イレイザーヘッドが意識不明、13号が重傷、オールマイトが重傷、緑谷出久が両足の骨折と手の負傷。重傷者は出たものの幸い死亡者は出ず、1-A組とヒーロー達は対オールマイトとして作られた“脳無”と
「16…17…18……両足重傷の彼を覗いて……ほぼ全員無事か」
連絡を受け駆けつけた警察官の一人塚内は1-Aの人数を数え、死者が居ないことに安心する。戦いを終え、緊張の糸が解けた生徒達は互いの無事を喜んでいる中、爆豪だけが周りをキョロキョロと見渡した後、肩を震わしていた。
「じゃねぇ……」
「ん? どうした爆豪」
「全員じゃねぇっつてんだ! ビリビリ女はどこだァ!」
塚内は顔を歪めた。確かに一人足りない。何故、今まで気づかなかったのか。爆豪の叫びで生徒達がそれを把握し、探しに行く者が出だした頃───雷鳴が鳴り響いた。
「クソが!」
「待て、爆豪!」
切島の制止を聞かず、爆豪は雷鳴が鳴った方向へ爆破を使って向かう。まだ
(クソが、クソが、クソが! あんな三下共にッ!)
爆豪勝己は才に恵まれている。やればなまじ何でも出来るし、“個性”に関しても努力こそしたが、効果と特性を理解して充分に扱いこなしている。幼少期から爆豪は周りから褒められっぱなしであった。自身を一番すごいと確信するほどにまで彼は恵まれていたのだ。
しかし、その慢心は彼女によって打ち破られる。彼女の名前は雷麒麟。雷を操る“個性”を持つ彼女はありとあらゆる面で爆豪に勝ち続けた。勿論のこと戦闘面でも。雄英に入学し、麒麟と轟の戦いを見たとき爆豪は激怒した。今まで戦ってきた麒麟は手加減していたのだ。それは間接的に轟よりも自分が下だということを告げているようでもあった。事実、爆豪自身敵わないと思ってしまったのだからそれは仕方なのないことなのだろう。──じゃあ、この雷鳴はなんだ?
空気を震わすほどの雷。余りにも三下に使うには勿体なすぎるその力を今、麒麟は使おうとしている。爆豪はそれが許せなかった。格上なら兎も角、自分等に当てられたような三下如きに体力テストの時に見たレベルの全力を出している。自分には一度もそれを使っていないのだ、その行動が嘗められてるとしか言いようがなかった。
「ふざけてんじゃねぇぞ、ビリビリ女ァ!」
爆豪が叫ぶと同時に、馬のような鳴き声が聞こえ、今まで見たことのない超巨大な落雷が落ちた。爆豪の視界は白に染まり、衝撃波で吹き飛ばされる。なんとか受け身をとることに成功し、口の中に入った砂をぺっと吐き出す。
「なんだよ…今の…! 俺のこと毎回毎回嘗めやがって!」
怒りのボルテージなど振り切った爆豪は爆破で移動する事すら忘れて走る。雷が落ちた所に近づけば近く程、焦げた臭いが鼻をつく。周りの木は薙ぎ倒されており、大きな足跡が幾つも残っている。少し開けた場所に出た爆豪は目の前の光景に目を見開いた。真っ黒に焦げたオールマイトと戦った奴と同じであろう“脳無”が仰向けで倒れ、その近くの木に寄りかかるように目を閉じている麒麟。麒麟の額から生えている一本の蒼角は半分ぐらいから折れているところを見ると激戦であったのは明らかである。
「嘘だろ…なぁ、嘘だよなぁ!?」
爆豪は麒麟に駆け寄り肩を掴んで揺らす。自分とコイツがこんなにも差があるはずがない。オールマイトがなんとか撃破した“脳無”をたった一人で倒すなんてことあっていい訳無い。
「テメェと俺が、こんなに…!」
「爆豪!」
爆豪を追いかけていた切島達が追いつき、驚きの声を上げる。そんな中、切島は爆豪に駆け寄り、爆豪の肩を掴み麒麟から離す。
「待て、爆豪! 怪我してるクラスメイトに何てことしてんだよ! 早く治療してやんねぇと」
「うっせぇ!」
爆豪と切島が互いに掴みかかり、一触即発の状態となった時、麒麟の周りに幾つもの小さい雷が降った。
「煩いのう。羽虫の所為で目が覚めてしまったではないか」
聞き慣れた声。だが、何かが違うその声の主はゆっくりと目を開き、立ち上がる。
「全く……少し休憩を取っていたというのに。お主らが敵であったら全員潰しておったところだ」
見た目は麒麟。それは誰が見ても間違いのない事実である。だが、口調も纏う雰囲気を違う。そもそも、麒麟から出るこの覇気はなんだ? まるで、生物の頂きに君臨している者を見るような、自然と恐怖を与える異常なまでの存在感に全員は息を呑んだ。
「うるせぇ…テメェは誰だ…。テメェは、ビリビリ女じゃねぇ」
「ふむ。確かに我はビリビリ女などという名前ではないな。まぁ、お主らが思っておる麒麟ではないのう。名前はキリンではあるがな」
「訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇ!」
麒麟は爆豪の言葉に少し驚いたような顔をした後、考える仕草をしだす。意見が纏まったのか麒麟は真剣な目をして爆豪を見据えた。
「確かに訳が分からないだろう。今は我の事を二つ目の人格か雷の権化とでも思っていればよい。直にまた会えるよう努力して見せよう」
「は?」
「我はもう戻る。お主らが居れば麒麟が脅威に晒されることもないからのう」
麒麟は爆豪に近づき、その距離が数cmまでなったとき、麒麟は薄くだが笑った。
「爆豪勝己…麒麟のことを宜しく頼んだぞ。緑谷出久にも宜しく頼むと伝えてくれ」
「テメェ、何言って」
爆豪が言い終わるまでに麒麟は目を閉じ、力なく倒れる。爆豪は倒れる麒麟を受け止め、肩を揺らすが反応は無い。脈はある。どうやら気絶したみたいだ。
「……クソが」
爆豪の独り言は周りに少し響く。歯を食いしばりながら麒麟をおぶり、爆豪は歩き出す。
「爆豪手貸すぞ?」
「うるせぇ」
切島の言葉に短く返すと、爆豪はクラスメイトを残しゲートへと向かって歩く。クラスメイト全員が、爆豪の背中が少し頼もしく見えたのは言うまでもないのだろう。まぁ、性格があまりよろしくないのだが。
「彼、性格に難あるけど立派なヒーローになりそうだね」
「いやぁ、立派かどうかは分かりませんなぁ」
「うるせぇ! ブッ殺すぞしょうゆ顔!」
「しょうゆ顔!?」
約一名。塚内の言葉に返した瀬呂範太は分かってても言っちゃうようである。
三人称視点を書くって難しいなと思いました。