Beyond the lost.   作:浪速の風来坊

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12話 究明 -中編-

 

2025年12月6日

 

「えー、本日はお忙しい中お集まり下さりありがとうございます。CFDAからの要請がありました、今シーズン6月29日のフランスGP決勝において事故死された故風見ハヤト選手に関する調査結果を開示することを目的として、会見を開く運びとなりました。これよりのご報告につきましては、FIA会長である私シャルル・トッドに代わりまして、FICCY会長及びCYCA代表により進めさせていただきます、予めご了承ください」

 

喧騒を切り裂くように始まりの言葉が告げられ、多くの人が注目を寄せるなか会見が始まった。壇上には4名が登っており、左からスゴウ代表菅生幸二郎、FICCY会長サミュエル・シロン、FIA会長シャルル・トッド、CYCA代表葵優作と並ぶ。日本人2名とフランス人2名、いずれも姓を見ればわかる通り親や親戚の代からモータースポーツに関わってきた一族の人間だ。

 

「……という解析結果から、風見選手のドライビングミスは認められないと判断し、その上で前後状況や車体に残されたブラックボックスの調査を行いました。

 

 

纏めますと、当該コーナーにおいて風見選手はイン側の周回遅れの車両をアウト側から交わしつつ進入、その際の速度はそれまでの進入に比べて20数km/hほど早く、ブレーキングに加えて大きめのドリフトアングルを取っていたと判明しています。その際に、周回遅れの車両から何らかのパーツが落ちそれがアスラーダの車体下部の後方ドライブトレイン右部を損傷たらしめ、また同時にタイヤが巻き込んだ路面のデブリ、このデブリはそれまでに他車両から欠損したウィングの一部と考えております、それが前方ドライブトレイン左部をも破壊しました。

 

これら2箇所のほぼ同時の損傷、また若干とはいえスピード過多のドリフト状態でコーナー外側のレコードラインを外して走行していた点、それらによりサイバーシステムの瞬発的走行保全能力を超過してコントロール不能に陥ったまま車両はスピン状態に突入、のち宙を舞ったマシンはマシン上部からタイヤウォールを超えてフェンスに激突し、直接的にはこの衝撃によるショックが死因となったと考えております。

 

 

以上がご報告となります。これより質疑応答の時間を設けたいと思います」

 

「今季からのサイバーシステムへの制約強化が今回の死亡事故に対してどの程度影響を与えたと考えられるか、お答えください」

 

「それに関しましては昨季までのものであっても防ぐことが困難だったであろうと結論付けています。特に緊急性を要するトラブル発生時の介入へは制限をかけていなかったためです。人命に直結することですので、言うまでもないことだと断言します」

 

「アスラーダが搭載していたサイバーシステムの特殊性に関してはいかがでしょうか?」

 

「それに関しては私が。確かにアスラーダに搭載されていたサイバーシステムが他と一線を画するものであったことについてはスゴウ代表である私自身が認める次第であり、その仔細に関しては公表しうる範囲の全てをオープンリソースとして各所に提供していく所存です。

 

ただし強調しておきたいのは、このサイバーシステムがレギュレーションを逸脱するほどドライバーに優位性を与えるものではなかった点、そして故風間ハヤト選手の技量に対する疑義をもたらす類のものではないという点です。」

 

 

会見は予定よりも大幅に長引き、この後に予定されている各部門の表彰式にまで影響が出かねないほどになってしまっていた。それでも漸くと言っていいほどの時間が経過したところで終了し、プレスの興味は各チーム関係者へのインタビューに移っていった。

 

「CFDA代表として満足のいく回答は得られたと考えています。次はこれを教訓としてどう活かすかの部分でしょう。

 

アスラーダに関しては菅生代表が述べたことが全てです。私個人の意見が挟まる余地は感じませんし、今でも風見君への尊敬の念は揺らいでいません。」

 

「私もブーツホルツさんと意見を同じくしています。」

 

幸いにもドライバー達への追及はそれほど強いものではなく、ブーツホルツと新条はさほど長時間拘束されることなくその場を後に出来たのだった。

 


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