薫の突如の来訪から一夜開けた昼休み。ルルーシュは薫を誘い屋上にいた。
「非合法チェス?」
「あぁ、互いに金額を吹っ掛けてチェスで勝負する。貴族の娯楽みたいな物さ」
「それで金を貯めてるのか?」
「あぁ、EUや中華連邦の内政が混乱しているうちにネットバンクで荒稼ぎするのもいいが危険がある。これは比較的にリスクが少ない」
「なるほどな」
現在、ナナリーを救う手立てを出来るだけ話してみる。自分なりにも出来る最善の方法だと思うが一応、薫の意見も欲しかったのだ。なにも言わないということは賛成してくれているのだろう。
「どうした?」
「どうせ、お前は購買のパンだろう。俺が作ってきてやった」
「なに?」
話している間もゴソゴソとしていた薫に対して我慢できず質問を投げ掛けるとそこから予想外の言葉が出てきた。
弁当を作ってきてくれた、この俺に?いつもは作られるより作る側だったために少し動揺してしまった。
「毒なんて入ってないぞ」
「いや、そう言うわけではないんだが…お前なんか話したいことが?」
「特に理由はない、気が向いただけだ」
「そ、そうか」
表情からは分からないがこちらを気づかっての行動と言うのは痛いほど分かった。少しでも疑った自分が恥ずかしい。
「難しいな…」
「どうした?」
「いや、何でもない」
イメージで語るのは申し訳ないが外見とは似つかわぬボリューミーな弁当。そう言えば、薫は普段でも食堂でガッツリしたものを食べている。よく太らないものだ。
他人に弁当を作ってもらうというなかなか体験できないことを体験したルルーシュはそのボリュ―ムに四苦八苦しながらも無事に完食した。
ーー
その後、科学の授業のために廊下を歩くルルーシュ。彼の少し前には薫とシャーリーが仲良く話していた。シャーリーとか言う女子生徒は誰にでも話しかける度胸を持ち、偏見を持たない人物だ。
だからこそ彼女も信頼を寄せているのだろう。
「付き合ってるの?」
「っ!?」
(なに!?)
聞くつもりなどなかったが耳に入ってしまったのなら仕方がない。学園生活においても目立たないように、最悪。噂人にはならないように暮らしていたが薫関連でそのような噂が流れていたとは。
(どこからそのような噂が…)
「俺は男に興味はない!」
「え、あ…うん。そういう感じね、私はよく分からないけどそれもいいと思うよ!」
「待てシャーリー。間違っていないが間違っている、だから引かないでくれ」
「え、うん?大丈夫、私は友達だから!」
色々と思考を巡らすうちに事態が深刻になってきた。助け船でも出したいところだがルルーシュが加わればさらに事態が深刻になることは目に見えていた。
まぁ、彼女の性癖については大方予想は出来た。男性恐怖症の女性にその様な可能性があることも予測できたが。
(まさかナナリーを好きになっていないだろうな)
別にナナリーが好かれるのは良い。ナナリーは誰にも好かれるような素晴らしい妹だ。だがLikeではなくloveなら話は別だ、一緒のベッドで寝るのは考えさせて貰わなければならない。
「神はこの世に居ないのか!」
「俺のカオルちゃんが!」
「それでも好きだ!」
「むしろそっちの方が興奮する!」
「キマシ!」
なんか外野が騒がしくなってきたな。
「私にもワンチャンあり?」
「キャー、私を抱いてカオル様ぁ!」
「薄い本が厚くなるわ!」
この調子だと今日一杯で噂が広がるのは確実だろう。ルルーシュは心のなかで謝りながらもその場をこっそりと後にする。
「シャーリー!」
「ご、ごめんなさいぃぃぃぃ!」
薫の渾身の大声に全力で謝るシャーリー。どうやら俺以外にも友達がいたようだな。少し安心するルルーシュの背には大勢の人から揉みくちゃにされる薫の姿があった。
ーー
「……」
「大丈夫か?」
「大丈夫だ…」
そして放課後。表情は相変わらずだがオーラが彼女の疲労度を示していた。これまでにないぐらい疲れているのだろう。
「お前は人気があるからな」
「そうらしい…」
彼女の親衛隊、ヴィヨネッ党はカレンの親衛隊、シュタッ党にならぶ二大勢力の片割れでその規模は大きいらしい。
「無理することはないぞ」
「この調子だとナナリーにも会えないし、気晴らしにチェスでもさせてくれ」
向かっている中で言う台詞ではないが彼女は着いてきてくれる。まぁ、彼女の実力ならそこらの貴族程度になら圧勝できるだろう。
「降りるぞ」
「あぁ」
気を取り直してバスを降りるルルーシュと薫。時間は少し遅め二人とも制服でバーの中に入っていく。
「ここが非合法チェスを斡旋しているバーだ」
