「事態は深刻だ。支持者だけではない、黒の騎士団内部でも特区に参加する者たちが増えている」
「黒の騎士団とは違って、特区日本にはリスクがありませんしね」
「平等って言われたらな…」
「散々、我々を虐殺しておいてか?」
黒の騎士団幹部の中でも片寄ってきた意見。その中での白蛇の言葉はとても重い言葉だった。
「皇女がいくら綺麗事を並べても実行するのは我々を虐殺したブリタニア人だぞ。夢物語だ」
「白蛇に賛成。でも早急に対応を決めないと」
朝比奈も白蛇の意見に賛同する。
「白蛇、ゼロはなんて?」
「検討中だ、流石にすぐに答えは出せない。策は練る、少し待て」
ここにいては根掘り葉掘り聞かれそうなので退散する。
「白蛇さま…」
「あぁ、頼んだものは用意できたか?」
「こちらに…」
ジェシカはアタッシュケースを開けるとそこには対人装備一式が用意されていた。白蛇の衣装も装甲を設けられているが最低限度。中に着込む用の防弾チョッキとアサルトライフル、グレネードなどの装備だ。
「何かされるつもりなのですか?」
「念のためだ、これを使わなければそれでいい。その程度だ」
「お気をつけて、何かあればコールサインを押してください」
「ありがとう、ジェシカ。お前には感謝しきれないよ」
「いえ、ご無事で…」
武装を一式、受け取った薫は昨日、ルルーシュと二人で話した事を思い出していた。
ーー
「自分を撃たせる!?」
「あぁ、それしかない…」
ルルーシュが提示した案。それはギアスで操ったユーフェミアによってゼロを撃たせると言うものだった。当然ながら、賛成できるはすがない。
「ゼロは民衆の味方でなければならない。ブリタニアは卑劣な敵であり、ゼロだけが救世主なのだとな」
「ゼロを殺すための罠だとそう印象づけるのか…だが」
「使わせるのはセラミックと竹を使ったニードルガンだ。威力も銃に比べてかなり弱いし致命傷は避けさせる。薫にも協力してほしい」
「もちろんだが…」
薫の役目は簡単だ、負傷したゼロの救助のみである。ゼロの負傷を揉み消そうとして来た場合に対抗手段がいる。ガウェインに乗り込めるのは二人。ゼロはガウェインの上に乗って移動するためにもう一人分のスペースに余裕がある。
「信用できるお前に頼みたい」
ーー
「あんなこと言われたらな…」
断れないし断る理由もない。こっちは出来るだけゼロが素早く手当できるように手配するぐらいだろう。
「何もなかったらいいんだけどな…」
ーーーー
そして当日、その日は来た。行政特区日本の中継は世界中に放送され歴史に残るであろう瞬間を民衆は楽しみに待っていた。
「どうしたんだよシュン。顔色悪いぞ?」
「ならほっておいてくれジノ。気分が悪いんだ…」
帝都ペンドラゴン。ナイトオブラウンズに与えられた大広間に集まっていた数人のナイトオブラウンズ。気さくに笑うジノに対してシュンは頭を抱えていた。
「珍しいわね。貴方が体調を崩すなんて」
「俺だって人だからな」
「そうなんだ…」
「お前な…」
それをからかうように目を細めたのはモニカ。彼女は懐から薬を取り出して差し出す。
「これでも飲みなさい」
「ありがとう。でも、俺は部屋で休んでるわ…」
「本当に大丈夫?送っていってあげるわ」
「うーん。ありがとう…」
相変わらずのモニカにジノも笑みを浮かべる。それをアーニャは不思議そうに見つめる。
「相変わらずお熱いこって…」
「仲良し?」
「そうだよなぁ。絶賛片想い中かな?」
ーー
「大変なことになりました。あのゼロが堂々と姿を現しました。今、ユーフェミア殿下の指示でG-1へと向かいます」
(薫…無事でいて…)
行政特区日本の中継を見ていたミレイは必死に手を合わせながら祈る。彼女の怒りよう、このままで終わるとは限らない。必ず何かが起きてしまうはず。その不安感がミレイは拭いきれずに祈るしかなかった。
ーー
「なぁ、俺たちいつまでもここにいればいいんだよ」
「ゼロがここにいろって言ってたのに信用できないの?」
行政特区日本を取り囲むように配置された黒の騎士団戦力。彼らは息を潜めて静かに待つ。
「全てはブリタニアの真意を確かめてからだ」
「副司令。その真意が分かっているからこそ、全軍を四方に伏せているのでは?」
「ディートハルトやラクシャータまで待機させた。それに特務隊がいつも以上に殺気立っている」
地下坑道に身を潜めている特務隊。彼女たちは白蛇の念入りな準備に対して何かあると踏んでいた。
「伊丹さん。本当に戦闘になるのでしょうか?」
「正直なところはなんとも。しかし、白蛇さまがあれほど警戒されていると言うことは…」
「その可能性があると言うことだと我々、侍女隊は判断しました」
特務隊はライが指揮権を保有しているが実際は伊丹、ジェシカ、ライの三人。三人四脚で部隊指揮を行っている。つまり三人に平等に指揮権があると言うことだ。
ーーーー
「そうか…あそこでお前を見たのか」
「幻覚なのか、それとも他人の空似か分からないけれど。見たんだ…」
ルルーシュを待っている間。C.Cと二人きりの時間が出来たので薫は神根島の事を相談していた。
「お前がこの世界の理から逸脱しているのなら。一度、Cの世界を通った可能性は高い。その時の前の世界のお前の情報が刻まれたと仮定すれば…本物のドッペルゲンガーかもしれないな」
「そうか、オカルトがある世界だもんなこの世界は…」
「この世界が出口ならお前の世界は入り口だ。お前が関わらなかっただけで似たような物が存在している可能性は高いと思うぞ」
「前の世界はただの一般人だったからなぁ…知らなくて当然か」
そんな話をしているとC.Cは外にいるスザクと目を合わせていた。
「見えているようだな。間接接触と神根島の件が切っ掛けになったか…それともあいつが…だとしたら」
「おい、C.C?」
「すまない、少し確かめたい事ができた」
「全く…」
慌てて仮面を着ける薫。それを置いて彼女はさっさと降りていってしまう。
「まさか…」
「おい、どうした?」
するとC.Cが倒れ、駆けつけたスザクも倒れてしまう。完全に警戒モードにはいったSPも倒れて大変なことになる。
「何してるんだ!」
「すまない…」
「とにかく、ガウェインに…」
ふらつくC.Cを支えて立ち上がるとガウェイン近くまで運ぶ。SPも倒れたし、ルルーシュの救出は楽そうだ。
「ねぇ、貴方は日本人ですか?」
「は、当たり前だろう?」
「おい、そいつは…」
こんなくそ忙がしい時に声をかけてきたのはユーフェミア。それを知らずに薫は振り返ると眼前に銃を突き付けられる。
「へ?」
「じゃあ、殺さなきゃいけませんね♪」
一切の躊躇いなく引かれるトリガー。ニードルガンの弾は彼女の仮面の右側を砕き、彼女の頭部に入り込む。状況を理解できないまま撃たれた反動でガウェインの足にぶつかり地に伏せる。
「おい、薫!大丈夫か!」
「……」
必死に呼び掛けるC.Cの声が遠くに聞こえる。薫の顔を必死に抑える彼女だが薫の血は止まらない。お互いに真っ白な衣装を赤く染める中。ユーフェミアは行政特区日本の会場にはしりさっていくのだった。
「こんな…ところで……」
そして薫は静かに意識を手放すのだった。
次話を書くのが辛すぎる…