恋をする切っ掛けは様々だと思いますが、今回の話の主人公と同じ人もいるのではないでしょうか。ちなみに私は…
ああ…目から汗が。では今回もよろしくお願いいたします。
私はテレビ番組の収録を終えて東京の某テレビ局を出た。すると…
「SEIREN-」
「SEIRENちゃーん」
「SEIREN。こっち見てー」
出待ちしているファンの人たちの声が一斉に響いた。
「みんなありがとう」
私はファンの人たちに手を振りながら事務所のワゴン車に乗り込んだ。
「ふぅ」
収録中は落ち着く間がなく、やっと一息つくことが出来た。
「お疲れ様です」
丁寧口調で話すのは私の専属マネージャーの響 士郎さん。クールで男の姿の時の私と違って大人の男性という感じ。
「次はBK放送でラジオの収録です。到着までゆっくりしていてください」
そう言って響さんは書類に目を通し始めた。私はシートに体を預けて目をつむった。芸能人がこんなに大変だなんて思わなかった。それに学生とアイドルの両立。学業も厳かに出来ないから苦労は倍になってる。辛いなら辞めてもいいけど。
「I like your eyes♪ seeing your dream(とびきりの夢を見つめてる あなたの瞳が好きよ)」
私の歌声が聞こえたので外を見ると、4面ある大型ビジョン全てに私のプロモーション映像が流されている。こんな有名な場所で映像が流れるくらいに人気が出た。それは私をプロデュースするために色々な人が関わってくれたから。もう私の身勝手でアイドルを辞めれないくらいに。まぁ、内心は楽しんでいる時もあるけど。そもそも何で私がアイドルをやっているのかと言うと。
「うーむ、今日の株価は…」
車に備え付けられたテレビで経済ニュースを見ている彼…ヘルメスが原因。信じられないけど、彼はギリシア神話に出てくる青年神。私が本来の男の姿の時、東京に一人旅行に行ったときに出会った。理由は分からないけど私にケーリュケイオンの杖と魔法の力を与えてくれた。その時の男の姿の私は半信半疑で魔法を使った。
「イケメンに変身したい」
男の時は地味でメガネのやぼったい容姿。だからイケメンになって彼女が欲しかった。で、変身した結果が…SEIRENの姿になった。全然違う姿になったとヘルメスに文句を言うと。
「魔法で変身といったら魔法少女になるのは当然だろ」
真顔でそう言われた。そうなのかな?でも女の子になるなんて普通では体験できなのでそのままの姿で渋谷などを歩いていると、今所属している事務所のプロデューサーに声をかけられた。私自身アイドルなんてするつもりはなかったけど、半ば強引にスカウトされてアイドルデビューすることになった。歌は音痴なはずなのに信じられないほど上手くなってた。それに人々を魅了する歌声。これも魔法の力だと思う。とにかく私は昼間は男子高校生、学校が終われば人気アイドルという二重生活に奔走している。それも沼津から東京を行き来して。だから学校を休むことも多い。アイドル生活がこんなにも大変だなんて思わなかった。
「そういえばラジオの収録の後はライブの打ち合わせがあったんだ。今のうちに企画書を見て…」
鞄から書類を出そうとした時、一枚のビラが見えた。
「これって確か…」
壁ドンしてきた女の子から渡されたビラだ。可愛いキャラクターが書かれてる。
「どうしたのそれ?」
横から女性が話しかけてきた。
「美山さん」
彼女は私の専属メイクアップアーティスト。頼りになるお姉さんという感じ。
「こっちに来る前に渡されて」
「ライブやりますか。へー歌姫SEIRENにライブに来いなんて強気な人なんだね」
「変装してましたから」
「ん?これって…もしかしてスクールアイドルのライブ」
「そうなんですか」
「学校の体育館でするくらいだからね」
そうなんだ。彼女はスクールアイドルだったんだ。私はアイドルに壁ドンされたんだ。ある意味では貴重な体験かも。
「スクールアイドルといえば」
響さんが別の書類を見ながら。
「次回の音楽番組でスクールアイドルからプロデビューしたA-RISE。彼女たちとの共演が決まってます」
「へーそうなんだ」
「A-RISEって凄いんですか」
「はい、卓越した実力を持っています。芸能界は勝ち負けのあいまいな世界です。そんな中で自分たちのスタイルを見失わず進んでいる方々です」
「そんなにスゴイ人たちなんだ」
私はスクールアイドルについては詳しくない。でも響さんが絶賛する人たち。そんな人たちと会えることに内心はワクワクする私だった。
僕はSEIRENの仕事を終えて沼津に帰ってきた。そして早々に向かった先は海水浴場だった。何故海水浴場にいるのかと言うと、仕事中に警察から携帯に連絡があったからだ。何事かと思ったけど、どうやら知らないうちに学生証を落としていたらしい。そして親切な人が交番に届けてくれたそうだ。僕の両親は家にいない。父親が単身赴任で東京に行くことになって、家事が全く出来ない父親に母親が一緒に行ったからだ。たまに親戚の姉さんが様子を見に来てくれる。だから警察沙汰などは起こしたくない。というわけで僕は学生証を拾ってくれた人にお礼の品を渡すためとお礼を言うため海水浴場に来た。警察に聞くと、学生証を拾ってくれた家族の人が拾った本人は海水浴場にいると教えてくれた。到着したけど。
