不思議な夢を見た。一人の女性がこちらに手をさしのべてくれる夢だ。彼女はこちらを見て確かに言った。佐脇薫だと。
「う…」
「目を覚ましたか…」
目を覚ましたのは見知らぬ部屋。そこには一人の女性がこちらを見下ろしていた。彼女は、夢に出てきた謎の女性だった。
「ここは…どこだ…」
「俺の家だ。全く、俺の計画が目茶苦茶だ。これで政庁に潜入出来なくなってしまった」
反射的に周囲を確認する。他に人がいる気配がなく、目の前にいる彼女からも敵意を感じない。こちらが警戒しているのを見ているのに落ち着いた態度でじっとしている。それはまるで母親が子供を見るかのような優しい眼差しだった。
「佐脇…薫……」
「そのとおり、お前の名前はなんだ?」
夢の中で名乗られた名前、それは見事に的中する。そして自分の名を聞かれた時、一瞬戸惑うが頭に浮かんだ名を言う。
「ライ…」
「名字は?」
「名字?」
名字、確かラストネームの事だったはずだが先程のように頭に浮かんでこない。
「分からない…」
「記憶喪失か…どこまで覚えている?親は、兄弟は?」
「……」
「そうか…」
何個か質問を投げられるがそれに対し、なにも答えられない。それに対する答えが見つからないのだ。
「引き寄せられたと言うべきかな?」
「?」
「俺も記憶喪失でな。ここ数ヵ月の記憶しかないんだ、親の顔も兄弟が居たのかすら分からない」
目は口ほどに物を言うというが彼女がそのもっともたる象徴だろう。彼女の表情は一切動かないが慈愛に満ちた優しい瞳をしている。おそらく、優しい人なのだろう。
「そうなのか」
「まぁ、思い出すなら勝手に思い出すさ。しばらくは世話をしてやる」
この瞳を見ていると頭が痛くなる。だれかが頭の奥で微笑んでいるような感覚。
「なぜそこまでしてくれる?」
「親近感を感じたからさ」
飲み物を渡され一瞬、警戒してしまうがそれを察知した彼女は目の前でその飲み物を飲み干した。すると安心して飲み物を手をつける。
「ブリタニアになにをされていたかは知らないがゆっくりと休め。それからでも遅くない」
「ありがとう」
「気にするな」
まさに運命とも言うべき出会い。彼女がこの時、まさか彼女が僕の◯◯になるなんて思いもよらなかった。
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同棲生活が始まったが薫から外に出歩かないように言われてしまった。おそらく、自分の事を思っての事だろうが彼女は実に多忙でいつもクタクタになって家に帰ってくる。
(学生なのに変だな…)
彼女が普通の人間ではないことは分かっていたことだが。やはり、ただの学生ではないようだ。
彼女が学校に行っているとき、湧き出た好奇心に勝てずに彼女がいつも持ち歩いているアタッシュケースを開いたことがある。
「これは…」
防弾、防刃使用の服とプロテクター。火薬式の回転銃、そして押し入れには刃を潰した刀が置いてあった。
少し予想を越えた代物に驚くがすぐに思考にふける。彼女はいつも朝には味噌汁を作って白米を炊く。言語も日本語を多用している。
その点から見て彼女は日本人、そしてこの武装。反ブリタニア勢力の組織に所属している可能性が非常に高い。と言うことは自分はブリタニアに捕まっていたまたはそれに近い状況であった事が考えられる。
(助けてくれたのなら何で言ってくれなかったんだ?)
