この作品の序章が投稿されてから、随分な月日が過ぎている気がしますがようやく第一話、ここから話は進んでいきます。
なんか先生達の会話と後々の生徒の会話でどうしても重複部分は出てしまう気がしますが、あまり重ならないように気をつけたいと思います。
それではどうぞご覧下さい。
「合宿に向けて、改めてA組の個性を把握しておきたいんだが……」
そう切り出してきた雄英高校の一年B組……A組と同じヒーロー科を担当するプロヒーロー、ブラドキングに、A組担任のイレイザーヘッド……相澤消太は頷いた。
名簿を見ながら暗記してある各自の個性を読み上げる相澤と、黙してそれを聞いていたブラドキングだが、ある一人の生徒の箇所で僅かに、相澤が口ごもった。
「爆豪……はいいか」
チラリとブラドキングに視線を投げた相澤に、何かに気付いた様に、ブラドキングも頷く。
改めて次の緑谷から読み上げようとしたところで、誰かの近付く気配を感じ、二人は顔をあげた。
両者が僅かに気を引き締めた事に気づく様子も無く、室内に入ってきたのは今話題に出そうとしていた緑谷出久……それを伴った、峰田と上鳴だった。
話された用事に、確かに申請が出ていたことを思い出す。彼ら男子の方は「体力強化」だったか。
(女子の方は日光浴だったか……まぁ、仮に一クラス分集まることになったとしても、あのクラスなら険悪にはならんだろう)
現在受け持っている生徒達の気性に思いを馳せていた相澤は、ふとその気性と重ならない人物に思考を向ける。
別にこれは彼らの自主的な活動。たとえ計画した彼らがクラスの全員に声をかけたとしても、出欠の有無は各自の判断に任せられるものだ。
立案者の一人である緑谷出久との間が険悪な彼ならば尚のこと、ここへ来る可能性は少なくなるだろう。
(それでも来る可能性があるとしたら……)
それは本人の意志と言うよりは第三者……他の学友に誘われて連れて来られる可能性だ。
例えば。
(……まぁ、どちらでも構わんことは確かだな)
そこまで思考を進めて、相澤は打ち切った。
これはあくまで、生徒達による自主的な集まり。
こちらが気をつけるべきは彼らが利用する上での注意を守っているかどうかまでで有り、参加する生徒達の内情まで考慮する必要は無い。
そう、教師である彼らが現在考慮しなければならないことは他にあった。
「ハンター、ですか?」
今から数日前、雄英高校一学期の終業式の後に、集められたヒーロー科担当教師達を前にして、校長の根津から伝えられた事に、最初に反応を示したのは、その議題とされた生徒、爆豪勝己が在籍する一年A組を任されているプロヒーロー、イレイザーヘッドだった。
「その通り。スカァシティの稀少種犯罪対策課から、日本政府を通じて、この雄英高校にまで、「警告」があったのさ」
因みに、養い親である爆豪夫妻の方にも、既に伝えられているそうだよ。そう続けられた言葉に、無意識にイレイザーヘッド……相澤消太は眉根を寄せる。
「本人には? ……伝えないなんて、合理的とは言えないでしょう?」
伝えないつもりかと、暗に責める意味合いを込めてしまったのは仕方ないだろう。
まだ卵とはいえ、ヒーロー科である以上、相澤の中での彼らは一般人とは画する……少なくとも、無知なまま、一方的に守られるだけの存在にはなり得ない筈だ。
既にA組は、小規模とは言え、本物の敵との戦いを経験しているのだから尚更。
「確かに。自覚しているならばその分、その行動にも相応の配慮が含まれる。だが、政府としては、自覚させる事で増す危険性の方を危惧しているのさ」
「……それは、入学以前に夫妻の方から相談があった、「第二次成長」の件でしょうか?」
政府の危惧に思い当たることがあったのか、プロヒーローの一人、ミッドナイトが口を開く。
それに頷く根津は、声音に動揺の気配は無く、人とは異なる生物である為か、表情の変化が掴めにくい。
政府の決定に賛否どちらの立場なのかは分からなかった。
雄英高校ヒーロー科一年A組に在籍する生徒、爆豪勝己は、故あって爆豪夫妻の養子となるために、日本へ入国したおよそ十五年前から、日本政府により監視対象とされている。
