TSキリン娘のヒーローアカデミア   作:鰹節31

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雄英体育祭3

START(スタート)!》

 

 騎馬戦の開始の合図と共に他の騎馬達が一斉に私達目掛けて駆けてくる。直ぐに此方に来そうなのは先攻してる二つの騎馬だ。

 

「出久、どうする?」

「逃げの一手!」

 

 騎馬が居ない方向へ足を運ぼうとした瞬間、突如足が沈み始めた。恐らくは誰かの“個性”だろう。私達騎馬が行動出来なければ圧倒的に不利。厄介な“個性”がいたものである。

 

「麗日さん! 発明さん! 顔避けて!」

 

 出久が背中につけていたバックパックに繋がっているスイッチを押した瞬間にバックパックが火を噴き、私達は空を飛んだ。後ろから追いかけてきてる耳朗のヘッドセットは私の雷で防がれた。

 

「ありがとう麒麟さん!」

「身体が痛くなったら言ってよ。雷の耐性なんて出久達は無いんだから」

「勿論!」

「着地するよ!」

 

 

 お茶子の“個性”で私達を浮かし、発明の作ったベイビーを使って空に飛ぶ。対空の“個性”なんて周りを見た所持ってる奴なんて居ないだろうし、遠距離攻撃は私の雷を全員に纏わせているのである程度なら防げる。私以外雷の耐性が無いため雷の出力を下げているから強度は弱く、気休め程度にしかならない。所謂雷装(アームド)の弱体化だ。何度も攻撃されたり、大きな攻撃で簡単に破られる。

 

「ふざけてんじゃねぇぞ! デクゥ、ビリビリ女ァ!」

「かっちゃん!?」

「やっぱり来たわね!」

 

 対空の“個性”は居ないが、勝己のように飛んでくる奴は居る。今は地上に居るので良いが、これが飛んだ状態で爆破を食らえば踏ん張りがきかないし危険だ。

 

「死ねぇ!」

 

 反応が遅れ、出久が爆破をモロに受ける。そこまで強い爆破ではなかったが強度がない雷は破られた。

 

「そんなんで俺を止めれると思ってんじゃねぇ!」

「思ってないわよ!」

 

 第二撃目が来る。壊された雷装(アームド)よりも少し出力を上げたもの全員に纏わせる為に急いで雷を発生させる。

 

「かってすんな爆豪!」

「っ!?」

 

 勝己が瀬呂の“個性”で戻される。飛んできたのは独断のようで、何の打ち合わせもしていなかったらしい。まぁ、勝己らしいと言えば勝己らしい。やってることは最低だけど。

 

「気、張るわよ!」

「「うん!」」

 

 一難去ってまた一難。守れば一位、穫られれば最下位の状況は変わらずにそのまま。制限時間までポイントを守らなければならない私達は多くの騎馬から狙われる。

 

「さっきよりも出力を上げた雷を纏うわ。多少ビリッときても耐えて」

「わかった!」

「任せて!」

「ベイビーは大丈夫ですよね?」

「その辺は考慮してるから大丈夫よ」

 

 発生させた雷を纏う。まだ、氷を使うのは早い。せめて盛り上がる時に使わないと。ニィ、と自然に口角が上がる。私の中の“古龍の本能”が疼いてくる。敵を倒せと、狩りを行えと。

 

「ふふふ」

 

 迫り来るは敵。私達のポイントを奪いに来る貪欲なハンター(ヒーロー)達。なら、片っ端から蹴散らすまで!

 

「出久、お茶子、発明、少しはっちゃけるわ。いつでも飛べるように準備してて!」

「っ! 分かった!」

「うん!」

「了解です!」

 

 出久達に纏わせた雷はそのままに。私が纏っている雷だけ出力を上げる。両足に集中、あの時と同じようにしっかりと雷を一点に。

 

「キリン、力を借りるわよ!」

『承知した』

 

 完全なキリン化状態になるには雷を限界まで出さなければならない。それは出久達を傷つけてしまう。それはいけない……でも、擬人化状態では負けてしまうかもしれない。だから──

 

