立てば石楠花、座れば牡丹、戦う姿はゴリってる!!! 作:九十九夜
1500年後の残滓
『-ということで、まーね。私思うのよ~このコンラッド卿って物語の構成上必要だった?いらねんじゃね?って』
長話と私感たっぷりで有名な志鳥ピリカ教授。あだ名はしとぴっちゃん・・・の講義を受けながら私四方瑩子は欠伸を噛み殺した。
『ま、彼が役に立ったのなんて精々ギャラハッドに魔法の鐘を使って危機を知らせたことくらいじゃない?』
そこまで聞いたときに隣の席に座っていた友人の席の方からメシメシメシっと何かが軋む音がした。
「・・・じゃあそういうてめーはコンラッドの物語呼んだことあんのか。」
とドスの利いた声で仰られていた。
でたよ円卓物議トーク。まあ仕方ないよね。
あの先生ガウェイン厨だし、この子はアグラヴェイン&コンラッド厨だからなあ・・・。
今日の講義の内容はコンラッドから読み取るかつての英国何であって決して必要性が云々ではないのだが、と頭を掻く。別に私はこれと言って円卓に興味はない。が、昔の英国には興味があるからこの講義を取っているにすぎないのだが・・・。正直失敗した。早く終われ・・・。
でも、原文の方は割と優しく詳しく書いてあって有難い代物なんだけどなあ・・・。
彼亡き後の侍女兼愛人(しかし妻もいない騎士の恋人に愛人はどうか)の黒髪のプリシラがその後すぐにランスロットの勧めでギネヴィアの侍女になったりとか、彼の母クローディア(モルガンの弟子でガウェインを誑し込んだ後アグラヴェインに嫁いだ)が修道院に入ったりとかっていうのを見てると戦前の日本と同じで女性が一人で身を立てるにはかなり厳しかったことが見て取れるし、モードレッドの宣誓やら、彼と時折同一視されるガングランの物語からするに親子関係を立証する確たる証拠の無かった中世あたりは言ったもん勝ちというか・・・信用がものを言う様なところもあったみたいだとか・・・。不便だな中世。
料理の描写も細かくて、公務員的な側面もあった騎士であれぐらいの食事なら、いくら調理技術が発達していなかったとしてもけっこう生活は厳しかったのではなかろうか?
で、当の本人は最期は足止めで実父にぶっ殺されて遺体はギャラハッドの頼みで聖杯とともに埋葬っと・・・。
これギャラハッド踏んだり蹴ったりじゃね?昇天したくなる気持ちもわかるわー。
なんて思っていたら講義終了の鐘が鳴った。
ヨッシャ、終わりだ。
***
「っくっそあの教授、覚えてなさいよっ。今書いてる論文が完成したらそれこそぎゃふんと言わせてやるんだから!!」
ストローを噛みしめながら先程の友人、明石暁が物凄い勢いでべらべらと資料を捲っていく。
時折ズコーっという吸引音が聞こえるあたりちゃんと飲み物(コーヒーシェイクにガムシロップを5杯、ダイエットシュガーを3つ溶かした、最早冒涜的な何か)を飲んではいるのだろう。
それを私はハンバーガー(カスタマイズによりチーズマシマシ)を食べつつ適当に「頑張れー」とか言ってみたりする。
と、明石友人がガバッとこちらを見上げた。
「そういえば、瑩子。あんたんちの骨董屋、確か・・・。」
「んあ?涼風開運堂の事?」
「そう!その涼風開運堂!!今度取り壊しと一緒に品物分けるんでしょ?」
「・・・もしかして。」
「・・・ただでとはさすがに言わないわ。部外者だし。・・・あの本と棺、売ってくれない?」
そうそう、言い忘れていたが私のうちはかれこれ6代くらい続く骨董品店をしている。
名前は涼風開運堂。苗字を取るのはわかるが何故に開運?謎だ。
そして、そんな古今東西のお宝()が眠る我が家に彼女を招待した折に彼女に見せたそれ・・・コンラッド卿の遺体が収められているという棺とコンラッドの物語・・・の原本。
当時それを目にした彼女は案の定きらきらとした眼で是非ともこれを売ってほしいと母に嘆願じみたことをしていたが「それは来るべき日が来るまで誰にも譲る気はない。」と頑なだったため、彼女は折れざる得なかった代物での事だろう。
そんな曰く付きの商品を取り揃えた我が家はこの度母の訃報により、今年の冬に取り壊す手筈となっている。
その前になるべく物を減らそうと親族総出で掘り出し物市っぽい遺品整理()を秋ごろにしようという話が決まっていた。
「・・・いいよ、いいけどさあ。」
「なによ。」
じとーとしたこちらの目線に彼女は頬を膨らませる。
「志鳥教授も来たがってんだけど、いい?」
「」
その発端は、まだ暑さの残る8月の事でした。
駆け足だ!!
因みに母親の旧姓が涼風。