生徒に個性把握テストの説明をしている時に相澤はある一人の生徒を見ていた。
(説明を聞きながら準備体操……態度としては最悪。だが、行動としては合理的だ)
説明が終わってはいテストと言われても解されてない身体は思うように動かない。そこに“個性”が追加されれば尚更である。何時でも“個性”を使える状態にするのはヒーローとしても重要なこと。それを知っていた上で準備体操をしていたとするならば、流石首席で合格したと褒めるべきだろう。
(雷麒麟……面白そうなやつだな)
テスト開始を宣言すると共に相澤は不敵な笑みをうかべるのだった。
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第一種目50m走
雷を纏いクラウチングスタートの姿勢に入る。隣は蛙吹さん。一応雷が蛙吹さんに届かないように制御するとしよう。
「位置についてよーい」
ドンッ! というピストルの音で走り出す。雷を調整、上げた身体能力を下げつつ走る。
「6秒42!」
「ま、こんな感じね」
全力とも言えずかと言って手を抜いている感じでもないこの記録。この状態でいくとしよう。
第二種目握力
「ふぅ……!」
メーターを見てみれば78kgだった。これは強くやりすぎてしまったのではないだろうか?
第三種目立ち幅跳び
少し軽く飛んだからか20mと多少短い。ここまで順調に勝己の記録を越すことがなくきている。素晴らしいと言うしかないだろう。
第四種目反復横飛び
やってしまった。勝己の挑発につい乗ってしまった。多少本気を出したため記録は146。しかし、峰田の記録を越せなかった。反復横飛びだけなら化け物級である。
第五種目ボール投げ
「イメージ。そう、思ってるより簡単。今まで何度もしてきたじゃない」
ボール投げをする前に雷を纏おうとするが、雷が発生しない。何度イメージしても出来ない。
「ま、いいわ」
諦めて思いっきり投げるが、そこまで遠くまで飛ばない。
「38m」
「本当におかしいわ。何で“個性”が使えないの?」
「雷。早く投げろ」
手をグッパーグッパーしていると相澤先生に急かされる。相澤先生を見ると髪の毛が逆立つように浮いていた。
「はい。次は“全力”で投げます」
「……ならいい」
笑顔でそう返すと相澤先生の髪は浮かなくなり、私も“個性”が使えるようになる。やはり、全力をだしてなかったのが見透かされていたということだろう。相澤先生の存在が今後の行動に支障がでなければいいが。
「危ないから皆下がっててね?」
普段の雷を纏っての強化はモンスターハンターのキリンからすれば何時も身に纏っている位の雷である。ならば今此処で見せてやろう。怒り状態で纏うキリンの雷を。
──其の雷は始祖である。
蒼い一本角から雷が発生する。空には雷鳴が轟きその激しさに皆は息をのむ。
──本能に恐怖を刻む蒼く輝く刹那。
閃光。巨大な雷が私に落ちる。落ちた雷は多少強い衝撃と共に私はそれを纏う。周りから心配する声がするが聞く余裕はない。少し制御を誤れば雷が暴走するかもしれないのだ。
──故に人間よ畏れろ。
ボールを握り、片足を高く上げる。
──我が雷は全てを貫く滅びの意志なり。
「……シッ!」
フルスイングで投げたボールは一瞬で空高く飛んでいく。気を抜いた私から雷は消え、雷鳴も聞こえなくなった。
「1640m」
「まだ、制御甘いわね」
「「「おおっ!?」」」
記録を聞いてため息をつく。本気を出した際の制御が甘々である。やはり、あのレベルの雷はキリン化状態じゃないと制御出来ないのだろう。
「お前すげぇよ雷! なんだよあれ凄いな!」
そう言ってくるのは上鳴電気。同じ雷系の“個性”として分かることがあるのだろう。
「ありがと」
「おい、ビリビリ女ァ! さっきのはなんだ!」
「本気を出しただけよ。制御が甘いから上手くは扱えないけどね」
勝己が爆速ターボで突っ込んでくる。それを受け流し、質問に答える。てか、相澤先生は勝己を止めて欲しい。
「クソが!」
