「おめでとう雷麒麟さん!
「うわ、やっべぇ」
オールマイトが投影されている合否の通知を伝える機器を見て私は久し振りに“男”としての口調になる。やってしまった。1位になってしまった。
「どうだった“お姉ちゃん”……?」
「雄馬? ダメでしょノックなしに女の子の部屋に入っちゃ」
弟である
「ごめんなさい」
「次気をつければいいよ。こっちにおいで」
「……うん!」
雄馬を私の膝の上に乗せ、テーブルに置いてある投影機器をつける。
「オールマイトだ!」
投影されたオールマイトを見てはしゃぐ雄馬の頭を撫でながらオールマイトの言葉を聞き直すが変わらない。ああ、一位か。これは少し厄介事が起きる。一位に拘るアイツなら絶対にキレてくるのは目に見えている。
「あ、お姉ちゃん」
「なに?」
「勝己お兄ちゃんがお姉ちゃんに用があるって電話が来てた」
全くよくできた弟だ。3年生でちゃんと家電に出て私に伝えてくるとは。でも、嬉しくない知らせだ。
「そう、ありがとね雄馬。それじゃあ、お姉ちゃんは勝己に会ってくるから一緒にリビングまで行こうか」
「うん!」
雄馬を連れて私の部屋から出る。ドアを閉めるために後ろを振り向くと投影されたオールマイトが「頑張れ」と言わんばかりのグッドサインをしていた。ムカついたから後で壊すとしよう。
「お姉ちゃん合格したの?」
「合格したよ。お姉ちゃんヒーロー目指せるね」
「本当! お姉ちゃんすごーい!」
弟の可愛らしい笑顔も見たし、少しだけ頑張りますか。
────────────
「勝己何か用?」
家を出ると道路側で勝己が不機嫌そうな顔をして腕を組んでいた。その様子だと電話した後、直ぐに駆けつけたのだろう。と言っても家は凄く近いのだが。
「何か用じゃねぇ……テメェだろ! 試験の一位は!」
「何言ってるの? 私の合否を聞かないで試験の順位を聞くなんて。普通聞く順番逆じゃない?」
「うるせぇ! どうせテメェは合格してんだろうが! 俺はテメェの順位を聞いてんだ!」
私は気づかれないようにため息をつくと「ああ!?」と威嚇されてしまった。どうやら気づかれたみたいだ。
「一位。88Pで一位よ」
「やっぱテメェか! 11P差かクソ!」
最早
「チッ……雄英に行ったらテメェをブッ潰す。いいか、俺はただの一位を取りたいんじゃねぇ──」
「完膚なきまでの一位でしょ? 耳にタコが出来る程聞いたわよ」
「……絶対にブッ潰す!」
そう言って勝己は自分の家に帰ってしまった。合格だやったぜという私の脳内パーティーが一気に冷めたんだが、後でどうしてしまおうかあのボンバーマン。
「はぁ、買い物行こ」
嫌な事があればショッピングをすればいい。ショッピングは楽しいものだ。この世界に産まれてきてから早15年。考えは完璧に女性よりとなっており、よく小説等で見かける身体に考え方などが持ってかれるというのは本当であった。
前世なんてショッピングに連れてかれればウンザリとした表情をしていたが、今では超楽しいのだから一瞬自分が狂ったのかと思ってしまう。まぁ、実際のところ服とか買わず見るだけで終わっているし、ショッピングよりも帰り道の近所のおばさんと混ざって世間話をする方が楽しみだったりする。BBAと言われても仕方がない気がする。精神年齢は軽く30を越えているのだから。
「雄馬、遠くまで買い物に行くけど一緒に来る?」
「え~お姉ちゃんお買い物長いもん」
「あら、それだったら私も行くわ麒麟」
「お母さん。何を買いに行くの?」
「何か買うってわけじゃなくて静岡に新しいショッピングモールが出来たのよ。お父さんもまだ帰ってこないし、どう?」
「ええ、一緒に行くわ。雄馬はどうする?」
雄馬はリビングのソファーの上で考えるような素振りをする。3年生でもそんな仕草するのか、と苦笑してしまう。
「う~ん、行く!」
「じゃあ準備しないとね」
「うん!」
準備と言っても少し着替えて財布を持つぐらいで、そこまで時間はかからない。と言っても遠くまで出かけるのだから少しでもオシャレはしたいものだ。
「お母さん少しだけ待ってて」
「急がずにゆっくりでいいわよ~」
自室からお気に入りの服とジーンズを引っ張り出して着ていく。キャップ帽を被り財布を持った。
「こんなところかな」
他の女の子よりも私の着替えは数倍早い。スカートだって穿かないし、ジーンズの方がしっくりくる。こういった所は前世の“男”としての部分が残っているのだろうか? 残っていたら残っていたで大切にしていきたいものである。
「お姉ちゃん着替え手伝って」
雄馬が少し開けていたいたドアの隙間から私に声を掛ける。ちゃんと私の部屋に入らないようにするとは、約束を守れるあたり流石私の弟である。
「今そっちに行くね」
ドアを開けて雄馬の部屋に行く。成長を見込んでの多少ブカブカなズボンとTシャツを着せ、靴下を選ぶ。
「今日はオールマイトにする?」
「オールマイト!」
オールマイトが描かれた靴下を選び雄馬に履かせる。準備も整ったことだし行くとしよう。
「お母さんお待たせ」
「相変わらず早いわね。もう少し時間を掛けてオシャレしてもいいのよ?」
「十分オシャレしてるよ」
「あらそう? それじゃあ行きましょうか」
「お菓子だ~!」
どうやら雄馬はお菓子を買って貰えることを前提にしているようだ。お母さんがそれを許すか分からないけど、私が出してもいいと思う。
────────────
「ひろーい!」
私の合格をお母さんに伝えたりしながら電車に揺られること数時間。それから少し歩いて漸くショッピングモールに着いた私達は笑みを浮かべる。確かに雄馬の言うとおり広い。これは退屈しなさそうだ。
「ちょっと何があるか見てくるね」
「ええ、お願い」
ショッピングモールになにがどこにあるのかを見るために案内板を見る。それを見た限りじゃかなりのお店があるみたいだ。
「ちょっといいか?」
「なんですか?」
案内板を見ていると声を掛けられ、声がした方向を見る。そこには右半分が白、左半分が赤の髪の毛に左目周辺には火傷の痕がある私と同年代の男性が立っていた。
(と、轟焦凍!?)
