立てば石楠花、座れば牡丹、戦う姿はゴリってる!!! 作:九十九夜
スタスタスタ トコトコトコ
スタスタスタ トコトコトコ
あれ、これなんかデジャブじゃね?と思った皆さん。
お見事。正解です。
ただし今回俺をストーカーの如くつけているのは見目麗しい少年です。
名前はラムセス君というらしい、王子様だそうだ。
わけあって一時的に此処メンフィスに静養に来ていると聞いている。
そんな、後の世でかなり有名になるだろう彼は現在俺に興味があるのか熱心に俺の後をつけて回っている。
いや確か君を守るためにとかで派遣された姉ちゃんがちょっとあれな事態を引き起こしてんだけど何でここにいるの君?姉ちゃんのところに居なくていいの?
俺が後ろを見れば咄嗟にラムセス君もその辺の柱の陰に隠れる。
俺が歩けばラムセス君も歩く。
その繰り返しである。これでは埒が明かない。
俺は少し、ほんの少し驚かせるつもりで、少しだけ走った。
そうして辺りを見回すラムセス君(4歳)の後ろを取って話しかけた。
「何か私に御用ですか?」
ギギギっと音が響きそうな動作で首をひねり、胴もこちらに向けて、彼は制止した。
そうして、じっと見つめていた彼は・・・。
ジョバアアアアアッ
そのまま失禁した。
ラムセスくうぅぅぅぅぅぅん!?
***
「ふむ、そんなことがあったのですか・・・大変でしたね。」
「う、うむ。」
グズグズといまだに鼻を鳴らすラムセス君改めラーメス君(本人が呼んでいいって)。
泣きそうになるたびに溜め池の水を派手に顔面にかけて誤魔化したがっているのだが鼻声なので残念ながら隠せていない。
どうやら弱冠4歳にして彼には既にトラウマとでもいうべき出来事があり、あのような事態に陥ってしまった模様。
というか、一瞬姉によく似た雰囲気になった俺に背後を取られて話しかけられてしまったので姉と同類だと思ってしまったらしい。同じ・・・おそらく神威的な何かだろう。元々足早かったけど今はアヌビス神の俊足も合わさって更に磨きがかかっているようだし・・・。
で、何故此処で姉が出てくるのかというと実はそのトラウマとは姉ちゃんなのだそうだ。
曰く、大体の場所で鉢合わせしていろんなところに連れまわされ共犯にされる。
曰く、王族を狙ったグループを捕まえた後、問答無用で派手に殺して回る。
曰く、父親も自分も尻に敷かれているような状態で顎で使われる。
そうして決定打となったのがさっきの2番目にあった出来事。
最近までラーメス君はそれでも自分の姉ちゃんだからとわりとシスコンの気が入っていたらしい。
が、彼が直接狙われたときに何処からともなくそれを聞きつけてきた姉ちゃんが応戦。
小隊部VS個人で大立ち回りを演じた。
そこまでは良かった。が、ここからがアレだった。
要は此処で姉ちゃんの悪癖っつーか姉ちゃんの主成分セクメト神の悪癖。
人類抹殺ヒャッハー!!がちょっと出ちゃったんだなこれが。
相手がどんな態度を取ろうが一貫して殺しにかかる姉。それも超いい笑顔。
そこにあったのは既に一方的な殺戮だったのだ。
所構わずに戦っていたのもあってラーメス君は運悪くその現場を目撃。
呆然としていると頭から放り投げられた血と内臓を被ったそうな。
内臓はおそらく消化器の何処か、たぶん小腸だろうと嫌なことまで彼は記憶していた。
今でも姉は好きだが、同時にトラウマでもある彼はその後夜尿(現代で言うおもらし)が出てきてしまい、いざ姉と鉢合わせると先程の俺との一件の如く盛大に失禁するようになってしまった。と・・・。
「だ、だが決して余はそのような些末事に屈したりはせぬぞ!ファラオだからな!!」
そう言って照れたように笑う彼はすごく微笑ましかった。
守りたい、この笑顔。
なんだか姉ちゃん姉ちゃんしてる姉ちゃんの気持ちがわかった気がする。
そんなほのぼのとしていたところに遣いの神官が一人やってくる。
「失礼いたします。セテプエンプハタ様、メリアメン様。お二人に面会を求める方がいらっしゃっていますが如何なさいますか?」
「私に・・・ですか?」
「はい。その方はメリアメン様の身柄の引き渡しを要求されていまして・・・。」
「それで、私に?」
「・・・誠に申し上げにくいのですが私共にあの方の相手が務まるとはとても・・・。」
話を聞いていたなんだか嫌な予感がしてきた。
「その方の、お名前は?」
「バストネフェルト様でございます。メリアメン様の御姉君です。」
「う・・・うわあああああああんっ」
今度こそ、ラーメス君は大泣きした。
池の中に下半身突っ込んでるから失禁しているのが見られない分まだマシなのだろうか・・・?
・・・どうやらラーメス君と俺の受難はまだ続きそうです。
俺に至っては始まったばかりだけど。
なんだかんだでエジプト編描いてるあたり本人もなんなんだろうねって思う。
因みに王族で次のファラオとして育てられてきた故に弱みが見せられなくて参ってた王子のとこに同じような身分の部外者であるゴリラ()がアニマルセラピー()したことによって心を開いた的な、そんな感じの何かってことで。
ほらあれ、セラピードッグとご老人みたいな。