どちらから読んでも支障はありませんのでご安心ください。
カオル・ヴィヨネット。そんなちょっと不思議な女性に出会ったのは本当に偶然だった。
「あのぉ~」
「はい?」
「もしかして道に迷ってました?」
アッシュフォード学園の入学式に向かっている途中。フラフラしている男子学生がいた。困っている人は放っておけない人種のシャーリーが話しかけるのは当然のことなのだ。
「あぁ、私シャーリー・フェネット!私もアッシュフォードに入学するんです。あなたは?」
「カオル・ヴィヨネット…」
カオル・ヴィヨネット。確かに男子制服を来ては居たがその正体は美しい女性であった。バランスの取れたスタイルに真っ白な肌や髪は彼女の美しさをさらに引き立てる。
「へぇ、男装してるんだね。珍しいね」
「まぁ…」
どことなく元気のない返事。まさか色白なのは病弱だからだろうか?
「迷ったんなら一緒に行こ!ちょうど、私も一人で寂しかったんだ」
「よろしく…」
「うん!」
自身が出した提案にカオルは静かに頷く。もしかしたら断られるのではと思っていたがそんな事はなく、ひとまず安堵するシャーリー。
どことなく警戒している様子の彼女。もしかしたら過去に何かあったのかもしれない、男装もそれに絡む理由だとしたら彼女は他人に対して心を閉ざしているのかもしれない。
まぁ、人には言えないことなんて誰にでもある。こう言うのは触れないに限る。
「へぇ、そこに住んでるんだ。なら途中まで一緒に帰れるね」
「そうだな…」
「私は昔からやってる水泳部に入ろうと思ってて、カオルさんは予定あるの?」
「いや、特に…」
いくつか質問を投げ掛けてみたがカオルの言葉は淡々とした受け答えであった。やはり、何かあったのかもしれない。そんな思いが頭を過っている間にシャーリーは一つ、提案を出してみる。
「なら水泳部も一緒に見学にいこ!」
「分かった…」
「ほんと?やった!」
渋々と言った感じではあったが頷いてくれるカオル。彼女も彼女なりにこちらから歩み寄ろうとしてくれている。そんな彼女の思いを感じながらアッシュフォード学園にたどり着く。
「あ、着いたね」
「おぉ…」
「すごいね。体育館はこっちだよ!」
「あぁ…」
広大な敷地を持つアッシュフォード学園。乗馬部が馬を全力で走らせても全く問題ないぐらいの敷地を持つこの学校は私立でありながら、高い人気を誇る学校だ。
「ここが空いてるよ!」
「ありがとう、シャーリー」
「どういたしまして、カオル」
ここにきて初めての名前呼び。シャーリーは少し照れ臭そうにする。カオルを見て笑みを浮かべてる彼女は実に嬉しそうだった。
「良かったね」
「あぁ、一緒で良かったよ」
「だよねぇ!」
アッシュフォード学園の入学式。クラス分けが行われ生徒たちが入ってくる。そんなクラスの中で唯一、つまらなさそうにしている生徒。ルルーシュ・ランペルージはとある人物たちが入った瞬間、その表情を一変させる。
(あれは、もしかして薫か?)
