書いていてここまでヘタレ主人公で良いのかと考えています。ご意見など貰えると幸いです。では今回もよろしくお願いします。
高海さんに恋して数日が過ぎた。彼女との心の距離を縮めようと思ってSEIRENの仕事がオフの時は高海さんたちがダンスの練習しているビーチに通うようにしている。でも高海さんにどう話しかけたらいいのか分からなくて、それに意識しすぎて挙動不審になりそうだ。だから話しかけられないまま遠くから見ている日々が続いている。
「おいストーカー」
「ストーカーって失礼だな」
ヘルメスの言葉に反論すると。
「第三者が今のお前を見たらストーカーって言うと思うぞ」
「うぐっ」
ヘルメスの言葉が胸をえぐる。
「仕方がないだろ。どう話しかけたらいいのか分からないんだよ」
「そんなの適当でいいだろ。調子はどうかとか、何か手伝おうかとか。そこから話を広げていけばいんだよ」
エルメスは簡単に言うけど、女の子にあまり接したことがない僕にはそれすらハードルが高い。
「それが出来るならこんな所にいないよ」
「…ヘタレ」
「うぐっ」
再びヘルメスの言葉が胸をえぐる。
「最近の男はこれだから。草食系とか受け身とか。昔の男はもっと積極的に女を口説いていたぞ」
ヘルメスの言う昔の男がどれくらい昔か分からないけど僕には積極的になんて無理だ。
「ならヘルメスが何とかしてくれよ。神様なんだろ」
「無理。俺は恋愛の神じゃない」
首を左右に振りながら言うヘルメス。
「このまま諦めるという選択肢もあるぞ」
「諦める…」
それも一つの選択だけど…。
「いや、諦めない。諦めるとしても高海さんに告白してフラれてからだ」
僕がそう言うと。
「そっか」
ヘルメスは笑顔になって。
「そんな覚悟があるんなら今すぐ告白してこい、このヘタレ。この、この」
怒筋を浮かべながらヘルメスは僕を蹴ってきた。
「告白なんて出来るはずないだろ。話も出来ないんだから」
「悠一。そんなのでよく先っきのセリフが言えたよな」
あきれ顔で言うヘリオスだった。
ヘルメスを落ち着かせた後、僕は高海さんの様子を見ながらどうするか考えていた。
「このまま行ったとしても無言になるか、出来たとしても、ここぞとばかりに質問するかのどちらかだよな」
μ'sのことは友人に聞いたりネットで調べたりしている。でもそれだけじゃ会話が続かない。高海さんの好きな事を知らないと。でもどうやって…。
「落とし物を拾った相手と言っても異性がグイグイと質問してきたら警戒するよな。同性なら聞きやすいけど」
ん?同性…。そうだ。
「SEIRENだ」
「急になに」
興味なさげなヘルメス。
「SEIRENに変身して高海さんの好きな事を聞くんだ。同性なら高海さんも警戒しないはずだ」
「…ヘタレもここに極まれり」
そう言ってため息をつくヘルメス。
「何言ってるんだよヘルメス。早く認識阻害の魔法をかけてくれ」
「まぁ、後ろ向きだけど悠一なりに恋に頑張ろうとしてるからな。わかった」
ヘルメスが腕を掲げると僕のまわりが光の薄い繭のようなものに包まれた。そのまま僕は目を閉じて右腕をかざした。
「ケーリュケイオン」
手のひらに光の粒子が集まり弾けた。同時に右手にステッキが握られていた。
「…」
僕は小声で呪文を言った。そうすると僕は光の繭に包まれた。すぐに光の繭が弾けた。そして悠一からSEIRENに変身した。
「はぁ…」
SEIRENに変身したとたんにため息が出てきた。
「どうしたSEIREN」
「男の時の私のヘタレぶりについ…ね」
我ながら情けないというかなんていうか。
「でも男の自分の為だからね。がんばりますか」
私はゆっくりと高海さんたちがダンスの練習している場所へ向かった。ある程度近づいても練習に集中しているのか高海さんたちは私に気づかなかった。
「わっきゃぁ」
高海さんが盛大にコケた。まだまだ練習は必要みたいだ。指導してくれる人がいれば違うと思うけど。
「…ん」
コケている高海さんと目が合った。
「んんん?」
高海さんは勢いよく起き上がると私に向かってきた。