犯罪歴が無い状況下で監視対象とされる前例は少ないが、その理由は幾つか上げられるだろう。近しい肉親が犯罪に関わった前歴があるか、若しくは……。
「伝えない、自覚させないことで守る方針のようだ。あくまで政府としてはね。
「……確かに、「人として」生涯を終えることが出来るのならば、本人にとってもそれが一番なのでしょうが」
「いや、無理だろ!」
上の方針を説明する根津、それに同意の道を示すセメントスに対して、真っ向から否定したのはプレゼントマイクだった。
「爆豪は確かに第二次成長は迎えて無い。そういう意味じゃああいつはまだ「人」よりだ。人に近い。だがよぉ、同時にあいつは
怒濤の勢いで放たれる言葉の数々は、生徒を思うが故のこと。
平時はおちゃらけていることが多いものの、彼とてプロヒーロー。
本質の部分はこの場にいる面々の誰とも、引けをとらない物であった。
「確かに……生涯
静寂に支配されかけたこの場で口を開いたのは、今まで一言も喋らずに事態を静観していたパワーローダーだった。
プロヒーローであり、ヒーロー科とも関わりがあるにはあるが、彼のそれはあくまでサポートアイテムの作製や、サポート科の生徒との交流も交えて行われることが多く、現在仮免試験も修得していない一学年に対しては、期末試験で試験官として加わった程度の交わりしか無い。
期末試験で関係を持たなかった爆豪とは、実際の面識はほとんど無かった。
そしてだからこそ、ここまで客観的に物事を見る事が出来ていたとも言える。
「だからと言って、寝る子を起こしたくないと言う政府の方針も理解できる……今しばらくはまだ現状維持でいい気もするがね」
暗に様子見を提示する男に、三学年を担当するスナイプが加わった。
「俺もそれに賛同だ。連合のこともある。ハンターとやらの動きも気になるが、こちらから下手に動くほどの事でも無いだろう」
「だがよぉ……っ!」
その二人に、明らかに不満の色を強めるプレゼントマイクが声を荒げ……それをミッドナイトーが制した。
「落ち着きなさいよ。マイク。……イレイザーも!」
念を押すように続けられたことで、ようやくイレイザーヘッドは己も、僅かに唇をかみしめ、不満に顔を歪めていた事を自覚した。
「やっぱりまだ、納得は出来ないって感じか? イレイザー」
無意識に零れた溜息から、何かを感じ取ったのか、隣に座するブラドキングが柔らかい口調で尋ねてくれる。
合理的を主義に抱え、基本生徒に厳しい面が強いイレイザーヘッドではあるが、それは生徒を嫌悪しているわけではない。
寧ろ、彼はその伸びしろを期待するが故に敢えて厳しくしている部分も確かにあるのだ。
「あると認識できていない力を使いこなす事なんざ不可能だ。ヒーローを志す以上、出し惜しみなんざして敵に対して力が及ばないなんて愚の骨頂……お偉方のいう危険性とやらも分かるがあいつの安全を第一に考えるなら、この三年の間に使いこなせるようになるべきだろう」
言い切る己の言葉を否定するでも肯定するでもない相手は、高確率で己と同じ意見だろう。
周囲を慮ることに長けた彼は、絶対的な確証が無ければ否定の言葉を吐くことは無い。
その代わりに肯定の言葉は更に無いが。
「……不満は分かるが、今はどうにもならんだろう。敵連合の事もある。不確定要素は今は蒸し返すべきじゃない」
納得は出来なくても妥協はすべきと宣う相手に、溜息一つで不満を呑み込んだ。
本当に、この生活は理想だけでは生きられない。
その後、改めて合宿中のあれこれを確認していれば気づけばプール使用時間の終了が差し迫っていた。
発案者である峰田、上鳴の両名はともかく、女子の八百万や委員長である飯田など、規則に厳しい者は多くいるが、同時に彼らが学生である事実に変わりは無く、万が一と言う可能性も無いわけでは無い。
「……一声かけてくる」
「おぉ。行ってこい」
ブラドキングのおざなりな声援を受けながら向かった先は、察しの通りだった。
来月から年号が変わります。
出来ればその前にもう一作品は投稿したいとは思いますが、どうなるかはまだ分かりません。
「平成」が終わり、「令和」になってからも、どうかよろしくお願いします。