六年前、日本の人質として枢木家に引き渡されたルルーシュとナナリー。そこでスザクと出会う訳だが実はもう一人、そこで出会っていた少女がいた。
「なんとしてでも生徒会には…」
「え、生徒会に入りたいの?」
「いや…」
「確かに魅力的だよね。兼部も良いらしいし」
それがルルーシュの視線の先にいる少女。佐脇薫、出会った当時もすぐに死にそうな肌の色と日本人離れした白髪。あの時は心身ともにボロボロであったが。まさか、彼女が生きていて、ここに来るとは…。
「水泳部の見学は今日、行くのか?」
「え、うん。今日から見学期間だし」
「なら、すぐに行こう」
「え、うん。今日終わったら行こうね」
なるほど、今日は水泳部の見学に行くのか。なら待たせてもらおうか。
ーー
水泳部の見学に回せる時間、プールから出口に至るルートまで計算して最も通る可能性の高いルートを決定。そこで待ち受ける、予想通り彼女はすこし疲れた様子で歩いてきた。
「お前、佐脇薫だろ」
「……」
薫は驚いた表情を見せるとこちらを見つめる。しかも少しずつ逃げるように後退する。
「ルルーシュ…」
予想外の反応に困惑しながらもルルーシュは自分の名を言う。一応は六年も経っている。お互いに成長して分からないだろうと察しての行動だったが彼女の反応は変わらないままだ。
「ほら、六年前に枢木神社で一緒に遊んだことがあるだろ?」
「え、知らない…」
知らないだと?ならこいつは本当に瓜二つの別人なのか、これは不味い。昔馴染みに会えたと思って昔の話を話してしまった。これは口封じをしておかなければならないな。
「……」
「おまえ…」
六年前の記憶とはいえ彼女のことを間違えるとは思えないが向こうが知らないのなら…。
「ごめんなさい!覚えてないんです!」
「覚えてないだと?」
「ごめんなさい!昔の事は本当に覚えてなくて!確かに俺は佐脇薫です!ヴィヨネットは偽名です、でも本当に昔の事は覚えてないんです!」
「……」
早口で謝る薫。ガタガタと震えながら怯える彼女を見ると昔の事を思い出して申し訳なくなってくる。この様子を見るに言っていることは本当のようだ。どうやら、ただ物忘れが激しいと言うわけではなさそうだ。
(もしや記憶障害か?)
過去に辛い出来事があった時に無意識で自己防衛機能が働き、記憶を封印する事がある。六年前の戦乱で彼女はさらに大きく傷ついてしまったのならこのような事態に陥るのも納得できる。
「ナナリー・ヴィ・ブリタニアの名は知っているか?」
「ナナリー」
「そうだ」
誰にも聞かれないように口を震えている彼女の耳に寄せる。ほんの少しだけ震えが収まった彼女は静かに頷く。
「知っています」
「そうか…ならナナリーが慕っていたのは?」
「スザク?」
「…そうか」
間違いない、彼女は俺の知っている佐脇薫だ。だが自分の事だけ覚えていないと言うのは少し、というかかなり辛い。
(昔の俺は強く当たっていたからな。彼女にとってはかなりのストレスだったかもしれないな)
あの頃の俺は彼女が幽霊か、それに近い存在だと心のどこかで思っていた。病的なほど色白な肌は今、思えばアルビノを持っていたと言うのが分かる。
アルビノは動物学において、メラニンの生合成に係わる遺伝情報の欠損により先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患がある個体を指している。そんな彼女は幼い頃から一族に忌むべき存在として扱われ辛い幼少期を過ごしていたのだ。
「まぁ、薫。本人なのは分かった、昔のことを覚えていないと言ったな?」
「は、はい!」
「お前の家はどこだ?」
「トウキョウ租界の…」
「違う、6年前まで住んでた家だ。流石に覚えているだろう?」
「いえ、全く…」
一応、記憶障害がどのような規模なのかを探ってみる。聞いている限り、かなり酷い。これほどの記憶障害を抱えていれば過去を喪失したのと同じ。恐らく、彼女はかなり苦しんだだろう。
「両親のこともか?」
「はい…」
「はぁ……」
思わずため息が出てくる。久々に会えた友人がこれほどの記憶を失い、その上、精神に変調をきたしているのを見ればため息もつきたくなる。
「まぁいい…」
「はい…」
申し訳ない気持ちで一杯になってしまったルルーシュは小さくなっている薫を見て言葉を放つ。
「取り敢えずクラブハウスまで来い。ナナリーに会わせてやる」
「え?」
本来の目的はナナリーに彼女を会わせること。元々、仲の良い二人だったからナナリーも喜ぶと思っての行動なのだが…。知らなかったとはいえ、ズカズカと彼女に踏み込みすぎた。
これはナナリーと薫のために会わせなければならないと判断したルルーシュは彼女をクラブハウスまで案内するのだった。