2025年8月末日
「オーナーとして非常に心苦しいのは確かだが、スゴウGIOグランプリチームが欠場するわけにもいくまい。マシンはガーランドSFG-03を使用するとして、問題はドライバーの方だ。それについて皆の意見をヒアリングするのが本日の主題である」
SUGOチームの総帥菅生幸二郎がそう述べて会議が始まった。
2025年シーズンまでに複数の運営母体が2つのチームを持つようになったサイバーフォーミュラ世界選手権。SUGOがスゴウGIOグランプリとスゴウGIOウィナーズ、AOIがアオイZIPフォーミュラとアオイZIPレーシング、ユニオンがユニオンセイバーとユニオンシールド、といった具合でこれら6チームが選手権上位を争う姿が常態化していた。1チーム2人体制を外すことで統合しようという話も持ち上がったが、一定数以上の賛成を必要とするFICCYの議上で否認された経緯がある。
選手権開始当時はそれまでのレーシングカテゴリの統合を目指していたサイバーフォーミュラ世界選手権。未来的な非内燃機関のスーパーマシンによって、取って代わろうという動きが見られていた。ただ、2016年の第11回選手権でオフロードの開催が無くなったあたりから、その方向性は変わっていく。フォーミュラカーorツーリングカー、内燃機関or非内燃機関、ヨーロピアンorアメリカンなどといった従来の枠組みは残したまま、いずれのレーシングカテゴリとも仲を違えることなく多くの開催地を共有することとなったのである。
2024年の第19回では、常設サーキットとして富士岡はもちろんサルトサーキットにインディアナポリスモータースピードウェイに旧モンツァサーキット、他にも特設サーキットが作られたり市街地サーキットなどで開催された。いずれかのレースカテゴリでは使われているコースをサイバーフォーミュラでも利用する、という流れが加速していた。ちなみにモンテカルロ市街地での開催はサイバーフォーミュラでの走行・競走は難しいと判断され、未だに実現していない。
このクロスオーバー化が興行的な成功にも繋がったと言えた。参加チームも増え、世界各国のスポンサーや視聴者を得ることにもなったが故である。もちろん、F-1にFe、WECやWTCC、INDYにNASCARなども伝統を守りながら人気を博しつつ継続しているものの、CFGPXの独自性が揺らぐことはない。
閑話休題、静かな会議ではスゴウGIOグランプリの欠けてしまったドライバー枠を誰が埋めるかについての議論が進んでいた。いかんせん前任者が長く在籍し、実績・名声共に偉大過ぎ、また今回のことが突然だったので一向に纏まる気配もないまま時間だけが流れた。
結局、監督である菅生修と役員の車田氏の意見が強く反映され、スゴウテストドライバーのアンジェロ・バレーのレギュラードライバー昇格が妥当と結論付けられた。ただし第18回の2023年からスゴウGIOグランプリに在籍し、今年からスゴウGIOウィナーズのNo.1ドライバー待遇となったエデリー・ブーツホルツを昇格させてGIOグランプリに戻し、空いたGIOウィナーズのシートにバレーを新人として埋め込む案が採用された。
「……ということだ。現実的に採りうる最善策だと判断した。」
『私としても非常に心苦しいことだがな、菅生。私に風見の代わりが務まるとは到底思えんよ』
電話の先から聞こえるブーツホルツの声にも元気さは感じられなかった。
「余計なことは考えず、自分の走りをしてくれればいい。それがチーム監督として、また友人として私が言える唯一のことだ。また細かい打ち合わせはイギリスのファクトリーに戻ってから話そう、じゃあな」
『お前こそ私から察する限り心配な状態だがな。菅生、あまり思い詰めるなよ。それじゃまた』
電話を切ってからブーツホルツは俯いて考え込む仕草を見せた。
「風見…」