シンジュクゲットーでの虐殺事件。それを切っ掛けに俺は新しい力を手に入れた。ギアスという未知なる力を、それによりクロヴィスの暗殺にも成功し打倒ブリタニアへの道が開かれた。
だがそのせいでスザクが犠牲になってしまった。どうすればいい、スザクを救い出さなければならない。アイツは優しいやつだこのまま殺させるわけにはいかない。
「大丈夫か、ルルーシュ?」
「薫…」
佐脇薫、またの名をカオル・ヴィヨネット。俺の親友、そして数少ない相談相手だった。だが今回に限っては話せない。話したくない、彼女まで俺の闘いに巻き込むわけにはいかない。
彼女は優しい、そして傷ついている。これ以上、彼女が傷ついているのは見たくなかった。
「助けるんだろ?俺も手伝ってやる。血にまみれようが死のうが構わない。俺にも手伝わせてくれ」
だが彼女はそんな覚悟でさえも解きほぐそうとしてくる。駄目だ、甘えてはいけない。俺の手に薫とナナリー、二人の幸せが転がっているんだ。
だが薫の説得に少し折れ、結局手伝わせてしまった。
「この携帯を東京タワーの受付でカレン・シュタットフェルトの落とし物と言うことで届けてくれ。時間は指定通りにな」
あきらかにこどものお使い。だが彼女は何も言わなかった。それは俺の覚悟を、彼女は汲み取ってくれたということだ。
これから俺はブリタニアと敵対するために姿を表す。彼女には気づかれてしまうだろう。だが押さえて欲しい、これは俺のやるべきことなんだ。
「でも覚えててくれ、お前の理解者は俺だ。お前が困ったとき、苦しい時、俺を頼ってくれ」
心を鬼にして突き放そうとした時、薫は微笑みかけて言った。彼女は無表情だが微笑んだ気がしたんだ。
「薫!」
思わず抱き締める。普段なら恥ずかしくて出来ない事だろうがやってしまった。
しまったと思ったのも既に遅い。だが彼女はそれを静かに受け止めてくれた。何も言わずにただ黙ってこちらを受け止めてくれる。
(いい匂いだな…)
ほんの一瞬だけ心に平穏が訪れたルルーシュ。だが薫から離れた後に自らの行為を恥、赤面したのは別の話である。
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みなさんライです。僕は薫に拾われ半年近く同棲生活をしています。彼女は不思議な人物でした。見た目は文句なしの美少女、だが裏の顔は関東のレジスタンスグループを纏め上げる女傑。
(まぁ、家だと全然違うんだけどね)
見てくれは気にしてるみたいだから良いんだけど。彼女は片付けは苦手だしだらしない。何もないと布団から出てこないときもある。スイッチが入るとテキパキするんだけど、普段の彼女は正直、だらしなかった。
(だけど…)
戦場の彼女は美しい。何も言わない、何も感情を表さない。ただ目的のために淡々と作戦を遂行する冷徹な指揮官。
だが彼女は激情家でもある。仲間とのコミュニケーション、死んだ仲間の供養は欠かさない。そんな彼女だから皆が付いてくる。彼女は決して表には出さないけど心で泣いているのだ。だからこそ、僕がそばに控えようと決めた。例え、世界が全て敵に回ろうとも尊敬する彼女を護る騎士になろうと決めた。
「だから僕は君を信じる。僕は薫の振りかざす剣の切っ先だから」
ライは静かに射線を合わせる。銃口の先にはキューエルのサザーランド。超人的な狙撃でライフルを弾いた彼はすぐさま撤退するのだった。
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「先程のナイトポリスはお前たちが手配したのか?」
「いえ、ゼロが手配したのでは?」
「私は手配していないな」
スザクを連れて撤退中のルルーシュは疑念を覚える。他のレジスタンスグループだとしてもあの警備に紛れ込めるものなのか?
それだけ強力な組織が俺の動きを察知してあらかじめ手配していた。つまりそれは、こちらの動きが予測されているということだ。
(バカな、前情報など皆無なこの場面で適切に兵を配置させたというのか)
「もしかしたら…」
「どうした、扇?」
「いや、確信はないんだが心当たりなら」
「誰だ?」
「白蛇だよ」
「ハクジャ?」
聞き慣れないフレーズに思わず聞き返すルルーシュ。
「関東のレジスタンスグループを纏め上げたカリスマで。この東京を囲むように配置されたレジスタンスグループを配下に納めた人で蛇の仮面を被った女性だ」
「女性だと?」
「あぁ、日本解放戦線に並ぶ一大レジスタンスのトップだよ」
そのような組織が存在していたとは想定外だった。それに俺の策略を完全に把握していたこの配置。相手はかなりの切れ者だろう。
(もしかして…)
あの時、シンジュクで新型を足止めしてくれた2機のグロースターもその白蛇の手配した部下だとすれば。俺は白蛇の掌で踊らされていることになる。
(バカな、そんなことまで折り込み済みだとでも言うつもりか)
だが無視は出来ない。ゼロという名を広めるためには白蛇は避けては通れぬ道。
(全てお前の思い通りに動くと思うなよ)
他人の掌で踊らされることが最も嫌いなルルーシュは拳を強く握りしめる。
(とりあえず、スザクの方が先だな)
ーーーー
枢木スザクが記憶している限り、佐脇薫という人物はこの世から隔絶した天使であった。枢木神社近くの山、そこの小川で出会ったのが全ての始まりだった。
「だれだ、お前は?」
「佐脇薫…」
髪も肌も全身真っ白な少女。少年期のスザクからすれば見たこともない神秘的な存在だった。だが彼女はその美しい肌にいくつもの打撲痕や裂傷を抱えており、血まみれであった。
「お前、空から落ちてきたのか?」
「え?」
傷ついた天使、それが幼き頃の薫であった。少なくともスザクの中ではだが。
「スザク…俺を知っているか?」
「あぁ、薫…」
拷問によって体をボロボロにされ疲れきった体にムチ打つ。他の名誉ブリタニア人のためにゼロの元から離れたスザクは待ち受けていた人物を見る。
「あぁ、俺は佐脇薫だ…」
「薫!」
懐かしき少女、薫がその場に立っていた。ルルーシュとの再会でもしやとは思っていたが彼女もあの戦火から生き延びていたのだ。
「会いたかったよ、薫!」
感激のあまり我を忘れて彼女に抱きつく、薫はそれを黙って受け入れてくれた。
「あ、ごめん。いきなり」
「気にするな、びっくりしたがな」
「うっ…本当にごめん」
土にまみれた服をはらう薫は無表情のまま立ち上がるとこちらを静かに見つめる。
「ごめんね、一緒に逃げようって言ったのに」
「……スザク。早く行くぞ」
「え、どこに?」
「ブリタニアに連絡するんだろう?公衆電話までは付き合ってやる」
そう言った彼女はバイクのヘルメットをスザクに投げ渡すと自分もヘルメットを被る。
「出てきたら、また会おう…」
「うん、ありがとう」
幼馴染みの言葉に久しぶりに笑った気がするスザクは笑みを浮かべながらバイクに跨がるのだった。