アッシュフォード学園の学園祭。それはこのトウキョウでも言わずと知れた大きなお祭りである。学園内にはトウキョウ中の人々が集まる。それは日本人などの多くの人種も含まれている大きなお祭りだ。
「相変わらずだな…これこそアッシュフォード学園ってやつだよな」
前の世界では味わえなかった絵に描いたような学園生活。それを手放さなければならないのは少し残念だが自分の立場上、そう言うときが来るのは覚悟していたつもりだが。
「ごめんね。やっぱり運営からは中々、抜け出せなくて!」
「気にしてないさ。それより、大丈夫なのか?」
「うん、ピザはリヴァルに任せたし。ルルーシュがいるからね」
学園の倉庫。ここは立ち入り禁止なのでもし来たとしても生徒会メンバーぐらいだ。だからこそここに薫が身を潜めて潜入していた。
「それで、どうするの?」
「取り敢えずスザクと話してみるかな。デートはそれからだ」
「え、デートしてくれるの?」
「せっかくの学園祭だしな…次いつ会えるか分からんし…」
「………」
「ミレイ?」
「よっしゃぁ!」
喜びのあまり、声を張り上げたミレイの声量に思わず驚く薫。そんな彼女の声は倉庫の外までもしっかりと聞こえていたのだった。
ーーーー
「スザク…」
「薫…来てくれたんだね?」
「一応な…なんで俺のことを話さない」
ピザ用の厨房でひたすら玉ねぎを切っていたスザクの元に訪れた薫は二人っきりで対峙する。
「薫なら分かってくれると思う。僕は薫をテロリストとして吊るしたくないんだよ」
「お前のかかげる正義に反していてもか?」
「そうだね。確かに矛盾している、でも僕は薫とは対話で決着をつけたいと思ってる。戦場以外ではね」
「ふぅ…」
スザクのお人好しにはあきれるがそれが彼の美点でもある。こんな奴だからこそ薫も心から信頼しているのだ。
「分かった。武器を取らずに対話で終わらせられればそれ以上の事はない」
「ありがとう、薫」
真底嬉しそうな顔をするスザクに毒気を抜かれてしまい懐にしまってあった銃をしまう。
「こんなところに居ないで学園祭、楽しめよ」
「薫もね」
「あぁ…」
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「学内に入るのは初めてかも」
「そうなの、せっかくのお祭りだし少しは楽しんだら?」
「そうだね。僕も久しぶりに羽を伸ばそうかな」
ディートハルトが呼び寄せた地下協力員の接触のサポートのためにカレンは学園に来たのだが折角なのでライも誘って学園祭に潜ることにしたのだ。
「扇さんたちが来るのも少し先だし、楽しみましょ」
「そうだね」
ーーーー
「いやだぁ!」
「やっぱり、変装しないとね!」
「お前がやりたいだけだろ!」
「何いってるの、貴方のためを思ってのことよ!」
学園祭の模擬店。そこにあるコスプレ店で捕まった薫だがミレイが満面の笑みでそこに引きずり込もうとしていたのを必死に抵抗していた。
「たまには女らしい格好をしなさいよ!」
「本心丸出しじゃねぇか!」
「薫の滅多に見れないエロい格好を見せろ!」(全ては貴方のためよ!)
