「随分と足場が悪いな」
「はい、なにぶん。整備が行き届いていないエリアですので」
「いや、これは意図して細工されたものだ」
中心部に近づくほど路面状況が悪化することにより、こちらの戦力はナイトメアに絞られた。ナイトメアの踏破能力が他の兵器より抜きん出ているがゆえの状況。これはナイトメアが兵器としてなぜ存在しているかをしっかりと理解しているやつの策略だ。
「まさか、イレブンが」
「ふん、イレブンの中でもまともな奴がいるらしいがこのジェレミア・ゴッドバルトの目は騙せん」
ジェレミア・ゴッドバルトはイレブンに対して偏見も差別意識もあるし、慢心もしていないと言えば嘘になる。しかし油断はしていない。戦場での油断は死だ、それだけは心得ていた。
「それにしても惰弱だな、イレブンは…。各機、遅れるなよ」
「「イエス・マイ・ロード!」」
純血派の機体は合計10機。ジェレミアとヴィレッタ、キューエルたち熟練のパイロットと新兵も混ざった部隊だ。だが新米といっても皇族至上思考を持つエリートばかり、場数もいくらか踏んでいる猛者たちだった。
ーー
イバラキゲットーの中心部。巨大な交差点が存在する地点にたどり着いたジェレミアたちは周囲を警戒しながらこの街の違和感に気付く。
「ジェレミア卿、これは…」
「ここにはまだ我々の本隊は来ていないはずだな」
「あぁ、我々が一番に乗り込んでいる」
ゲットーとはいえ、街の中心部だというのに人の気配がない。大規模な制圧作戦とはいえ、情報は秘匿されていたはずだ。だがそれではこの静けさは不気味すぎる。
「周辺警戒を厳にしろ!」
「「イエス・マイ・ロード」」
ゆっくり、ゆっくりと歩を進めるサザーランド。その足元には細いワイヤーが通っている。ワイヤートラップと言うものだ。
カチッ…
「なんだ?」
当然の爆発、サザーランドの右足が吹き飛び倒れてしまう。
「ワイヤートラップ!?」
「くっ、謀られた!ここは罠か!?」
ジェレミアは用意周到に仕掛けられたトラップを見て察するがもう遅い。すでに逃げられないように罠が張り巡らされているだろう。
「ヴィレッタ、私に続け。ここを突破するぞ!」
「はい!」
「敵機接近、ぐぁ!」
ジェレミアが動き始めた瞬間。背後から無頼が襲撃、サザーランド一機のアサルトライフルが破壊される。
「正面、スナイパー!」
「路地に待避だ!」
「駄目だ、そのまま直進!」
キューエルの命令をかき消しながら直進するジェレミア。彼の咄嗟の命令に反応するが一機が対応しきれずに路地に身を翻してしまう。
「またワイヤートラップかぁ!?」
サザーランドの胸辺りに張られたワイヤートラップを起動させ瓦礫に埋もれてしまう。
「くそっ、ダンベルが!」
「スナイパー!」
乱数回避により狙撃を避ける純血派だが一機が左腕を吹き飛ばされる。
「おのれ、イレブンの分際で!」
「敵機、2機。さらに出現!」
現れたのはサザーランドと謎の白い機体。サザーランドは正確無比の射撃で先頭にいたサザーランドの頭部とコックピットを正確に射抜く。
「フォレスト!」
「おのれ!」
ジェレミアたちはサザーランドに射撃を加えるが当たらない。当たっているはずなのに機体をすり抜けているように当たらないのだ。
「なんだ、イレブンのゴーストか!?」
「もう一機も来ます!」
ヴィレッタの目の前に迫ってきていたのは白い無頼。無頼の手にはピッケルが握られており彼女を倒さんと振るわれる。
「そんな工事用の備品でなにができる!」
勝ったと言わんばかりにライフルを構えるヴィレッタだが次の瞬間。ライフルを奪われてしまう。
「なんだと!?」
