「ここ?」
「あぁ、俺の記憶にはないがな…」
ミレイとの旅行の二日目。その帰りのついでにとある場所に足を踏み込んでいた。
作りとしては簡素な神社、だがルルーシュ達にとっては因縁浅からぬ場所。《枢木神社》俺がルルーシュとスザクの幼馴染みとして生きていくには向き合わなければならない場所だと判断したのだ。
「大丈夫?」
「あぁ…」
鳥居の前に辿り着く頃には息が上がってゼェゼェ言っていた薫は冷や汗がびっしょりだった。
「嫌な感じだ…」
階段を上がる度に体が拒否しているのが分かる。それ程までに佐脇薫がいやがる場所なのだ。
(マオが最初に言っていた言葉。もしかしたら俺の過去なのかもしれない)
マオの言葉に頭痛が反応したのなら。この体が反応したと言うことだ。
「座りましょ。普通じゃないわ」
「そうだな…」
境内の椅子に座った二人。弱りきっていた薫はミレイの膝を借りて休養を取る。なにかここで薫にとって大きな出来事があったのは確実だ。
「帰った方が…」
「駄目だ…」
あの時、埠頭で起きたフラッシュバックは薫のトラウマ。検討はついている。
「俺は…両親を殺したのだろうな」
「親を…」
「あの記憶は俺の両親か育ての親だろう。それを、この手でころした…親を……っ!」
すると頭がさらに痛くなる。そこから浮かび上がってくる映像は影。障子越しに見える大人と子供の影、突き飛ばされた子供は大人を刺し殺す無惨な映像。
(そうか…スザクは。親を殺していたな)
原作の知識として、そして佐脇薫の記憶としてそれは確実だ。幼い薫は見ていたのだ、親友のスザクが親を殺すのを。
そしてそれを見た薫は何をしたかは想像しやすい。老若男女違いなく、恐慌状態に陥った人間は何をするか分からない。
(そして…俺も……)
そこからの記憶はない。おそらく、体が異常な負荷を探知して気絶したのだろう。次に目を覚ましたのは日が高く上った頃だった。
ーーーー
「ん…」
「気がついた?」
「お前のお陰でな…」
ミレイから水を差し出されて飲む薫。
「この旅行でかなりディープな話まで聞いてしまった気がするわ」
「すまないな、暗い話題ばかりで」
「いいのよ。貴方はこう言うの吐き出さないでしょ?息抜きは大切よ、何事にもね」
ミレイは本当に出来た女だ。こんな女性が今まで男性に靡かなかったのが奇跡なぐらいだ。まぁ、俺も性別的には女なのだが。
「すまん、俺にも俺の事がよく分からないんだ。だからお前にはかなり迷惑をかけることになる」
「気にしないで、私が好きでしてることだから」
「ありがとうな…」
こうしてミレイとの二日間旅行は静かに終わりを迎えたのだった。
ーーーー
それからの学校というものは暇な時間がやって来た。今は亡きクロヴィス殿下が行った芸術週間が始まったのだ。
(だからこその役か…)
生まれ変わっても絵がとことん下手な薫はルルーシュの代わりにデッサンの肖像としてみんなの真ん中に座っていたのだ。
(単位の為とは言え1限まるまる微動だにしないのは疲れるな…)
ーーーー
「いやぁ、悪いね。スザクくん」
「いえ、ナイトオブラウンズにお呼びとあれば」
その頃、スザクは学校を休んで政庁の一室を訪れていた。その部屋の主であるシュン・ヴィヨネットはスザクを呼び出していたのだ。
「君の言っていた佐脇薫って子だけど」
「はい」
「男かな?」
「いえ、女性です」
「そうか…日本では佐脇も薫もめずらしい名前ではないからな」