隠された…いや、隠してくれた。というのが正しいのか。
やはり最初の感触は間違いなかった。彼女は、とても優しい人間だ。それが分かるだけでかなり気が楽だった。
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「機体の整備は念入りにな」
「了解!」
白蛇グループ。イバラキ本部では忙しくナイトメアの整備が行われてきた。最近は特に忙しいイバラキでの反抗作戦、ブリタニア貴族襲撃、政庁侵入をやり遂げたこの組織は他のレジスタンスグループからも名が知れてきたことが大きい。
ナイトメアを運用する作戦も増えてきたしその度に白蛇も出撃。組織の回りが良くなったが白蛇の仕事量は激増していた。
「白蛇様も体力が無限にあるわけではありません。このままでは倒れられてもおかしくないですよ」
「でもうちの組織って白蛇様ありきの組織だからなぁ…」
「あと少しだろう。あと少しで白蛇様が思い描いた構想が実現する」
「構想とは?」
侍従隊の懸念に割り込んできたのは伊丹。彼女の言葉にジェシカたちも食いついてる。
「救援要請などは多くの県からキョウトを通して来る。だが白蛇様は主にここら周辺、関東地方を中心に作戦に参加していらっしゃる」
確かに主に関東地方を中心に救出や援護作戦を実施し各関東県の組織との連携を強めている節はある。茨城、千葉、埼玉、群馬、神奈川、山梨。その主なレジスタンスグループとは協力関係を既に築いていた。
「こ、これはもしや…」
「そうだ、東京を完全に包囲している形になったんだ…」
レジスタンスグループによる東京包囲網。これが白蛇の狙いだったのだ!(違う)
関東圏の組織が手を取り合うことで戦力と情報を交換しやすくする。それこそが白蛇の描いた関東連携構想だと伊丹は確信していた。
「キョウトではない。我々のグループが関東を統制する立場になりつつある」
「ゲットーでもかなり噂になってるよ。日本解放戦線、サムライの血、白蛇の三大巨塔だってさ」
伊丹の言葉に柏木も同意しながら情報を付け加える。
日本最大のレジスタンスグループは文句なしに日本解放戦線である。旧日本軍の兵たちが過半数を占める日本解放戦線は保有兵器、兵力ともに最強とも言われている。
その次点として名を挙げられているのが白蛇、ナイトメア保有数は15を越え、中にはサザーランドも含まれている。練度も実戦を重ねているために高い組織。さらに白蛇というカリスマがリーダーであることも多いだろう。
奇跡の藤堂、救世主の白蛇。この名が日本人の中でかなり浸透していた。
「流石は白蛇様。我々は坦々と戦っていたのに対してこれほどの思案を巡らせていたとは!」
「我々幹部は白蛇の思考を少しでも汲み取らなければならない。確かに白蛇様は最近、オーバーワーク気味だ。侍従隊は白蛇様のケアを怠らないでくれ」
「「了解!!」」
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その頃、アッシュフォード学園においても盛大な勘違いが発生していた。
「なぁ、ルルーシュ君。ちょっと気になることを聞いたんだけど」
「なんだ、リヴァル?くだらない話じゃないだろうな?」
「いやぁ、それがね」
アッシュフォード学園、生徒会室。そこでリヴァルは小耳に挟んだ噂を話していた。
「カオルが彼氏とデートしてたって噂なんだけど」
「なに?」
「なんですって!?」
その話題に当然ながら食いついたルルーシュ。予想外だったのはミレイだった。机の反対側から出現した彼女に度肝を抜かれたリヴァルは話を続ける。
「いやぁ、公園でカオルがかなりのイケメンとデートしてたって噂があったんですよ」
(あの薫が男とデート…ありえないな)
リヴァルの噂を信じるに価しない物だと判断するがそれでは疑問が残る。火の無い所に煙は立たぬ、日本の諺だが彼女が男性と共にいた可能性は捨てきれない。
「もっと詳しい情報はないの!」
「んなこと言われてもぉ~」
噂好きのミレイが過剰反応しているのをシャーリー含め和やかに見ている中。ルルーシュは完全に思考モードに入っている。
(ならその人物はだれだ?あいつに兄弟なんていない、親と会うなんて考えられないし彼氏と勘違いされないだろう。なら、昔の知り合いか?俺と再会する前の知り合いだとすれば納得がいく。しかし、アイツの過去は悲惨なものだ。彼女とて過去は抹消したい存在のはず。いや待て、薫が好き好んで男性と接触するわけがない。と言うことは彼女が望んでない場面とすれば。そう言った関係のスカウトマン、それとも薫の過去を知っていて脅していたという線もある。薫は金持ちではない、金銭を要求するには説得力がないな。もしや、脅され薫と関係を持とうとする奴である可能性も。つまり、薫が危険な状況に立たされているということになる)
「薫が危ない…」
ルルーシュはそう判断する、次に学校で会う時に必ず聞き出して見せると決意するのだった。
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「我々は忘れない、あの時の辛酸を舐めた戦いを!」
ブリタニア軍、イバラギ基地。
「下等なるイレブンごときに我々は敗北し、やつらは付け上がり白蛇等という名で名を広めている!これは我々に対する宣戦布告と同義だ!」
薫の指揮の元。撃退したブリタニア軍が態勢を立て直し殲滅作戦を展開しようと動き始めていた。
「政庁の部隊が到着次第、我々は下等なる反乱分子を一人残らず殺し尽くすのだ!」
「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!」」」
「オールハイル、ブリタニア!」
「「「オールハイル、ブリタニア!オールハイル、ブリタニア!」」」
ルルーシュの予感は違う形で実現する。転生後の薫に最初の最大のピンチが訪れるのだった。