「カオルちゃん!どうだったの夜遅くまでルルーシュといっしょに居たみたいだけど?」
「やましいことはしていませんよ会長」
いつも元気な我らが生徒会長。ミレイ・アッシュフォード、彼女は常に笑顔を崩さずにこちらを気にかけている。視野も広い彼女は常にフォローをしてくれる。菩薩のような方。
(映画だとルルーシュばっかりだったけどこんなに魅力的な人だったとはね)
陰キャの俺には眩しい存在だが俺の経験則からしてみればこういう人の方が無理しているのが多い。
「いやぁ。私としてはルルーシュに友達が出来て良かったと思ってるのよ。彼って結構複雑な性格してるからさぁ」
「まぁ、否定はしませんが」
どうやらルルーシュとは深い関係らしく彼のことはよく知ってる。ブリタニアの皇族ってことも知ってるらしい。こんな重要ポジのミレイだったが映画のカットには抗えず消えている。
(凄いいい人だよな)
同じ生徒会にニーナもいるがあまり話せていない。こちらから話しかければ答えてくれるんだけど向こうからはあまり来ない。ちょっと悲しい。
「どうしましたか?」
ミレイさんという太陽に癒されながら話を聞いていると彼女の顔が少し曇っているのに気づいた。
「いやぁ、またお見合いにいかなくちゃいけなくてさぁ」
彼女が現在立たされている問題。それはお見合いだ、ミレイの家は元々大きな貴族だったらしいがとあることで転落。家の復興を賭けた政略結婚にミレイが駆り出されているのだ。
「潰せば良いんですか?」
「え?」
「なら、お見合いを潰せば会長は楽になりますか?」
少し冗談ぎみに言ってみればミレイは驚いたように顔を引き締める。貴族とか政略結婚とかとは無縁の人生を歩んできた俺には理解できない事だが嫌ならちょっと本気で潰しても構わない。彼女にはそれだけ世話になってる。
「まぁね、せっかく楽しめるモラトリアムが短くなるのは勘弁かな。せっかく、楽しめそうになってきたしね」
持っていた紙の束をヒラヒラとするミレイ。そこに見たような顔を発見した俺は見せて貰おうと立ち上がる。
(あれ?)
まさかの自分の足で足を引っ掻けるという愚行に対応できなかった俺はそのままミレイにダイブ。
(綺麗なクッション)
彼女の持つフカフカのクッションによって怪我は避けられたが紙を落とさせてしまった。
「どうしたの?」
「いえ、少しこけただけです。すいません」
いきなりむ…クッションダイブに驚いたミレイ。本当にごめんなさい。故意じゃないんです。
「会長、落としましたよ」
「えぇ…」
素早く紙を拾い上げる。
(こ、これは!)
《女性限定スイーツバイキング!!》
スイーツバイキング。こう言った催しは女性限定だったり、平日の昼間にやっているせいで中々行けない悲しい行事。だがこれは休日の昼間。行ける、行ってやろうじゃないか!
先程、興味をもったミレイの資料の事をすっかり忘れスイーツバイキングを楽しみにする薫だった。
ーー
そしてスイーツバイキング当日、薫は実に不機嫌だった。学校の帰り、校門で待ち受けていた黒服に言伝を伝えられたからだ。
相手はカヴァリル卿。この前のチェスで辛くも勝利し大金を受けとる予定の貴族だ。準備ができたから取りに来てほしいと言われ仕方なく指定された場所に向かったのだ。
「貴族ってのは大きくて派手なのが好きなんだな…」
完全個室のレストランらしいが。まぁ、話の内容はあまり大勢の前では言えない内容なので仕方ないだろう。
「あぁ、よく来たね」
「かなり一方的でしたが約束ですから…」
皮肉を込めて入室する。今の俺はスイーツバイキングを先送りにされてかなりイライラしている。甘味は心底大好きなんだ。
それからは話はスムーズに進んだ。送金は明日に必ずしてくれるらしいと仲良くなったリヴァルが言っていたが貴族はプライドがあるから支払いは確実でいいカモらしい。
(それにしても異様な空間だよなここは)
カヴァリルの後ろには護衛の黒服が二人と際どい服を着させられているメイドが壁に並んでいる。全員、表情は暗い。
「あぁ、私のコレクションだよ。いい娘たちだろう?」
「……」
男として趣味はよろしいと思うが無理矢理は解せない。これに関してはあえてなにも言わない。
「もし私がこの額の倍を払うと言ったらどうする?一ヶ月だけでも私の元で働く気はないか?」
後ろのメイドたちが逃げろと目で訴えかけている。これはルルーシュを連れてくれば良かったなあ…。
「君はただ寝てるだけでいいんだよ。それで大金が入ってくる」
カヴァリルの側にいた黒服が動き出す。これはヤバイな、本気でヤバイかも。
「やれ…」
カヴァリルの指示で襲ってくる黒服。薫は急いで立ち上がるが足を引っ掻けて椅子の背もたれを支点に回って落ちる。
「痛った!」
薫は知らないが転んだ拍子に大きく回転した身体。そこから産まれた強力な蹴りが黒服の顎を蹴り上げて気絶させる。
「この小娘!」
相棒がやられたのを見てスタンガンを取り出す。
(それは反則なのでは!)
