「君はヒーローになれる」
プロヒーローに憧れ、なりたいと努力する者にプロヒーローがそれを言えばどれほど感激するのだろうか。もし、No.1ヒーローオールマイトにそう言われたのなら。ヒーローを目指す者達はどう返事をするのだろう。
「ゔ、ゔあ゙あ゙あ゙あ!」
「良かったね、出久」
出久の泣き声を聞きながら私は微笑む。満足して家に帰る途中、出久がオールマイトに選ばれる場所を思い出して向かったのだ。
「私も頑張らないとね。色々と」
足音と気配を出来るだけ消し、私はその場から離れる。今日から出久は雄英高校に向けて努力していく。私も雄英高校を受ける身としては努力しなければならない。
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あの日から10ヶ月過ぎるのは早く、出久の頑張りを見ながら私は“個性”の強化を進めた。前世で見てきたキリンの攻撃方法だけではなく、私だけが出来るキリンの力を使ったオリジナルの技も編み出した。まだ人に向かって使えるかは分からないが、多分きっと問題ない。
「……よし」
今日は雄英高校の受験日。制服に着替えた私は朝早くから家を出る。理由としては“個性”が、ちゃんと制御出来るかの最終確認である。幾ら制御出来るようになったとしても力の元がキリンである以上下手すれば大変なことになりかねない。
「糸を身体に巻きつけるイメージ……」
生えた蒼い一本角から発生した雷を全身に纏う。雷を自由に操るということは糸を操ることと似ていた。頭の中で糸をどう動かしたいか、それをイメージすれば雷はイメージ通りに動いてくれる。
「ふぅ……」
少し動いてみれば普段よりも速く動けるし、力も溢れ出る気がする。“個性”の鍛錬はかなり実を結んだ。人間状態に戻り雄英高校へと向かう。実技試験が楽しみだ。
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「今日は俺のライヴにようこそー!エヴィバディセイヘイ!」
ボイスヒーロープレゼント・マイクの爆音ともいえるだろう声を聞きながら私は周りを見渡した。原作知識で知る人物だけではない人達。全員が全員自信に満ち溢れてる。
「こいつぁシヴィー! 受験生のリスナー! 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ! アーユーレディ!?──────YEAHH!」
まぁ、なんだ……こうみると凄く可哀想に見えてしまう。私だけでも返事を返した方がよかったのだろうか? いや、恥ずかしいからやめよう。
「入試要項通り! リスナーにはこの後! 10分間の模擬市街地演習を行ってもらうぜ!」
原作通りだ。聞き流しても良いけど“私という存在しない人物”が居るのだからイレギュラーがあってもおかしくはない。
「持ち込みは自由! プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってくれよな!」
「OK!?」と聞いてるが相変わらずシーンとした会場。クスクスと笑いなが受験番号を見る。遠目で見た出久と勝己とは会場はやはり違う。
「演習場には“仮想
私はニヤリと笑みを浮かべる。やはり“仮想
「もちろん他人への攻撃等アンチヒーローな行為は御法度だぜ!」
「質問よろしいでしょうか!?」
手を挙げる青年、飯田天哉。少し苦手意識があるので、合格したらあまり関わらないようにしていきたいな。
「プリントには四種の
プレゼント・マイク並みに大きい声。飯田の隣の席の人達と演習場が同じだったら後で慰めて上げよう。
「ついでに縮毛のきみ! 物見遊山のつもりなら即刻
「すみません……」
周りからクスクスという笑い声が聞こえる。それにつられて私もクスクスと笑ってしまう。
「オーケーオーケー受験番号7111くんナイスなお便りサンキューな! 四種の
スーパーマリオブラザーズなら毎日のように家族とやる。持ち上げて味方を穴に落とす楽しい遊びだ。
「俺からは以上だ! 最後ににリスナーへ我が校“校訓”をプレゼントしよう! かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』と!────更に向こうへ! “Plus Ultra”!」
それを聞いて私は少し拳に力が入るのを感じる。
「それでは皆いい受難を!」
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ガヤガヤとした他の受験生の声を聞き流しながら私は準備運動をし終える。原作知識があるにはあるが、正直な話どのタイミングでスタートになるか分からない。直ぐにスタートダッシュ出来るように最前列には居るけど。
『ハイ、スタートー!』
聞き逃さないように集中しているとプレゼント・マイクの声が聞こえる。それと同時に私は走り出した。出だしは好調。さて、仕留めていくとしよう。
「標的捕捉! ブっ殺ス!」
仮想
「雷はお好き?」
右手から放たれた雷が仮想
「威力はこれぐらいでいいのね。さ、次を探さないと」
身体能力を強化されているのだから仮想
「どんどん壊すわよ」
私は身体を軽く捻り、丁度よく現れた仮想
「蹴りは大丈夫そうね。なら、拳は……!」
縦横無尽に駆け回り、仮想
「シッ……!」
拳が当たった
「他の技も試さないと」
私はいつの間にか試験のことなんか忘れて自分の技を試すために仮想
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どんなに偽っていても人間の本性というものはいとも簡単に見ることが出来る。恐怖、挫折、嫉妬、怒り、感情に心を揺さぶられ正常な判断やヒーローとしての自覚が無くなるなんてものはよく見てきた。戦闘能力を問われるだけではないこの実技試験では、ヒーローとしての行動が出来るかも問われてくる。
「逃げろおおおお!」
「あんなの勝てる訳ねぇよ!」
「助けてぇ!」
即ち、人を助けられるかということなのだが、周りの受験生は皆が敵同士。どうせ試験だからという理由で助けるという行為を行わない者が殆どだ。何があっても勝己は絶対助けないと思うけど。
「漸く、来た……」
ビルを破壊しながらどんどん私達の方に進んでくるお邪魔虫の仮想
「キャア!」
「大丈夫ですか?」
転んで逃げ遅れた女性を助けつつお邪魔虫を視線から外さずに見る。かなり近づいてきた。さて、これは撃退するしかないようだ。
「ありがとうございます。貴女も早く逃げないと、あんなのどうあがいても敵わない!」
「そうかもしれないですね。ですが──」
私が雷を生み出すと、鳴り響く雷鳴はよりいっそう激しさを増す。いままで努力したんだ大丈夫、いける。現段階で出せる最高の落雷をお見舞いしてやろう。
「勝てるかどうかの前に、貴女を助けることの方が先ですよ?」
女性に少し下がるように頼んでから、お邪魔虫に狙いを定める。
「ロボットじゃ、私の相手にはならない」
指パッチンと共にお邪魔虫に巨大な落雷が落ちる。狙いは完璧、直撃した落雷は巨大な音を轟かせながらお邪魔虫を壊した。
「すごい……」
「怪我はない? あったら直ぐに手当てしなきゃ」
驚きを隠せない女性に笑いかけながら怪我がないか聞くが反応がない。目の前で巨大な落雷を見たのだから仕方がないと言えば仕方がない。
『終了~!』
プレゼント・マイクの声が聞こえ私は動きを止める。実技試験は終了。残りは筆記だけどたぶん大丈夫だろう。人間状態に戻り、空を見上げる。雷鳴が鳴り響かなくなった静かな青空は今の私の心のように澄み渡るほど美しかった。
雷麒麟 ヴィランポイント58P レスキューポイント30P 実技総合88P 。入試実技1位。