とあるわが家の王女さま!   作:華凜

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一足遅くなってしまったハロウィンです。
姫ちゃんに免じて許してください。



閑話!
閑話 姫ちゃん、ハロウィンを楽しむ!


 

 それは10月31日の晩だった。

 

 

「と、『とりっく・おあ・とりーと』ですわ!」

 

黒タイツに黒いミニスカート、さらにオバケカボチャの飾りがついた三角帽子をかぶる姫ちゃんがイキナリそんなことを言ってきた。

 

どこか恥ずかしそうにスカートを押さえ、段ボールをセロハンテープで丸めて作ったチープなマジックステッキを僕に向け、

 

「お菓子くれなきゃ、いたずらしちゃいますのよ!」

 

と、どこでそんな知識を得たのやら、と思わせる素振りでお菓子をせがんでくる。

しかもスカートが短すぎて『サ○エさん』のヒロインである『ワ○メちゃん』みたくパンチラしてくるので、もう鼻血が止まりません。

 

「ぽ、ポテチでいいかな?」

「イヤ! 『けぇき』がいいですわ!」

「ケーキ!?」

「上にイチゴが乗ってる『ちょーとけぇき』ちょうだいな!」

「ショートケーキだよ、姫ちゃん」

「ちょーとけぇき」

 

いかん、エンドレスになるパターンだ、これ。

 

「とにもかくにも、『ちょーとけぇき』くれなきゃイタズラですわ!」

「いやいや、そこはもっとチープに抑えようよ」

「けぇきけぇき!!!!」

 

一旦駄々をこねると言うことをきかないのが姫ちゃんだ。

もうこりゃあ僕が買いに行かねば、拗ねた彼女がまた洗面所で水上カーニバルを起こしかねない。

 

「わかったよ。 ショートケーキでいいんだね?」

「買ってくださるの!?」

「今日だけだよ」

「やった!!!」

 

子供のようにはしゃぎまわる姫ちゃんを前にため息をつく。

 

 僕が財布を持って外に出ようとした時だった。

 

「ひひーんっ」

 

と、外から聞き覚えのあるセルフ鳴きが聞こえてきたので、魔王が来たのだとほぼ自動的に悟った。

彼はいつも馬に乗ってやってくるのだけど馬がいいタイミングで鳴いてくれないので、仕方なく魔王がセルフで鳴いているらしい。

なんかもう魔王の威厳が問われる事態だ。

 

ピンポーン。

 

「はぁい」

 

ガチャッ。

 

「大人しく我に供物を奉げよ」

 

目の前に現れたチビから開口一番にそんなことを言われた時は、本気でどうしようと戸惑った。

やって来たのは近所のマンションに夫婦で住まうアレクサンポポス大王、通称『魔王』。

包帯男を真似ているのか、全身包帯だらけ。 でも一つ気になるのは、その包帯が明らかに不自然に血だらけだということ。

 

僕が目を点にして棒立ちしていると、魔王はさらに僕の方に一歩踏み込んで手を伸ばしてきた。

 

「大人しく我に供物を奉げよ、と申しておる」

「死ねっ」

「ぐふぉぁっ」

 

礼儀知らずの魔王に脳天チョップ。

 

「い、イキナリなにをするか!」

 

メコッと手刀が食い込んだ頭頂部を押さえる魔王が吠えた。

 

「イキナリはこっちが言いたいよ! なんで開口一番が『大人しく供物を奉げよ』なのさ!!」

「何を申す! 今日は夜分に近所を徘徊し、供物をもらう日ではないか!」

「ハロウィンって言ってくれる!? その格好で供物とか言われたら違うこと想像しちゃうからね!?」

「むぅ」

 

全身血の付いた包帯だらけの魔王は腕を組んで唸ると、サンタクロースのようなデッカイ白い袋を開け、僕に手の平を差し出してきた。

 

「トリック・アンド・トリック」

「トリック・オア・トリート!!!! なんでお菓子あげてもイタズラされなきゃいけないのさ!!!」

「そうともいう」

「そうとしか言わないから!!」

 

もしアメリカで同じことを言っていたら真っ先に銃殺対象になっていたことだろう。

 

まあ玄関先で押し問答していても仕方ないので、僕はあらかじめ近所の子供たちにあげる用に買っておいたポテチを袋に入れてやった。

 

「うむ! 確かにもらいうけた」

「これからは素直に『お菓子ちょうだい』って言おうね、魔王」

「我はそう申したはずだ」

「さっき供物って言ったよね!? ねえ!?」

「さ、次の家に行くか」

「無視しないで!!! あ、あとさ、魔王」

「む?」

「なんでその……満身創痍なの?」

 

足から顔まで全身みっちり包帯グルグル巻きになっているから、少し気になって訊いてみた。

包帯男を真似ているようだけど、それにしては包帯に滲んだ血がリアルだ。

コスプレじゃなく、まるで本当に怪我したみたいな。

 

 すると魔王は一瞬なにかを思い出してブルッと震え、視線を落として呟いた。

 

「フィアに――な」

「ああ」

 

僕はその名を聞いただけで、魔王の身に起きた全てのできごとを知った。

あの傷は間違いなく重火器で襲撃された痕だ。コスプレじゃない。

 

「今度は何したのさ。 また浮気?」

「浮気などせん」

「どの口がそんな大嘘をつくのやら」

「アレは5分前だった。 『今日はハロウィンだから、ポポ君にトリック・オア・トリート!』などと嫁が申すのでな。 手元の酢コンブを渡したらバズーカで撃たれたのだ」

「そりゃ撃たれるよ。 酢コンブは」

 

嫁がトンデモナイ恐妻だと知っていながら酢コンブを手渡す魔王はすごい。

でも『お菓子くれなきゃイタズラするぞ!』と言って魔王に砲火を喰らわせるフィアさんもすごい。

もはやイタズラの域を2段階くらい超えている気がする。

 

「ハロウィンとは壮絶なものだと知ったぞ」

「なんか魔王が言うと妙に説得力あるね」

 

だれもが楽しむ10月31日を満身創痍で過ごすのは、おそらく彼くらいだろう。

 

「ではまたな、康介」

「あっ、ちょっと」

「まだなにかあるのか」

 

魔王はドデカい袋を抱えながら半身になって振り返った。

 

「となりの前田さんトコ行くんならさ、ついでに回覧板お願い」

「むぅ」

「あと、そこのケーキ屋さん行ってショートケーキ買って来て。 姫ちゃんが食べたいって言ってるから、できるだけ急ぎで」

「むぅ」

「お菓子あげたでしょ」

「むぅ」

「『むぅ』じゃ分からんよ」

「……よかろう。 おぬしには菓子の恩がある。 我が愛馬と一っ走りして買って来てやろうではないか!」

「じゃ、お願い」

「任されよ!」

 

こうして魔王は愛馬にまたがり、またセルフ鳴きしてからケーキ屋にダッシュした。

 

 

――お菓子を貰いに来たはずが、お菓子を買いに行かされるというシュールな光景であった。

 

 





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