得物を持った黒服と対峙する俺。ジリジリと距離を詰められる。とにかく右手を押さえてスタンガンを排除しなければ。
「おらぁ!」
襲ってくる黒服の右手と胸ぐらをつかんで背負い投げをしたかったが動かない。
(圧倒的なパワー不足!)
予想以上に貧弱だった。
ーー
(なんだこの女…)
今まで経験したことのない殺気。それに加え、身体を完全に固定されてしまった。延びきった腕と胸ぐらを掴まれ動きを封じられればなす術はない。
目を合わせ続けると引き込まれるようなその目に発狂させられそうになる。
(くそぉ!)
これ以上目を合わせるとおかしくなる。そう悟った黒服は無理やり押し倒そうとすると意識を奪われるのだった。
ーー
「……」
(なんか自滅したんだけど…)
いきなり押し倒されたと思ったら膝が黒服の腹に直撃。すぐに沈黙した。
「ま、まさか…」
狼狽えるカヴァリル卿にスタンガンを持って近づく薫。正直に言えばこの時、すでに彼女はぶちキレていた。そして容赦なくスタンガンを当てる。
「しっかりと…金払えよ」
「は、はい!」
「そしてな…」
最後に言いたかった事を言うために息を吸う薫。それと同時にカヴァリルの背後にいたメイドの一人が動き出す。
薫の背後に意識を取り戻し、立ち上がった黒服を蹴り飛ばしドアを破壊しながら飛んでいくのだった。
「簡単に体を許すと思うなクソ野郎!」
その瞬間、黒服と共にドアが飛んでいくと思えばカヴァリル卿(息子)は下敷きになる。
助けてくれたのは金髪の綺麗なメイド。ちらりと見えたか筋肉質ないい身体をしている。薫は助けてくれたメイドに目線で礼を言う。
「カオル!」
「お前、どこの馬の骨だ!」
特に意味はないけど言ってみたかったセリフ。それと同時に背後からミレイの声が耳に届く。
「会長!」
なぜここにいるのか分からないが知り合いを見るとホッとする。ミレイの部屋に入るときに何かにつまずいたが気にしない。
「いいか、今度同じことしてみろ。お前を殴る、女の体は高いんだ、お前みたいな下衆どもに許せるものじゃない。俺の物だ!」
「はいぃぃぃぃ!」
「ちょっ、カオル。なに言ってるの!?」
こいつ隙あらば俺の身体を楽しもうとしてやがった。俺の身体は俺の物だ。血の一滴から毛の一本まですべて俺の物だ!それを捧げるに値する人間にしか渡さない。それが男か女かは分からないけどな。
「約束は果たせよ…」
「わ、分かった!」
「さっさと行くぞ…」
「か、カオル!」
座り込んでいたミレイを少し恥ずかしいが抱き抱えて持ち上げる。その背後では意識が朦朧としているカヴァリルをここぞとばかりにボコボコにしているメイドたち。どうせ後で俺のせいにするんだろうなぁ。
「すいません」
「ち、ちょっと!」
こんな場からは一刻も早く帰りたい俺は走って逃げる。これ以上の問題はごめんだ。
「すいません、お見合いを邪魔して」
「いや、良いのよ。どうせ断るつもりだったし」
「そうですか。それなら良かったです」
公園にたどり着いた俺は行きつけのホットドッグ屋からホットドッグを貰ってミレイに渡す。まぁ、本人も嫌がってた見合いを潰せたのは良かった。結果オーライとはよく言ったものだ。
「あれってどういう意味?」
「はい?」
「俺の物っていう発言よ」
「それは当然でしょう。俺の物ですから…」
「そんな恥ずかしい事を…」
どこに恥ずかしい要素があるのか。もしかして中二病発言にはずかしいって言われたのか?
「恥ずかしいなら言ってませんが?」
言ったことを後で問われても仕方がない大人しく中二病患者なのを認めておくか。
「なんであんなに怒ってくれたの?」
「こちら側の事を考えずに無理難題を押し付けて。あまつさえ身体にまで手を出そうとしたんです。当然の報いですよ、この件については向こうはなにも言ってきませんよ」
「え?」
「当然ですよ」
マジで腹立った。一方的に呼び出しといて俺の女になれだとマジでギルティー。
向こうの汚ない面がにじみ出たからね。今回は言いたくても言っては来ないでしょう。
「そうだ、カオルちゃん。お礼と言ってはなんだけど夜ご飯は奢るわ。どこにいきたい?」
「あぁ、それなら」
見合いを潰した礼に奢ってくれると言うのだから遠慮せずに当初の目的地に。
「ん?」
「行きましょう」
やって来ましたスイーツバイキング。女子だけで入るってことは今までなかったので新鮮。そして俺はミレイさんの見合い相手の愚痴を聞きながらケーキを頬張るのだった。
ついでにルルーシュに事の顛末を話したら呼べと怒られました。本当に軽率でしたすいません。