「んんんんんん?」
「あ、あの」
顔を近づけてくる高海さん。顔が近いよ。
「ひょっとしてアイドルで歌姫のSEIRENさんですか」
「え、ええ」
「やっぱり!サ、サインを、色紙…持ってないよ。え、ええと…よ、曜ちゃん、梨子ちゃん。大変だよぉぉ」
慌てて二人の所に行く高海さん。急に芸能人に出会ったらみんなあんなリアクションになるのかな。そんなことを考えていると高海さんが二人を連れてこちらに来た。
「ね、本当にSEIRENさんでしょ」
「本当だ。千歌ちゃんがそっくりさんと間違えているんだと思ってた」
「うん、私も。ここにSEIRENさんがいるなんて思わないから」
ショートヘアの女の子とロングヘアーの女の子がまじまじと私を見てくる。
「SEIRENさん。このノートにサインをお願いします」
「あっ、私も」
「あの…私も」
三人にお願いされてサインを書いていると。
「自己紹介が遅れました。私、高海千歌っていいます。サインに高海千歌さんへってお願いします」
「あっ私も。私は渡辺曜っていいます」
「それなら私も。桜内梨子です」
苦笑しながら要望に応える私。
「そういえば何でSEIRENさんが沼津にいるんですか」
「今日はオフなの。最近は仕事が忙しかったから沼津の綺麗な風景を見てリフレッシュしようと思って。はいサイン」
「ありがとうございます。リフレッシュか。そういえばSEIRENさんをテレビで見ない日がないよね」
「うん。色んな雑誌にも載ってるよ」
「ラジオ番組にも出演してるわ。本当に多忙よ」
改めて考えると桜内さんの言うとうり多忙だよね。それでも苦に感じないのは響きさんが上手にスケジュールを組んでくれているおかげなのかな。
「あっ、でもオフということは今は時間があるんですよね」
「ええ」
「私たちのダンスを見てもらえませんか」
「千歌ちゃん。せっかくオフでゆっくりしてるのに悪いよ」
「イイよ」
「えっ」
驚きの表情を見せる桜内さん。驚くのも無理もないと思う。プロが何の接点もない人の練習を見てくれるなんてないと思う。私としては高海さんと話す機会が出来て都合がイイからだけど。
「じゃあ早速見せてくれる」
「は、はい」
緊張した面持ちで準備をする高海さんたち。そして…
「ど、どうでしょう」
踊り終えて私の感想を待っている高海さんたち。
「まずは渡辺さん」
「はい」
「渡辺さんは二人を気にしすぎかな。そのせいで動きが遅れている所があるかな」
「はい…」
「次は桜内さん」
「は、はい」
「全体的に上手くまとまっているけど表情が固い。アイドルなんだから笑顔を忘れないで」
「はい…」
「で…高海さん」
「はい、どうでした」
「まず二人に遅れているところがたくさんあったかな」
「うっ」
「それと何回かコケてた」
「う、ううっ…」
「まだまだ練習不足かな」
意気消沈する三人。厳しいかもしれないけど今後、高海さんたちがスクールアイドルとしてやっていくなら改善するところははっきりと伝えた方がイイと私は思った。
「高海さんがコケるのは軸足のターンが遅いからだと思う。こんな感じで」
私は高海さんがコケたところを踊ってみせた。
「「「はぁ…」」」
何故か胱惚の声をだす高海さんたち。
「あとは…」
私は他に気になったところを指摘した。それとどうすれば良くなるかも伝えた。ここはインストラクターにダンスのトレーニングを見てもらってることが役立った。
「こんなところかな。後は日々の練習で良くしていくだけかな」
「はい。ありがとうございます」
伝えることは伝えた。後は休憩でもしながら高海さんのことを聞いていけばイイかな。
「じゃあ、たか…」
「あのSEIRENさん。まだ時間はありますか」
「えっ、ええ。大丈夫だけど」
「じゃあ今度は私たちが作った詞と曲と衣装も見てもらってイイですか」
「い、イイけど」
「ありがとうございます。急いで私の家に行きましょう」
高海さんはガシッと私の腕を掴むと勢いよく走り出した。
「千歌ちゃん、カバン、カバン。忘れてるよー」
