ここはカキミザ裁縫店。ここはオーダーメイドの服を作る専門店でそこそこの売り上げて暮らしている店。店員であるフィアルド・カミザキは親父である神﨑藤五郎の息子である。まぁ、ブリタニアと日本のハーフで働ける場所が少なくとも家業を継いだのだ。
「いらっしゃいませ!」
いつも通り、数少ない己の美点である元気な声で客を迎えた俺は訪れた客に目を奪われた。真っ白な女性はこちらを一瞥すると落ち着いた様子で歩み寄ってくる。
「真っ白な服を仕立てて欲しいのだが」
「っ!少しお待ちください!」
彼女が放った言葉にフィアルドはおもわず背筋を伸ばす。《真っ白な服を仕立てて欲しいのだが》これは暗号だ。非公式に服を見立てて欲しいと言うサインが出たのを確認した彼は店の奥に引きこもっている親父を呼びにいく。
「あんたが客かい?」
「あぁ…」
藤五郎は端から見ても客商売には向かない顔をしている。そんな彼に怖じけず客は目を会わせていた。
「用件はなんだ?」
「先程、述べた通りだよ」
何度も言わせるな。そう言外に言われた藤五郎は表情には出さないが冷や汗をかいていた。見た目にそぐわないとてつもない覇気を持った女性だ。
「この紙に記入してくれ」
いつも通り紙を渡す。その手渡す手が震えるのを必死に抑えながら渡した紙にはスラスラと書いていく女性。
「アンタ、主義者かハーフか?」
「いや、見た目はアレだが純日本人だよ」
商品が商品なだけあって質問を選びながら投げ掛ける。予想に反して快く答えてくれる彼女に少し安心すると藤五郎はやっと仕事モードに入っていく。
「そうか…他にカスタムして欲しいものとかあるか?」
「これも頼む」
渡されたのは蛇の面。いや、元々は狐の面だったんだろう。これは蛇らしく加工すればいいというのは説明されなくても分かった。
(蛇の面…まさか彼女が噂の人物なのでは…)
「いいのかい?」
「いいよ。問題ないでしょう」
「分かった」
正体を悟った藤五郎は自分に明かしても大丈夫なのかと聞いてみるとさも問題なさそうに告げられる。これは誰かに話そうとするものならすぐに殺されると思った方がいいだろう。
「デザインは俺に任せてくれるんだな」
「あぁ、カッコよくしてくれ」
「分かった。二週間後、取りに来い。その時に付属品も渡してやる」
「ありがとう」
備考欄には刀も所望している。藤五郎は久々の大仕事に喜びを感じながらも命すら投げ出す覚悟をもってことに当たるのだった。
ーー
「これが注文の品だ」
「素晴らしいな、まるで武士のようだ」
夜を徹して作り上げた最高傑作。着やすさ、動きやすさそして安全面にも配慮した作品。彼女が大きな事を成すに必要であろうものをすべてつぎ込んだ服にした。そして日本人らしい和装を模した作りは日本人の象徴となるには必要不可欠だろう。
「これが付属品です!ご要望通り、安全なものを用意しました」
「ありがとう」
フィアルドも独自のルートから仕入れた刀を渡す。彼が自らの意思で危険なルートを掻い潜り手に入れた代物。現代の刀匠が近年、作り上げた刀で名は《白露》。
「どうだ?」
「予想以上だよ。これほどいいとは思わなかった」
鎧には堅く軽い最新式のプロテクトアーマー技術を応用して作られている。彼女はそれも分かっているようで気分よさげに話す。
「アンタは他とは違う。刀は俺からのプレゼントだ」
「すまない」
藤五郎の言葉にフィアルドは少なからず驚きを覚える。ここまで彼が尽くすなど見たこと後なかったからだ。その後もしばらく話し、彼女も店を後にした。
「フィアルド、これは墓場まで持っていけ」
「わ、分かったよ…」
ーー
「色々と世話になった」
「いえ、こちらこそ。カレンの面倒を見てくれてありがとうございます」
白蛇との会合の後。伊丹は扇たちとともに行動を共にしていた。その際に、伊丹はグラスゴーをカレンに貸し操縦方法を教え込ませていた。
「カレンは筋がいい。是非ともこちらに来て欲しいな」
「ありがとうございます。でも…」
「冗談だよ」
気軽に笑いかけてくれる伊丹にカレンも笑う。
「でも本当に会わせてくれるんですか?」
「嫌だと言ったらすぐに退けよ」
「わかってます」
これから対峙する相手。白蛇に対し畏怖を持っていた扇は唾を飲み込みながら集合場所に向かう。するとそこには和装に身を包んだ女性が立っていた。
「なるほど、だから白蛇か…」
一緒に来ていた井上はその姿を見て納得する。スラッとした立ち姿に全身が白い、服装もだが彼女自身が真っ白なのだ。まるで穢れを知らない天使のような。
(どこかで見たような?)
