(薫、みんな!)
カワグチ湖のコンベンションセンター。そこにゼロと共に潜り込んだカレンは急いで人質が連れられているという部屋に急行した。
「扇さん、生徒会の人たちは?」
「遅かったみたいだ。二人が屋上に連れられたらしい」
「そんな!」
連れていかれたのは会長と薫の二人。よりにもよってこの二人が連れていかれるなんて。
「まだ追いかければ間に合うかもしれない。ここは井上に任せて俺たちもいこう」
「はい!」
いそいでエレベーターを呼び出して乗り込もうとした瞬間。目に映った光景に息を飲む。そこには日本解放戦線の兵たちの死体が無惨に転がっていたのだ。
「誰が…こんな…」
「とにかくいこう」
動揺している暇はない。すぐに屋上に向かったカレンが見たのは薫の姿。
「たっ、助けてくれ!」
「……」
彼女は助けを求める解放戦線の兵をニードルガンで冷静に仕留める。
「誰だ?」
「落ち着いてくれ、俺たちは君たちを助けに来たんだ」
「黒の騎士団か…」
彼女の鋭い眼光に怯んだ二人だが扇はすぐに持ち直して向き合う。薫はなにやら呟くと銃をしまうと横で休んでいたミレイを抱き上げる。
「助かった。誰だか知らないが礼を述べさせてもらおう」
「あぁ、力になれてなによりだ」
先程とはうって変わって落ち着いた雰囲気になった薫はこちらの指示に大人しくしたがってくれている。もしもの時はどうしようかと思っていたカレンは一息つく。
会長は怖かったのか薫にずっと抱きついたまま動かない。薫の変わりようもそうだが色々とありすぎて頭が追い付いていないのだ。
(まぁ、全員無事で良かった)
ーーーー
「第五射も突破されました!信じられない」
「臆するな!四連腕部自在砲台を展開!ここは絶対防衛線である。死守するんだぁ!!」
「セシルさん、ここでヴァリスを使います!」
「え?待って、それは危険よ!!」
「活動領域が狭まりました。爆風は覚悟の上です!」
一方、救援に駆けつけていたスザクの戦いもついに決着を迎えようとしていた。
ーー
薫たちが脱出用のゴムボートに乗り込んだ際には大きな振動がコンベンションセンターを襲い施設がゆっくりと沈んでいく。
「なに?」
「基礎ブロックが破壊されたんだろう。心配するな、ここに影響はない」
片時も離れなくなってしまったミレイを落ち着かせる薫は一際大きな船に乗るゼロとカレンたちを見つめる。するとゼロはこっそりとこちらを確認している。なんだかんだ、自身の目で見て安堵しているのだろう。
そしてついに、ゼロによる演説が始まる。
「人々よ!我らを恐れ、求めるがいい。我らの名は《黒の騎士団》」
「騎士団?」
「皮肉だね、テロリストがナイトを名乗るなんて」
日本の全国に流れている。いま、まさに彼の声が日本中に鳴り響いているのだ。
「我々、黒の騎士団は武器を持たない全ての者の味方である。イレヴンだろうと、ブリタニア人であろうとも。日本解放戦線は卑劣にもブリタニアの民間人を人質にとり、無残に殺害した。無意味な行為だ、故に私が制裁を下した」
ついにゼロが、ゼロという存在がこの世界に現れる。歴史に刻まれる1ページがついに書き込まれたのだ。
「クロヴィス前総督も同じだ。武器を持たないイレヴンの虐殺を命じた。このような残虐行為を見過ごすわけにはいかない。故に制裁を加えたのだ」
日本人であろうとブリタニア人であろうと平等に裁く。この存在がどう転ぶか分からない。
「私は戦いを否定しない。しかし、強いものが弱いものを一方的に殺す事は断じて許さない!撃っていいのは、撃たれる覚悟のあるヤツだけだ!我々は、力ある者が力無き者を襲う時、再び現れるだろう。例えその敵がどれだけ大きな力を持っているとしても」
つい先日、ブリタニア皇帝が演説で放った弱肉強食論を真っ向から否定するようなゼロの言葉はまさにブリタニアとの対立を示していた。
(正義の味方…)
「力ある者よ、我を恐れよ。力無き者よ、我を求めよ。世界は我々黒の騎士団が、裁く!」
後に黒の騎士団宣言となるこの演説はまさに日本を震撼させる出来事であった。
ーーーー
「まぁ、安静にしてろよ」
「えぇ、ありがとう薫」
ホテルジャック事件後、薫はミレイを実家までしっかりと送り届けていた。
「ニーナの事は責めないであげて。あの子、繊細だから」
「それどころの騒ぎではなかっただろうが。下手すれば全員死んでいたかも知れないんだぞ」
「うん、でもお願い…」
「…分かった」
渋々納得した薫は苛立ちをぶつける相手を失ってしまいイライラする。
「ありがとう…」
するとミレイからキスをされてそのまま家の中に帰っていく。それを唖然として見つめる薫。
「そういえば、告白したんだっけ…」