「どこにいるんだろ」
拾ってくれた人を探しながら歩いていると、前方で三人組の女の子がいた。なにかのダンスを踊っている。あっ、真ん中の子がコケた。そのまま笑い始めた。その様子を見ているとコケた子がこっちに気づいた。
「あの~何かご用ですか~」
遠くから叫んできた。
「えっ、あっ、その…」
僕が慌てていると三人がこっちに来てくれた。女の子に対して免疫のない僕の心は動揺している。でもこのまま何も話さないと変人って思われるかな。
「えっと、その、た、高海千歌さんという人を探しているんですけど知りませんか」
僕が覚悟を決めて言うと。
「それって…」
「うん」
ショートヘアの女の子とロングヘアーの女の子が真ん中の女の子を見た。
「私のことだよ」
キョトンとしながら自分を指さす女の子。あれ?何処かで会ったことがあるような。
「えっと君は…」
「あっ、僕は、ご家族の人にここにいるって聞いたから。あの…僕の学生証を交番に届けてくれてありがとうございます。お礼を言いたくて」
僕はお礼と同時に頭を下げた。
「えっ…。あっ、瀬尾悠一くん」
「へ。な、なんで僕の名前を知ってるんですか」
「ごめんね。学生証を拾った時にね」
なるほど。
「ん~でも…」
高海さんは僕の事を見ながら首を傾げる。
「君の学生証を落としたのは女の子だったんだ」
「えっ…」
「駅でビラを渡している時にね」
あっ、思い出した。高海さんは僕がSEIRENに変身した時に壁ドンしてきた人だ。
「あ…あの子はクラスメイトなんだ。僕が落とした学生証を拾ってくれたんだ。その…せっかく拾ってくれたのにすぐに落としたらしいんだ。あはは、おちょこちょいだよね」
思いついた言い訳を並べてみた。信じてくれるかな。
「そうなんだ」
信じてくれたみたいだ。
「あっ、じゃあその子から私たちがライブをすることを聞いているかな」
「う、うん」
「じゃあライブを見に来てほしんだ。出来れば家族や友達も一緒に」
「えっ、あっ、はい」
せっかくライブをするんだから、たくさんの人に来てもらいたいよな。
「あの、皆さんはスクールアイドルなんですよね」
「そうだよ。浦の星女学院のスクールアイドル、Aqoursだよ。ってスクールアイドルを始めたのも、グループ名が決まったのも最近なんだけどね」
「じゃ、じゃあ、今回のライブが初ライブになるんだ。だからかな。気合が入ってるていうか、意気込みが凄いっていうか」
壁ドンしてまでビラを渡してくるくらいだから。
「あはは…。そんなに必死にみえるんだ」
苦笑する高海さん。一緒にいる女の子たちも苦笑している。
「色々と事情があって…」
「事情?…その聞いてもイイですか。その事情」
高海さんは自分たちが置かれている状況を話してくれた。ライブをする時、学校の体育館を観客で埋める事。出来なければ解散しなければならない事。
「だから見に来てね。私たちのライブ」
手を合わせてお願いしてくる高海さん。
「凄いなぁ」
「何が」
「僕だったらそんな条件を出されたらあきらめてるかな。だからあきらめないで頑張ってる高海さんたちが凄いなぁって思って」
「スクールアイドルは私が見つけた全力になれることだから」
全力になれることか。僕にはないかな。
「μ'sに近づきたいから、μ'sのように輝きたいから。だからあきらめない」
「μ's?」
「瀬尾くんはμ'sのこと知ってる」
「スクールアイドルのこと詳しくないから」
「μ'sはね…」
目を輝かせてμ'sのことを教えてくれる高海さん。あまりのテンションの高さに一緒にいる女の子たちは苦笑している。でも…。
「でね…」
自分の想いを笑顔で教えてくれる高海さん。彼女の人懐こく温かい笑顔を見ていると。
トクン…
急に僕の心臓の鼓動が大きくなった。あ、あれ。どうしたんだ。高海さんを見ていたら胸が高鳴って。自分の顔がみるみる赤くなっていくのが分かる。
「瀬尾くん。どうしたの」
僕の様子が変なことに気が付いたのか高海さんが心配そうに聞いてきた。
「だ、大丈夫」
俯いて返事をする僕。本当は全然大丈夫じゃないけど。
「あの、これ、学生証を拾ってくれたお礼です。東京のスイーツ店で買ったプリンです」
「えっ、あ、ありがとう」
急に饒舌になってお礼の品を渡されて多分戸惑っている高海さん。今は何だか恥ずかしくて高海さんの顔を見ることが出来ない。
「練習頑張ってください。じゃあ失礼します」
僕はそう言って慌てて走り出した。胸の高鳴りが原因でこれ以上は高海さんと話せそうにない。僕は夢中になって走った。どこをどう走ったか全然覚えてない。
「はぁ、はぁ、ど、どうしたんだろ。高海さんの笑顔を見ていたら急に胸が高鳴って、苦しくなって、でも…切なくて」
あれ?これって…。
「これって僕が高海さんに恋を…」
「ん~青春だな」
ヘルメスが何か言っているけど今の僕には気にならなかった。今日この時、僕は高海さんに恋をした。