落ちた。
「なっ!? こいつ、今何をしやがった!?」
後ろで一部始終を見ていた組員の一人が驚愕する。
今、倒れた二人と深夜子の間は二メートル以上は空いていたのだ。
これぞ寝待流指弾術『
出掛けにネタが滑った奴である。その威力はいつかのポップコーンとはワケが違う。
「くそおっ! 何か手に持ってやがるぞ?」
「飛び道具か? おい、間合いをつぶせ! 身体掴んで動きを止め――ぐぎゃ!?」
深夜子はわずかな隙も見逃さない。指示に集中していた一人を『
これで、ここから出口までの間に残るは二人。
だが、たどり着くまでにもう二人、いや、三人は加わるだろう。
しかも、残りの二人に間合いを詰められてしまった。これでは『
想定より動きが良い、なかなか厄介な連中だ。深夜子は一旦足を止める。
「はぁ、お腹空いた」
ついでに愚痴も漏れた。
「やっ、やろう! バカにしてんのかぁ!?」
おっと、意図せず挑発成功。愚痴を聞いた組員の一人が怒って鉄パイプを振り上げてきた。
「ほわっちゃあ」
これはラッキー隙だらけ。がら空きになった顎へ向け、深夜子は右回し蹴りを放つ。
「――あがっ!?」
カウンター気味に蹴りが入って、あっさりと意識を刈り取ることに成功。しかし、その陰からもう一人の組員が飛び出てきた。
「うおらあああっ!」
深夜子の胴をつかむように、低姿勢でタックルをしかけてくる。
蹴りの戻り際を狙っての一撃。本当に厄介な連中だ。
これは
「おら! 捕まえたぎゃあああああ!?」
――次の瞬間。
深夜子にタックルを成功させたはずの組員は、左肩をかばいながら悶絶していた。
「寝待流格闘術――『
蹴り足を戻す隙をついて、確実にタックルは入った。
しかし、そこから胴締めが決まる寸前。深夜子は組員の左腕に
そして、まるでウナギが握り締める手から滑り出るかの如く、組員の背後へするりと抜け出した。
相手の左肩脱臼のオマケ付きである。
「なんだよ今の? 捕まったはずなのに……なんで?」
「そ、そんな、コイツ……一体何モンだ!?」
わずか一分にも満たない間に、五人がやられるという異常事態。さすがの影嶋一家組員たちにも動揺が走る。
「てめえ! 一体何をしやがった?」
「んー、肩を外しただけ?」
「んなこたぁ見りゃわかるわ!」
「くそっ、舐めた返事しやがって!」
「え? ……あっ、んーと。お腹減ったのは
「ちくしょう会話が成立しねえ!」
深夜子さんは初対面の方々とお話しするのは苦手なのだ! 人見知りなのだ!
なんだかよく分からないが、相手が動揺してくれるならば話は早い。
出口の扉までもう少し。組員たちは何故か自分を警戒して動きが鈍っている。
深夜子は交戦を控え、組員たちの間を抜きにかかった。
一人は跳び箱でも越えるようにして、一人はその顔を踏み台にして、深夜子は軽業師のように飛び跳ね、組員たちをかわし、翻弄する。
これで
そのまま外に転げ出ることができれば、任務完了したも同然だ。
――しかし!
「キャハハッ! もしかして逃げ切れるとか思っちゃったぁ? ざぁ~んねん。不知火ちゃんが間に合っちゃいましたぁ~!」
「なっ!?」
まさに深夜子が床に着地したと同時。背後から不知火の声が響き、鉄棍が唸りを上げて襲いかかってくる!
どうやって追いつかれた!?
当然ながら、深夜子は最も交戦したくない相手である不知火との位置関係も考慮して逃げを打った。
わずか数秒間のアドバンテージとは言え、それを埋められた事実に驚きを隠せない。
「――くっ! のわっ!? うわたっ!?」
考える間もなく。鉄棍による突きが深夜子の足元を狙って二発、三発と床をえぐる。
厚手の絨毯に、直径4センチほどの穴がしっかりと残る。
不知火の鉄棍は長さ六尺(約180センチ)、先端が
深夜子は飛び跳ねるようにかわしながら、鉄棍の長さと形状をしっかり把握する。
「じゃあ、土山ぁ~! 不知火ちゃんが遊んでる間にぃ~固めちゃう感じぃ? キャハッ! それからぁ~、誰か来ても邪魔になるからぁおまかせでよっろぉ~」
軽い口調とは別物。
中段に構えた鉄棍の尖端を深夜子に向け、ゆらゆらと揺らしながら、不知火はじわりじわりと間合いを詰めてくる。
一目でわかる隙のない構え。もう強行突破が困難なのは明白だ。
不知火と見合ったまま数秒間が経過。指示された組員たちも動き出してしまった。
「お前ら、これから
「「「了解しやした!」」」
これではもう戦いながら次のチャンスを伺うしかない。
一対一になった今、集中あるのみ。深夜子は頭を切り替える。
鉄棍のリーチは把握した。
バックステップで間合いを取りつつ、両手にそれぞれ八枚のゲーセン用コインをこっそりと握り込む。
「ひゅ~やっぱ、いい動きしってるぅ~。キャハッ! 楽しめそぅ――――って、ありぃ?」
ここは出し惜しみせず
一秒間に十六連射!
『
「キャハハッ!」
目の前に広がり迫る
素早く鉄棍の中心に両手を移動させると、猛烈な勢いで回転させた!
カラフルな虹色の円形盾が不知火の前に描かれ現れる。
『
「すっごぉ~い! 今の手品マジでウケるんですけどぉ、コインを弾いてんのぉ? キャハッ! チョ~器用。……んじゃあ~、お礼にぃ~、不知火ちゃんの手品も見せたげるよぉ。キャハハッ!!」
軽い口調でそう言いながら、足を引き、姿勢を低くし、陸上競技スタート直前と言わんばかりの体勢で鉄棍を構える。
そして、不知火が
「――キャハハッ! ハロハロ~」
ほんの一瞬。二メートル以上間合いがあった深夜子の
「んなぁっ!?」
いつの間に? 目は離していなかった。
不意を打たれた深夜子の頭上に、鉄棍の降り下ろし攻撃が迫る。
「くうっ」
それでも持ち前の反射神経で、身体をひねってギリギリでかわす。
鉄棍は空を切って床に叩きつけられた。
――にもかかわらず不知火はニヤリと口元を歪めている。
そう、鉄棍術の本領はここからである。
空振った鉄棍が
床を打った力を利用して、生き物のように鉄棍をうねらせる。加速した尖端を、深夜子の胴体に向けて突き放つ!
「キャハッ! くらえ…………えええっ?」
その時。不知火の目に映ったのはしゃがんだ状態から、
「はあああああっ!?」
さすがの不知火も驚愕で手元が狂う。
それでも勢いで左側の深夜子へと鉄棍を突き入れた瞬間。――そこには何もいない。
まるで、元々
「ちょっと、ちょっと、今の手品さすがにヤバくなぁ~い? 分身系女子とかチョ~キモいんですけどぉ」
「寝待流体術――『
どうやら、自分が思っていた以上に厄介な相手らしい。深夜子と不知火、お互いに同様の再評価を行う。
「……ねえ、
「あたし、何やってるかほとんどわかんなかった。アイツ……マジやばくね?」
どっちもどっち、観戦している組員たちは人間離れした技の応酬に呆然となっていた。