ミレイの理性は完全に崩壊し理性と本音が入れ替わって聞こえてくる気がする。
「勘弁してくれ!」
「往生せいやぁ!」
「ああぁぁぁぁぁ!」
ーー
「……」
「~♪」
格好いい男装に身を包んだミレイに対して薫は疲れたような表情で自分の格好を見つめる。
「誰だぁ!こんなもの用意してたやつぁ!」
どこぞの黒乳王のような衣装を着させられた薫は恥ずかしさのあまり顔を紅潮させるがどうしようもない。
「ふふっ…礼「それ以上はいけない!」…そう?」
「誰だ、第三の衣装を作ったやつは…。分かったらぶっ殺してやる!」
「まぁ、良いじゃない。これで私はハッピー、最高の日よ!」
「ただの露出狂じゃねぇか…」
まぁ、私はナイチンゲール派なんですけどね♪
「地の文の癖にやかましいわ!」
さっきからミレイの鼻血が止まっていないのだがそれについては黙っていた方が良いだろう。
「薫さん…すげぇ」
「おぉ、すごい!」
「会長も男装お似合いですねぇ!」
「ん?」
「まぁ、写真に撮らないわけにはいかないわよねぇ…」
なんかやばい気がする。その瞬間、二人は写真撮影会に巻き込まれ何時間も見世物として曝された。
このコスプレでのツーショット。ミレイと薫の姿は誰もが揃って言うだろう二人とも美人だと。非の打ち所のない女性が二人並んだこのツーショット。
美しい学園生活を写したこの幸せな写真。これが二人にとって最期のツーショットになったのであった。
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撮影会と言う大偉業を終えてピザ製作の指揮所で一息つく二人。そこからは巨大なピザの製作がしっかりと見える。
「祭りは必要よ。どんな時にも、どんな人にも、場所でも…あんたまだまだね」
「ははっ、勉強になります」
「お前のそう言うところが大好きだよ」
「あら、そうだったの?」
ミレイは時たま深いことを言ってくれる。それは彼女の根底にあるものがチラリと見える瞬間でもある。自分勝手に見えて他人の事をしっかりと見ているのが彼女らしい。
「え、どう言うことです?」
二人の話を聞いていたルルーシュは思わず疑問を口にするがそれを遮るようにナナリーが現れた。
「お兄さま」
「ナナリー、ピザは…っ!」
そこに現れたのはナナリーと謎の少女。その二人を見たルルーシュは血相を変えて飛び出す。
「誰なの?」
「ユーフェミア・リ・ブリタニアだろう。あの髪の毛は…」
「まさか…」
「いや、別件だろうが…不味いかもな」
島で再会したときにルルーシュはユーフェミアと共に行動していた。もしやその時に…。
「薫、ルルが女の子口説いてるんだけどぉ」
「お前は相変わらずだな、シャーリー。ルルーシュに一番近いのはお前だよ」
「べ、別にそういうことじゃないから!」
ルルーシュの後を引き継いで無線係をしているとシャーリーから愚痴が飛んでくる。それを微笑みながら聞き流していると広場で騒ぎが発生した。
「三班、何があった?」
「ユーフェミアさまがお忍びで来たらしいですよ!」
ユーフェミアの騒ぎのせいでピザがおじゃんになってしまったが仕方がない。スザクの優先目標はユーフェミアだ、ピザじゃない。
「これで一年間溜め込んだ資金がパーだ」
「あちゃー」
巨大ピザの失敗に顔を覆うミレイだが彼女はそれでも楽しそうだった。
「神聖ブリタニア帝国。エリア11副総督、ユーフェミアです。今日は皆さんにお伝えしたいことがあります。私、ユーフェミア・リ・ブリタニアは富士山周辺に行政特区日本を設立することをここに宣言いたします」
悲劇の宣言。彼女の放った言葉の意味を理解できない薫ではなかった。
「ブリタニアが!?」
「日本を認める?」
「薫?」
「俺が二年間、積み上げてきたものを一言でぶち壊しやがった!」
まさかこんな夢話で無力化させられるとは思わなかった。ブリタニアがそれを認めるはずがなかったが今、こうして現実になっているのだから。
「この行政特区日本ではイレブンは日本人としての名前を取り戻すことになります。イレブンに対する規制、ブリタニア人の特権は存在しません。ブリタニア人にもイレブンにも平等な世界なのです!」
「なにが平等だ!そんなものがあるわけないだろうが!」
感情が抑えきらなくなって叫ぶ。それをミレイが必死に押さえるがそれでも怒りは収まらなかった。あの姫は知らない、ブリタニア人がゲーム感覚で日本人を殺しているのを…。
「落ち着いて薫。今は抑えて…」
猛る薫は必死に抱き締めるミレイに根気負けして気持ちを抑える。
「すまん…」
「いいのよ。私はあんなものに頼らなくても貴方の側に居るから」