Beyond the lost.   作:浪速の風来坊

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11話 究明 -前編-

 

2025年12月6日

 

パシャ…パシャパシャ…

シャッター音が鳴り響くのはモナコ公国モンテカルロ市街地に佇む、高級ホテルのとある広間内である。翌日に控えたFIA表彰式に先立って行われる、FICCY及びCYCAによる記者会見のために多くのメディアが集まっていた。衆目が予想するところはやはり、故風見ハヤトの事故に関する何らかの報告があるのではないかということだった。

 

「ブーツホルツさん、どう思いますか?」

「少なくとも君と私が呼ばれたという点だけで自明だろうな。元はCFDAからの要請であるわけで、場合によっては終了後に我々が囲まれることもあるやもしれん。そのあたりの対策は万全かね?」

「一応チームとも話をして打てる手は尽くせたと思います。スゴウの方はどうでしょうか?」

「問題ない。最悪の場合、菅生が矢面に立ってくれると言ってくれたからな」

「修さんが…」

「あいつは俺たちより既に知っていることも幾分多い。上手く交わしてくれるだろう」

「わかりました」

「新条君はあれから何かしら自分で調べたりしたかね?」

「そのことについてなんですが…

 

 

2025年10月28日

 

話は2週連続開催だった中国GPと日本GPのインターバルにまで遡る。新条は束の間実家に帰る前にあるところへと足を運んでいた。

 

「おめーの方から会いてぇなんてどうゆう風の吹きまわしだぁ?まさかサイバーやめるから代わりに乗れとかじゃ…なさそうだな」

「まあね。加賀に話があって来たんだ」

「そんなこったろうと思った。で、なんだ話ってのは?」

「君もエジプトの時の会見については聞いていると思う。風見と君とは他のドライバーのそれとは違う関係性だったように僕は思っててね、だから事故のことに関しても何か別の見解や意見があるんじゃないかと考えたんだ」

「あんまり掘り返したくはねぇ話だがなぁ、まぁ仕方ねぇか。いいだろう、話してやるよ。にしてもおめー、どうして俺の居場所が分かったんだ?」

「ははは、僕は"アオイ"のドライバーだよ。北斗くんとも知り合いだしね」

「そーいうことか、その線から攻めてくるあたり相変わらずいやらしいやつだな」

「それはまたひどい物言いだな」

 

 

2025年12月6日

 

…とまぁ話を聞いてきたんですよ」

「なるほどな。それで、どうだったんだ?」

「彼らはいわゆる"ゼロの領域"というシロモノでレースの最中ですら何かしら通じ合っていたようなんです。僕自身、実はそれに近い何かを感じ取ったこともあるのですが…」

「ほう、またオカルトめいた話だな… それはどんなものなのか知りたいものだ」

「感覚が研ぎ澄まされた状態に近いある種のゾーンみたいなものだと私は考えています。周囲への知覚、そして反応が相当に早くなり、まるで時間がコマ送りになっているように感じる能力…」

「化け物じみている… そして加賀君が出した結論は?」

「ハヤトがゼロの領域を会得している以上、予期不可能なほどのイレギュラーを起こさない限り死に繋がるほどのクラッシュを喫することはない、と」

「つまりはドライビングミスなどヒューマンエラーの線はほぼ完全に消せる、ということだな」

「そういうことになると思います」

「となると… やはりメカニカル面か」

「かもしれません。映像も幾度となく見ましたが、ドリフトアングルを普段より大きく取っている以外は何ら変わった点もありませんでしたから。」

「ふむ… 他に聞けた話などは?」

「あまり多くを語りたがりませんでしたので… 蒸し返すな、と言わんばかりでしたし…」

「やむを得んことだ。よかろう、あとは会見を見てから考えることにしよう。繰り返すが、特に会見終了後のプレス対応を慎重にな」

「わかりました。それではまた」

「うむ」

 

二人の会話は終わり、控室から順に出ていく。会見は30分もしないうちに始まる予定であった。

 

 

「そろそろ会見が始まるわ… リモートで電源を点けて… チャンネルはこれで合ってるわね、よし。あら?あなたも観たいの?」

「…」

「聞いているの?全く話さないというのも珍しいわね」

「…」

「(何か思うところがあるのかしら?)」

 

クレアとアスラーダが不思議な空間を形成する中、まさに会見は始まろうとしていた。


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