ナリタ連山での作戦前に聞いた名前。それに反応していたシュンは少しだけ肩を落とす。シュン・ヴィヨネット、彼の経歴はいたって普通だ。平民出の軍人で入隊当時からその才能を発揮して駆け足でナイトオブラウンズにまで登り詰めた天才ではあるが。
(ヴィヨネットという名字が重なってるのも気になるけど。俺も平民出だし、同じ奴がいても不思議じゃない…)
「ヴィヨネット卿?」
「いや、すまないね。大昔の知人と同名でね、モシカシタラト思ったんだけど。そいつは男なんだ、映画を一緒に観に行ったきりどこに居るのか分からなくてね」
「そうなんですか…」
「別件でこの日本から離れなきゃならないから聞いておきたかったんだ。それにこれから忙しくなるだろうしね」
「はい?」
言葉の後半の意味が分からずに思わず聞き返すスザクをシュンは少し悲しそうな顔をしながら彼の肩を叩く。
「ユーフェミアはいい子だ。あの子は君をすごく気に入っているんだ」
「そうなのですか?」
「あぁ、だからもし近づく機会があったら大切にしてやってくれ。出会いも別れも突然やって来るからね」
「はい…」
シュンの言葉にスザクは敬礼をして返すと部屋を去る。
「これでいいんだよ、本当にこれでいいんだ…」
一人残されたシュンは自分に言い聞かせるようにそう呟くのだった。
ーーーー
「薫…」
「なんだ?」
「藤堂鏡志朗の件だ。四聖剣がキョウトを通して支援を要請してきた。俺たちの初めての共同作戦だ」
「場所は?」
「調布の収容所だ」
調布は都心にかなり近い場所だ。そんなところには大部隊は送れない。なら、ライと俺、伊丹、ジェシカで他は撤退路の確保に当たらせた方がいいか。
「分かった。俺含め四人で出る」
「すまないな」
この作戦ならば四聖剣と黒の騎士団本来のメンバーで事足りるがこれは内外に白蛇とゼロが手を組んだと周知させるための宣伝もかねるつもりなのだろう。
「予定の場所と時間は後で連絡する」
「分かった」
手早く仕事の話を済ませると一旦離れる。屋上で暇を潰しているとミレイが申し訳なさそうにやって来る。
「ん、どうしたミレイ?」
「…婚約してきました」
「は?」
あまりにも、突然のことにおもわず低い声が出てしまった。
「あのスザクの上司とか?」
「うん、大丈夫よ!あの人は私が目的じゃないからね!それに…」
「………」
無言で距離を一気に縮めた薫に思わずミレイは言葉を失う。
「なんで?」
「お見合いの連鎖を絶ち切りたかったから…」
「まだあるな…」
「…スザクくんが薫の敵なら側に居た方が良いかなって」
「……」
つまりお見合い関係を利用した間者になろうとミレイは決意してOKしたようだ。それに加え、ロイドという人物があまりにもミレイという一個人に対して興味がなかったからだろう。
「俺が嫌がるのを承知でか?」
「えぇ、これが貴方のためと私が勝手に判断した結果よ」
「………」
無表情だが明らかに不機嫌になった薫を唾を飲んで見つめるミレイだったが突然手を掴まれるとビクッとなる。
「なんでしょうか?」
「ん…いやね、唾でもつけとこうと思ってな」
「もうすぐ午後の授業が…」
「自主休講だ」
「あの時も思ったけど薫って超ドSよね」
「知るか、手加減しないからな」
「ひぇ……」
ーーーー
ーーー
ーー
ー
「薫、お前なんか機嫌がいいな」
「そうか?」
藤堂救出のために一緒に学校を出たルルーシュはなんか機嫌がいい薫を見て疑問符を浮かべるがそれ以上のことは聞けなかった。
ーー
「リヴァル、会長どうしたの?」
「知らないよ。来た時からこうだったんだ」
対して生徒会室、そこにはピクリとも動かないミレイが机に突っ伏していた。
(あぁ…どうやって帰ろう……)