渡辺さんが呼んでいるけど、聞こえてないのかそのまま走る高海さん。高海さんって押しの強い面もあるんだなって思いながら私は連れて行かれました。
高海さんにつれて来られてきた場所は…
「旅館?」
予想外の場所に連れて来られて呆気に取られていると。
「さぁ中にどうぞ」
高海さんに引っ張られ中に入ると。
「美渡姉ー!志満姉ー!お客さんだよー。それも凄い人」
大声で叫ぶ高海さん。室内で大声で叫ぶのはやめた方がイイと思うよ。
「帰ってきた早々にうるさいバカチカ!」
ショートヘアの女性が何故か雑誌を手にして奥から来た。
「美渡姉。お客さんだよ!」
「えっ、お客さ…ん…」
美渡さんが私を見て急に固まった。
「あの…初めまして」
私が挨拶をすると美渡さんは手にしていた雑誌を見始めた。あっ、あの雑誌。新刊のファッション雑誌だ。前にモデルとして撮影したのを覚えてる。
「えっ…えっ…」
美渡さんは私と雑誌と何度も見比べてる。そして…
「志満姉。げ、芸能人。せ、せせ、SEIRENがー」
慌てて奥の部屋に行く美渡さん。
「あはは。慌てすぎだよ美渡姉は」
笑っている高海さん。でも高海さんも同じようなリアクションしてたよ。
高海さんの部屋に案内されて私はテーブルの前に座っている。桜内さんはノートPCを用意して私の隣に座ってる。渡辺さんはベットに座って私の正面にいる。ここで問題が起きてる。渡辺さんは私の正面にいる。ベットの上に座って、それも足を広げて。私の位置からだと見えてる。渡辺さんのスカートの中が。
「あの、渡辺さん。スカートだから足は閉じた方がイイと思うよ」
「えっ。う~ん、でも女の子だけだから気にしなくても大丈夫」
満面の笑みを見せてくれる渡辺さん。渡辺さん…。ここにいるのは女の子だけじゃないんだ。見えないと思うけど、私の肩に座っている青年神のヘルメスがいるんだ。
「わぁ~♪」
ヘルメスは歓喜の声をあげて渡辺さんのスカートの中を見てる。私はヘルメスを掴んで座っている座布団の下に突っ込んだ。
「わ、分からないよ。渡辺さんのスカートの中を見て喜んでいるエロ神がいるかもしれないよ」
「誰がエロ神だ」
差布団の下から顔を出して言うヘルメス。
「あはは。SEIRENさんもそんな冗談を言うですね」
笑っている渡辺さん。普通は信じないよね。
「でもこれからスクールアイドルを始めるなら、そういった所も意識した方がイイんじゃないかな」
「そっか。梨子ちゃんの言うとうりだね」
そう言って足を閉じてくれる渡辺さん。後はヘルメスがみんなに変なことをしないか注意しないと。
「お待たせー」
そう言ってお茶とお茶菓子を持って高海さんが入ってきた。それと同時に…
「はっ、はっ、はっ」
犬が入ってきた。高海さんが飼っているのかな。
「…」
桜内さんが急に固まった。そして私に体が触れるほど近づいてきた。犬が苦手なのかな。私は桜内さんの手を握った。
「えっ」
驚く桜内さんに笑顔を見せた。不安にならなくて大丈夫だよって伝えようと思ったけど。
「あっ…」
何故か顔を赤くして俯いた。桜内さんのリアクションが想像していたのと違う。
「な、何だこの犬」
高海さんの犬が何故か座布団から抜け出したヘルメスの元に行っている。
「ま、まさかこの犬。俺が見えるのか!くっ、これでは不用意に動けない。せっかくクローゼットの中の下着をチェックしようとしたのに」
そんなこと考えていたんだヘルメス。
「どうしたんだろ?しいたけ」
キョトンとしている高海さん。気にしなくてイイと思うよ。
「気にしないで早く始めよ」
そう言って私は高海さんたちが作った歌詞や曲や衣装を見せてもらった。
「うん。高海さんの想いが書かれた良い歌詞だと思う」
「ほ、ホントですか」
「詞って正直よ。どんなに飾った言葉を使ってても、その人の今の気持ちや願い事が素直に出てしまうものだから」
嬉しそうに飛び跳ねる高海さん。ここって旅館だから飛び跳ねない方がイイと思うよ。
「あと曲は…」
桜内さんと渡辺さんに私の感想を伝えた。