結構なトランス状態とはいえ、とんでもないことをしてしまった気がするが仕方がない。それだけ、受けいれてくれたのが嬉しかったのだ。
「こういうのは慣れてないんだよなぁ」
心の中で赤面しながら帰路に着く薫。それをミレイは家の窓からこっそり見ていたのだった。
ーーーー
それから数日後、ミレイは数ヵ所の打撲痕を残しはしたがしっかりと元気に復帰した。ついでに薫は毎日お見舞いをして家の人と仲良くなるほどまで彼女の家で過ごした。
そしてミレイが復帰した日に彼女は早速、イベントを開催するのだった。
「やめろ、やめるんだ!!」
「ごめんルルーシュ。会長命令だから。」
「顔が笑ってるだろ、オイ!薫、お前も助けてくれ!」
「あきらめろ、俺はもっと恥ずかしい格好なんだ」
女性のラインをこれでもかと主張している猫服を着ていた薫はジーとルルーシュを見つめる。
「無表情だからって騙されんぞ!おまえ、絶対楽しんでるだろ!」
「なにが悪い!」
「開き直ったなぁ!」
「動かないの!」
シャーリーにがっちりホールドされてるルルーシュ。男としては情けないことこの上ないのだが非力なルルーシュと体育会系のシャーリーとでは絶望的な差がある。無理だろうな。
「え?」
「おはようニャン!」
すると生徒会室にカレンが登場。病弱設定に信憑性が出てくる疲れ具合だ。黒の騎士団活動が大変なのだろう。
「おは…ようございます。何これは?」
「アーサーの歓迎会よ」
なので猫の格好。うん、ここまでする必要はないと常々思うがミレイの思い付きはいつも通りなので何も思うまい。
「カレンはいらないだろ?とっくに被ってるもんな」
「あなたテレビにでも出れば?人気者になれるわよ」
「どうですか、テレビスターさん?」
「そっちに振るんだ…」
本当に大変だった。コンベンションセンターから脱出できたのは良いものの被害にあった可哀想な学生たちというレッテルを張られた薫たちはマスコミたちに猛突撃され大変だったのだ。
「まぁ、これもモラトリアムよ!」
これでよしとしておこう。
その後も、スザクが泣くというハプニングもあったがなんとも平和に事が終わるのだった。
ーー
その放課後、生徒会室で薫はカレンの家に行ったミレイを待ってゆっくりしていた。部屋にはアーサーと戯れるスザクと雑誌を読むルルーシュもおり久しぶりにこの面子だけになった。
「あんな所で泣くなよな、恥ずかしい奴」
「素直って言ってよ」
対して俺は暇すぎてクロスワードパズルに真っ最中だ。なんか部屋においてあった雑誌のやつで送るとピザ屋のマスコットチーズくんが貰えるらしい。
「ま、皆が助かったのは良かったけどな黒の騎士団さまさまだ」
「犯罪者を取り締まりたいなら、警察に入ればいいのに…彼等はどうしてそうしないんだろう?」
「警察じゃできないと思ったんだろう。警察なんて…」
「今はダメでも、警察の中に入って変えていけばいいじゃないか」
「変える過程で結局は色々なしがらみを抱える事になる」
「それは、ギリギリまで変える努力をして初めて言える事だよ。それをしない限り彼らの言い分は独善に過ぎない」
「独善?」
「彼等の言う悪って何だい?何を基準にしているのかもわからないじゃないか。一方通行の自己満足だよ!」
なんか横でとんでもない議題が炸裂しているが触らぬ神に祟りなし。それを無視してクロスワードに勤しんでいると。
「薫はどうおもう?」
「俺か?」
気づいたらスザクもルルーシュもこちらを向いて答えを待っている。なんで俺を巻き込むんだよ…まったく。
「悪と正義の定義だっけ?俺から言わせれば悪なんて存在しない。元々、戦いなんてお互いの正義と正義のぶつかり合いだ」
互いに正しいと思ってるからこそ、相手が悪だと思ってるからこそ命を懸けて兵士は戦うものだ。
「それは…」
「人一人の思想が違うようにそれに沿った正義が本人の中では存在する。その人の立場や状況で正義なんてものはコロコロ変わる。まぁ、ゼロの発言だとほとんどの大衆はゼロに転がるだろうな。彼は正義のためならクロヴィス殿下さえ殺すんだから。誰もが信じるだろうさ」
少なくともルルーシュとスザクの正義は相反している。悲しいがいつか本当の意味で二人か戦い合うのは確実だな。
「確かに、薫の言う通りかもしれない。でも僕は」
「お前はそれでいいのさ…。お前は大衆に意見を合わせるようなやつじゃないだろう?」
そう言うと立ち上がる薫。話は終わりだとばかりに帰り支度を整えるとドアに手をかける。
「お前たちはもう少し学生らしい議論でもしてろ。俺はミレイとケーキバイキングだ」
そう言って生徒会室を去る薫を二人は黙って見送るのだった。