とあるわが家の王女さま!   作:華凜

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姫ちゃんの身体能力はチートです。



第4話 姫ちゃん、領土を奪って寝る!

 「うう……痛ぇ……」

 

湯船に浸かりながら右の頬を撫でる。

女性にしてはボクシング選手のような強烈なビンタと蹴りを数十発喰らわされ、おかげで満身創痍だ。

 

40度の湯に傷が触れるたびにチクチクと痛みが走る。

普段温厚な僕もこれには怒りたくなったが、あとで僕が風呂に入っている間、「その……さっきはやりすぎましたわ」とべそをかきながら謝ってきた時は逆にこちらが罪悪感に苛まれた。

 

「女って得だよな」

 

外に聞こえないような声で独り言を醸し、蛇口を閉めて水漏れが無いことを確認してから出る。

しかし、

 

「あっ……」

「へ?」

 

リビングに置いてあったクマのぬいぐるみを抱える姫ちゃんが正面に立っていた。

僕がまだ許していないと思っているらしく、この場を離れられないらしい。

 

思いがけない事態に言葉を詰まらせていると、彼女は僕の顔から“下の方”へと視線を移して、

「まあ」

「やめてそんな反応っ!」

 

まるで珍奇な未確認生命物体を目撃したかのような、好奇心旺盛な眼で僕のアレを見入る。

思わず手持ちのタオルで隠すが姫ちゃんの顔が真っ赤になっている。

くっ、手遅れか!

 

「う、噂には聞いておりましたけど……」

「僕のスカイツリーを見てコメントするのはよしてくれるかな!!」

ガラガラ、ピシャン!

 

僕にはまだこんな力があったんだ、と自分でも感心するほどの剛力で姫ちゃんを外に追い出す。

でも彼女は諦めきれないようで、

 

ガラッ。

 

「ねえ、こーすけ」

「むぉおおおおおッ!!」

「まだ怒ってる?」

「怒ってないよ! 怒ってないからさっさと閉めて!!」

「ほらまだ怒ってるじゃない」

「さっさと閉めろ! 閉めて! 閉めてくださいおねがいします!!!」

 

やっとのことで彼女をリビングに戻した時には全身汗だく+息切れ状態。

たかが飯食って風呂入るだけの単純行動にトンデモナイ精神の摩耗が見受けられる。

 

 

 とりあえず買い溜めしておいた歯ブラシを出して王女さまの歯磨きを済ませることに成功すると、あとは寝るだけだ。

やれやれ。

 

「姫ちゃん、頑張って。 あとは階段を上がるだけだから!」

「うー」

 

もうすでに眠そうな顔をして、突然「コーヒーのブラックは嫌いよ」などと寝言を言い始める姫ちゃんを何とか階段の上まで運送。

 

今日ばかりは大目にみてやろうと、特別に僕のベッドで寝かせてやる。

彼女を介護者の如く両腕を使って寝かせると、掛布団を掛けてやってから自室を離れる。

 

「じゃ、おやすみ」

「……お待ちになって」

一階に降りようとすると、急に寝間着の袖を掴まれた。

 

「こーすけはどこでお休みになられますの?」

「僕? 今日はリビングのソファーかな」

「なのでしたらわたくしもそこで寝ますわ」

「ええっと、僕のベッドじゃ狭くて嫌?」

「そういうわけではなくてよ」

「じゃあどうして? ソファーの方がいいの?」

「……一緒に」

「え?」

「こーすけと……一緒の部屋で寝たい」

 

掛布団に籠りながら、くぐもった声で確かにそう告げた。

 

きっと僕以外の年頃の男子なら泣いて喜ぶだろうけど、イマイチ鈍感な僕は「一人じゃ不安なのかな」などと心中で察していた。

 

「一人は怖い?」

「べ、別にそういうことはありませんわ! ただ、王女という身分ゆえいつ敵に襲われるか分からないから、その……」

「その?」

「え、エスコートしなさいよね!!」

 

ボッと姫ちゃんの顔で湯気が上がった。

まだのぼせているのかな。

 

「か、仮にもあなたは王女(わたくし)の下僕なんだからちゃんと就寝時の護衛もしなさい」

ええー……。

すみませんけど護衛できるほどの力はありませんて。僕は非力マッスルですから。

 

 だが姫ちゃんはずっと僕にしがみついて離れる気配が無い。

困ったな。ソファーは一人寝るだけで限界だし、僕のベッドはどう見ても一人用だし。

 

「わかったよ。 別の布団用意するからそれでいい?」

「こーすけも一緒かしら?」

「うん」

「じゃあ許してあげますわ」

なんで寝るまでこのやり取りなんだ、と心の中で愚痴を洩らしつつ、父と母が寝室に使っていた一室に押し入れの布団を敷く。

 

あとは枕を置けば準備完了―――と思いきや、

「姫ちゃん?」

 

入り口でぬいぐるみを抱えながら様子を見ていた彼女は、布団を敷き終わるや否や何故か僕の自室に戻った。

 

しばらくガサゴソと何かを物色する音が聞こえてきたかと思うと、両手に辞書やら数学の参考書やらを山積みにして帰ってきた。

 

「それで何するの?」

「……………。」

返事は無い。

 

ただ、僕の布団を端っこに追いやり、布団と布団の間に辞書やらを立てて“ベルリンの壁”さながらの国境を作り出しているではないか。

 

「あの……何を」

 

次に彼女が嬉々として口にした言葉は度肝を抜いた。

 

「ここから先はわたくしの土地ですわ」

 

我が家で王女さまの屋内統治が始まっています!

 

「ちょっ! タンマ! 何でそっちが10畳以上あるのに僕だけ1畳未満なのさ! 見てよ! そっちは布団を丸々敷いても畳が余ってるのに僕の布団なんか山折り状態じゃないか!」

 

布団が端っこに押しやられ、さらには1畳未満に抑えようとするので必然的に布団が山のように盛り上がっている。

 

「甘いですわね。 領土と云うのは本来奪い合うもの。 気を抜けばあっという間に奪い取られてしまうものなのですわ」

 

なぜ寝るだけの動作に政治問題が絡んでくる。

「ええい、ここが異世界(ホーム)じゃなくて現世(アウェー)だということを思い知らせてくれるわぁ!!」

「あー! わたくしが折角苦労して立てた数学の参考書が!」

「そっちに侵攻して領土奪取してやる!」

「きゃあ! 枕を武器にした奇襲攻撃とは卑劣な! 許しませんわ!!」

「ふはは! 中学時代枕投げチャンピオンの僕に勝てるとお思いか!!」

 

――瞬殺されました。

 

相撲にいう“ねこだまし”の要領で枕を顔に投げられ、視界を遮られたのち、アッパー3発、ジャブ10発、回し蹴り5発でKO負け。

 

おかげで残りの1畳は姫ちゃんの領土に併合され、僕は朝まで布団無しの満身創痍で就寝。

 

 

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