とあるわが家の王女さま!   作:華凜

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姫ちゃんは人の邪魔をするのが得意なお嬢様です。




第5話 姫ちゃん、お手伝いする! ぱーと 1

 僕の目覚めと云うのは早い。

 

夏休みで休日というのに午前6時半過ぎに起床し、大の字を書いて寝ている全裸の姫ちゃんを起こさないよう注意しながら一階に下りる。

どうやったら寝ている間に全裸になれるんだろう。そういう種族なのかな。

 

まあもちろん彼女の体にタオルケットをかけてやることも忘れない。

 

 夏場は腐りやすいので冷凍しておいた食パンをトースターにかけ焼く間、一人暮らしでは中々使いきれない卵を使い切るため、目玉焼きという凝った料理に御近所さんからいただいたレタスをトッピングして朝食は完了。

 

良い色に焼けたパンにバターを塗りながら、冷蔵庫にマグネットで張り付けてある回覧板のメモを再度読み込む。

 

 食事を終えて新聞を見終わっても王女さまは一向に起床する気配がない。

 

仕方ない、と台所とリビングをまわって残飯と化した昨日の食事をゴミ袋に入れ、準備は完了。

一応防犯のため鍵を閉めてからゴミ捨てにいそしむ。

 

やはり朝だからか、家の前を走る4車線の道路には車が少ない。

あと1時間もすれば交通量は2~3倍に増える。

 

家の前には4階建てのマンションがあるのだが、僕がゴミ捨て場のカラスを追い払ってネットを被せたりして帰って来ると、引っ越しのトラックが2台ほど止まっていた。

どうやら引っ越ししてきた人がいるらしく、青い制服に身を包んだ従業員がせわしく荷物の運搬をしている。

 

誰が来たんだろう、とか、美人なお姉さんだったらいいなあ、などと呑気に思いを馳せながら家の門をくぐると、我が家でドタドタと怪獣が暴れまわるような危険音がしているのに気づいた。

 

「あっ、こーすけ!」

 

偶然玄関のドアを開けた際にTシャツ姿の姫ちゃんが視界に入った。

髪はボサボサで服はヨレヨレ。おまけに澄んだ双眸を潤ませているではないか。

 

「どったの?」

 

目を丸くして問う。

すると姫ちゃんはムスッとした顔で腕組みをし、

 

「わ、わたくしを放っておいてどこをほっつき歩いていたのかしら!」

「単にゴミ捨てです」

「嘘おっしゃい!」

なんでゴミ捨てするために嘘をつかねばならんのだ。

 

「もう……」

弁解しようと試みた時、姫ちゃんが何かを言いかけたので言葉を呑み込む。

彼女は目をさらに潤ませて強硬な態度を崩すと、走ってきて僕に飛びついた。

 

「もう二度と勝手に出て行かないで!」

「ええっ!?」

「わたくしを置いて二度と外出しないと誓ってくださる?」

 

ムリです。

 

「いや、それは……」

「誓ってくださらないなら股間アッパーと、もれなく股間の蹴り上げを喰らわせますわよ?」

「股間限定!? 誓います! 誓わせて頂きます!」

「よろしい」

 

なんて強制的かつ暴力的約束。

普通は男が女を力で捻じ伏せるものが、昨日といい今日といい逆転している。

男の威厳もこんにちの社会ではすっかり舐められたもんだ。

 

「とにかくその鳥の巣みたいな髪を整えておいで……って、やっぱりそれは僕か」

「(コクン)」

 

一度ため息をついてからこのどうしようもない王女さまを洗面所に連れ、強烈なくせ毛をブラシと水で何とか抑え込む。

それでも彼女の髪質は僕に反抗しやがるため、最後は我が必殺奥義のヘアアイロン(150度)で屈服させることに成功した。

 

「こーすけ、朝食はまだかしら」

「はいはい、只今お持ちしますよ」

 

動く気0%の姫ちゃんを椅子に乗せ、先ほど用意した朝食を出す。

味や品に文句は言わせないつもりだったけど、「下僕の料理にしてはまずまずかしら」と予想外の好評を頂けた。

 

「喉が渇いたわ。 果実を絞ったジュースを頂けるかしら?」

「うーん、コーラでいい?」

「亀の?」

「それは甲羅」

「雰囲気のことかしら」

「オーラじゃないよ。 一見同じに見えるけど似て非なるものだと認識しておこうね」

 

まだ寝ぼけているのか、平然とした顔で鋭いボケをかましてくるから手に負えたもんじゃない。しかも本気で間違っているんだからさらに驚きだ。

 

「美味しければなんでもいいわ。 ああ、そうそう。 あとでベッドメイキングしておきなさいよ」

 

なんと厚かましい小娘でしょう。

うむむ、このままでは本当に僕が彼女の下僕になりかねない!