口元や髪の感じといい。後ろで隠れるように見ていたカレンはどこかであったような不思議な感覚に陥るがいまいち分からずに首をかしげる。
「白蛇さま」
「白蛇でいい」
「そっちは…」
こちらに興味を待ったようにこちらを仮面越しに見つめてくる。値踏みするような視線に思わず息を飲む。約1名を除いて。
「はっ、このシンジュクのレジスタンス扇グループの方々です。是非ともお目にかかりたいと」
「よろしく…俺は…」
「お前が白蛇か、噂は聞いてるぜ。ブリキ野郎たちを追い払ったそうじゃないか。こんな女がか?」
玉城の態度に白蛇は反応せずにこちらを見つめている。どこかしら怪訝な表情を見せていたような気がするが分からない。
「玉城!」
そんな玉城の行動に南が怒ると俺から玉城を離す。
「あぁ…すまない。うちの団員が」
「気にするな扇。ご覧の通り、ただの小娘だ。気にしなくていい」
「あぁ…」
どうやら怒っている様子はないようだ。それに伊丹は安堵の表情を浮かべる。今回は怒っても仕方のないことだったが彼女は器が広くて助かった。
「それで、行くんだろう?キョウトに、ご託はいい。早く向かおう、ここからは遠いしな」
「え、あ…。はい!」
白蛇の言葉に伊丹は思わず驚いてしまう。全国のレジスタンスを束ねるキョウト。その実態は我々はおろか、ブリタニアですら把握していないというのに。彼女はその正確な位置を知っているような口ぶりだ。
「休んでおけ、しばらくかかるぞ」
「は、はい」
彼女はすでに強大な情報網を手にしている。その事に戦慄させられながらも大人しくゆっくりするのだった。
ーー
「白蛇、白蛇さま」
彼女の言うとおり、しばらくの間走っていた車だったがそれも止まり静止する。沈黙を保っていた白蛇は伊丹の声に反応し顔をあげる。
「なんだ?」
とっさに殺気を向けられ怯む伊丹だがなんとか耐えて反応を待つ。
「お前か…」
「参りましょう」
もし違う人物ならば首が飛んでいたなどと考えるとおぞましい。そして運転手に案内されるまま道を進むと大きなフロアに出る。
「こ、これは富士鉱山!」
ブリタニアの侵攻後、富士山の西側斜面を覆うように設けられたサクラダイト採掘施設。そこは関係者以外が立ち入れば尋問なしの射殺という日本国内における最重要施設とも言える。
「お前か、何となくだが…来ると思っていたよ」
「え?」
「ほう、私が分かるというのか?」
伊丹が驚いている時、白蛇は部屋の奥に顔を向けそこに座っていた人物を見ていた。天幕に囲まれた姿はそのシルエットしか分からないが声からしてかなりの高齢だろう。
「桐原泰三、サクラダイト採掘を一手に担う桐原産業の創設者にして枢木政権影の立役者。しかし敗戦後は身を翻し、植民地支配の積極的協力者となる通称《売国奴の桐原》しかし、その実態は全国のレジスタンスを束ねるキョウト六家の重鎮…」
「そんな大物が…」
桐原泰三と言えばレジスタンスでは知らぬものはいない名をもちろん、汚名の方だがそこまでの人物がわざわざここまで出向いてくるとは…。伊丹は戦慄する、キョウトですら動かす力が彼女にはあるのだろう。
「よく見抜いた。流石は知略でブリタニアを打ちのめした者だ」
「お前は俺に何を望む?俺をこんなところに呼び出して何をさせようと言うんだ?」
「白蛇さま…」
キョウト六家の重鎮である桐原相手に対等の立場で話を進める姿に護衛の黒服は腹を立てていた。それはそうだろう尊敬の念すら伝わってこない彼女の立ち振舞いは無礼このうえない。
「なぜお主は仮面を被る。その素顔、すべてを見極めるためにわしはここにおるのだ」
「ルルーシュ…ナナリー…スザク…」
「なに?お主…もしや…。」
知るはずのない三人の名前。日本の中枢の中ですらごく一部の人間しか知らないであろう名前。その名を知り得る人物に桐原は一人だけ心当たりがあった。
「お主、まさか忌み子の…」
「なに?」
思わず漏らしてしまった言葉に鋭く反応した白蛇は殺気を漏らす。
「貴様!」
「白蛇さま!」
それに反応し護衛が彼女を囲み銃を向け、伊丹が庇うように前に出るが本人は全く気にしない。この過剰とも言える反応、桐原の推理は間違っていないということになる。
「お主の目的はなんだ。友のためかそれとも…日本のためとも言うのかお主が」
桐原の態度が明らかにおかしくなった。それはその場にいた者すべてが感じていた。
「日本を解放するだけではない、ブリタニアを完膚なきまで叩き潰す」
「お主…あのような目に遭ってもこの日本を愛すると言うのか」
「日本は俺の故郷だ。この状況をなげかないわけはないだろう。だが俺には力がない、覚悟も足りない」
既に多くの人々を魅了してきた彼女が求めるのはもっと先。誰も考え付かないところまで見据えている。飽くなき向上心、ブリタニアへの怒りが伝わってくる。
「ん…」
「面白い、気に入った。お主に協力しよう」
(は?)
「白蛇、その仮面の下もなにも問わん。問わせん。お主の怒りはしかと受け止めた。存分に働け…」
「ありがとうございます!」
伊丹はその言葉に対し深く頭を下げるが白蛇は当然のようにただ立っているだけだった。