ピッケルの先端がライフルのトリガーガードに引っ掛けられそのまま上空に飛ばされてしまう。飛ばされたライフルを白い無頼が回収、ほぼゼロ距離で形勢をひっくり返される。
「ヴィレッタ!」
すんでの所で無頼に奪われたライフルが破壊される。ジェレミアの正確な射撃により破壊されたライフルを捨てた無頼はそのままヴィレッタに激しいタックルを喰らわせる。
「何て奴だ!」
ジェレミアはライフルを破壊したことで敵が退くと踏んで無頼の背後に向けて斉射を加えたのだが。奴はそれを読んでヴィレッタを潰しにかかったのだ。
「イレブンめ!」
だがヴィレッタとてただではやられない。倒れると同時にスタントンファを展開、無頼の頭部めがけてぶん殴る。その一撃は見事に命中し砕けた頭部から触角のような飾りが落ちる。
それと同時に膝で頭部を破壊され、ピッケルで右肩の隙間をえぐり取られる。
「駆動系が!?」
サザーランドの剥き出しの駆動系をピンポイントで破壊され行動不能に陥る前にコックピットブロックを離脱させる。
「おのれ、ヴィレッタを!」
「イレブンに負ける?誇りあるブリタニアの騎士であるこの私が!」
「キューエル!」
恐ろしく強いサザーランドに撃破されたキューエルも無事に脱出。スタントンファで対応するジェレミアも自身が押されていることには気づいていたが退くに退けない状況だった。
いつの間にか無頼の数も増え、敵に包囲されている。本来なら脱出が最善手だろうがまだ動ける機体を捨てて逃げるのは避けたかった。
「一瞬で…このイレブン風情が!」
瞬く間に9機も撃破された純血派。用意周到に張り巡らされた罠に飛び込んだこちらに非があるが激昂をせずにはいられなかった。そして残り一機になったところで敵の集中攻撃を受ける。
「調子に乗るなよ」
ジェレミアはケイオス爆雷を放り投げると無数の破片がスナイパーに降り注ぐ。たまらずスナイパーは退避するが反応が遅れライフルを失ってしまう。
続いて白い無頼が放った弾丸を避けながら脇道に逸れる。使っていたランドスピナーを収納し小ジャンプ。ワイヤートラップを飛び越えると追撃して来たサザーランドを見て右のトンファをパージ。
ワイヤートラップを起動させるとサザーランドを足止めする。
「これで…」
するとスラッシュハーケンで大きく飛んでいた無頼がピッケルを振りかぶって攻撃、それを左のトンファで受け流す。
足止めをされたせいであのサザーランドにも追い付かれてしまい絶体絶命に陥る。
「くっ…」
一瞬、死を覚悟したジェレミアだったが白い無頼は突然、手を上げて引き返す。すると次々と無頼たちが引き上げていきこちらから離れていく。
「なんだ、なんだというのだ?」
突然の撤退行動に意味を見いだせなかったジェレミアだったが機体もボロボロでありそれに乗じて撤退するのだった。
ーーーー
「ジェレミア卿」
「無事だったかジェレミア」
「ヴィレッタ、キューエル。無事で何よりだ」
駐屯地に無事に撤退したジェレミア。他の部隊も損害を受けたようで撤退し傷ついた機体や体を直していた。
「確認をしたのですがあのゲットーにはテロリストどもしか居なかったそうです」
「やはりこちらの情報が漏れていたか。それならあの罠も納得できるな。で、他の部隊員は?」
「ジェレミア…撤退できたのは我らだけだ」
「…そうか」
あの包囲網から無事に脱出できたのは三人だけ。あいつらは皇室への忠誠の高い奴等だった。かならずや、これからのブリタニアを背負っていく人材だっただろう。
「この借りは必ず返すぞ…」
ジェレミアは逃げ去ったテロリストどもを見つめるように静かに呟くのだった。