「SEIRENさんに聞いてもらってよかった。まだ考えがまとまってなかった所があったから」
「うん。これで衣装の方もバッチリだよ」
満面の笑みを浮かべる桜内さんと渡辺さん。
「あのSEIRENさん。私たち自作の曲以外にμ'sのカバー曲を歌う予定なんですけど、SEIRENさんの曲「YOUR EYES SO SPECIAL」を歌ってもイイですか」
高海さんは再び顔を近づけてきた。
「イイよ。楽しんで歌って」
「ありがとうございます。でもSEIRENさんの歌って難しいですよね。えっと…I like your eyes♪ seeing your dream♪」
私の歌を歌い始める高海さん。
「「あなたのためならなんだって出来るんだから♪」」
私は高海さんとハモって歌い始めた。
「「「「Your eyes are So Special to me♪(それほどあなたの瞳は私のスペシャルなのよ)」」」」
続いて桜内さんと渡辺さんも一緒に歌い始めた。
「凄いよ。SEIRENさんが一緒に歌ってくれただけで、今まで私たちが歌ってきた以上の出来栄えなったよ」
「う、うん」
三人とも驚いてる。私の歌唱力って多分魔法によるものだと思うから、何だかみんなを騙してるようで心苦し。
ガッ!
急に襖が勢いよく開けられた。そこには美渡さんが神妙な面持ちで立っていた。
「美渡姉?」
高海さんが恐る恐る美渡さんの顔を覗く。そうすると美渡さんは勢いよく私の所まで来た。旅館で歌って騒がしかったから怒ってるのかな。
「SEIRENさん。サインをください」
「騒がしく…えっ」
美渡さんは色紙とペンを差し出してきた。怒られると思ったけど違うみたい。
「あのSEIRENさん。お願いばかりして申し訳ないんですけど、私たちにレッスンしてくれませんか」
「ちょっとバカチカ。彼女はあんた達にかまってるほど暇じゃ…」
「美渡姉は黙ってて。SEIRENさんにレッスンしてもらったら私たちもっと上手くなれると思うんです」
真剣な表情でお願いしてくる高海さん。
「何か特別な理由でもあるの」
「はい。それは…」
理由を話してくれる高海さん。理由は知っていたんだけどね。
「そっか。体育館を満員にできなかったら解散か」
「はい」
頷く高海さん。
「その事も重要だけど、私たち歌もダンスもまだまだだから。だからSEIRENさんにレッスンしてもらいたいんです。お願いします」
頭を下げてくる高海さん。
「そうだね。SEIRENさんに教えてもらえればもっと上手くなれると思う。私からもお願いします」
渡辺さんも頭を下げてきた。
「私も色々とSEIRENさんに教えてもらいたいです」
顔を赤らめながらお願いしてくる桜内さん。何で顔が赤いの?
「私のスケジュール、何か月先も決まってるの」
「やっぱり無理です…よね」
俯く高海さん。
「だからみんなのライブの日まで少ししか練習を見てあげられないけど、それで良かったらイイよ」
「本当ですか」
私が頷くと高海さんたちは互いに手を叩いて喜んだ。これも男の時の私の好きになった弱みかな。この後、高海さんたちと番号の交換をした。そして渡辺さんは志満さんに送ってもらい、私はタクシーで沼津駅に向かった。ヘルメスに認識阻害の魔法をかけてもらい、男の姿に戻った。
「…」
僕は一言も喋らずにぼ~としていると。
「良かったじゃないか悠一。彼女の番号や自宅を知ることが出来て」
ヘルメスが笑顔で言ってくる。
「…」
「良かったじゃないか。また会う約束が出来て。これを切っ掛けに彼女と仲良くなれそうだな」
「…なあヘルメス」
「なんだ」
「それって僕と高海さんじゃなくて、SEIRENと高海さんがってことだよな」
「アハハ、そうだな。ひょっとしたら彼女、悠一のことをもう忘れてるかもな」
笑いながら言うヘルメス。
「あれ?どうしてこうなったぁぁぁぁ」
自分の力じゃなくてSEIRENに頼ったから神様が罰を当てて…あっ、神様はヘルメスだった。とにかくヘタレの僕には恋は難しいようで。