「あれは…」
そんな非合法賭博場と化しているバーの一角。その店内を見渡していた薫は一人の人物に眼をつけていた。リヴァル・カルデモンド、たしか彼はクラスメイトだった筈だ。彼女の記憶力もなかなかだな。
「クラスメイトだな。気になるか?」
「助けられるか?」
「あの盤面ならいくらでも逆転できる」
「頼む…」
「薫の頼みなら仕方ないか…」
やれやれと言った感じでリヴァルの元に向かうルルーシュ。会話内容からリヴァルの相手をしている貴族はかなりの額を吹っ掛けているようだ。稼ぐチャンスだろう。
ーー
結果は圧勝。副産物としてはリヴァルに心から感謝された。まぁ、気分は悪くない。それはそうと先程から薫の姿が見当たらない。
「お嬢ちゃん、どうやらこの戦いは私の勝ちのようだね」
「いえ、どうでしょう」
すると薫の声が耳に飛び込んでくる。どうやら貴族に捕まってそのままチェスに持ち込まれたようだ。
「強がるな、さぁ。今夜は君とたっぷり遊ぶとしよう」
「……」
余裕しゃくしゃくと言った感じの貴族が薫と対峙しチェスを打っていた。あきらかに不快な視線で薫を舐め回すように見続ける貴族に一瞬、殺意が沸くが盤面を見て落ち着きを取り戻す。
「おい、大丈夫なのか?お前の彼女なんだろ?」
「一応訂正しておくが彼女ではない。そして、薫は勝つ」
「え、でもあんな悲惨な盤面は見たことないぞ」
「だからこそだ」
ルルーシュの言葉を理解できないとばかりに首をかしげるリヴァル。
リヴァルはカオルと戦っている相手を知っている。カヴァリル卿は権力と金は持っているが人間的にはあまりよろしくない人物だ。息子も相当なドラ息子らしい。
「見ていたら分かる」
「あぁ…」
ルルーシュの言う通り。黙って見つめるリヴァル、すると薫はこちらに気づいたようでこちらに軽く手を振る。
(この余裕。流石、薫だな)
そしてルルーシュにはその手を振ると言う行為の真の意味が分かる。彼女はあと五分で終わらせるとこちらに宣言したのだ。ならゆっくりと観戦させてもらう。そう思い、ルルーシュは静かに盤面を見つめるのだった。
二分後
「どういうことだ!」
「今頃、焦っても遅い。すべては俺の掌の上なんだよ」
圧倒的絶望からの起死回生。薫のクイーンが貴族の駒を蹂躙し綺麗に掃除されてしまった。そして貴族は悟る、遊ばれていたのはこちらの方だと。彼女の眼が獲物を狩る鷹のような鋭い眼で見つめる。
五分後
「チェックメイト」
「馬鹿な…」
圧倒的勝利。完膚なきまでに叩き潰された貴族は呆然としているのを見てルルーシュは薫の元に行く。
「ルルーシュ」
「ん、これは?」
「好きな額を書き込め」
「くぅ…」
(すまないな)
小切手を渡されたルルーシュは薫に心から感謝すると貴族からギリギリ引き出せるであろう金額を書き込む。
「貴様っ、吹っ掛けすぎだろう!」
金額を見て怒鳴る貴族だがルルーシュは耳打ちをする。
(非合法なチェスで来ている客のツレを金の貸しとして好きなようにしているんだろう。貴族としての富と名声を守りたければ大人しくするんだな)
ルルーシュの言葉に見る見る大人しくなっていく。それを見て満足したルルーシュ、正直。薫を奪われそうになって怒っていたというのも事実だ。彼は自分のものが奪われると言うのを嫌う。それは過去の経験から来るものだが…これは本人も自覚していないのであろう。
「分かった、振り込む…」
こうして薫の人生初めての賭けチェスは無事に終息した。
「いやぁ、ルルーシュといい二人はチェス強いんだな」
「俺なんてルルーシュの足元にも及ばない」
確かにルルーシュと薫の戦績は40戦39敗1勝だがどれもルルーシュはかなりのところまで追い詰められている。あんなことがあったばかりなのに冷静な奴だ。
「どうだ、俺。バイク持ってるんだけどお礼に送っていこうか?」
「いや、いい」
「送ってもらおうか」
「おい!」
「ん?」
リヴァルの提案に乗ろうとする薫に思わず突っ込みを入れるルルーシュ。どうせ、楽だろうとか思っているのだろうがバイクの2人乗りは車とは違う。
車両面積の関係でどうしても二人目は運転手に体を密着させなければならない。スピードが出る車両ならなおさらだ。
「お前はなんで変なところで抜けてるんだ」
「失礼な…」
変なところで変な度胸を出すから目を離せない。ナナリーの方が聞き分けが良いからかなりいいが薫までそうというわけにはいかなかった。
(全く、世話の焼ける)
ルルーシュは薫を引きずって賭けチェス場をでる。端から見ればかなり特殊な状況だろうが構わず連れていくのだった。