こんな青春があってもいいんじゃないか? 作:青木 翼/ペンシルバー
何の変哲もない高校の、何の変哲もない教室に、何の変哲もない二人の男子生徒が窓際に座っていた。
彼らの名前は相坂 悠斗・真壁 翔太―――互いの付き合いは小学校の頃から続いており、自他共に認める親友コンビである。
そんな二人は今日も昼休憩を共に過ごしていた。
だが、彼らの会話は『何の変哲もない』と表現することができないようなものであった。
「なぁ、悠斗。」
「なんだ?」
「巨乳と貧乳、どっちが好き?」
しかし、こんな翔太の突拍子もない質問も、悠斗にとっては日常茶飯事なのである。
「そうだなぁ……やっぱり巨乳の方が好きだな。」
「そうか……なぁ、巨乳のどんなところが好きなんだ?」
そう聞かれてしまうと、悠斗は言葉に詰まってしまった。
自分のオカズ率は巨乳の方が多いということもあるし、直感的に巨乳の方が良いと思っている。だからこそ、自分は巨乳の方が好きなんじゃないかと悠斗は思っていた。
だが、その理由は何なんだ? ……という話になると、確かに難しい話なのである。
「いや、まぁ、大きい方が揉み心地やズリ心地が良いからじゃないか?」
苦し紛れの返答に無理があることは悠斗自身が分かっていたことだし、実際、翔太から言われることは、
「お前、揉んだりズリしてもらったことあるのか? ……しかも、貧乳と巨乳の両方ともに。」
残念ながら悠斗は未経験とかそれ以前に、彼女すらできたことなど一度もない。もちろん、翔太の方も一度もない有様である。つまり、比較をすることなど不可能であり、証拠としては不十分なのである。
「そう言う翔太の方こそ、自分の好みの理由について言えるのかよ。」
「よくぞ聞いてくれた。 ふっふっふ、俺の持論を聞いてしまったら、反論なんてできねぇよ。」
「おぉ、そこまで自信があるのか、ぜひ聞かせてもらおうか。」
「まかせろ。」
翔太は椅子の座り方を深くし、腕を組んだ後、神妙な面持ちで語りだした。
「人間は、自分に持ってない物が欲しくなる生き物なんだ。」
「ほぅ?」
「男に無くて、女にあるモノそれって、な~んだ?。」
「なるほど、それで『おっぱい』………それで『巨乳』………ということなんだな!! 翔太、やっぱりお前はすげぇよ!! 」
「くくくくくく、そう慌てるなよ悠斗。言っておくが俺の持論はまだ終わっちゃいないんだぜ。」
「何!? まだこれ以上に理由があると言うのか!? 」
何となくでしか答えることができなかった悠斗にとって、翔太の答えは完璧に思えた。
だがしかし、翔太はそれでは足りないと言っているのだ。
「今のは、【人間の本能】をベースにした意見だ………これから話すことは、【生物の本能】をベースにした意見。」
「生物の本能?」
「そうだ、ありとあらゆる生物に共通して言われていることがある。それは、種の繁栄。そして、種の繁栄こそが生物の本望であり生物の本能になる。」
「……っは!! 分かったぞ。僕に言わせてくれ。」
「いいぞ。」
「種を反映させるためには子供を産む必要がある。 子供を産むには健康な母親が必要となる。 では、どこを基準にしたら、何を見たら健康なメスであるということが分かるのか………おっぱいを見よ。さすれば道は開かん。」
「いいぞ。悠斗の思考もだんだん真理へと近づいてきているな。」
翔太は満足そうに頷いた。
「よし、悠斗。では、次は逆について考えるのだ。」
「逆? 逆って?」
この話は終ったのではなかったのか?
だが、翔太の表情を見る限り、ここで終わりではなさそうだ。
むしろ、ここからが本番であるかのように思えてしまう。
足りない思考能力をフルに使って悠斗は考える。
「そもそもの議題は……巨乳と……貧乳!! そうだよ、世の中には貧乳好きだっている。彼らの証明が終わらない限り、僕らは巨乳好きであると断言することができない!! だって、貧乳に対して何の議論もしていないじゃないか!!」
「そうだ……いいぞ悠斗……もっとだ、もっと踏み込んで来い。」
この時、翔太は悠斗に期待していた。
この男なら、エロスの境地に立つことができるのではないだろうか?
自分がたどり着けなかった領域へと足を踏み入れることができるのではないか?
