「カオルちゃん!どうだったの夜遅くまでルルーシュといっしょに居たみたいだけど?」
「やましいことはしていませんよ会長」
ルルーシュの薦めで生徒会入りした新人。カオル・ヴィヨネットは複雑な過去を持つ人物らしい。あのルルーシュが同情するとは余程の過去を持っていたのかそれとも日本に居たときに何かあったのかは聞かないで置いた。
「いやぁ。私としてはルルーシュに友達が出来て良かったと思ってるのよ。彼って結構複雑な性格してるからさぁ」
「まぁ、否定はしませんが」
書類整理をしている彼女の表情こそ読み取れないが声色は優しい。少なくとも彼女は自分を警戒していないと思ってもいいだろう。
ミレイは誰に対してもこのおおらかな態度を崩さない。同情なんて言葉はそのものに対して侮蔑に等しい。
誰しも辛い過去を持っているものだ。そんな彼らに対して彼女が取れる行動は少ない。だからこそ、こういう態度の方がお互いに良いのだ。
「どうかされましたか?」
「いやぁ、またお見合いにいかなくちゃいけなくてさぁ」
カオルは基本的に無駄口を叩かない。だからこそミレイは彼女を信用している。そのような雰囲気を彼女は持っているのだ。
「潰せば良いんですか?」
「え?」
「なら、お見合いを潰せば会長は楽になりますか?」
急に雰囲気が変わったカオルに対してたじろぐミレイ。そんな独特な雰囲気に気後れしていた彼女だがいつも通りの態度を貫く。
父親から渡された見合い相手の経歴などを書いてある紙をヒラヒラしながら答える。
「まぁね、せっかく楽しめるモラトリアムが短くなるのは勘弁かな。せっかく、楽しめそうになってきたしね」
気軽に言った言葉。それに反応するようにカオルは立ち上がると気圧されたミレイが後ろに下がろうとするが壁があるために下がれない。
カオルの手が壁に着きミレイを固定する。いわゆる壁ドンと言うやつだ。
「どうしたの?」
「いえ、少しこけただけです。すいません」
引っ掛かった?そんな訳はない、彼女は明確な意図をもって行った行動だ。なにかを確かめるためにこんなことをしているのだ。その意図が掴めない。
相手の経歴などを書いてある紙が床に落ち、カオルにばっちりと見られた。他にも学園に届いていた資料やチラシが床に散らばる。
「会長、落としましたよ」
「えぇ…」
彼女は資料などを拾い上げると動きが止まる。こちらからは顔があって見えないがおそらく見合い相手の資料を読んでいたのだろう。もしかしてこの資料に目を通したかっただけなのか?
(楽しそうな目をしてる)
実に楽しそうな目線。それはなにかを企んでいるような怪しく、惹かれる目線であった。
ーー
そしてお見合い当日。ミレイ・アッシュフォードは心底退屈そうにしていた。言うならばいつも通り、見合い相手は自分の家の自慢をしながら機嫌良く話していた。
相手はカヴァリル卿という大きな権力を持つ貴族だ。今回は父親が持ってきた縁談ではなく向こうの息子、つまり彼女と対峙している彼が惚れたと言って強引に押し込まれたわけである。
(それにしてもカオルちゃんは何であんなこと言ったんだろう)
相手の話など聞き流していたミレイはカオルの変わりように思考を馳せていた。
(どうせなら本当に助けてきてくれないかなぁ…)
「それで式の準備はあらかた済ませてあるから」
「はい?」
完全に思考をよそにやっていたミレイは予想外な言葉に思わず変な声を上げた。
「まぁ、恥ずかしがることはない。君は実に幸せ者だよ」
「ちょっと待ってください!」
なぜか勝手に凄いところまで話が進んでいたのを思わず止めるミレイ。と言うよりなぜこちら側がOKという限定で話が進んでいるのか。
「なに、断る気?父上がその気になれば君ぐらいの家なんてすぐに潰せるんだよ。君の学園もどうなるかな?」
「それでも貴族ですか?」
「君より立派な貴族だよ」
交渉ではなく脅迫。想定はしていたがまさか本当にしてくるとは思わなかった。貴族どころか人としてどうなのかと問いたくなるが言っても無駄だろう。
「写真で見かけたときに感じたんだよ。運命を…俺好みの体だよ」
そっちかよ!