『しかし、良いのか? 我がお主を使うということは勝負を決するぞ。最善は尽くすがお主の身体を傷つけてしまうやもしれん』

「いいのよ。アレ以外は出し惜しみ無しでいかなきゃ。本気でぶつかる為にもね」

『そうか。ならばよい』

「『始めるとしよう』」

 

 ──脳無を倒した時みたいにキリンに私の身体の支配権を譲る。と言っても私の意識はあるままなので勝手に身体が動くという気持ち悪い感覚がある。

 

「麒麟さん……?」

「麒麟ちゃん?」

「『む? 今は麒麟ではないぞ。いや、キリンではあるがそうではない』」

「どういうこと?」

「『見れば分かることだ。さて楽しむとしよう』」

 

 キリンが雷の出力をどんどん上げていく。それでも出久達の苦しむ声など聞こえない。これが本家の雷を操る技術力。

 

「『出来る限りの守りを作ってやる。貴様等は攻めることだけを考えているだけでよい』」

「今の麒麟さんは麒麟さんじゃないことは分かったよ。後で色々教えてね麒麟さん!」

「『うむ。麒麟の代わりに我が答えよう』」

 

 勝己はB組の人に絡まれてるし、他も他で混戦状態。ちらっと見えたけど障子が峰田と梅雨ちゃんを乗せている。あれ少しだけ楽しそう。

 

「麒麟さんの防御も上がって立ち回りやすくなったから無理に突っ込まないで此処は回避に徹しよう! 今は混戦状態だから逃げ切りやすくなるはず!」

「『そう簡単に事が運ばんことはお主が一番理解しておろう? ほれ、来たぞ』」

「っ……! そうだよね、そう上手くいくはずないか」

「そろそろ……奪るぞ緑谷」

 

 私達の目の前に轟達が立ちふさがる。まだ中盤線なのに取りに来たってことは取った後ずっと守るつもりなのだろう。

 

「時間はもう半分! 足止めないでね! 仕掛けてくるのは──」

 

 轟達、その外の騎馬達が焦ったのか漁夫の利を狙ったのか、私達に襲いかかってくる。混戦状態だったのが一気に変わるのは凄い。一発逆転を狙う為なのだろう。

 

「一組だけじゃない!」

 

 出久がそう言った瞬間に無差別な放電が上鳴から放たれる。私達にも襲うがキリンはその電気をバッグパックに受け流す。あれ? そうなるとバッグパックつかえないのではないだろうか?

 

「皆、飛ぶよ!」

 

 轟の次の手に警戒した出久は私達と一緒に飛ぶ。そうするはずだったのだが。

 

「バッグパックがイカレた!?」

「ベイビー! 改善の余地あり」

「『む? すまぬ、電気をその箱に受け流したのが間違いだったか。仕方あるまい……牽制といこうか』」

 

 勿論飛べるはずがない。あれだけの大口を叩いたのに戦犯してしまうとは……キリンもかなり抜けている。

 

「『ええい、黙らんか麒麟。我の本領は此処からだ』」

 

 キリンが少し腹が立っているみたいだけど気にしてられない。轟は他の騎馬達で氷拘束してからハチマキを取って順調にポイントを重ねている。だが出久もそんな轟に近づけさせないよう氷で限られたスペースで逃げ切っている。

 

「麒麟さん、上鳴君の電気後何回防げる?」

「『限界などあるはずがなかろう? 我からすればあんなものそよ風と同じようなもの。指示するならば幾らでも防いでやろう』」

「良かった。これなら最悪の事態が起きても大丈夫」

 

 出久の声が張り詰めたものから少し安心したように変わった時、轟達が身構える。

 

「奪れよ、轟君!」

「え?」

 

 いきなり轟達は加速して私達に近づく。それは私以外反応出来ない速度での攻撃。出久達は呆気にとられているが安心して欲しい。こちらには海を走って渡るなどの異常行動をさも当然のように行える規格外が味方なのだから。

 

「取られた!?」

「言ったろ緑谷くん。俺は、君に挑戦すると!」

 

 カッコつけているとこ申し訳ない。でもキリンは空気なんて読まないからこういうことはズバズバと言ってくる。

 