ここは男としても威厳を見せておかないとね。

 

「ねえ姫ちゃん」

「何かしら」

 

脚を組んで新聞に視線を落としながらぶっきらぼうに返す。

 

「この家に来たからには家事とか色々手伝ってもらうからね」

バサッ、スタスタ。

 

「おい、どこ行く」

「みぎゃあ!」

新聞を置いて退散しようとする猫娘の腕を掴む。

 

「今日は色々手伝ってもらうから」

「(ぶるんぶるん!)」

「露骨に嫌がるんじゃない! じゃないと外に放りだすから!」

「うー!」

「『うー』じゃない!」

「……仕方ないですわね。 女は度胸と言いますし、何なりと申し付けるといいですわ!」

 

たかが洗面台の掃除をしていただくだけなのに度胸を見せられても困るのだが。

 

「じゃあ水回りの掃除をお願い。 ホー○ングを適当にかけてスポンジで水洗いするだけだから」

「よくわかりませんけど、この筒状の洗剤をぶちまけてから水拭きすればいいのね?」

「そ。 なるべくぶちまけない方向で頼むね」

 

姫ちゃんのことだからある程度の水漏れや洗剤のこぼしは想定内だ。

今更「こぼれちゃった」とか言われても驚きはしない。まあショックは受けるだろうけど。

 

それでも猫の手を借りてみたいという好奇心から彼女に頼んだわけだが、玄関の床を水拭きしていると、何やら洗面台の方でボチャボチャという奇怪な音声が聞こえてきた。

 

さらには彼女の「ああっ」という“やらかした声”まで。

 

「どうした………の?」

 

 

洗面所、只今床上浸水しております。

 

水を出しっぱなしにしたうえ、「あわわわ」と洗剤を手に立ち尽くす姫ちゃんは、僕の顔を確認すると、機械のようにぎこちない動きで水道を指差し、

 

「こ、この、この水道が悪いのよ!」

「あんた子供か! つか、どうやったらわずか2分の間に洗面所の床を水上パレードにまで持って行けるんだ!!」

「違うわ! お水をためて一気に流そうと」

「ふむふむ」

「だから栓をして」

「なるほど」

「水回りと言うから、一応洗面台周辺の床にも洗剤をかけて」

「はいそこオカシイ!」

「そしたら水がぶぁああって」

「いや、止めてよ! 蛇口閉めるだけじゃん!」

「わたくし、もうどうしたらいいかわからなくなって……」

「で、どうしたの?」

「閉めようと試みましたわ」

 

意外とまともな回答が返ってきた。

放置プレイにしましたわ、などと言う気なら今晩のオカズ抜きにしてやろうかという惨状なだけに、姫ちゃんの応答はしっかりしているように思える。

 

が、

「逆にお水が一杯でましたの」

「何で栓をさらに開けちゃうのさ! 左にまわして水が出るなら逆に回すっていう選択肢普通に思いつくでしょ!」

「あはっ、ついうっかり」

 

てへペロ☆姫ちゃんったらドジッ娘的な顔をして舌を出しやがる。

むぅ、可愛いから今回ばかりは許して……という前に蛇口を閉めなければ!!

 

「水道(ここ)はもういいや。 皿洗いならできる?」

「それくらいならできますわ」

 

と言いつつ何枚かの皿を割ってしまうのがお約束だ。

自分で言ってしまったことに後悔して撤回しようにも、彼女は自信満々にキッチンに消えてしまってここにはいない。

 

ここは彼女のビギナーズラックを信じよう。

あれほど自信があるんだし、多少割ってもまた買いなおせばいいよね。

 

……などと軽い想像をしながら雑巾でびしょ濡れの床を拭く。

くそ、どうやったらあの短時間に水と洗剤のカーニバルを床上で開催することができたんだ!

 

洗面所のみならず玄関まで水が及んでいる時点でその盛大さがお判りだろう。

 

そろそろ1枚目の『パリン』が聞こえてくるんじゃないかと気が気ではなかったが、意外にもキッチンは静かだった。

ジャーと水が流れる音以外特に目立った音は聞こえてこない。

 

もしかしたら皿洗いだけは得意なのかも。

掃除はこんなだけど、ちょっと見直したな。

 

 

 

…………と思いたかった。

 

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