悠斗とは長い付き合いではあるが、何やかんや言ってこういった『下品な議論』というものはあまりしてこなかった。
それは悠斗があまりこの手の話に対していい気ではなさそうだったからである。
しかし、今回は食いついてきた。
そして、意外にもその思考は悪くなかった。
「翔太、お前は僕に対して『逆について考えろ』と言ったな?」
「あぁ、俺は言った。」
「だからこそ、考えた。 巨乳好きと貧乳好きは表裏一体の関係ではないか、と。」
「お前の意見を続けてくれ。」
「男に無くて、女にあるモノは確かに『おっぱい』だ。 だが、それだけではない。」
この時点で、話の流れは翔太の想像とは違っていた。
翔太の想像は『貧乳への否定』。
貧乳を否定することによって、巨乳への肯定力を増やす―――そういう算段だった。
だが、悠斗が選んだのは『貧乳への肯定』。
「……男は力強い体を手に入れてしまっている。」
つまり、ここから先は翔太が想像できなくて、悠斗が想像できた領域。
「……だからこそ、男は『最低限の体格』を持ち合わせてはいない。小さいものがほしいんだ。」
「つまり、お前は『最低限の体格=貧乳』だと言うんだな?」
「そうだ。」
「……俺はその意見には反対だ。」
そして、意見が違うということは反対の意思が生まれてもおかしくない。
いや、反対の意見をぶつけなければならない。
確かに悠斗にはこっち側の素質がある―――それは、この少ないやり取りで充分に分かった。
天才は叩いて伸びる。
だからこそ、今回は叩く―――反論する。
「反対する意見ではあるが、巨乳好き意見のときにも言ったが、健康の指標になる。貧乳では分からない、むしろマイナスイメージになってしまう……果たして、最低限ってのはどこまでのサイズを言うのかな?」
「ははは、翔太……お前、バカだろ?」
「何だと!?」
だが、悠斗はそんなことでは止まらなかった。
「もう一度言おう……巨乳は余分過ぎる……最低限なのは貧乳で充分なんだ……だって、人間は胸を見て健康の判断をしない、別のところで健康判断をする。いったい、この世のどこに胸を見て健康を知るバカがいるって言うんだ? ―――つまり、巨乳である必要性なんてどこにもない。だから、貧乳を求めることに対して、生物的本能はまったくの足かせにならない。むしろ、巨乳においても生物的な本能は必要ないんだ。だって、人間は知性があるから!!」
「……!?」
この意見に翔太は何も言うことができなかった。
その理論に対しての反撃の言葉が見当たらない。
言った本人である自分自身が胸を見て健康をチェックしてるのかと言われたら、答えは否。
だって、それは悠斗が言ったように、そんなところを見るよりも健康を知ることができるから。
どうして自分はそんな当たり前のことに気づくことができなかったのか。
つまり―――悠斗はこの短時間で翔太を負かしたというのだ。
「はぁはぁはぁ………どうだ翔太。これが僕の答えだ。」
「……俺の負けだ。確かに、俺の意見では貧乳を否定することはできない……巨乳の負けだよ。」
すると、悠斗は椅子から立ち上がり、翔太に向けてこう言った。
「僕は貧乳を肯定したが、一度も巨乳は否定していない。」
「悠斗?」
「だって、男が自分には持っていない『おっぱい』を要求することだって、別に間違っていることではないだろ?」
悠斗は自分を見上げる翔太に手を差し伸べる。
その表情は柔らかなものであり、翔太の心の敗北感などは消え去ってしまっていた。
「だからさ、巨乳好きも貧乳好きも、もちろん普通サイズ好きだって―――間違っている人間なんてどこにもいない。」
その言葉を聞き、翔太は自身の愚かさに気づく。
そして同時に悠斗の持つ才能にも気づくことができた。
(やはり、この男には才能がある。すべての性癖を受け入れることができた。それは俺ではたどり着くことはできなかっただろう。)
翔太は悠斗の手をマジマジと見つめ、少し経ってからその手を取り立ち上がった。
そして、翔太は面と向かい合った悠斗に言う。
「それで、巨乳と貧乳、どっちが好き?」
それはこの一件の始まりの質問。変わらない、まったく同じ質問。
「もちろん、巨乳!!」
悠斗の答えは始まりと変わることはなく、この平和な日常も変わることはない。
((((自分たちは何を見せられていたんだ?))))
ちなみに、彼らの会話はクラス中に丸聞こえだった。
――― END ―――
【※注意※】
この作品は年齢制限を付けていません。
もし、制限すべきと思いましたら、感想の方に書いてくださればありがたいです。