「『焦るでない緑谷出久。なにも取られてはいないのだからな。轟焦凍、先程まで握っていたハチマキを感触を忘れたか? はよ次の手で決めてしまわんと2位のままで終わってしまうぞ。我の作った偽物を誇らしげに持っている場合ではなかろう?』」

「なっ……!」

 

 轟が持ってるのはキリンが咄嗟に雷で作った偽物のハチマキ。ワザと雷の守りを解除し、掴む瞬間を狙って偽物のハチマキを轟の手の中に作ったのだ。なんとも性格の悪いことだ。

 

「『最近我を悪く言うようになったではないか麒麟。そもそもが何故人間に格を合わせなければならないのか。我は誇り高き“古龍”なのだ。お主も歩く速度を自らアリと同じにする事はなかろう? それと同じだ』」

 

 フッとキリンは笑う。今更思ったけどこれ全国放送されている。つまり客観的に見て私は戦犯して自分の事を我と言っている。凄い恥ずかしい。

 

「『……我慢せい。そうしたいと言ったのはお主だろう? さて、どうする轟焦凍。時間はごく僅か。先程の一手で決めれなかったのはなんとも痛手よな。騎馬の前も既に使えない様子……いや、痛手ではなく愚策か』」  

「テメェ……!」

 

 完全なる挑発。その挑発に乗った轟の氷も上鳴の電気もキリンは完全に相殺していく。それを何回か繰り返している内に──

 

TIME UP(タイムアップ)!》

 

 ──試合は終わった。味気ないなんて思わないでもらいたい。生物の頂点に立つ“古龍”が参戦すればこんなものである。何はともあれ宣言通り一位を貫くことが出来たのだから良しとしよう。

 

《早速上位4チーム見てみよか! 一位、緑谷チーム! 二位、轟チーム! 三位、爆豪チーム! 四位、鉄て…アレェ!? オイ! 心操チーム!? いつの間に逆転してたんだよおいおい!》

 

 あの心操って人は勝己と一悶着あったとかで覚えている。持ち点が持ち点なだけに全ての騎馬を見切れては居ないが、あの人が大きく指示をしているのを見たことがない。ということは騎馬戦に置いて騎手になることで有利になる“個性”だったとするなら……少し注意した方がいいのかもしれない。

 

「麒麟ちゃん凄かったよ! もう、ビリビリィ! ってやって轟君達の攻撃全部防いでたもん!」

「『……』」

「……? 麒麟ちゃん?」

「え? ああ、ごめんなさい。ちょっと疲れたみたいでボーッとしてたわ」

「大丈夫? やっぱりあれだけ凄いことすると疲れるんだね!」

「ええ、私の“個性”は体力勝負なのよ」

 

 拳をえいえいと元気よく前に突くお茶子を見て笑みが零れる。しかし、多少は自重しなければならない。流石にはっちゃけすぎたと思う。そもそもがキリンが私の身体を使って戦うというのはどうしても私では敵わない相手が出た時ように考えた作戦。もうちょっと自分で物事を解決するようにしなければ。それにキリンが私の身体を満足に扱えてないようだし。

 

『鍛えるのはゆっくりでよい。短時間で我と同等になれと言うのが無理なもの。お主が完璧になるにはまだ早い』

「ええ、分かってるわ。それでも少しは焦らなきゃ」

「麒麟ちゃん、ご飯食べよ! 私ペコペコだ!」

「そうしましょうか。それじゃ、皆でたべましょう。今の戦いで色々聞きたいことがあるし」

「む? それは俺もだぞ麒麟くん!」

「あ! 飯田くん! あんな超秘もってたのズルイやん!」

「ずるとは何だ! あれはただの“誤った使用法”だ!」

 

 そう思ってはいるけれど、今の空間に居るのも悪くはないかな……なんて思ってしまう。

 

「どうも緑谷くんとは張り合いたくてな」

「男のアレだなあ~。……ていうかデクくんどこいったんやろ?」

「さぁ? ちょっと探してくるわ。行きたいところもあるしね」

「分かった!」

 

 お茶子達に見送られながら私は別れて歩く。オールマイトがどこかに行くのがチラッと見えたから恐らくどこかで話しでもするのだろう。少し二人には悪いがついて行くとしよう。


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