「……いや、それを見たくてお前が真ん中に居たから」
「あ、ごめんなさい」
私がいきなりの邂逅で混乱する中、轟は真剣に案内板を見てから私の方に向く。
「邪魔したな。悪かった」
「いえ、全然。私も真ん中に居て悪かったし」
「そうか」
轟はその場から離れようと歩き始める。さて、共に勉学に励む中になるのだ多少顔見知りにしとくか。
「ねぇ、貴方」
「……? なんだ」
「貴方、相当強いでしょ?」
「っ……!?」
振り向くような形で轟は驚く。そうだ、その表情だ。やっぱりそういう表情を見ているのは面白い。
「お前……」
「言っておくけど私は
実際はそんなんじゃなくて、原作を知っているから強いかどうか分かるだけである。それでも少しは強そうな印象をつけておきたい。
「いつか、手合わせ出来ることになったらお互いに楽しみましょ?」
「ああ……」
轟はそう返事をした後、どっかへ行ってしまう。さて、驚いた顔は拝めたし結構満足だ。
「麒麟さっきの子は知り合いなの?」
「いいえ、さっき知り合ったばっかり」
「その割には仲良くお話してたじゃない」
「そうかな?」
仲良く話してはないと思う。お母さんがそう思ったのならどうでもいいが。
「それで、どこに行くの?」
「最初にご飯を食べた後に服を見て、それから食材を買うわ」
「いつもとあまり変わらないね」
「いいえ、甘いわ麒麟。もしかしたら変わりダネがあるかもしれないでしょう? それに、今日はお祝いしなきゃね。麒麟が雄英に受かったんだから」
「ありがとうお母さん」
時間を確かめる為にスマホの電源をつける。起動画面が終わり、ロック画面が映った瞬間、私は顔を引きつってしまった。
「出久から電話がきてた……」
不在着信、その数およそ20件以上。これには私も唖然としてしまう。嬉しさが溢れすぎではなかろうか。
「出久君から? 待ってるから出てきなさい」
「そのつもり」
人がいない隅っこに移動し、出久に電話を掛ける。呼び出し音が二回鳴った後、出久の声が聞こえてきた。
『もしもし、麒麟さん?!』
「こんにちは出久。電話出れなくてごめんね。電源切ってたから」
『ぜ、全然大丈夫だよ! それで、麒麟さん』
「ん? なに?」
『麒麟さんは、雄英受かった?』
出久なりの優しさだろうか? 原作通りなら出久は受かっている。万が一を考えて受かったかどうか聞いているのか。
「受かったよ。なぜか勝己にキレられたけど」
『か、かっちゃんらしいね。麒麟さん僕も受かったんだ雄英に……!』
「良かったね出久。皆で、ヒーローになれるね」
『うん、僕絶対にヒーローになるよ! オールマイトの期た……』
「どうしたの出久。オールマイトがなに?」
『なんでもないよ!?』
安心しろ出久。私はオールマイトと出久の関係もワン・フォー・オールについても知っている。それを秘密にしていることも分かっている。分かっている上で他人に話そうとは思わないから。
「そう? ……ああ、そういうことね」
『……』
ゴクリという出久の唾を飲み込んだ音が聞こえた。バレたとでも思っているのだろう。大丈夫、真実が明るみになるまで私は知らない振りをするから。
「出久はずっとオールマイトに憧れてたもんね。出久ならなれるよオールマイトのようなヒーローに」
『ありがとう麒麟さん。それじゃあ、僕は用事があるから切るね』
「分かったわ。じゃ、また今度」
『うん、また今度』
電話を切り、お母さん達の所に戻る。雄馬が早く行きたいと駄々をこねているので、雄馬の頭を撫でて謝る。
「出久君なんだって?」
「出久も合格したって。ああ、そうだ勝己も合格したわ」
「出久君と勝己君も受かったのね! これは本当にお祝いしなきゃいけないわ。麒麟、帰ったら出久君と勝己君と二人のご両親を家に招待しなさい。今日はパーティーよ!」
「やったー!」
それから食材を買うだけで夕方となってしまったが、お祝い事の為にお母さんが真剣に食材と睨めっこしていたので良しとしようと思う。因みに、雄馬にお菓子をいっぱい買わされました。