まぁ、スタイルには多少なりとも自信はあるがそこまで率直に言ってくるなんて…。逆に尊敬を覚えても良いかもしれない。
「これから時間はいっぱいあるんだ。ゆっくりと夫婦の時間を…」
カヴァリル卿はそう言ってジリジリと近づいてくる。こうなればいつもの最終手段を取るしかないと構えるミレイ。
「簡単に体を許すと思うなクソ野郎!」
その瞬間、黒服と共にドアが飛んでくると思えばカヴァリル卿は下敷きになる。
「カオル!」
「お前、どこの馬の骨だ!」
「会長!」
カヴァリルを全無視。彼を蹴り意識を奪ったカオルはミレイに近づくと安堵したような声色で話す。それも一瞬、蹴破られた隣の部屋にはカヴァリル卿の父の方が待機していた。すっかり怯えていた彼の胸ぐらを掴んだカオル。
「いいか、今度同じことしてみろ。お前を殴る、女の体は高いんだ、お前みたいな下衆どもに許せるものじゃない。俺の物だ!」
「はいぃぃぃぃ!」
「ちょっ、カオル。なに言ってるの!?」
突然の所有物宣言に焦るミレイ。確かにこう言った類いに対してドラマでは良く言うが本当に言われると気恥ずかしい。
というより当の本人は頭にキているようで口調がいつも以上に荒い、なぜあれで顔の筋肉が仕事をしていないのか不思議だ。
「約束は果たせよ…」
「わ、分かった!」
「さっさと行くぞ…」
「か、カオル!」
あまりの出来事に腰が抜けていたミレイを見た彼女はしばらくミレイを見ると抱き抱えられる。
「すいません」
「ち、ちょっと!」
見合いの場から連れ出されたミレイは近くの公園に連れ出されると彼女はホットドックを持って来た。
「すいません、お見合いを邪魔して」
「いや、良いのよ。どうせ断るつもりだったし」
「そうですか。それなら良かったです」
外面だけの謝罪。彼女が見合いの場に現れる理由など前回の壁ドン以外にあり得ないのだが。
「あれってどういう意味?」
「はい?」
「俺の物っていう発言よ」
「それは当然でしょう。俺の物ですから…」
「そんな恥ずかしい事を…」
彼女はこんなに大胆であっただろうか。いや、もしかしたらこちらが誤解しているかもしれない。
「恥ずかしいなら言ってませんが」
(あら、この子。意外と大胆なのね)
イマイチ、彼女との距離感が掴めない。言動からして恐らくLOVEではなくlikeの方であるだろうが。
「なんであんなに怒ってくれたの?」
「こちら側の事を考えずに無理難題を押し付けて。あまつさえ身体にまで手を出そうとしたんです。当然の報いですよ、この件については向こうはなにも言ってきませんよ」
「え?」
「当然ですよ」
ルルーシュの幼馴染みとはいえ。この事の運び方と容赦のなさは彼に似ている節がある。それが自然に行われていることだとすれば彼女とルルーシュは他の人たちとは違う特別な繋がりというものを持っているのだろう。
「そうだ、カオルちゃん。お礼と言ってはなんだけど夜ご飯は奢るわ。どこにいきたい?」
「あぁ、それなら」
手軽なファーストフード店から本格的なフレンチまではご馳走しよう。今回は本当に助かった、そのお礼にと連れていかれたのはスイーツ店。
「ん?」
「行きましょう」
やっていたのはスイーツバイキング。まさかの店に驚くミレイだがカオルはお構い無しに入っていく。当初はミレイを気にしてと思っていたがカオルの食べたケーキの数が20を超えたとき、彼女は考えるのを止めたのだった。