「あぁ、役に立てるかな?」
「っ!」
急に声が低くなった相手に伊丹は戦慄する。企みが実現に限りなく近づき相手が本性を現したのだろう。
(この殺気、藤堂中佐並みかそれ以上の人物か)
「我々は貴方の傘下に入る。我々を勝利に導いてくれ」
「愚問だな、では準備を完了させろ」
「了解した」
自分達のリーダー的存在である伊丹が緊張しているのを見て伊坂たちも緊張を持つ。
各自に準備をさせて次の通信に備えて待つ。通信相手は恐らく女性、通信機が安物のせいで詳しいことが分からないがただ者ではないというのは確かだ。
「こちらは準備が完了した」
「よし、そちらに2機が向かっている。お前たちから見て西の方角到着は15秒後だ、壁越しに撃ちまくれ」
「了解した」
「伊丹さん。相手は凄そうなのは分かりましたがこの指示は…」
「カウントダウンを怠るな」
メンバーたちからも不安の声が上がるが伊丹はそれをあえて無視する。この一撃で奴の能力が決まるのだ。彼女はそれを見極めたかった。
「3…2…1…撃て!」
7機のサザーランドによる全力射撃。だがその先には敵は居らずただコンクリートの道路を破壊するだけに終わった。
「居ないねぇ…」
柏木は明らかな疑問を持って声を出す。
「続いて東だ。すぐに来るぞ!」
「後方に反転。射撃開始!」
他の者からの疑念の声を掻き消すように叫んだ彼女はすぐさまサザーランドを反転させコンクリートの壁を撃つ。伊丹の怒号に他の者たちも動き攻撃するとそこには2機のサザーランドがいたのだ。
「本当にいた!?」
「伊坂、なら一発めはなんだったんだよぉ」
「た、確かに…」
「伊丹さん、後方に敵機!」
「なに!?」
すぐさま異変に気づいたサザーランドが3機、ランドスピナーを高速回転しながら現れる。
「マズイ、迎撃を!」
「無理です!間に合いません!」
やられる。そう思った瞬間、岩盤が崩れ落ちサザーランド3機が地下に吸い込まれていく。
「助かった?」
「まさか、先程の攻撃は岩盤に対しての攻撃だったのか?」
「それが本当だったらヤバイですねぇ」
「嘘だろ…」
一瞬でサザーランドを5機も撃破した伊丹たちは事実に騒然としているとあの声が再び無線から聞こえる。
「移動しろ、S28だ」
「了解」
先程の成果に全員がこの声は信頼に足ると判断した。それからの行動は素早かった。
「前方に装甲車3両、踏み潰せ」
「やってやるぜ!」
サザーランドに乗り込んだメンバーがライフルを構えて乱射。数の差と性能の違いで一方的にやられる装甲車。
「南西の方角から3機……今だ!」
流れるような発砲。出会い頭になるはずだった敵のサザーランド2機はやられる。
撃墜数は8機。今まででは考えられない大戦果だ。
「そろそろ頃あいだ。脱出ルートは確保した。各自、地下道から撤退しろ」
そんなところで声の主は撤退を指示した。こちらの目的はあくまでも敵から民間人を逃がすこと。それを忘れずに行動している、今まで舞い上がっていた自分達が恥ずかしい。
「もう少しでブリキ野郎を殲滅できるんだ!やらせてくれ!」
メンバーの一人が調子に乗ってまだ戦いたいと声をあげる。伊丹以外のメンバーも思いは同じようだ。
「貴様たちは何も分かっていない。戦場では何が起きるか分からない敵が新型を投入してきたらどうする?貴様たち素人に切り抜けられるのか?」
帰ってきたのは冷徹な声。次、逆らえば見捨てる。言外に言っていたのは明らかだ。
「よせ、この声のいう通りだ。撤退するぞ」
「わかりました」
伊丹はそういうと自らも地下道にゆっくりと降りていく。先程の戦闘のせいで岩盤がガタガタだ。気を付けなければ。
「大丈夫なのだな?」
「あぁ…」
一応聞いてみたが計算の内か…。我々が逃げる分には岩盤が崩れないように測っていたようだ。
「分かった…我々は退く」
「それでいい…」
そう言うと声の主からの声が途切れる。これで用事は済んだと言うことか。そう思い、彼女たちは地下道の奥深くにむかうのだった。