「それに勝己落ち着いて? 今は個性把握テストの最中。テストで暴走行為を起こしたら0点よ?」
「ッ! 死ね!」
「あら、酷い言いようね」
舌打ちをしながら勝己は私から離れる。いい加減その中ボスがしそうなつまらない態度をしないで欲しいと思う。まぁ、勝己の性格上仕方ないかもしれない。十何年の付き合いなのだからそう思ってしまおう。
「なぁ、お前」
声をかけられ私は声がした方向へ振り向く。そこには轟がいた。
「久しぶりね。元気だった?」
「ああ、元気だ。ずっとお前と話そうとしてたんだが、あいつに何度も睨まれてな」
「別に無視してもいいと思うけど。でも、そうしたら後で文句言われそう」
クスクスと笑う私に轟は不満げな顔になる。そう不満を持たないで欲しい。多少冗談が入っているのだ。
「彼奴、爆豪勝己と彼処に居る緑谷出久は幼なじみよ。多分敵視してるんでしょうね」
「お前に話し掛ける度にか?」
「偶然だと思うけど。それで、何か私に話したいことがあるの?」
轟は真剣な顔になって私を見る。なる程、この闘志を燃やす目。宣戦布告というわけか。
「あの時、お前は言ったよな。手合わせ出来たら楽しもうって」
「確かに言った覚えがあるわ。それがどうしたの?」
「俺はお前に勝つ。左は使わねぇ、右だけでな」
やはりそうきたか。しかし甘いな轟。私を氷だけで倒せると思ったら大間違いである。そう簡単に上手くことが進むと思わないほうがいい。
「そう。貴方の左右に何があるか知らないけど──」
私は少し雷を纏い笑う。キリンの古龍の覇気を孕んだ言葉で一度閉じた口を開いた。
「私も負けるつもりはないから。一応これでも負けなしなのよ」
「それだったらすまねぇ。お前の連勝記録は俺が止める」
「それは楽しみ。後、私はお前じゃなくて雷麒麟。名前で呼んでくれる?」
「俺は轟焦凍。貴方じゃねぇ」
「ごめんなさい。これからよろしく轟」
「ああ、よろしくな雷」
今は戦う時ではない事を知っている私と轟は互いに握手をする。その後は出久の活躍を見たり、他の皆と話したり、勝己の突撃を避けたりしているうちに個性把握テストは終了した。
「んじゃパパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する。ちなみに──」
ブンっと相澤先生の持つ端末からみんなの記録が開示されると共に相澤先生は自身の顔が隠れる前に話を続ける。
「除籍はウソな」
驚愕の表情をする皆の顔を見て相澤先生はハッと笑った。
「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
「「「はー!?」」」
「あんなのウソに決まっているじゃない…ちょっと考えればわかりますわ…」
驚く皆に八百万はそう言うが、どうだろうか? 相澤先生は去年の一年生全員を除籍処分した合理的マン。可能性は充分にあるといえばある。
「そゆこと。これにて終わりだ。教室に戻ってカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ」
出久にリカバリーガールの所へ行くよう指示し終えた相澤先生は振り返らずに歩いていく。結果は6位。そこまで動いてないのになぜか少し疲れてしまった。全力を出し過ぎたのだろうか?
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オールマイトから離れた相澤は雷について再度考え直す。
(次は全力で投げます、か)
第五種目のボール投げまで全力を出していないような雰囲気を感じとった相澤は、ワザと麒麟の“個性”を消した状態で二投目を急かした時に言われた言葉。
(つまり、気づかれてたってことか。どんだけ勘がいいんだ)
相澤が麒麟の“個性”を消したことを知った上で言ったとしか思えない。実技試験の際にも全力は仮想
(全力を出さない慎重さと、それでも上位に食い込める強さ。面白いよりも厄介だな)
はぁ、とため息をこぼしながら相澤はゆっくりと歩いた。