ーー
「桐山さん!」
「伊丹か、よく無事だったな!」
「はい、なぞの声が助けてくれました」
「なんと、白蛇は私の願いを聞き届けてくれたのか」
「白蛇?」
地下道をゆっくりと進む彼女たちの目の前に姿を現したのは薫が一番最初に出会った、桐山。そんは彼女の言葉に首を傾げると事の経緯を桐山は説明した。
「なるほど…」
「伊丹さん、なにか来ます!」
「なに?」
警戒に当たっていたサザーランドは自分達が来た道からナイトメアが来たのを確認した。そのサザーランドはこちらを見つめると動かなくなる。
「もしや、白蛇か?」
「なるほど…白蛇よ、我々は貴方に礼を言いたいのだ。どうか降りてきて頂けないだろうか」
桐山さんから聞いた人物なら交渉に応じてくれるはず。すると白蛇はナイトメアから降りるとこちらに顔を向ける。顔に包帯を巻き付けた少女。その包帯は血まみれであった。
「私は伊丹智香。このグループのリーダーをしている人物だ」
「グループリーダー?」
「あぁ」
値踏みするように全身を見られる。
「美しいな…」
「よせ、照れるじゃないか」
呟くような言葉に思わず顔を赤くする。慣れないことを言われたせいで取り乱したがすぐに顔を引き締める。
「ここは?」
「ん、イバラギゲットーだ。すまないが、その包帯は火傷でもしたのか?」
「まぁな…」
やはり不味いことを聞いてしまった。その立ち姿なら綺麗な顔をしているだろうに。こんなことになってしまったのだろう。
「気にするな。俺の問題だ」
「あぁ…」
自分に降りかかった不幸だけでも大変なはずなのにこんなに落ち着いている。それどころかこちらに的確な指示を送り、地形を熟知した作戦を展開した。
「出身はどこなのだ?」
「シンジュクゲットーだ」
わざわざ東京からここまで来たのか。見た目からして外人だと思っていたが日本人らしい。
「俺は疲れた。悪いが帰らせてもらう」
「待ってくれ!」
面倒くさそうに振り返る彼女に一瞬だけ気圧されるが伊丹は本当に聞きたいことを問う。
「なぜこの様に振る舞える。お前は我々とは違う、お前は何をするつもりだ!?」
「下す…」
「なんだと?」
「全てを戻す。そのために急がなきゃならない」
ブリタニアに罰を下すと言ったのか…。それに全てを戻すと言ったのか?もしや彼女はブリタニアから日本を取り戻すということなのか?
「分かった…」
彼女はブリタニアと戦争するつもりだ。テロ等ではない本当の戦争を…。彼女は必ず現れる、我々という駒を見定めた彼女は必ず現れるだろう。そして我々はそれまでに覚悟を決めなければならないのだろうな。
静かに地下道の闇に消えていく白蛇。その後ろ姿を伊丹は静かに見つめるのだった。
ーー
その数日後。
「そうか…伊丹大尉のグループが動いたか」
「日本解放戦線を抜けて地元に戻ったと思ったらここまでの戦果をだすとは…」
日本の反抗グループを支援しているグループ。キョウトの中枢、そこには五人の人影が話をしていた。
「通りすがりの人物が手助けをしたらしい」
「通りすがりとは面白いですね。どのような方なのですか?」
「おや、神楽耶さま。気になるのですかな?」
「白蛇と呼ばれた女性です。」
「白蛇?」
神楽耶はその言葉に意味が分からずに首をかしげる。しかしすぐに答えにたどり着いたようだ。
「白い蛇と書いて白蛇ですね。神の化身あるいは神の使いと呼ばれる」
「左様、その者を見た印象がそれだったと」
「さぞかし美しい方なのでしょうね。是非ともお会いしたいわ」
「そのような人材こそ今の我々には必要だ」
神楽耶の言葉に桐原も同意する。
「その白蛇を探すのだ」
「はっ!」
桐原の言葉に側に控えていた者たちが下がる。
(髪肌が白く、顔に大きな火傷がある人物。髪肌が白く日本人であるのなら恐らくアルビノ、その上顔に火傷を負っているとなれば捜索は容易いだろう)
まさに特徴のオンパレードの人物の捜索、だが桐原の予想を大きく上回り捜索は難航することとなったのだった。